ウサギの言葉
『はぁ、まったくつまらないですね。ここに来た方々はいつも同じ反応しかしません。どうして人間は非現実なものを見たときは【立ち止まり、そのものを見入る】ことしかできないのでしょうか?本当につまらない。』
ウサギは笑顔を消し、落胆の表情に変わりそう囁いた。しかしその目は笑顔の時と変わらなかった。その目はそこら辺の石を見るような見下している目だった。僕だけがいたときにはあった輝いた目は今のウサギの目にはなかった。
『まぁ慣れているから大丈夫ですがね。この悲しみは後で晴らしましょう。こほん、さて皆様。ようこそ!!私の楽園である地獄へ!!!』
すべての人々を見るようにウサギはそう叫んだ。人々は理解できない、もしくは理解が追い付いていないようだった。
『ふふっ。理解が追い付いていない方々もいますね。では言い方を変えましょう。皆様は死にました!!殺人、事故、自殺、病死、寿命とありますが、寿命以外で死んだ人々は今ここにいます。つまり皆様はいわゆる死人もしくは死者と呼ばれている方々となったのです!!』
そのウサギの言葉ですべての音が無くなったように静かになった。
「えっ・・・・・嘘、嘘よ。そんなの嘘よ。嘘よーーーーーーーーー!!」
「や、やっぱりあの時に、お、おれは・・うわぁーーーーーーーーーー」
「うは、うはははは。死んだ、死んだ。俺が、俺が。うひゃひゃひゃひゃ」
しかしすぐに円盤のあちらこちらから混乱の声が聞こえていた。自分の死を認めたくない、わかっていたけど認めたくない、認めたくなく壊れるなどの色々あった。
「ねぇ・・・相馬くん」
「っ!春宮さん、こ、これは、その」
「いいの、何も言わなくて。あの人の言葉でわかったわ。私はたぶんバス事故で死んだのね。」
「えっ!・・あ・・・う・・・うん、そうだと思う。」
彼女の発言に僕はそれだけしか言えなかった。
「うん、だとすると突然ここに来たのも納得できるわね。来たって言い方も変ね。送られたって言い方の方がいいかもしれないわね。ただあのウサギのような人は一体なんなのかしら?変装?それともCG?ここからだと詳しい部分がわからないわね。近くに行けないのかしら?たぶん駄目ね、周りの人たちが壁になってこれ以上あの人に近づけないわね。それにしてもなんでこんなに多くの人が集められてるのかしら?何か目的でもあるのかしら?じゃあそれは一体なに?もしかして・・・・・」
「は、春宮さん、お、落ち着いて。そんなに色々なことを一斉に考えなくてもたぶんあいつが答えてくれると思うよ。だから一旦落ち着こう。」
彼女の突然の変化に何か変なものを感じた。僕はそれが混乱しているからだと思った。ただその混乱が僕の思っていたよりも深刻なものだった。
「落ち着いてるわよ。別に大丈夫よ。問題ないわ。」
「本当に?僕には現実から逃避しているようにしか見えないよ。ここは一旦落ち着いて冷静になってからまた考えればいい「落ち着けるわけないじゃない!!!」・・・・え?」
僕の言葉に彼女は怒りの言葉を投げつけた。とても強い怒りの言葉を
「落ち着けるわけないじゃない!!目が覚めると突然こんな場所にいるし、相馬くん会って少しは落ち着いて話ができると思ったら、あのウサギの人が現れて突然死にましたって言われたのよ。私はただバスに乗っていただけなのに、それに死んでることさえ知らなかったのよ。これで落ち着くことなんてできるはずないじゃない!!」
彼女は泣きながらそう叫んだ。
僕は彼女の叫びを聞いて何も言えなくなってしまった。彼女は僕に会う前から混乱があったのだ。帰宅途中のバスの中で眠っていただけなのに目が覚めると突然知らない場所にいた。その混乱は他の人たちと変わらないものだった。それを僕に会ってから隠していたのだろう。前と同じ笑顔で、前と同じ言葉で。僕はそれに少しも気づいていなかった。
「もういやよ。何で私がこんな目にあわなきゃならないの?お家に帰りたい。」
「春宮さん・・・」
その彼女の嘘もウサギの言葉で限界を越えてしまったのだ。彼女は今泣き崩れている。
どうして僕は彼女の嘘や我慢に気付けなかったのだろう。この中で僕だけが彼女の知り合いだ。だからこそ彼女は僕にあの質問をしたのだろう。「ここはどこで?何で私が?家に帰れるの?」の意味を込めて。
『さてさて、ようやく事態が呑み込めてきましたか?ここで少し待たないとこの後説明することが入ってこない場合がありますので、落ち着けるお時間を取らせていただきました。』
その言葉で僕は憤ってしまった。奴とはここで会っただけだ。だけど僕は確証を持って言える。奴が僕たちに落ち着かせる気なんてない。奴はこの時間で僕たちが混乱している様を見て楽しんでいたのだろう。
奴のあの笑み、満足そうな笑みを見れば誰だってそう思う。
『ああ、そうそう。まだ自己紹介がまだでしたね。今さらですが初めまして皆様、私の名前は・・・・・なんでしたっけ?』
何を言っているんだ、こいつは?おそらくここにいる全員がそう思っただろう。
『いやいや、時代によって名乗る名前や呼ばれる名前が変わっていましてね。場合によっては同じ時期にいくつもあってですね。この頃呼ばれている名前が色々あったのですがその中でも気に入っている名前があったのですが・・・・・あっ!思い出しました。こほん、さて気を取り直して。初めまして皆様、私の名前はグリム!!地球を含めた複数の異世界の管理をしている者です。まぁ皆様の言葉で言うなら【神】と言われている存在なのですよ。』
その言葉に僕は驚愕した。あり得ないと思う気持ちとやはりという気持ち、相反する気持ちが僕の胸の中にはあった。
『しかし【神】と呼ばれる存在は色々な存在がいましてね。例えばその【神】と呼ばれる存在をまとめる存在【主神】やその存在自体が邪悪な存在【邪神】等が存在します。そのなかで私という存在の【神】は【転生神】もしくは【死神】と言われている存在です。』
この時のウサギ、いやグリムにはこれまでのようなエセ紳士らしさが無くなり、今までの中で一番真剣な目をしていた。
「ふ、ふざけるな!!」
突然、叫び声が聞こえた。辺りを見渡すと30代くらいの男性を中心に周りの人たちが離れていた。
その男性は怒りの顔でグリムを指さしていた。
「ふ、ふざけるなよ!!何が神だ!!どうせ作り話だろう!その顔も被り物に決まっている!!」
『おやおや、突然何を言い出すのですか?交通事故で亡くなった加納善彦さん?』
おそらくその名前がその人の本名だったのだろう。その男性、加納さんは手が震え、怒りから驚きに変わり、それから恐怖の顔に変わった。
「な、なぜ俺の名前を?」
『言ったはずですよ?【神】だって。何ならあなたの生年月日、身長体重、家族構成も言って差し上げてもいいのですよ。』
さっきまでの真剣さは無くなり、またエセ紳士のような雰囲気を出し始めた。
「ふ、ふふふふざけるな!そ、そんなの調べたんだろう!俺は信じないぞ!俺が死んだなんて!お前が神だなんて!!」
『おやおや、ひどいこと言いますね。私、少し傷つきました。どうすれば信じてくれるのでしょうねぇ?ここであなたを消せば他の人たちは信じてくれますかね?』
「ひ、ひぃぃ!!」
グリムは醜悪な笑顔でそう言うと、加納さんは腰を抜かし悲鳴を上げた。
『冗談ですよ。そんなことしませんよ。この後のゲームの参加者が少なくなってしまうかもしれませんからね。』
「げ、ゲーム?」
その発言は周りにいる人たちに波紋を呼んだ。その言葉の響きが恐ろしく感じたのだ。
『さて、少し遅れましたが言わないといけないセリフがありましてね。言わせてもらいますよ。』
そう言うとグリムは手を大きく広げ、僕を含めたすべての人たちを見てこう言った。
『皆様に生き返るチャンスを与えましょう』