第1話ー旅立ちー
第1話です。
その青年が目を覚ました時、彼は自身の目を疑った。
何故なら目の前に拡がる光景は見馴れた自宅の庭ではなく、石造りの広間の様な場所だったからだ。
『○☆¢◎△◆£◎▼?』
しかも聞いた事の無い言語を話すファンタジー風の鎧を纏った男達やまるでお伽噺に出てくる魔法使いの様な服を着た美少女や一目見た目だけでもお姫様と分かる豪奢なドレスを着た美女が彼を囲んでいた。
「ま、まさか異世界召喚って奴ですか?」
額に汗を浮かべながら呟く青年に答える者は誰も居なかった。
「◆、◆◎△☆○$@〇〆¥£∀ΔΛ?」
(聞いた事が無い言葉。という事はこちらの言葉も勇者様に伝わっていない可能性が高い)
宮廷魔導師である少女は目の前に座る自身が召喚した勇者の言葉を聞いてそんな事を思った。
「姫様、騎士隊長。勇者様はどうやら私達の言葉が解らない様子」
「その様みたいですね。リーシャ、お願い出来ますか?」
「御意。翻訳魔法を勇者様にかけます」
リーシャと呼ばれた宮廷魔導師の少女は口の中で呪文を呟くと手に持った杖を振る。
すると光が勇者を包み、その身体に浸透するかのように染み込んでいく。
「Δ$!?な、なんだ?」
「私の言葉が分かる?」
いきなりの事に驚く勇者にリーシャは声をかける。
「うお!?いきなり言葉が分かる様になった?」
「言葉が通じない様だったから翻訳魔法をかけた」
「へぇ〜、便利な物だな。流石異世界」
リーシャの言葉に勇者はあっけらかんと言った
「リーシャ、勇者様にご挨拶してもよろしいかしら?」
「翻訳魔法もきちんと機能している様ですので大丈夫かと」
リーシャは姫に頭を下げると勇者と姫の間から下がり道を開けた。
「はじめまして。わたくしはクリスティア王国王女のレティシア・フォルム・クリスティアと申します。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、早乙女竜騎です。えっと、この世界だと竜騎・早乙女って言った方が良いのかな?」
王女の言葉に竜騎は自分の名を名乗る。
「タツキ・サオトメ様・・・・・・。このガルムレイドでは聞き慣れないお名前ですね」
「あー、多分此処が自分の住んでいた世界とは違うからだと思いますよ?えっと、レティシア様?」
「わたくしの事はどうかレティとお呼び下さい。タツキ様はわたくし達の都合で住まわれていた世界からお喚び致したのですから」
竜騎に向かって頭を下げるレティシア。
それに対し竜騎は慌ててレティシアに頭を上げる様に言う。
「いや、気にしないで下さい!俺が居なくなっても皆心配しないですし!!」
竜騎の言葉は本心からの物だ。
竜騎は普段から思い立ったら周りに何も言わずにフラッと旅に出る事が多いので周りの者達も「あぁ、またか」で済ませ今では心配する事も無くなったのだ。
「それはどう言う・・・・・・?」
「いや、俺は武術家を目指してまして周りの者に何も言わずに修行の旅に出る事も多いんで。今回もまたかで済むと思います」
頭を掻きながら言う竜騎にレティシアもリーシャも騎士団長も額に汗を浮かべた。
「それは酷い(汗)」
「あの、タツキ様?わたくしが言う事では有りませんが、せめてご家族に一言言う位した方がよろしいのでは?」
「反省してます(汗)」
リーシャとレティシアに言われて汗を浮かべながら苦笑する竜騎だった。
その後、レティシアはリーシャと騎士団長と竜騎を連れ自室へと移動した。
その道中、竜騎は物珍しさから周りをキョロキョロと見回していた。
「珍しい?」
「え?あ、あぁ。俺はこういった城の中とか初めて見るんでな。えっと」
「リーシャ・ヴァンゲイト。リーシャで良い」
竜騎は自分に声をかけてきた少女の名前を聞こうとし、リーシャも竜騎が自分の名前を聞こうとしている事に気付いて自ら名乗る。
「分かった。リーシャも俺の事は竜騎と呼んでくれ。出来ればレティシア様も自分の事は呼び捨てで呼んで下さい」
竜騎はリーシャに言うと同時に前を歩くレティシアにもそう言った。
「 そうですね。タツキ様がわたくしの事をレティと呼んでくださればお呼び致します♪」
振り返ったレティシアは笑顔で竜騎にそう言った。
「いや、そう言う訳には・・・・・・(汗)」
竜騎が困っているとそれまで黙っていた騎士団長が竜騎の側まで下がり小声で囁く。
「タツキ様。レティシア王女はああ見えて頑固な所がございます。公の場では流石に困りますが、此所はタツキ様が折れてやって下さい」
「リクス。聞こえてますよ?」
「おっと、これは失礼を。そう言えばタツキ様にはまだ名乗っておりませんでしたな。自分はクリスティア王国騎士団長のリクス・ヴァンゲイトと申します」
「ヴァンゲイト?」
リクスが名乗ると竜騎がリーシャとリクスを見比べる。
「リーシャは私の妹なのですよ」
「不精の兄。断じて娘じゃない」
内心親子か?と思っていた竜騎にリーシャはそう断言する。
「・・・・・・すいません。失礼ですがリクスさんとリーシャって幾つ離れてるんですか?」
「二つ。私は20歳」
「はい!?」
リーシャの年を聞いた竜騎が驚きの声をあげる。
竜騎の身長は178センチでリーシャは竜騎の丁度胸位の身長だ。
多分14歳位だろうと思っていた竜騎はまさかリーシャが自分より年上とは思ってもいなかった。
「失礼」
「すいません。まさかリーシャ・・・さんが俺より年上とは」
「タツキは幾つ?」
「18歳です」
「何ならお姉ちゃんと呼んでも良い」
「こらこら」
リーシャの言葉にリクスが突っ込み、レティシアは竜騎達のやり取りを見てクスクス笑うのであった。
「タツキ様をお呼びした理由ですが、わたくし達の世界ガルムレイドを魔王から守っていただきたいのです」
しばらくしてレティシアの自室にやってきた竜騎はレティシアに勧められるままにテーブルに着きレティシアから自分が召喚された理由を聞いていた。
「魔王ですか」
「はい。ガルムレイドは千年の昔より度々魔王の侵略を受けているのです」
「因みに前回は百年前」
「二つお聞きしたいのですが」
「何でしょうか?」
「今まで自分の様に異世界から召喚された勇者は居るんですか?もし居るんだったらその人は元の世界に戻れたんですか?」
竜騎の質問は当然だろう。
もし帰れないのなら竜騎はガルムレイドに永住しなければならないのだから。
「居る。今までに2回。2回とも魔王を封印して当時の宮廷魔導師が送り還したと文献に記されてる」
竜騎の質問に答えたのはリーシャだった。
「帰れるのなら別に良いですよ。良い修行になります」
「ありがとうございます!リクス、聖剣を持って来て下さい」
「御意」
竜騎が勇者を引き受けるとレティシアは笑顔で礼を言い、側に控えていたリクスに聖剣を持って来る様に指示を出す。
指示を受けたリクスは頭を下げ退室して行った。
数分後、戻ってきたリクスはその手に1メートル程の箱を持って来た。
「レティシア王女。聖剣を持って参りました」
「ありがとう。タツキ様、これをお持ち下さい」
レティシアはリクスに礼を言うと箱を受け取り竜騎の前に置いた。
「これは?」
「聖剣ガルムレイドです。魔王を倒す唯一の剣です」
そう言ってレティシアは箱を開ける。
中には竜騎が見ても力を内包していると分かる剣が納められていた。
「・・・・・・」
だが、竜騎は聖剣を手にしようとはせずじっと見詰めていた。
「タツキ様?」
「すいません。ですが、これはお返しします」
竜騎はレティシアにそう言って箱をレティシアに返した。
「何故ですか!聖剣ガルムレイドは魔王を倒す唯一の剣!これが無くては魔王を退治する事は出来ません!」
「はっきり言います。例えこれを受け取っても俺は使いません。俺は武術家で俺の武器はこの身体ですから」
「ですが!」
「俺は剣を使った事は一回も有りません。そして、これからも一切使いません」
「タツキ様、ならばどうやって魔王を退治されるおつもりですか?」
「無論、この拳で」
リクスの質問に竜騎は大真面目に答える。
「面白い」
リーシャは笑顔を浮かべそう言うとレティシアに向かい合う。
「レティシア王女、私を罷免して。私はタツキについていく」
「リーシャ!?」
リーシャのいきなりの発言にレティシアは驚いた。
「私が居れば魔法でタツキを援護する事が出来る」
「しかしリーシャ。お前体力無いだろう?」
「リクス兄さん、それは鍛えれば良い事。それにタツキを喚び出したのは私。私にはタツキの命を守る義務がある」
リーシャは真面目な顔でリクスとレティシアを見る。
「・・・・・・はぁ。お前もレティシア王女と一緒で頑固だからな。レティシア王女。こうなったらリーシャは梃子でも退きませんよ」
「・・・・・・分かりました。リーシャ、貴女を今この時より宮廷魔導師の任から罷免します。タツキ様、明日宮廷で勇者認定の儀がございます。せめてその時だけでも聖剣ガルムレイドを携えて下さい」
「分かりました。リーシャ、これから宜しく」
「此方こそ」
竜騎はレティシアに頷くとリーシャに右手を差し出す。
リーシャは竜騎の手を取ると握手を交わした。
この日、後にガルムレイドに種族を越えた平穏をもたらした聖剣成らぬ聖拳の勇者が誕生した。
プロローグの活報でも書きましたが、この作品ではキャラ募集は行いません。