第7話
第7話デース(笑)
「セイッ!」
「そりゃ!」
繰り出された竜騎の拳をフラムの拳が迎撃する。
ガンッと言う音が響き竜騎とフラムは更に拳を繰り出す。
「ッらぁ!」
「未熟未熟」
フラムの顔を狙った拳はフラムがひょいっと顔をずらして避ける。
「ほれ、脇ががら空きじゃ」
フラムはそう言って竜騎の右脇腹に鋭い蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ!」
蹴りを受けた竜騎は数メートル程弾き飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がる竜騎は鉱山の山肌にぶつかって止まった。直後、竜騎は飛び起きるとフラムに再び挑む為に走り出した。
「セイッハァーッ!」
裏拳・肘打ち・膝蹴り・中段蹴り・回し蹴り。
様々な技を繰り出す竜騎にフラムは手と体捌きでかわしていく。
「無駄な動きが多いのう。それでは直ぐに疲れてしまうのじゃ」
動き回る竜騎に対しフラムは無駄の無い動きで竜騎の技の悉くをかわし迎撃していく。
「ふむ。では、そろそろ儂から行かせて貰うとしようかの?」
フラムは竜騎の動きに合わせて拳を打ち出し始める。
フラムの攻撃は竜騎の動きを読んだかの様に次々と竜騎に吸い込まれていった。
「ぐっがっがは!!」
「ほれ、堪えて見せい」
「ぐがっ!」
フラムの拳が竜騎の溝尾に入り、竜騎がくの字に折れる。
「がっ、がはっ!」
「どうした?もう終わりかのぅ。その程度ではガルムレイドを救う等夢のまた夢じゃぞ」
「ま、まさか。やっと身体が暖まって来たんだ。勝負はこれからだ!」
竜騎は震える足に力を込め立ち上がるとフラムから距離を取り、ゆっくりと深呼吸をし始めた。
「コォォォォォ・・・フゥゥゥゥゥゥ。スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ」
竜騎は数回深呼吸をすると、今度は限界まで息を吸い込み、
「ハァッ!!」
一気に吐き出した。
「むっ!」
すると、先程まで自然な構えを取っていたフラムが拳を胸の高さで構えた。
「済まないな。最初に攻撃を大振りするのは俺の悪い癖なんだ。何度か攻撃を受けて初めてエンジンが回り始める。これからが本当の俺。そして俺が習った早乙女流武術の真髄だ!」
そう言って竜騎は先程同様にフラムに向かって走り出す。だが、竜騎の繰り出す攻撃は先程までと段違いだった。
素早く鋭い突き、重く芯に響く蹴り。
先程までとは全く違う攻撃にフラムは防戦一方になる。
「ぬぅ!勇者よ、お主まさか!」
「俺は武術家として重大な欠点を持っている。俺はスロースターターだ!」
竜騎の言う通り竜騎はスロースターター。
最初から本当の実力を出せず、何度か攻撃を受けて初めてエンジンが回り始めるスロースターターだった。
それは武術家としては致命的な欠点だ。
もし相手が一撃必殺を持って攻撃してくれば竜騎はそれでお仕舞いなのだから。
「成る程のう!それは確かに致命的じゃ!」
「だろう?何度か直そうとしたが駄目だった」
「ならば、この勝負が終わったら儂が何とかしてみるかの!」
竜騎とフラムは拳と拳、蹴りと蹴りを打ち合わせながら次々に攻撃を繰り出していく。
「まるで、踊っているみたいッス」
「さっきまでとまるで違うねぃ」
「・・・・・・綺麗」
武術の達人の動きは一切の無駄が無く、その動きはまるで舞うかのようだと言う話を聞いた事が有るだろうか?
今の竜騎とフラムはまさしく舞踊を踊るかの様な戦いを繰り広げていた。
竜騎の拳がフラムにヒットし、フラムの攻撃も竜騎にヒットする。
「しかし、あんた硬いな」
「元々竜じゃからの」
戦いを繰り広げながら竜騎とフラムは世間話をするかの様に会話をする。
フラムは人の姿でありながら、竜の攻撃力と防御力を持つチートの様な存在だった。
「ほりゃ!」
「チェストッ!」
ドゴン!と言う拳と拳がぶつかりあった音じゃ無い音が鉱山山頂に響き渡る。そして、ピシッと何かが罅割れる音が響いた。
その数秒後。
ピシッピシピシピシ、パリィィィン!
それは竜騎が右手に装備していたガントレットが砕けた音であった。
「痛ぅぅ。その防御力は反則だろう?」
竜騎が右手をプラプラと振りながらフラムに笑いかける。
「産まれ持っての物じゃからな。儂ではどうしようも無いわい」
苦笑しつつフラムが竜騎に言った。
「ま、そのおかげで思い出した事もあるけどな」
「ほう。どんな事を思い出したんじゃろうかの?」
「内緒だよ!」
竜騎は今までよりも速く駆けると、フラムとの距離を一気に詰めた。
「ぬっ!?」
「受けてみろ!早乙女流鎧崩し!!」
フラムの腹に拳を密着させると竜騎は初めて技名を叫ぶ。次の瞬間、竜騎は大地を踏みしめ上半身の回転でフラムを撃ち抜いた。
早乙女流鎧崩し。それは防御の硬い相手の身体に拳を密着させ、大地を踏みしめると同時に上半身の回転で拳を相手に密着させたまま撃ち出し衝撃のみを相手に伝える技である。
分かり辛ければ中国拳法の発勁の様な技と考えて頂きたい。
「ぐっ!」
たたらを踏み初めて竜騎の攻撃で下がるフラムは腹に手を当て片膝を着いた。
「な、なんという技じゃ。衝撃のみを撃ち込むとはの。確かにこれは儂の硬さも抜くわな」
「その辛さは分かるぜ。何せ俺も14の頃に祖父ちゃんに鎧崩しが出来るまで何百回と撃ち込まれたからな」
「・・・・・・よう死なんかったのう(汗)」
「・・・・・・実際、何回か綺麗な花畑と川と川の畔に死んだ筈の祖母ちゃんが手を振っているのが見えたけどな(汗)」
竜騎の祖父ちゃん、恐るべし。
フラムとリーシャ達の心が一つになった瞬間だった。
「因みに川を渡ろうとするとその度に祖母ちゃんが川の中に入ってきて投げ飛ばされて蘇生したけど」
竜騎の祖母ちゃんもまた容赦無い人だった。
「くふぅぅぅぅぅっ。見事な技じゃな。この地に産まれ落ちて遥かな時が経つが、これ程のダメージを受けたのは初代聖剣の勇者以来じゃ。これは加護とは別に褒美を与えねばの」
フラムはゆっくりと立ち上がるとニィィッと笑って竜騎を見る。
「勇者よ。汝はこれから先何処までも強くなるじゃろう。修行を怠るなよ?そして、何時の日か真の意味でガルムレイドを救ってくれい。これは儂からの選別じゃ。しっかりと覚えよ」
フラムは腰を落とし右手を引き拳に力を込める。すると、フラムの右拳が真っ赤な炎に包まれた。
「拳聖と呼ばれしこのフラムの技の一つ、汝に授けよう。受けてみよ!竜炎拳!!」
一瞬の出来事だった。
フラムの放った竜炎拳は圧倒的な加速と共に竜騎に迫り、竜騎は苦悶の声を上げる事も無く意識を刈り取られるのであった。
「強うなれよ」
意識を失った竜騎にフラムはポツリと呟くと今度はリーシャ達に向かって声をかける。
「お主ら回復魔法か回復薬は持っておるな?」
「魔法は一通り使える」
「回復薬もバッチリッス!」
「タッちゃんの回復だねぃ?」
「有無。それと儂にも・・・・・・たのむ」
フラムは言い終わると同時に竜騎に折り重なる様に倒れた。
竜騎の放った鎧崩しはフラムに確かに通じていたのだ。
「ダブルケーオーだねぃ」
「タツキ、良く頑張った」
「さあ、二人の回復ッスよ!」
レンの言葉にリーシャとセリーナは頷くと、二人に駆け寄り手当てを開始するのであった。
初のボスキャラ戦はWKOに終わりました。
実はこれ所謂イベント戦なんですよね。