ミレンダの決意
「嫌われてしまったわ…」
夜、夫が仕事を終えて部屋に戻ってきたときに、私はため息交じりにそう口にした。
「本当にリリアンに会いに行ったの?」
「だって、もしシオンに利用されてしまうようなら…。彼女は何も悪くないのに」
「あれはあくまでも数あるなかの一つの仮説にすぎないって言ったのに。そんなにリリアンが心配?」
「当たり前よ。彼女を放っておくなんてできないわ」
私の言葉に、夫は困ったような顔をした。
「君は思ったことを素直に言ってしまうから、リリアンとは打ち解けにくいかもしれないね」
「大切なことを遠まわしに言っても伝わらないわ」
「君の言っていることは間違ってはいない。……けれど、きっとリリアンとシオンの繋がりは、君が思っているよりもずっと強いと思うよ」
夫の言っていることは、彼女の態度で手に取るように分かった。彼女はシオンをとても愛している。でも、だからこそ、彼女を不幸にさせたくはない。
「どうすればいいのかしら」
私が考えあぐねていると、夫がくすくすと笑いだした。
「何よ、人が真剣に悩んでいるというのに」
「ごめんごめん。君があまりにも真剣だからついね。あまり心配しなくてもいいと思うよ。シオンだって、そんなに非道じゃないから」
「たとえそうであっても、念には念を入れなければ。備えあれば憂いなし。使わなかった備えはまた別のときに使えばいいの。シオンが彼女を利用しようとしていなかったとしても、その確証がない今、私にできることは、できるだけ彼女をシオンよりも優位に立たせることだけよ」
そんなに必死にならなくても、と苦笑する夫を横目に、私は次に彼女にすべきことを考える。夫はあまりに楽観的だし、三兄弟の一番下のフェルトは協力を依頼しても絶対にスルーされて終わってしまうだろう。彼女を救えるのは私だけ。絶対に、母のようにはさせないわ。