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ふたつの鼓動  作者: 入山 瑠衣
第九章 天帝騎士団四天王
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百三回目『長生きはするものだ』

 アルマは無意識に息を呑む。そうでもしなければ、落ち着いていられそうになかった。

 目の前で繰り広げられる戦いは、想像を容易に越えてきた。

 衝撃を受けるのは光景を見せる目だけではない。音をかき集める耳にも伝わってくる。


「ふんっ!」


「はぁあ!!」


 まるで天変地異でもあったのかと思わせるほど、大地は本来の形をしていなかった。


 所々で地割れが起き、落ちれば一貫の終わりだろう。しかも次々と閉じては開いてを繰り返し、場所も様々で油断していれば巻き込まれかねない。


 重力を操り宙に浮くことができるアルマだからこそ、二人の戦いを傍観することが可能なのだ。彼でなければ、揺れや衝撃で既に命を失っているはずだと言えた。


 これまで数え切れないほどの戦争を見てきて、その間に介入してきたアルマでさえ、この規模の戦いは経験が無い。


 彼は身を引いて正解だったと息を漏らす。

 当然だ。今、少年が目の当たりにするは、もはや人間通しの小競り合いを凌駕していると言っても過言ではないのだから。並の騎士ならば戦意喪失まで一直線だ。


 彼の剛腕が腕を振り払えば大地は応え、彼の団長が拳を突き出せば空気が破裂する。


 何より、アルマが驚くどころか呆れてしまうのは、この人間離れした方々は――


「このように楽しいのはいつ以来でしょうか」


「あなたに言ってもらえると、なかなか喜ばしいものだ」


 明らかに楽しんでいる。こんな地殻変動の首謀者たちは面白いと感じているのだ。


 ため息が出るのは必然だ、とアルマは苦笑した。


 だが、どちらが勝つのかワクワクもしているのだから、彼とて共犯者なのかもしれない。


 それほどまでに、魔神と剛腕の戦いはアルマを惹き付けた。



 ――そんな魅力的な二人の戦いの激しさは増す一方だ。


「衝天裂破!」


 アイバルテイクが拳を突き出すと、そこから空気の渦のようなものが発生し、正面に衝撃波の如く大地を抉る凄まじい勢いで放たれた。


 ドルグが目を細めると、地面から三枚の壁が彼の前に防壁として現れた。が、アイバルテイクの衝撃波は一枚、二枚と岩の壁を容易く破壊する。最後の壁が破壊されるも、既に標的の姿はあらず。


「――っ、グランド・インパクト!」


 足下にすぐさま視線を移し、そのまま魔神の拳を振り下ろすと、地面から()えた岩の拳に止められる。

 地面に触れる前に邪魔することで、魔法の発動を阻もうとしたのだろうが、アイバルテイクはそれを待っていた。


 ニヤリと口角を上げ、続けて放つ。


「轟破天武衝!」


 アイバルテイクが声を上げたのに呼応して魔神の拳にぐんと力が入り、周囲の空気が震える。


 そして次の瞬間、彼を中心に爆発が生じた。それは地面を抉り、周囲の全てを呑み込み、何もかもを破壊し尽くしていった。



 ――爆風が落ち着き始め、打ち上げられた石や岩などの破片が地面へ落下していく中、二つの影が佇んでいた。


 重力の壁を自分の周りに障壁として展開していたアルマは、佇む人物が誰なのかその瞳に写した。


「うぅむ……これほどとは」


「ハハッ、予想はしていたが……硬いな」


 全身を鉄へと変化させたドルグと、ひび割れた右腕を左手で押さえるアイバルテイクの姿を。


 土の行く末は鉄。なれば大地、つまり地属性を操るドルグが作れない訳が無いのだ。

 ミカヅキに教えてもらっておいて良かったと一息つく。


 勝負は決したかに見えた――が。


 パリッ――バリン!


 砕け散ったのはひび割れたアイバルテイクの腕ではなく、まさかの鉄へと硬質化させたはずのドルグの右腕だった。

 その影響だろう、ドルグの身体はもとの人間のものへと戻っていく。


「次で最後の一手としよう」


 残った左手を空高く振り上げ高らかに詠唱を始めた。


 アイバルテイクは阻止すべく一歩足を進めた瞬間、右腕から雷でも当てられたかのような激痛が脳へと伝わる。それでも彼は諦めることなんてしない。

 深呼吸をし、心を落ち着かせた後、回復魔法を右腕に集中してかける。白く温かい光に右腕は包み込まれ、ひび割れ、もとい傷が癒されていった。


 その光景はドルグの視界に入ってはいたが、彼は気にも留めなかった。


「根元たるは母なる大地、彼の地に呼び寄せるは天の瞬き、見るが良い、これぞ星の奇跡よ――大地の鉄槌グランド・エストレイア!」


 雲に覆われたのか辺り一面に影が、などと呑気に考えている場合ではない。


 アルマは上を見上げて、何度も首を振りながら大きく口を開けたまま閉じようとしない。


 影を生み出した原因は上空を見上げれば一目瞭然。雲より更に上、空の彼方から何かが落ちてくる。

 見かけたものは数少ないであろう岩の塊。しかし、それは地球上の物体ですらない。


 ――隕石だ。


 人間が未だ解明できない場所。これからも解明などできるかすら不明な場所。永遠の謎の空間――宇宙で無数に漂う内の一つ。


 無限に等しい広さの宇宙からすれば、その一つは些細な、気にもならない存在(石ころ)なれど、狭き地球にとっては脅威になりかねない。


 そんなとてつもないものを、ドルグは呼んだのだ。


 徐々に本当の大きさを彼らに知らせる隕石は、音速を軽く凌駕する速度で落ちてきていた。


 ドルグ自身は充分に理解していた。あの規模の物体が落下した場合に、帝国どころか地球に与える影響を理解した上で決断したのだ。


 自暴自棄でも、ましてや頭がおかしくなったわけでもない。


 時代に取り残された者として、未来への希望がどんなものかを見定めたくなってしまった、と言うのが正しい。人はこの老人を愚かと蔑むだろう。

 だが、否定するかどうかはわかるまい。なぜなら希望は人ならば誰もが抱くものであろう。故に、天帝騎士団で最年長となったドルグは思ったのだ。――見届けたい、信じたい、と。


 あれほどの巨大なものを呼び寄せたドルグの魔力はほぼ尽きかけている。生命を維持するのに最低限残っているだけだ。


 しかし倒れない。敗北が決するまで、何があろうと倒れるつもりはなかった。


 憧れた騎士の胸中を察してか、アイバルテイクは右腕の治癒を終え、ドルグへと攻撃を仕掛けようとしたが断念する。


 今、自分が成すべきことは何なのか、彼はしっかりと見定めたのである。


「これが、わたしの覚悟だ!」


 アイバルテイクは上空の巨大な隕石を見上げながら宣言する。恩人に、見ていてくれ、と胸を張って宣言した。


 同時に影で控えて隙あらば二人を倒そうとしていた隣国の騎士たちは撤退を始めた。だが彼らは知らないのだ。今から足で逃げたところで到底間に合わないことを。


「我が貴殿の覚悟、しかと見届けよう! アイバルテイク・マクトレイユよ!!!」


 立っているのも辛いだろうに、希望を感じさせてくれたかつての少年へと声を大にして思いを告げた。どのような結果になろうと受け入れる、最後までその目に焼き付ける、と。


 高らかに応えられた恩人の言葉を耳にし、少年から青年へと成長したアイバルテイクは密かに――瞳を潤ませた。


 すぐに首を横に振り、雑念として振り払う。集中しなければ自分だけではない、周りにいる者たち全てがお終いだ。


 恐怖を感じても良いこの状況下でアイバルテイクは、笑っていた。まさか、楽しんでいるのだろうか。


「ふぅー、すぅー。わたしは、エクシオル騎士団団長、アイバルテイク・マクトレイユだ。魔神と人の間に産まれし者。異種族の垣根など容易く越えられると言うことを、ここに証明しよう!」


 両肘を引き、瞼を下ろして魔力を溜める。

 大地を自分の一部とするドルグだけが気づけたことがあった。

 アイバルテイクは地面や空気中、自然の全てから魔力を分けてもらっている。自然と共に生きた魔神族が得意とした手法――森羅天輪。


 自らを擬似的に自然と一体化させ、魔力を取り込むものである。便利な手法だが、少しでも調整を間違えた瞬間に身体が弾ける危険性も併せ持つ。更に魔神族だからこそ可能な部分もあり、ただの人間がやろうものなら一瞬でお陀仏だ。


 魔力を充分に取り込んだのか、アイバルテイクの全身が淡く青い光に覆われていた。


 しかし、魔力を取り込んだだけではあの巨大な隕石を止めることは叶わない。いったいその魔力を使って何をしようと言うのか。



 そして、ドルグは妙な違和感を抱く。

 木々が、大地が、空気が静かだ。まるで時間が止まっているような、何かを待っているような、そんなふわっとした印象だった。


 希望を託した彼とて、アイバルテイクがどんな方法で隕石落下を阻止するかなど想像できていない。だが唯一確信していることがあった。――アイバルテイクならやり遂げると。


 当人であるアイバルテイクはようやく瞼を上げ、その瞳を見せる。普通の人間のものではない、特異な瞳を。


「我、産まれ出し時より定められし者なり。我、血を残されし者なり。我、想いを託されし者なり。故に果たそう、我が使命を――」


 両手を左右にゆっくりと広げながら詠唱する。それに自然の全てが応えるかのように震えた。


 そして、彼は告げる。


「解放――悠久なる魔神王ヴァリエ・ラ・ディアボロス


 その瞬間、世界から色が消えた。と思いきや、瞬きの内に何事も無かったと宣言するかの如く、世界は通常の景色を見せた。

 だが変わらぬ皆の視界の中で、一つだけ変化していることがあった。


 言うまでもない。

 アイバルテイクの姿だ。


 伝承にも残る魔神の中でも特別な存在――魔神王。

 幻だと語り継がれてきたその姿が今、目に見える現実として昇華される。


「ぁ……」


 圧巻の一言。その身を瞳に映せし者はまず言葉を失った。

 空から飛来する隕石よりも、アイバルテイクは圧倒的な存在感を放っていた。

 あまりのことに周囲の騎士たちは足を止めていた。いや、見惚れていたと例えた方が正しい。


 まさしく彼こそが“王”であると、本能が告げているような不思議な感覚だった。

 そこにいるのは伝説の魔神王だと、身体中の血液の流れが早くなり、全身が震わそうと心臓が鼓動を響かせる。


 魔神王と言っても身体の大きさは然程変わらない。が、部分的な見た目の変化は著しいものだ。

 髪は夜空の如く黒く染まり、腕や足、更には胸の辺りに鎧のように纏う魔神拳に似た黒い何か。加えて服装も身動きしやすいものへと変わっていた。


 呆気に取られる周囲の者たちなどアイバルテイクは気にも止めずただ一点を視線を定める。

 そのまま行動に移るのかと思いきや、おもむろに自分の手を握ったり開いたりし、その手を見つめて笑みを溢す。

 そう、彼自身も驚いていたのだ。まさか自分にこんなことができようとは、こんな力が眠っていようとは思いもよらなかった。


 故に確認の意味を込めて、手足など動く部分を片っ端から動かした。

 五秒後に納得したように目を閉じる。


「よし。これなら……」


 ついに隕石が雲を突き破る。時間はもう残されていない。だと言うのに、希望たるアイバルテイクの表情には焦りの色は全く感じない。必要が無いからなのだろうか。


 着々と迫る終わりの時に、誰もが息を呑む。


 その直後、アイバルテイクは少しだけ屈み、足を伸ばして跳んだ……地面に窪みを作り出して。


 見上げる者たちは己の目を疑った。これは本当に起きている現実なのだろうか、と。

 夢や幻ではないかと現実逃避を始めた。追い討ちをかけたのは隕石……ではなく、アイバルテイクの所業だった。


 なんと彼は空中を駆けていた。そこが足場だとでも宣言しているのだろうか。


 丁度良い距離に着いたのか、彼にとって今は遠い地面と平行になり拳を引いた。

 大気圏外から落下する隕石は、空気との摩擦で炎よりも熱を帯び、ぶつかった空気は押し出される形でアイバルテイクに風となって勢いを伝えた。


 しかし、そんなことはどうでもいい。

 集中する。

 考えるはただ一つ。


 ――己の成すべきことを成す。それだけだ。


 と、山よりも巨大な隕石を前に、心の中で呟いた。


 そして、


「散れ――天地壊楼」


 拳は身体の前に、隕石へと突き出された。

 拳が隕石との邂逅を果たしたその瞬間、空にあった雲が消え失せ、落下していたはずの隕石がピタリと動きを止めた。

 地上ではあり得ない出来事の連続で我を失い笑い始める者まで出る始末。


 アイバルテイクは止めれるや否や隕石をそのままにして地に足を付ける。


 たまたまなのかアルマの近くに降りたので、彼はとある疑問を投げ掛けた。恐らくはこの場に直面している者たち全員が抱く感情を。


「……どうなったんですか?」


 アイバルテイクは急に敬語になった少年にふっと鼻で笑い返してから問いに答えた。


「終わった。これでもう大丈夫だ」


 身体の前で手を開き、何かを握り潰すかのようにゆっくりと閉じていくと、上空で停止している隕石がボゴンッと巨大さに見あった大きな音を立てながら潰れ始めた。


 まるでアイバルテイクの手中に収まっているのではと考えてしまいそうな、そんな信じられない光景だった。


 アルマはまさかな、と思いつつも、すぐに考えを改めた。

 自分の憶測は間違っていないと。


 なぜなら、アイバルテイクの手が完全に閉じられた時と、隕石が潰れて消えるタイミングが全くの同時だったからだ。


「――やはり間違っていなかった」


 嬉しそうに言いながら歩み寄るは隕石を落とした張本人。

 敵意は既に無く、構えようとしたアルマをアイバルテイクは制止した。


 隕石が消滅してアイバルテイクもさすがに冷静さを取り戻し、一歩間違えれば大惨事となっていたかもしれないと思うと、相変わらずの飄々とした態度のドルグにため息が出てしまった。


「やり過ぎだ、ドルグ(・・・)さん」


「否定できませんな、アイバルテイク(・・・・・・・)殿」


 微笑みながらもどこか寂しげなドルグに、アイバルテイクもついつられてしまう。


「この後はどうするおつもりですか?」


 愚問なのかもしれないと思ったが、あんな表情をされてはアイバルテイクでも恩人の今後が心配になった。


「敗北した以上、騎士はやめるつもりだ。王の姿も拝めたことだし、どこかの森の中で静かに時が来るのを待つとしましょうか」


 時が来る……つまり死ぬまでと言う意味だろう。

 独りで最後を迎えようとしているわけだ。


 アイバルテイクは少ない言葉からドルグの意図を察し、何を言ったら良いかと迷った。


 なぜそのような選択を望むのかは聞かなくても検討はついている。間違いなく罪滅ぼしだ。今まで殺してきた者や、犯してきた罪に対しての自分なりの罰。


「いやはや、長生きはするものだ。もう悔いはない……」


 ――キミなら……託せる。


 今は亡き友との約束が頭を過る。




 ーーーーーーー




 ドルグがその男と初めて出会ったのは、彼がまだ騎士になる前の話だ。


 代々鍛冶屋として続いてきた家計の長男だったドルグは、疑問を抱かずに家を継ぐのだと思っていた。


 剣が欲しいと訪ねてきた男に出会うまでは。


 年齢は三十代くらいだろうか、笑顔が特徴的な人物だったと記憶している。


 人を探して世界中を旅をしていると自己紹介した男は護身用の剣が折れてしまったらしく、新調するために名の知れた鍛冶屋であるドルグの家を訪ねたらしい。


 だが生憎とタイミング悪く両親は素材を取りに家を留守にし、一人っ子だったドルグのみが家に残っていた。そのため断ろうとしたのだが、「じゃあ、キミに頼もう」と強引に剣を打つように話を進めた。


 若干興味があったし、知識は充分に教わっていたドルグは悔しさを感じつつも、男の言葉に背中を押され好奇心に身を任せた。


 剣を打つ間、男はとある話を語った。

 男によると、近い内に世界中を巻き込む大きな戦争が起きると言う。


 いきなり大それた話なので作り話だろうと聞き流して剣を打つことに集中した。が、男はキンコンと言う金属同士の衝突で生じる音などものともせずに語り続けた。まるで、重要なことだとでも告げるように。


 特に耳を引いたのが、その歴史で初めての世界を巻き込む戦争、世界戦争は全てのきっかけにすぎないらしい。


 そんなことあり得るのだろうか。世界中を巻き込むほどの規模の戦争が“きっかけ”ならば、更に壮大なことが起きると宣言しているのと同じでは無かろうか。


 そもそもがだ。なぜそんな未来に戦争が起きると断言できるのか。と、聞き流すはずがいつの間にか耳を傾けていたドルグ。


 それを見破ってか軽く口角を上げて男は続けた。


 全てはその後に起きることの余興なのだ。

 来るべく時はすぐにやって来る。だが黙っているわけにはいかない。だからこそ自分はある人物を探している。


 滅びたとされる魔神族の中でも唯一無二の存在――魔神王を。


 ドルグは“魔神王”と言う言葉を聞いた途端、手を止めて男にハンマーで殴りかかった。

 しかし隙だらけだったにも関わらず、あっさりと指二本で止められた。


 魔神族は滅んだが、魔神族の血が途絶えたわけではない。ドルグや父親は血が濃いらしい。

 彼は父親から魔神王の話は幼い頃から聞かされていたが、決して他人に知られないようにと言われていた。だからって殺そうとしなくても良いのだが、若さ故の浅はかさなのだろう。


 そして男はこう告げた。自分も同じだと。

 加えて魔神王は先祖返りらしく、力を使いこなせなければ死んでも自分の正体に気づくことはない。

 それを気付かせるのが男の役目だと言うのだ。


 かくして色々ありつつも無事に剣を打ち終わり、立派なものが仕上がった。出来栄えに男は喜び、お代を払って鍛冶屋を後にした。



 ――数日後、男は路地裏で死体となって発見された。噂によると、夜中に襲われ心臓を一突きで即死だったらしい。


 何の気なしに現場に足を運ぶと、頭の中に声が届けられた。


 ――わたしの願いを、キミに託す、と。


 それから意を決し、来るべく時に備えるためと情報を集めるために両親に謝罪し、ドルグ・ユーベストは帝国の騎士となった。




 ーーーーーーー




 当時はわからなかった言葉の意味が今なら何となくわかる気がした。この戦争はまだ序章に過ぎないと。


 そして同時に頭を過るのは死んでいった仲間たち。守ることができなかった者たち。


 すまない、と胸の内で謝罪を述べ、自分が見聞きした真実を伝えるべく口を開いたまさにその時。


「あんたは終わりだ、じいさん」


「ぐぬ……だはっ……」


 雷を帯びた槍がドルグの心臓を貫く。

 突然の出来事に驚きつつも拳を構えるアイバルテイクを、歪む視界の中に入れて最後の力を振り絞る。


「王よ……戦いは、これからですぞ――」


 火柱ならぬ、一本の雷柱が天空へと立ち上る。それが消える頃にはドルグの身体は黒く人の形をした土塊のようにあり果てていた。



 ――その頃、アルフォンスの指示で彼らのもとへと駆けていたミカヅキは、一緒に走る人物のことを気にかけつつ急いでいた。

 故に、進行方向に天高く立ち上る黄色い閃光を見逃さなかった。


 誰の手によるものかを聞くのは愚問だろう。


「飛ばすよ――ミーシャ」


「うん!」


 二人は目的地へと急いだ。

 戦うことを決意した大切な人に声をかけ、ミカヅキは自分の中に込み上げる黒い感情を押し殺しながら足を進めるのだった。

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