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フェルトの期待

 小さい頃から僕ら兄弟は、兄弟らしくない歪な関係を保って生きてきた。

 クラウド兄さんは王位を継承するために必死になって努力していた。

 シオン兄さんは母親が違うことで兄弟で一番目立ってしまうことを気にしていたのか、下手な問題は起こさないように、周囲に関心のないふりをしていた。

 一番下の僕は、特に何も気負う必要はなかったけど、自分以外のためにだけ生きている二人を見ていたせいか、物心ついたときから何もかもがくだらないとしか感じられなくなっていた。

 僕が思うに、シオン兄さんが気の毒なのはそうだけど、クラウド兄さんもかなり大変な立場だ。クラウド兄さんは真面目でしっかり者だったから、いつも完璧であろうとした。きっと心にゆとりなんてないんだろうと思っていたら、幼い頃に一度だけ廊下の隅で兄さんが一人で泣いているのを見てしまったことがあった。何か見てはいけないもののような気がして、僕はすぐに目を逸らして立ち去ったけれど、あのときの光景は今でも強く心に残っている。

 僕ら三兄弟は、もう少し上手くやれたはずなのに、三人が三人とも違った種類の気づかいをしてきたばかりに、もう修復できないくらいに歪みきってしまった。

 シオン兄さんだけ母親が違うことは、三人並べば明らかで、僕は幼心に彼には甘えてはいけないのだと思った。いつも変わらない感情の読み取れない表情でいるシオン兄さんは、このまま哀れな腹違いの王子のまま死んでいってしまうのだろうと、子供ながらに思っていた。

 けれど、ある日シオン兄さんが婚約したことを知って、そんなことはないのだと思い知った。

 シオン兄さんは毎日婚約者へ会いに、離れの塔へ通うようになった。

 出かける用事があれば、必ずプレゼントを買って帰ってきた。

 いつも周りに無関心だったくせに、婚約者の話を振れば嬉しそうに顔を綻ばせて喋った。

「リリアンはとても魔法を使うのが上手いんだ」

 自分のことよりも楽しそうに語るその姿に、昔のシオン兄さんはもういなかった。

 そうか、その人が兄さんを変えてくれたんだ。

 僕はそれだけで充分で、小さい頃からどこか距離を置いてきた兄さんに少し近づけるような気がして、塔から戻ってきた兄さんに他愛もない世間話を持ち掛けるようにもなった。

 あのシオン兄さんだってこんなに変われたんだ。僕にも変わること、できるよね?

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