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私の前世



「お茶の準備するから待ってー。飲むよね?」


「あ、有り難く頂戴いたしま、する……」


 いたしま、する。凄い変な日本語だ。無駄に緊張してしまう。


 神様は私を洞窟の奥地へと連れてった。連れていったというか、神様が洞窟の奥に走ってったので私も走って付いていった。マイペースな神様である。


 洞窟の奥は悪趣味では無かった。普通に可愛い所である。パステルな色使いがほんわかしてる。コンセプトは『天使の小部屋』って感じ。ちなみに、洞窟がどこまで続いてるかは神様も知らないらしい。オイオイ。

 そこで私は可愛らしい羽の生えたイスに座ってお茶を待っている、というわけである。


「お砂糖いくつ?」


「あ……」


「5コね」


「……」


 5コって多過ぎじゃね?神様、甘党疑惑。


「はい」


 パタパタと羽が両側に生えたマグが、私の方に向かって来る。可愛い。つーか、コレも魔法なのか?もう、地球での常識は捨てた方がいいな。


「っと、有難うございます」


「敬語じゃなくていいよん」


 ……うん。私も神様だろうと、猫に敬語を使うのは辛い。これからはタメ語で。


「……おいしい!!」


 ココアには、天使の羽を象ったマシュマロが入っていた。それが、みるみるとけて、ココアがまろやかになって凄くおいしい。もの凄く甘ったるいけど。


「あ、砂糖の賞味期限切れてたかな。100年ぐらい」


「ブホッ」


「ウソウソ。バンビに聞いたでしょー?ここにあるものは朽ちないって。何しろ僕は、万物の願いを叶える凄い神様だからね!」


 ……神様酷い!凄いじゃなくて酷い!悪戯は程々にしろー!思いっきり吹いちゃったよ!!




 ……えー、あれから2時間ほど経過しました。神様は私の膝の上でゴロゴロいっています。いや、それはいいんだけどさぁ……。寝顔とか超癒されるし。

 あのね?神様、全く事を進めてくれないんだけど。寝てるだけなんだけど。普通、神様はバンバン事を進めてくれると思うじゃない?そうしないと話が進まないじゃない。『異世界に行けー』とか『お前はもう死んでいる』とか?言ってくれてもいんじゃない?いや、死んでいるは困るけど。


「……神様?」


「んにゃ?」


 んにゃ?じゃねよぉぉお!!いや、可愛いけどね?でもね?こちらとら、2時間待ってるんだよぉおお!?マジでマイペース過ぎるよ……。


「私に会いたいからここに連れてきたのは聞いた。でも、なんで会いたいって思ったの?」


 ……よし!単刀直入に聞いてやる!


「君の前世が《星の民》だから」


 神様は片目を少しだけ開けて言った。そして、またすぐに寝てしまう。


「……」


 《星の民》……。それ聞くと、頭が痛くなるんだよなぁ……。ズキンズキンって。なんでだろ?なんかもう、頭痛に慣れてきちゃったよ?私。

 にしても神様、何度も言ってるけどそれじゃ話が進まないって。


「ねー神様ー、私《星の民》って言葉聞くと、凄く頭痛くなるんだけど、なんでか知らない?」



 軽い言葉を言ったつもりだった。だけど、今思えばこの言葉を言ってしまったから私は戻れなくなる。



 神様は、ピクッと耳を動かし、そして、金色の瞳を哀しそうに細めた。


「はぁ、やっぱり完全には忘れられないんだね……。でも、君があの願い事をしたってことは、やっぱり……同じ運命を君はまた辿ってしまうのかい?」


「……忘れる?」


「君が忘れたいならそれで良い。僕はそれを聞くために、ここへ君を連れて来たんだから」


「なに……が?」


 ぐわんぐわんと、脳みそが揺れている。なんだ?この感じ。開けてはいけない箱を開けているような……頭の痛みは、何も考えられないぐらいになっていた。


「君は一族の最後の希望だ。だから、一族の誇りと使命を継ぐ責任がある。でも、そんなのいいんだ。君に、またあんな悲しい思いをさせたくない。それが今の僕の思い」


 神様の言ってることは理解出来ない。でも……


「…………あ」




 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!




 ギューンと私の頭を走る激痛。脳みそが下からえぐり出されて、掻き混ぜられるように痛い。……思い出したくない!!


「あああああああああ……!!ヤ…ダ……!!聞きたくない、思い出したくない……」


 何のことかは分からないのに、私はいつの間にか泣いていた。理屈なんかじゃない。

本能的?生理的?私は心の底から怯えてる。得体の知れない、その『何か』に。

 恐怖と悲しみと怒りと……様々な感情が入り混じった涙。止まらない涙。一体なんで……?



私はなぜ、泣いている?



「……悲しい?苦しい?そうだね、君にとっては最大のトラウマだ。いくら時間が経とうとも、一度汚された誇りはけして戻らないから……ごめん、ごめんね」


 神様は躊躇するように言う。……なんで、あなたがあやまるの?


「…………〜〜」


 これ以上、聞いてしまったら私が壊れてしまう気がした。私は椅子の上で頭を抱えて疼くまってしまった。




 滴る冷や汗。塞ぐ耳鳴り。だから、私は何に、こんなに怯えているの……。わからないのに体の震えが止まらない。


「ぁ……ううっ……ああああ…………!!」


 嗚咽を漏らしながら泣く。声が詰まって苦しい……。


 ――私は今までの人生で、ずっと何かが心に引っ掛かっているような感覚があった。思い出せない、思い出したくない、そんなモヤモヤ。その『何か』が何なのかは、ずっとわからないまま。


 だけど、これから神様が言おうとしてることは、その『何か』ではないか?ずっと分からなかった、あの『何か』ではないか。

 しかし、その『何か』がとても恐いモノに思えて。忘れてたのに、またえぐるのか?悲しみを?怒りを?だから、思い出してはダメなんじゃないか?


 私だって今、自分が何をこんなに考えてるのか全く分からない。これは、残された前世の記憶なの?本当に僅かな記憶で、ここまで怯えられるものなの?


 興味、恐怖、悲しみ、怒り、後進?前進?


 ――どれを選べばいいのだろう?



 …………ふと、頭の片隅にあったあの夢を思い出した。あの手、あの痛み、そして上には何があるの……?


「……神様、私ここに来る前に夢を見たんだ……。流れ星を見て、ここに来るまでの間に見た夢」


「それは……どんな?」


「私はね、何だか変な液体の中にいて身動きが取れないの、だから、ただ落ちていくだけ。

 で、ね……そこに誰かは分からないんだけど、手が差し延べられるんだ。私はそれを掴んで、ゆっくり上に上がっていく。

 そこまでは良かったんだけど、いきなり凄い頭痛がして……私は手を離したくなるんだけど……なんか、凄い悲しい事が頭の中に入ってきて。思い出しちゃいけない、って思ったらそこで終わった」


「…………」


「でもね、今思うとそれ、『前に進め』っていう暗示じゃないかと思うんだ。あの手は私を、前に導こうとしたんじゃないかなって。悲しいことを乗り越えて、前に進んで欲しいって誰かの……。

だから、どんな辛いことでもいい。前に進みたいから……」



「聞きたいよ」



 それを聞いた神様は、瞳を揺らめかせ、口を開いたのだった。


「……だ」


「え?」


神様が何か呟いた。



「《星の民》はある組織に滅ぼされたんだ。誰一人残らず、君を含めて」



 ……その瞬間、私の頭にはあの時と同じように『何か』が流れ込んできた。


――思い出せ


何処からか聞こえてくる声。誰?


「あ…………」


――そうだ……思い出したーー……!!



 私の頭の中で巻き戻っていく記憶。そして忘れていたあの時のことを思い出す。頭が爆発するんじゃないかってぐらいに、速いスピードで流れ込むその情報。

 だけど、頭の痛みなんて、もう気にならない。本当は悶絶してもおかしくない程の激痛が、私の頭の中で暴れてるだろう。だけど、ここまで来てしまったから。私は知ることになる。

――『真実』を。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 あの日、私はただいつも通りにに過ごしていた。とてもとても酷く遠い所だ。


だけど皆皆、突然に殺された。


 強くて格好良かったお父さんも優しかったお母さんも面白かったお兄ちゃんも……

次々に飛び散る、花のように紅い血飛沫。

ただ、それを眺める私。頬が血で紅く染まってゆく。


どうしたら?


 呆然としてる間に、黒い手が私にも伸びてきた。


――そして私も……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




――全部……あの日無くなっちゃったんだ……




「……思い出したよ。皆殺された。死んだ。《星の民》は……皆死んだんだね。遠い昔に……」


 掠れる声を搾り出して叫ぶように言う。断片的にしか思い出せないけど、私、ううん、私達はあの日誰一人残らず殺された。


「うん……人は強いショックを受けて死ぬとその記憶を来世に持ち越すことがあるんだ。それが世に言う転生。

 だけど君は逆にそのショックを忘れることで自己防衛したみたいだね。

だから……思い出して欲しくなかった。でも、この記憶は大事なものだし、そんなの僕が決めていいことじゃない。……君は、思い出す方を選んだんだね」


「……他の皆は!?他の皆も、一度は死んじゃったけど、私みたいに生まれ変わってるんじゃないの!?」


 ダメだ、感情的になっちゃダメだ。感情的になればなるほど、悲しみは増してくるから。だけど、おさまってくれない、制御出来ない。


「生まれ変わってない。君を除く《星の民》は、あの惨劇を最後に魂の輪廻に幕を下ろした」


「な……なんで?」


「《星の民》っていうのは、同じ魂がずっと引き継ぐものなんだ。一度死んでも、また《星の民》として生まれ変わる。だからこそだよ。他の《星の民》は、魂ごと消されてしまった。魂が無くなれば生まれ変わることは出来ない。奴らはそこまでしたんだ」


「……な」


「君は……一族の中でも強靭な魂の持ち主だったみたいだね。恐らく、普通の魂が消滅するような魔法をかけられても、君の魂は消滅することなく生まれ変わった。ただ、魂が無傷なワケじゃない。来世へと続く呪いが……」


「……うぐ」


「大丈夫?少し休もうか」


 操り人形の糸が切れたみたい。私は、もう死んでいたー……。


 悲しいとか、苦しいとか、言葉では言い表せない。ただ、自分の無力さと皆が殺されていくのをただ見ているだけの自分。やるせない気持ちが前世最後の記憶。


「――――――」


 そして、そのまま私は倒れてしまったらしい。




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