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第8話

竜騎とフラムの勝負が終わって一時間後、竜騎は漸く目を覚ました。

「漸く目を覚ましたかの勇者殿?」

「フラム?俺は・・・・・・負けたのか」

「勝負は引き分け」

「タツキが倒れた後フラベイム様も倒れたッス」

「拳聖相手に良く闘ったねぃ♪」

目を覚ました竜騎の周りにはリーシャ・レン・セリーナ・フラムが座っており、竜騎が目を開けると皆一様にホッとした表情を浮かべた。

「引き分け?」

「有無。あの鎧崩しと言う技が思いの外効いておっての。儂も倒れたのじゃ」

竜騎が怪訝な顔をしてフラムを見るとフラムはニッと笑って竜騎の疑問に答えた。

「さて、勇者よ。先に言うた通り汝に火の加護を授けるとしようかの」

「いや、俺勝てなかったんだが?」

「主は何を言うておるのじゃ?儂は勝てとは言うておらん。力と技を示して認めさせよと言うたのじゃ」

確かにフラムは勝負の前に『自身に勝て』とは一言も言ってはいない。

「早乙女流鎧崩し、見事な技であった。衝撃のみを相手の体内に打ち込み内部にダメージを与える等、儂でも思いつかなんだ。まあ力はちと物足らんかったが及第点じゃ」

そう言ってフラムは座っている竜騎を立ち上がらせると、竜騎の額にキスをした。

「む」

それを見ていたリーシャは何故かその胸の内にもやもやした物を感じ眉を潜めた。

「フラム?」

「今汝に火の加護を授けた。体内の気を拳に集めてみよ」

竜騎は言われた通りに気を拳に集中させる。すると、ボッと言う音と共に竜騎の拳が火に包まれた。

「うおっ!?」

いきなりの事に驚く竜騎を見てフラムは忍び笑いをもらした。

「クックック♪それが加護じゃよ。汝は火を扱う力を身に付けたのじゃ」

火神竜フラベイムの加護。それは対象者に火を操る力と火属性の攻撃に対する耐性を与える物だった。

「じゃが、顕現するまで少々時間がかかりすぎじゃの。・・・・・・勇者。主はこれからどうするのじゃ?」

「どうって、セリーナさんに武具を作って貰ってそこから先はまだ決めて無い」

「ふむ。ドワーフの娘、武具の製作にはいかほどの時が必要じゃ?」

「ん〜そうだねぃ。素材を集めて武具を造って〜レンの魔導銃も改造(いじ)りたいから、ざっと1ヶ月半ってとこかねぃ」

「ならば勇者よ、その1ヶ月半儂に預けい。加護の使い方を兼ねて儂の技を幾つか叩き込んでやる」

フラムは腕組みをしながら竜騎に言い放つ。それは竜騎に取って望む所だった。

「宜しくお願いします!」

「有無。それと魔法使いの娘に商人の娘。主等は冒険者じゃの?ならば汝等に指定依頼じゃ。儂が勇者を鍛える1ヶ月半、毎日一樽ドワーフの火酒と食料と薬を持って鉱山を登って来るのじゃ。毎日この山を登れば1ヶ月半経つ頃には体力もかなり付くじゃろう。途中まではバイソンの奴を迎えにやるのじゃ。報酬は儂の持つ財宝から好きなだけ持って行くと良い。そこの洞窟の奥に置いておる。それとドワーフの娘、主も行くのじゃ。素材や魔石も有るからそれを使って勇者の装備等を造ると良い 」

フラムが言うと三人娘は頷き、レンとセリーナはフラムが示した洞窟に入って行った。

「魔法使いの娘。ちょっとこっちに来るのじゃ」

フラムは一人残ったリーシャに手招きすると竜騎を残して少し離れた場所に移動した。

「何?」

「少々耳を貸せい。勇者は其処で待っておるのじゃ!」

「?分かった」

フラムは竜騎にそう言うとリーシャの耳に口を近付ける。

(主は料理は出来るかの?)

(得意)

(ならば、1ヶ月半勇者に食事を作ってやると良い。男の心は胃袋で掴むのじゃ!)

リーシャは最初フラムが何を言っているのか分からなかったが、フラムの言っている事を理解するとその白い肌を耳まで真っ赤に染めた。

(先程儂が加護を授ける為に勇者の額に口付けした時に主の顔が見えての。そこで少々お節介じゃ。頑張るのじゃぞ)

真っ赤になったリーシャはフラムの言葉にぽひゅっと頭から湯気を出しこくんと頷いた。


それから1ヶ月半の間、竜騎は鉱山山頂に住み込んでフラムとの修行に励んだ。

セリーナはフラムから貰った素材魔獣の鱗や革・上質な鉄や鋼を使って武具を造り、魔石とミスリル銀を使って魔導銃の改良に勤しみ、レンとリーシャは毎日ドワーフの火酒一樽や食料や薬を持って鉱山を登った。

その結果、彼女達の体力はかなり上がった。

どれくらい上がったかと言うと、リーシャが鉱山山頂まで普通に登ってきた後食事の支度を済ませ竜騎とフラムの洗濯を済ませる位上がった。


一方の竜騎も日々フラムとの修行に明け暮れ腕を上げた。

加護の炎も自在にとは行かぬまでもある程度は竜騎の意志で操れる様になった。

そして、翌日に旅立ちを控えた日の夕刻。

「大分馴れてきた様じゃの」

「ああ。ちょっと時間がかかりすぎたけどな(汗)」

「仕方あるまいて。拳の修行をやった後に加護の使い方の勉強じゃったからの」

加護の炎でジャグリングをする竜騎にフラムは腕組みをしながら話し掛けた。

「しかし、なんとか期限内に修める事が出来たのじゃ。後は実戦でマスターすると良い」

「そうだな。そうするよ」

火の玉を空中で消した竜騎はフラムに向き直り頭を下げた。

「ご指導ご鞭撻、ありがとうございました!」

「有無、これからも精進せいよ。まあ儂とタツキは加護の力で繋がっておるからの、困った事があったら何時でも相談するが良いのじゃ。それでは街迄送ってやろう。明日の見送りには儂も行くでな」

そう言ってフラムは竜騎に転送魔法を掛け鉱山街へと送った。

一人残されたフラムは少々考え込むとニヤリと笑い火神竜の姿に戻ると翼をはためかせ空へと舞い上がるのだった。


翌日、ドワーフの鉱山街のゲートに竜騎・リーシャ・レンの三人とドワーフ達の姿があった。

「気ぃつけてな。アンちゃん達はもう儂等の仲間だからよ、何時でもこの街に帰って来てくれよ!」

ドワーフの一人がニッと笑い竜騎達に声をかける。

「ありがとう。必ずまた来るよ」

「あっしも必ず来るッス!そん時は良い酒をたんまり仕入れて来るッスよ!」

「所でセリーナは?」

竜騎とレンがドワーフ達と挨拶を交わす中、リーシャは姿が見えないセリーナを探していた。

「お姉さんはここだよん♪」

すると、ドワーフ達の間を縫って大荷物を抱えたセリーナが姿を現した。

「セリーナ?その荷物は」

「いや〜、実はタッちゃん達の装備は出来たんだけど微調整が済んで無いっしょ?其処でお姉さんもタッちゃん達の旅に同行する事に決めたのよん♪」

セリーナの申し出にリーシャの顔に喜色が浮かぶ。

「それにタッちゃん達って前衛がタッちゃんだけでしょ?お姉さんが居ればバランス的にも丁度良いかな〜と思ってねい。タッちゃん、どうかな?お姉さんを仲間に入れて貰えないかなん?」

竜騎達は互いに顔を見合わせ笑顔を浮かべてセリーナの申し出を受け入れた。

実際セリーナの申し出は竜騎達に取って渡りに船と言う奴だった。

魔法使いのリーシャに商人のレンはどう見ても後衛だ。

前衛が竜騎一人だとどうしてもフォローしきれなくなるのだ。

『ならば儂の贈り物も丁度良かったのじゃ』

フラムの声と共に街の外に突風が吹き荒れフラベイムが降り立つ。と同時にフラベイムはフラムへと姿を変える。

フラムの後ろには黒い馬車があった。

「済まんの。ちと遅くなった」

「いや、それは構わないんだけど・・・・・・その馬車は?」

「儂から主等への贈り物じゃ。逐一馬車を借りるのも金がかかるじゃろうと思っての?昨夜クリスティアに行って買ってきた。安物じゃがつこうてくれい」

そう言ってフラムは荷台に向かうと中に手を突っ込み何かを引っ張り出した。

「わきゅ〜!?」

フラムに首筋を捕まれジタバタと暴れているのは白い毛並みの一匹のコボルトだった。

「因みに遅うなったのはコヤツに儂の力の一部を授け馬車の扱いを仕込んどったからじゃ」

「可愛い♪」

リーシャは白いコボルトに近づくとその鼻先に手を持っていく。するとコボルトはリーシャの手をすんすんと嗅ぐと指先をぺろぺろと舐め始めた。

「わきゅ♪」

「どうやらコヤツもリーシャが気に入った様じゃの」

フラムはそう言ってリーシャにコボルトを渡すとリーシャはコボルトをぎゅっと抱き締める。

「良いのかフラム。馬車って高いんじゃないのか?」

竜騎がフラムに尋ねるとフラムは笑いながら、

「気にするでない。たったの10万ガルムじゃ」

と言った。

因みにこの御値段、本当に安いのだ。

何せ上物の馬車は100万ガルムはする。

「ほう。この馬車のサイズで馬付きなら確かに安いッスね。良い買い物ッスよ?」

レンが馬車をしげしげと眺めながら竜騎にそう言った。

「じゃろ?何せフォーゲル商会の親父が主等の役に立つならと値引きしてくれたからの♪」

「親父が・・・・・・。こりゃ旅が終わったら孝行しないといけないッスね」

レンは頬を掻きながら笑顔を浮かべた。

「所でタツキ。そのコボルトに名を着けてやるのじゃ」

「名を?」

「有無。そうする事で契約が交わされコヤツが主等の物と言う証明の首輪が現れるのじゃ。あっそうそう、其奴は雌じゃからの?」

竜騎はリーシャに抱かれてご機嫌な様子のコボルトを見る。

「わきゅ?」

「名前・・・・・・。そうだな、雪みたいな白い毛並みだからスノーってのはどうだ?」

「わきゅ、うちスノー♪」

竜騎に名前を着けて貰い喜ぶスノーの首に赤い革の首輪が現れる。

「有無。契約完了じゃ」

「これからよろしくスノー♪」

「わきゅ♪うちご主人様達の為に頑張るの」

ぴこっと手を上げてリーシャに挨拶するスノーを見て笑顔を浮かべる竜騎達。

そんな中、フラムは不意に真面目な顔をすると竜騎に話し掛けた。

「タツキ。主等は旅の最中にガルムレイドの真実を知る事になるやもしれん。じゃが、決して己を見失うでないぞ?己の信ずる道を突き進むのじゃ!」

「わかった。所でフラムはガルムレイドの真実って言う奴を・・・・・・」

「無論知っておるが、主等に教えるつもりは無い。これは主等が旅の中で見つけるべき事じゃからのう」

フラムが初代聖剣の勇者の仲間になったのは、その真実を確かめる為であった。そして、フラムは真実を知り以後聖剣の勇者達の指南役の様な事を続けてきた。

聖剣の勇者達がガルムレイドの真実を知って尚、己の信ずる道を進む事が出来るように。

「(タツキならばこのガルムレイドを真の意味で救う事が出来るやも知れぬのう。聖剣の勇者として召喚されながら聖剣ガルムレイドを要らぬと言ったタツキならば)ほれ、そろそろ旅立たねば日がある内に次の街に辿り着けぬぞ?」

「ああ、そうだな」

フラムは内心思いながら竜騎達を促すと、竜騎達は頷き馬車へと乗り込みスノーが御者台に座る。

「じゃあ、皆行って来るよん。ウチの店の事よろしくねん♪」

「おう!任せとかんかい!」

「部屋の中や洗濯はおばちゃん達がきちんとやっとくからね!」

セリーナがドワーフ達と挨拶を交わす中、竜騎は御者台のスノーに声をかける。

「スノー、出してくれ。行き先は港町リフォルだ」

「わきゅ〜ん出発進行なの〜♪」

竜騎から行き先を指示されたスノーは尻尾をブンブン振りながら手綱を操り馬車を出発させる。

ガラガラと音を立ててゆっくりと走り出す馬車をフラムとドワーフ達は手を振って見送るのだった。




オマケスキット【治ったの?】


リーシャ「所でスロースターター治ったの?」


竜騎「あ、あぁ。一応な」


レン「タツキ?どうしたッスか?顔真っ青ッスよ?」


セリーナ「もしかしてフラムに一撃必殺の技を放たれて無理矢理治されてたりして」


竜騎「・・・・・・(真っ青)」


セリーナ「あれ?ひょっとしたらお姉さん大当たり?」


リーシャ「タツキ?」


竜騎「死にたくなければこのいちげきよけてみろって腕だけ竜に戻すなよ凪ぎ払うなよ避け場ねぇだろ・・・・・・ブツブツ」


セリーナ「壊れちゃったねい(汗)」


死ぬ気でスロースターターを治した竜騎であった。



つづけ(笑)


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