#5「終焉」
実はこれプロットなし、それどころかキャラ設定もしていないんです。
もうすぐだ。今日を頑張れば明日で冬休みになる。
短い日数だが、貴重な休日だ。
ヒナの家に行ってから、僕は忠告を守って菜花梨紗に話しかけなかった。
なのに、菜花梨紗とはまだ関わっている。
あの日以来、菜花梨紗の方から話しかけてくるようになったのだ。
それも親しげに、だ。
あまりの急変ぶりに、つい友達になってしまったくらいだ。
いや、友達というのには語弊があるか。
顔を合わせれば世間話をする程度の仲にはなった。
相変わらず、何であの魔導書を読んでるのかは、教えてくれないのだが。
ヒナには報告していない。まあ、大丈夫……なはずだ。
重大なことなら理由を言うだろうし。
終業式が終わると、やはり菜花梨紗が会話を仕掛けてきた。
「話があるんだけど」
「どうしたの?」
「明日、時間ある?」
「あるけど………」
「何時まで?」
「条例違反になるまで」
条例では確か六時以降は中学生は出歩けないことになっている。
とはいえ、六時以降まで遊んでいる奴らはたくさんいる。
というわけで大体七時くらいだ。
ま、家は言ってれば何時まででも良いわけだけど。
補導されなければね。
「じゃあ、深夜零時までは無理?」
「うーん。どうかな。やろうと思えば出来るけど」
悩んだふりをしていると、菜花梨紗は僕の耳元で囁いた。
「来てくれたら面白いもの見せてあげるよ」
「面白いもの、ってなに?」
「だから、来たらそれを教えてあげるって言ってる」
なにその作戦。古いやり方だ。
だが、効果的。
特に僕みたいな人間にはね。
そんなこと言われたら気になって夜しか眠れない。
だけど深夜十二時ってのはなぁ。
流石に却下されそうだ。
しかし、言うだけタダだし、試してみるか。
その日の夜、僕はお母さんに直談判をした。
「明日、夜の十二時まで外で遊ぶ約束をしたんだけど、良い?」
「だめ」
無理だった。
だが、もうちょっとだけ粘ってみよう。
「来月のお小遣いなくていいから」
「お年玉いらないの?」
「あ、いる」
「じゃあ、ダメ」
「いや、でも――」
「大体、そんな時間まで何して遊ぶの?」
「さぁ、知らん」
「なにそれ」
「知らないもんは知らないし」
「とにかくダメなものはダメ。冬休みだからって弛みすぎ」
ひどいなぁ、全く。
ちょっと遅くなるくらい、いいじゃん。
よし、こういう時はヒナに相談しよう。
困った時のヒナ頼み。
さながらプラモやラジコンの製作が得意ないとこに頼むように。
あの人ならきっと一秒で新しい意見を作ってくれることだろう。
とはいえ、忙しい人だからな。
嘘も看破されそうだし。
こうなったら…………抜け出すしかないか。夜中にこっそりと。
僕はその旨をメールで菜花梨紗に送った。
数十分待っても返信はこない。
おかしい。だけど、何か返信できない理由があるかもしれない。
だが、もしかしたら。送る相手を間違った可能性もある。
送信履歴を見ると、さっき送ったメールはヒナ宛てになっていた。
うわ、まずい。どうしたものか、どうしようもない。
とりあえず同じ文面のメールを菜花梨紗に送った。
今度は間違っていない。
間違っていなかったので、返信が来た。
絵文字一つすらない質素なメールだ。見易くていい。
内容は次の通り。
「抜け出そうと許可されようと来れるなら何だっていい。
明日の深夜十二時、北原公園で待っている」
なんだか果し状みたいだ。
口調、変わりすぎだろ。
さて、翌日の深夜十一時四十分。
玄関から靴を持ってきて、僕は夜の街へと飛び出した。
少し、というか、かなり寒い。
冬だからね、仕方ないね。
北原公園に急ぐ。
北原公園には、妙な笑い方をしているヒナが居た。
何ていうか、とても怖い。
ある意味菜花梨紗の顔より怖い。
「さて、と。なにか言うことは?」
「無いよ。僕が誰と遊ぼうと勝手でしょ」
「お母さんには反対されなかったの?」
「メールで見たはずだよ。僕がどうしてここにいるのかはね」
「……ま、ちょうどいい機会だし、許してあげるよ」
なんだろう。
ヒナからは今にも決闘が始まるかのような雰囲気が感じられる。
と、そうこうしているうちに、菜花梨紗が来た。
菜花梨紗は僕を見て、続いてヒナを見た。
それから悟ったような表情で、言った。
「へぇ」
何が「へぇ」だ。
いいから説明してよ。
なにこの状況。
これが修羅場?
モテ期到来?
「殺しに来たってこと?」
「いや、裁きに来たんだよ。殺しには来ていない」
「同じこと。簡単に殺される気は無い」
訳が分からないよ。
僕を置いてけぼりにしないでおくれ。
菜花梨紗がヒナをこの世のすべての憎悪を込めて睨んだ。
その殺気は僕にまで伝わってくる。
思わず冷や汗をかいてしまった。
「今は十一時五十五分。あと五分で、私が勝つ」
「させないよ」
なんでこうなったし。
僕のミスだよ。
メールを送らなきゃよかった――ていうか忠告をちゃんと守ってればよかった。
「先手必勝――!」
ヒナが菜花梨紗に手のひらを向ける。
そこから、太い光線が放たれた。
いきなり始まる超能力バトル。
僕はそのうち考えるのをやめた。
「これだから無能の神に仕える奴は……」
菜花梨紗の眼が真紅に染まっていく。
ちょうど今出ている月の色と一緒だ。
「『血の瞳』――発動」
途端に、ヒナが呻き声を上げた。
「これくらいで……『神星弓矢』」
ヒナの指先から、白色の弓矢の形をした何かがビュッと発射された。
それは直線を進んで菜花梨紗へと迫る。
あと少しで突き刺さる――僕がギュッと目をつむった瞬間だった。
わめきたてるような声が空中から聞こえた。
見上げると、そこには、謎の赤い物体が浮かんでいた。
赤く光る物体は触手のようなものを僕に伸ばしてきた。
一秒と経たないうちに触手は僕に触れ、僕の意識はそこで途絶えた。
最後に見たのは、崩れゆく地上だった。
積み木のように現実空間は崩壊していった。
あとに残るのは何か。それは、僕が知る由ではない。
僕は恐らくあの物体に取り込まれ、その中で永遠を生きるのだろうから。
やはりプロットなしはキツイですね。
これからは地道に努力することにします。
今回のテーマは――存在していません。書きたいから書いた。ただそれだけです。
だからこんな手抜きなんですね。
言い訳ばっかりで失礼しました。それでは皆さん、またこんど。




