百五回目『一人じゃない』
ドルグの策によりミカヅキが一騎討ちの舞台へと運ばれた後、残されたミーシャの機嫌が良いわけもなく……。
「どうしてミカヅキを連れていったの! まだ私は認めてないのに!」
「これ以上は待てんのです。わたしとて強行手段はあまり好まない上に心が痛いですが、悠長なことを言っている時間はもう過ぎてしまった」
再生神アルミリアの宿主として覚醒した今のミーシャなら、ドルグが何を言わんとしているのか察することは容易だ。だが、理解するのと納得するのとでは話は違ってくる。
ややこしいことに、生物の中で唯一思考を授けられた人間ならではの葛藤と言うやつだ。
そんな人間らしく当たり前のことにミーシャはぶつかった。
少女は三大神の一柱の宿主として、自分の中に宿る神の記憶を共有していた。この世界の過去に何があったのか、これから何が起きようとしているのかを彼女は知ってしまったのだ。
確かに未来は確定したわけではない故に、絶対に起きるとは限らない。だが、可能性は大きいと言わざるを得ない。
最悪の未来が訪れた時、自分たちはどのような対応が可能なのか、そのために今はどうするべきかをドルグは理解していたのだ。
――しかし、少女は首を横に振る。
「たぶん、これが正しい選択って言うものなのかもしれない。でもね、おじいちゃん。私はもう、見ているだけは嫌なの。決めたんだよ、私はミカヅキと一緒に戦うって。だから、ごめんなさい。それに心配してくれて――ありがとう」
「……ぁぁ」
中老と呼ばれる年齢となり、天帝騎士団で一番の年長者となったとしても、一度たりとも忘れたことがない。
ミーシャの二代前のファーレント王国の国王であり、自分の兄でもある人物の最期の言葉を。
――なぁベルダ。オレはお前みたいな弟がいてくれて、最高な兄だよ。心配してくれて、ありがとうな。だけど、オレにはお前がついてる。それだけで充分だろ?
その後の戦いで彼の兄である王は、自らの命を犠牲にしてまで民を庇って死んでしまった。
あまりにもそっくりだった。言い方も表情も雰囲気も何もかもが……。
確かに彼の兄は死んでしまったのかもしれない。だとしても、その意思は終わってなどいないのだ。
鼻の奥が妙な感覚に襲われる。
彼は思う。――この歳になっても、変われないな。
故にドルグ――もといベルダは選択する。
「……あなたの気持ちは伝わりました。ですが、だからこそ行かせる訳にはなりません。ここで大人しくしていただきましょう。ドルグ・ユーベストとしてではなく……ベルダ・ユーレ・ファーレントとして、あなたの前に立ちはだかりましょう」
「やっぱりこうなるのね」
大切に思うからこそ、守りたいからこそ、危険な場所へと赴かせたくない。それは自然な感情だろう。人なら誰しも抱くものであろう。
彼にとって天帝騎士団の一員かどうかなど最早関係無い。
王だった者の弟として、未来ある若者を守りたいと思った。
たとえ本人がそれを望んでいないとしても、後悔はもうしたくないから彼は選択した。
もしかしたらそこに身分なんて無いのかもしれない。ただ純粋な感情があるだけとも言えよう。
しかし現実は理屈でどうこうなるほど甘くない。
故に二人は対立するのだ。別々の選択をするのだ。紛れもない――人として。
「その実力、試させていただきますぞ」
「ええ、望むところよ」
こうして、戦いは至るところで繰り広げられていった。
その先にある結末がどんなものであろうと、それぞれが後悔をしないように選択していくのだった。
ーーーーーーー
一方、岩の拳で連れてこられた先で、ヴァスティと対峙することとなったミカヅキ。
「僕はもう逃げない。雷光の剣聖――ヴァスティ・ドレイユ。あなたは僕が、ここで必ず倒す!!」
とは宣言したものの、冷や汗が身体のあちこちから流れ出るのを自分でも感じ取っていた。ただそこにいるだけで否応なしに圧倒的な威圧感、存在感を放つヴァスティに気圧されていた。
すぅー、と深く息を吸い、吸った分だけ吐き出した。
「……よし」
気持ちは落ち着いた。なら次はどうするか、など考えるまでもない。戦いはもう始まっているのだ。
ヴァスティはミカヅキが動くまで何もしないつもりだった。
さすがにその意図は察して、誘いに乗ることを選択する。なぜなら彼は「もう逃げない」と宣言したのだから。
「創造せよ――鉄檻」
ヴァスティの周囲に造り出された鉄の棒は交錯し、檻のようなものへと形を成す。肯定は五秒ほどで終わったが、相手が悪かったようで檻の中には誰もいない。
慌てて首を振り周りを見渡して消えたヴァスティの姿を探す。ハッとなり頭上を見上げる。そこには電気が迸る槍を構えた探し求めた人物の姿。
上空のヴァスティの方向に手を翳し、一言を発するために口を動かす。
「捕縛」
鉄格子と化した棒は一瞬でバラけ、ミカヅキの言葉に呼応してかヴァスティ目掛けて飛んでいった。
「――雷槍・ライトニング・レイ」
だが速さはヴァスティの方が上手で、槍はミカヅキに放たれた。
音速を越える速度で迫る槍を、彼は持っていた棍棒で迎え撃つ。
その瞳には五芒星が淡い光を放っていた。
棍棒を雷で生成された槍にぶつけて弾けさせ、すぐに次の一手を惜しみなく使用する。
その間にヴァスティは鉄の棒を、槍と同じように雷で生成した剣で全て斬り落としていた。
空中を蹴る仕草を見せ、ミカヅキとの距離を一気に詰める。しかし彼は一歩も引くことはなかった。
「前よりは強くなったが、まだ弱ぇな。あん時みてぇにさっさと本気出さねぇと死んじまうぞ!! 俺を楽しませろ!!」
「あれは僕の力でも、意思でもない。確かに今の僕じゃあなたには届かないかもしれない。それでもっ、負けるわけにはいかないんだ!」
お互いの武器が衝突する――と思われた直前にヴァスティの身体はバチっと音を立てて雷となり周囲に霧散した。
『先を知る眼』でそのことを知っていたミカヅキは焦らずに、棍棒を背中に携えて両手を左右に打ち付けるように広げた。
すると、突如として光が発生して彼の左右にそれぞれの姿を形成する。
「光の鉄槌」
巨大な金槌の形になった光はミカヅキの両手に導かれ、彼の側面の虚空に向けてその身を打ち付けた。
「――くっ」
何故かそこにはヴァスティの姿があり、見事に命中して見せた。が、残念なことにしっかりと雷の剣で防がれていた。
攻撃を防ぎながら、ヴァスティを片足を少し上げて地面を軽く踏んだ。途端、ミカヅキの足下の石がコロコロと音を立てたと思い視線を移したその刹那――無数の雷の刺にも似たものが生えて攻撃を仕掛けてきた。
後ろに飛び退くことで何とか回避する。既に『光の鉄槌』は斬られていた。
そんなミカヅキに、ヴァスティはどんな考えがあるのかは不明だが話しかけるのだった。
「お前ぇ、攻撃に殺気が無え。何のつもりだよ、あん時のお前はそんなつまんねぇ奴じゃなかった。今はまるで抜け殻じゃねぇか。また誰か殺せば良いのか?」
心底つまらなそうにため息混じりに吐き捨てるように言った。
ミカヅキは警戒しつつ構えながら自分の考えを返した。
「僕は確かにあなたを許せない。だけどその感情のまま、あなたを殺しても何の解決にもならない。味方でも、敵でも、僕はもう……誰かが死ぬ姿は見たくないんだ」
「ハッ、甘ったれたことを抜かしやがる。お前が今いるのは何処だ? 戦場だろうが。戦場で死ぬのを見たくないなんて、戯れ言を抜かすんなら、大人しく家に帰って丸まってろ!」
「それは違う。殺すだけが勝利じゃない。殺す以外の方法だってあるはずだ! どうしてそんなに人を殺すことに執着するんだ!!」
「綺麗事をほざくんじゃねぇよっ、世間知らずの幸せ者が! そんな平和な解決法があるんなら、端から戦争なんて起きねえんだよ!」
ヴァスティが叫びながら一気に距離を詰める。
ミカヅキは油断していたのか一瞬だけ判断が遅れる。攻撃が来ることは知っていた、なのに遅れてしまった。
原因は理解していた。ほんの些細なことかもしれない。気にしなくても良いのかもしれない。だが、彼は見た。
「――」
一秒にも満たない瞬き程度の短い時間、ヴァスティの表情が確かに辛そうだったのを。
そのせいでミカヅキは雷の剣をその身に受けることとなる。
「やば――ぐっ、はぁあっ!」
辛うじて身を捩らせるも、完全に避けることは叶わず、剣の先端が胸から腹にかけて肉を斬った。
このままではまずいと判断したミカヅキは棍棒で応戦して、傷を最小限に抑えることができた。
だが、軽いと言っても相手は雷の剣。斬るだけに留まらず、斬りつけた肉の周りを焼いていた。おかげで出血は無いとしても、痛みは通常の数倍だった。
更には全身が軽い痺れに襲われる。まさに万事休す。
「死ね」
追撃すべくミカヅキの前方に展開された雷の剣が彼目掛けて放たれた。
盾でも造り出して防ごうとしたが、痺れて身体が思い通りに動かない。加えて痛みで思考もまともにできやしない。
実際は凄まじい速度で迫る剣がゆっくりに見えた。
――これが死ぬ前の“一瞬”って言うのかな?
人は死ぬ直前だけ、時間がとても長く感じると言う。
それは武術の達人の域に至った者ならば、自由に使うことが可能とも考えられている時間感覚である。
ミカヅキも死を覚悟したのか、短いはずの時間がとても長く感じた。
だから彼はゆっくりな時間を利用して考えをまとめていった。
――そう言えばこの世界に来る前、祖父母の葬式の時もこんなことがあったっけ。あの時は頭に血が上ってはっきりと覚えてないんだけど、鋏を持った男の人が迫ってきたのを転ばしたんだ。
どうやったんだろう?
そうだ、まずは落ち着かなきゃ。どんな時でも冷静にならなきゃ。次に情報を短い時間でできるだけ多く得る。そして、迅速に最良の手段で対応する。
「――あれ?」
ミカヅキが気がついた時には迫ってきていた雷の剣は消えており、ヴァスティは何故か距離を取っていた。
彼は無意識の内に雷の剣を棍棒で弾き、更にヴァスティにも攻撃を仕掛けていたのである。本人曰く身体が勝手に動いたのだろう、と記憶に無いらしい。
そしてヴァスティは目を凝らす。
ミカヅキの瞳の五芒星が逆になっていた。それだけではなく、胸から腹にかけて斬った傷も無くなっている。
不意に口角が上がった。
ヴァスティは目の前の不思議な光景に対して、面白そうだと笑ってしまった。
「ああ、そうだ。お前はそうじゃなくちゃいけねぇ」
今度は心底楽しそうに声を上げて笑った。
そんなヴァスティを視界に入れるミカヅキは、今自分の身に起こったことを分析していた。
ーーーーーーー
何が起こったのか?
まず自分が考えるべきはそれだと頭を切り換える。
お腹の痛みが無くなってる。チラッと目で確認してみると、斬られたはずの傷が無い。
それにこの感覚は……。
「知るは我が行く先が発動した……?」
手を開いたり握ったりして確認する。さっきまであった痺れも無くなっている。どうやら予想に間違いないみたいだ。
これでもう大きな傷を受けることはできない。
深く息を吸う。
原因はわからないけど、『知るは我が行く先』が発動したおかげで助かった。もしかして特有魔法が僕を助けてくれたとか……そんなわけ無いか。
さて、余計なことを考えてる場合じゃないよな。
やっぱり、生半可な気持ちで勝てる相手じゃなかった。それは今の攻防で身を持って理解した。だからもう覚悟を決めるしかない。
「行くぞっ、雷光の剣聖! 僕の全力で、殺さずに勝利して見せる!!」
棍棒を突きつけて身構えるヴァスティに宣言した。
僕が証明するんだ。誰かを殺すだけが戦争の終わりなんかじゃないって。
ダイキの魔法、使わせてもらうよ。教えてくれてありがとうって帰ったら伝えなきゃ。
「強化、強化、強化……全強化――超強化!」
全身の筋肉が躍動して熱を帯びていくのが脳に伝わる。
稽古の時は成功と失敗の確率は半々だったけど、無事にうまく発動できて安堵の息を漏らした。
賭けには勝った。あとは勝負に勝つだけだ。
「調子に乗りやがって……良いだろう。俺も全力でお前を殺してやろう」
イライラを募らせ、完全に堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりの顔だ。肌に殺気がチクチクと刺さる感覚さえ感じる。
そして――音は遅れてやって来た。
「創造せよ!」
左手の方にも棍棒を造り出して、両手にそれぞれ棍棒を一本ずつ握り心地を確かめる。
よし、大丈夫だ。
今の状態なら、ヴァスティの速度にも追い付ける。
ここからは僕の番だ!
ヴァスティも僕の考えを察したみたいで雷を身体から放出する。
「時間をかければ俺が不利ってか?」
僕も致命傷を与えたのにすぐに回復されては埒が明かない。だからこそ、今後の脅威にならないように早めに倒すべきだと思う。
どこか考え方が似ている?
いや、ただ単に妥当な判断を、合理的な考えを導き出しているに過ぎないな。たぶん偶然一致しただけだ。
棍棒を両手に持ち、それぞれを体の右側と正面に構えた。
「僕はこんなところで死ぬつもりはない。あなたを倒してミーシャと一緒に前に進むんだ」
「ほぉ、お前はあの小娘のことが好きなのか?」
と油断を誘うつもりなのはさすがに見抜けた。
予想通りすぐに上空から雷が降ってくる。通常なら反応すらできずに黒焦げだろうけど、今の僕には未来が見えているんだ。
「あなたには関係ないことだ!」
「はっ、お熱いことだな!」
遠距離の攻撃ばかり使うってことは、近距離になれば戦いにくい……なんてことは雷光の剣聖に限ってはあり得ないと思うけど、やる価値はある!
足に力を入れてしっかりと地面を踏みしめ、全力で蹴った。すると強化された身体能力により、降り注ぐ雷を躱わしながら距離を詰めていった。
時々右手の棍棒で打ち消しつつ、確実に近づいていたはずだった。
「ああ、確かに関係無ぇことだ。だがな、お前は確かに動揺した。……その時点で戦いの上では俺が優位になったわけだ」
声が急に近くなった。まだヴァスティのもとに辿り着くには距離があった。にも関わらず、いつの間にか目の前まで迫られていた。つまりこれは、
「詰められた!?」
驚いたけど、ちゃんと見えていたさ!
『創造の力』で正面に身体よりも数段大きい盾を造り出す。攻撃を防ぐためもあるけど、本当の狙いはもう一つの方だ。
造り出した盾を――前に押し出す。
ボンッと鈍い音が聞こえ、ヴァスティが消灯したことを教えてくれた。隙を生み、その一瞬を突いて盾を消して棍棒で追撃……するつもりだったが、読まれていたらしく雷の剣が頬を掠める。
傷を負ったけど成果は得た。
右手の棍棒を当てようとすると、もちろんヴァスティは魔法を無力化されまいと真っ先にそれを防ごうとする。
でも警戒すべき魔法を無力化する『竜改棍イングリス』はそっちじゃなくて、左手に持っている方だ。
だから意識が向いている僕が造り出した方の右手の棍棒と、左手の竜改棍の両方を直前で手離す。
そして足で地面をしっかりと踏み締めて、次の瞬間に蹴り上げて身体を回転。一回転を終える頃に手離した竜改棍を掴み直すことができた。なら、あとは遠心力と強化された身体能力の全力を込めた一撃をぶつけるだけだ!
「はああああぁぁぁぁ!!!」
しかし、再びヴァスティの声が僕の耳に届けられた。
たった一言で……全てが終わった。
「――遅ぇよ」
僕には未来が見えている。攻撃の軌道を先に知れる。それ即ち確実に避けることができる。
更には最悪僕の意識が間に合わなくても自動的に対処するから、攻撃を受けることは無いはずなんだ。
なのにどうして、どうして僕は、僕の腕はその断面を見せているのだろうか?
赤い液体が断面から少しずつ染み出ているのさえ見えた。
次第に頭が現実を理解し始める。
ほんの数秒の間に起こった出来事に、置いていかれた思考が追い付き始める。
ああ、そんな、こんなことって……。
ようやくわかった、わかったよ。
「あああうあぁぁぁぁぁぁぁあああああおああ!!!!!!!」
二つに分かれた棍棒が地面に衝突するとの同時。
僕は理解した。頭が現実を教えてくれた。身体が伝えてくれた。
痛みを、燃えてしまいそうな熱を、悶絶するほどの痛みを、叫んでしまうほどの痛みを……原因は何なのかを僕はようやく理解できたんだ。
僕の右腕の肘の辺りから先は、棍棒と一緒に地面との邂逅を既に果たしていた。溢れ出るものを止めたいのか、痛みを抑えたいのかなんてわからない。けど、左手は右腕の残った部分を強く握りしめていた。
視界に入るのは赤い液体が滴る真っ白い一本の剣。何者にも汚されることの無い白一色の、こんな状況でさえ魅入ってしまうほどの美しい剣だった。
ゆっくりと振り上げられたその剣に誘われて僕は空を見上げる。
「教えてやるよ。綺麗事だけじゃ――誰も守れねぇんだよ」
剣は僕の額目掛けて音もなくスッと振り下ろされた。
それをしっかりと視界に捉えながら、剣の美しさに魅入ってしまったからなのか、瞼を閉じて終わりを静かに待った。
――すると突然、頭の中に男の人の声が響いた。
(――君の“終わり”はここか?)
(終わりも何も、僕は全力で戦った。それでも届かなかったんだ)
(くだらないな。君は戦うと覚悟を決めたのだろう? ならば死んでも戦い抜け。信念を抱くならば、それを貫き通せ)
(何を……)
(哀しみの涙を流した少女を守りたいと決意し、そのためには少女だけを守るのではないと気付いた)
(そうだよ。あの時のミーシャの悲しそうな表情は、両親を亡くした時の自分を思い出させた。だから誓ったんだ)
(ふっ、諦めようとしている者が戯言を)
(諦めてなんかいないっ。そうだ、僕は……諦めた訳じゃない。僕は帰るんだ、ミーシャと一緒に、みんなと一緒に帰るんだ。そのための覚悟をした……はぁ)
(ほお? ならば証明して見せろ、貴様の覚悟とやらを。知識を求めし者が、どのような結末に辿り着くのかを――)
(……残念だけど、僕はまだ終わるつもりはない。何度だって立ち上がって見せる。実力で負けても、心で負けるわけにはいかないから!)
――強く念じるように決意すると、僕の意識は現実に戻され、痛みも一緒に蘇ってきた。
とても痛いはずなのに、不思議と生きている証拠なんだと別の考えを抱いた。
どうやら本当にまだ死んでいないらしい。などと悠長になっている場合じゃないことを思い出す。
たしか、凄く綺麗な白い剣が振り下ろされて頭が真っ二つになって……。
そこまで考えて、ようやく目の前の現実を理解した。
「ふぅ、何とか間に合ったみたいだな。いちいち遠い場所に来やがって」
「本当だよ……おや君、右腕が無いじゃないか、大丈夫かい?」
何が起きたかなんて、二人の背中を見れば簡単に想像がつく。
ほんと、僕は支えられてばっかりだな。と、思わず笑みが溢れてしまった。まさか援軍が来てくれるなんて思ってなかったよ。しかもその人たちがこの二人だなんて。
「レイ」
「ああ」
「それに、その……」
「エインで構わないよ。特別にね」
ガルシア騎士団団長――レイ・グランディール。
そして、天帝の十二士――反鏡者エイン。
二人が僕をヴァスティの剣から守ってくれたんだ。
「邪魔者共めが」
僕とは完全に対照的な反応をするヴァスティだった。