第13.5話
クラーケン戦の裏側であった水神竜とある存在の会話です。
竜騎達がクラーケンと戦闘を開始した時と同じくして、ヴァレン海域にある海神の祠。
其処には一匹の透き通る様な蒼い鱗を持つ竜が目を閉じて瞑想していた。
この竜の名は水神竜バルテス。
竜騎達の旅の目的の一つでもある。
『・・・・・・珍しい。貴女が此処に来るとはね』
瞑想をしていたバルテスは人の気配を感じその瞼を開く。
其処には黒いドレス姿の幼女が居た。
「久しぶりねバルテス。千年振りって所かしら?」
幼女はバルテスに笑顔で言うが、バルテスの表情は浮かないモノだった。
『フラベイムから聞いていましたが貴女は本当に魔王となったのですね』
「えぇ。でも安心して?貴方を倒しに来たわけではないの。ちょっとお願いがあってきたのよ」
『お願い・・・・・・ですか?』
「そう、お願い。新たな聖剣の勇者が召喚されたのは知ってる?」
『えぇ。今は我が加護を受けし船の持ち主と共にクラーケンと戦っていますよ』
バルテスは水を統べる存在だ。
故に水の有る限りバルテスに見通せぬ事は無い。
「その勇者君、随分と面白い子みたいね?」
『フラベイムの話では聖剣の所持を断ったみたいですね。何でも自分は武術家だからと言ったそうですよ?』
「あはは♪そんな理由で断ったんだ?・・・・・・でも、良い判断ね」
バルテスの話に明るく笑う幼女だったが不意に真面目な顔になるとバルテスに聞こえない声でポツリと呟いた。
『それで?その勇者がどうしたんですか?』
「実はねその勇者君に貴方の加護を授けて欲しいのよ」
『私の加護をですか?魔王の貴女が自分の命を狙う敵に力を与えて欲しいと言うのですか?』
「えぇ。ガイアスとシルフィアには了承して貰ったわ。後は貴方だけよ」
因みにガイアスは地神竜の名でシルフィアは風神竜の名である。
『フラベイムには言わないのですか?』
「・・・・・・会えないわよ。それにそんなに面白い勇者君ならフラムは一目で気に入る筈よ?」
幼女はフラベイムと面識が有るのだろう。
フラベイムの性格を熟知している様であった。
『確かにフラベイムは力試しをした後に加護を授けた様ですね』
「ガイアスもシルフィアも勇者君の心を試した後に授けるって言ってたわね」
『・・・・・・分かりました。他ならぬ貴女の頼みです。私も勇者の力を試した後に授けましょう』
「ありがと。それともう一つ。勇者君に敵は魔王だけでは無いって伝えてくれる?」
幼女は自身の頼みを聞いてくれたバルテスに礼を言うと、もう一つ頼み事をする。
『どういう意味ですか?』
「千年前の旅で知ったのよ。真の敵は魔王なんかじゃ無い。もっと強大で恐ろしい存在だって」
『ならば、今までの勇者達も知っているのでは?』
「知らないわ。私が意図的に隠してたんだもの。知ってしまったら絶対に心が折れる。そういう存在なのよ」
幼女はそこまで言うと話は終わったと言うかの様にバルテスに背を向けた。
『待って下さい!フラベイムもその存在を知っているのですか!?』
バルテスの声に幼女は背中越しに顔を向けた。
その表情は悲しみに彩られていた。
「知っているわ。でも、貴方達が知る必要は無い。いいえ、知ってはいけないのよ。フラムでさえ知った時に絶望してしまったのだから」
幼女の言葉にバルテスは驚いた。
あの馬鹿みたいに明るいフラベイムが絶望したと言うのだ。
敵はそんなに強大な存在なのかと考えるバルテスに幼女は苦笑し、
「フラムだけじゃないわよ?ガルムレイドに生きる全ての人間・生き物達が絶望してしまう様な存在よ。だけど、異世界より召喚された勇者君には関係無い存在。だから勇者君にはもっともっと強くなって貰わなきゃいけないの。魔王程度に苦戦する様な強さじゃ駄目なのよ」
『・・・・・・!?まさか貴女はその為に魔王に!』
「・・・・・・正解。魔王を倒した私を超えなきゃ奴は倒せない。だから私は魔王を取り込み魔王となった」
幼女はそこまで言うと顔を前に向け歩き出す。
「ああ、そうだわ。フラムに伝えてくれる?奴が倒されたらまた一緒にお酒を飲みましょうって。その時はまた私がつまみを作ってあげるわって」
そう言い残し魔王を名乗った幼女は自らの治める魔幻大陸へと戻って行った。
『貴女は優しすぎる。当時恋も知らなかった貴女が犠牲になって魔王となる必要は無いでしょうに。無理矢理勇者にされた貴女が犠牲に・・・・・・ム』
バルテスは最早姿も見えない魔王を思い涙を流すのであった。
魔王は万年幼女です。正体モロバレかもしんない(汗)