第6話
第6話です。
リーシャと謎の声の正体を追って山頂に急ぐ竜騎達。
後少しで山頂に着くと言う時にその空間は現れた。
「セリーナさん」
「ぜーぜー。いや、あり、えない、から」
「凄く綺麗な場所ッス」
レンは目の前の空間を見て思わず呟いた。
今彼等の前に拡がるのは草木も生えていない鉱山の山肌では無く、緑溢れる山肌だった。
「これは一体?」
【全て主の力のおかげです】
呟く竜騎に答えたのは立派な角を持った黒い毛並みの一匹のデスバイソンであった。
「デスバイソン!」
構えようとするレンとセリーナを手で制し、竜騎はデスバイソンに近付いていった。
「あんた、喋れるのか?」
【はい。主に力を授かりました故。勇者殿、主がお待ちです。ささ、山頂にお通し致しましょう】
デスバイソンは山頂に続く道を角で指しながら竜騎達に道を譲った。
【では、お気を付けて】
そう言ってデスバイソンは近くに生えていた草を食べ始めた。
良く見ると産まれたばかりであろう小さなデスバイソンが近くに生えていた木の影からじっと竜騎達を見ていた。
「子供か?」
【え?あぁ、はいそうです。私の後を追って住み家から出てきたのでしょう。この方々は大丈夫だからこっちに来なさい】
親デスバイソンが子デスバイソンに声をかけるとよたよたと子デスバイソンは親デスバイソンの近くに歩いて行った。
「可愛いな」
「本当ッス♪」
「お父さんが好きなんだねぃ♪」
デスバイソン親子にほんわかとしつつ、竜騎達は山頂を目指して再び走り始めるのだった。
再び走り始める事約30分。
竜騎達は漸く山頂に辿り着いた。
【ふむ。ようやっと来おったか】
其処に居たのは巨大な赤い竜、火竜だった。
「リーシャは何処だ!」
「タツキ、此処にいる」
開口一番竜騎は火竜にリーシャの行方を尋ねると火竜の後ろからリーシャが姿を表した。
「良かった!無事だったか!」
【だからゆーたじゃろが。一足先に儂の下に来て貰ったとな】
リーシャが小走りで竜騎に駆け寄ると竜騎はリーシャの肩に手を置いて安堵のため息をついた。
【時に勇者よ。後ろでドワーフの娘が酸欠に陥っとるんじゃが、良ければ回復結界でも張ってやろうか?】
「へ?」
火竜に指摘され竜騎が後ろを振り向くと其処には両膝に手をつき呼吸を整えているレンと酸欠で倒れているセリーナが居た。
「セリーナさぁぁぁぁぁぁん!?」
「セリーナ、しっかり!」
「りーりー・・・・・・ぶじで・・・・・・よかったよん」
【こりゃいかん。ほれ】
息も絶え絶えにリーシャの無事を確かめて青い顔で笑うセリーナを見て火竜はセリーナの周りに球状の結界を張ったのだった。
【改めて良く来たの勇者。儂は火神竜のフラベイム】
セリーナの状態が良くなったのを見て火竜は自らの名を名乗り、竜騎を除く三人は驚愕の表情を浮かべる。
火神竜フラベイム。それは遥か昔、創造神によりガルムレイドが創造された時に創造神に産み出された四体の神竜の一体。
「あー、すまん。何で皆驚いてんだ?」
【まぁ異世界から召喚されたんなら儂の事は分からんで当然じゃな。とりあえず儂はフラベイムとだけ覚えておくのじゃ】
固まる三人に疑問を浮かべる竜騎に対し気さくに接する火神竜
様だった。
その後、硬直から解けた三人娘が竜騎にフラベイムがどういう存在かを説明した。
「成る程。つまり神様みたいな存在って事か」
「そうッス!しかも火神竜様達は人の前には姿を表さないッスよ!?」
「歴史家の中には創作の存在と言う者も居る」
「お姉さんも50年生きてきて初めてお目にかかったのよん?」
【ん?何を言うかドワーフの娘。主とは何回か鉱山街で会っとるぞ?】
セリーナの言葉にフラベイムが反論するとフラベイムはふんっ!と気合いを入れた。するとフラベイムの巨体が光を発し光の中でフラベイムの身体が縮んでいった。
「この人の姿でな?」
光が収まると其処にはフラベイムの巨体は無く、赤い長髪をポニーテールに纏めた赤い瞳の長身で美しい女性が立っていた。
「あーっ!?良く大地の癒し亭で火酒を樽で飲んでる姉ちゃん!?」
「知り合いか?」
「ドワーフの鉱山街にある酒場で良くドワーフの火酒を美味そうに飲んでる姉ちゃんだよん!」
驚くセリーナに竜騎が尋ねるとセリーナが説明する。
どうやらこの火神竜様はかなりフットワークが軽い様だった。
「ドワーフの作る火酒は酒好きには堪らん美酒じゃからのう♪あ、因みにこの姿の時はフラムと呼んでくれぃ」
からからと笑うフラベイム・・・・・・フラムにレンが首を傾げた。
「フラム?どっかで聞いた様な名前ッスね?」
「伝説の拳聖の名前」
「ああ!言われて思い出したッス・・・・・・ってまさか!!」
伝説の拳聖フラムは初代聖剣の勇者のパーティーの一人でかつての戦いで魔族一万をたった一人で撃ち破ったという伝説の拳士の名前だった。
「儂の事じゃ。いやー懐かしいの〜♪」
そう言って懐かしそうに笑うフラムを見て竜騎は自身の武術家としての血が騒ぐのを感じた。
「ふっふっふ♪どうやら勇者は儂と一手まみえてみたい様じゃの?」
「目の前に強者が居るんだ。しかもとびっきりの強者が。武術家として一手指南して貰いたいと思うのは当然だろ?」
不敵な笑みを浮かべるフラムに竜騎もまたリーシャ達が今まで見た事の無い獰猛な笑みを浮かべていた。
「良いじゃろ。儂も元々此度の勇者の力を試すべく竜の姿でわざとドワーフ達に見つかってやった事じゃしの。・・・・・・変わり者の勇者よ。我、火神竜フラベイムとの一戦を望むや?」
「無論!異世界ガルムレイドの拳を御指南いただきたい!」
「ならば、その技と力を我に示せ!我が認めれば我が火の加護を汝に授けよう!」
竜騎とフラムは互いに間合いを取ると構えを取った。
「「タツキ!」」
「タッちゃん!」
「皆は手出し無用!これは俺とフラムさんとの一騎討ちだ!」
竜騎は駆け寄ろうとするリーシャ達にフラムを見据えたまま制する。
「別に其奴等の力を借りても良いぞ?」
「地球の武術家を甘く見んなよ?コイツは俺の我が儘だ!皆です巻き込むつもりは無ぇ!!」
「己の力を過信すると痛い目を見るぞ?」
「過信するつもりは毛頭無い!俺が未熟なのは重々承知だよ。だからこそ俺は未だ見た事が無いガルムレイドの拳をこの身体で受けて学ぶんだ!」
竜騎は自身が強者で無い事を知っている。
フラムの拳を受ければ自身がただでは済まない事も承知している。だが、だからこそ竜騎は伝説の拳聖たるフラムの拳を自身で受けて学ぼうとしている。
「それに俺の拳の師匠である祖父ちゃんが言っていた。強者の拳はその者の誇り。全力で立ち向かわなければ侮辱に値するってな!」
竜騎はフラムに叫ぶと己が全身全霊を持って強者である拳聖フラムに挑むのであった。
【魔物?図鑑】
【火神竜フラベイム】
本編に記した通り、ガルムレイド創世の時より生きる四体の神竜の一体。
その名の通り火を司る神竜。
性別は雌。
酒好きでフットワークが軽く住み家である鉱山から度々ドワーフの鉱山街に人の姿で降り、ドワーフの酒場でドワーフの作る火酒と呼ばれる物凄く強い酒を樽で飲むのを楽しみにしている。
人の姿は赤い長髪をポニーテールに纏め、赤い瞳に整った顔付きをした長身の女性で黙っていれば絶世の美女。但しひんぬー(笑)
過去に初代聖剣の勇者のパーティーの一人として戦った事がある。
その理由は不明。
最初のボスキャラの火神竜フラベイムの登場です。
フラベイムが人の姿で初代聖剣の勇者のパーティーに居た理由はまた後程。