ポンコツ教師としっかり生徒 03
ポンコツだって、たまにはやるんです。
「人でいっぱいねー」
「初詣ですからね。仕方ないですよ」
全国的に見ればそれほど人が詰め掛けてるわけではないこの神社も、普段のそれを知っていれば、ため息の一つも出てしまう。
家族連れ、カップル、友人同士、年配から子供たちまで。
様々な組み合わせの人々が、同様の感想で初詣の列に並んでいるのだろうが、それでもいらつきよりは無事新年を迎えたことの喜びが勝るようで、皆の表情が明るく見える。
とはいえ不満が消えるわけでもないので、その女教師は口を尖らせている。
「尻尾」が波打つように揺れながら逆立っているのは、彼女が物事に飽き始めている証拠である。
せっかくの着物なのに、彼女の髪型はいつもと同じワンコテールなのは、単に着物に会わせるのが面倒くさかったのか、それともこだわりがあるのかはさておいて。
「うみゅ……もっと早く来れば良かったかな」
「あまり変わらないと思いますけどね。だいたい待ち合わせに遅れたのは先生でしょう」
端から見れば彼女の弟にしか見えない彼女の生徒である少年は、このワンコ教師の飼い主である自覚があるらしく、躾けるように少しきつめの口調で彼女を見上げる。
メガネがきらりと光って見えたのは、冬特有の日差しの激しさか、少年の本気さの表れか。
しゅん、と彼女のしっぽが垂れた。
「だって……お父さんがなかなかお年玉くれないんだもの。肩もんで甘えてねだってやっとくれたの。だから遅れたのも仕方ないよね?」
「僕はもう貰ってませんよ。というか先生、まだ貰ってるんですか」
「……あ、賽銭箱見えたよー」
「誤魔化しても、あとでお説教は変わりません」
「もうすぐだー!早く前に行こう!
聞こえて無視したのか、本当にテンションがあがって聞こえなかったのかはさておいて――ようやく、先頭へ到着。
ちゃりーん。
ぱんぱん。
と、他の人たちと同じくお約束の一通りの儀式を終えて――帰り道。
「それで、何願ったんですか?」
参拝道を通りながら――生徒が聞く。
女教師は、聞いてくれたことが嬉しいのか、にへら、と教師としての面目はまるでない顔で笑うと
「ナイショ……と言いたいけど。特別ね。えーと、仕事が楽になりますように、学年主任に嫌味言われませんように、あと……」
「もしかして、そういうのばっかりですか……」
「……ダメ?」
「ダメじゃありませんけど……」
言いながら、生徒はこの姉のようなペットのような、それでいて誰よりも大切に思うその人を、少しだけわずらわしく思ってしまう。
来年も先生と一緒にいられますように――そんな事を一人願った自分が馬鹿みたいじゃないか。
今日だって、僕はあんなに楽しみにしてたのに、先生は遅刻してくるし。まあ、着物姿は綺麗だけど……。
遅れてきたことについては、もう謝罪を受けて許している。
だから、今になってのそれはただの八つ当たりだと、生徒は判っていたが――
「少しくらい、僕とのことを願いに入れてくれても、いいじゃないですか」
立ち止まって、うつむきがちに言った。
普段はまずないことだが、そのときは思わず愚痴がこぼれた。
そして、すぐに口元をぎりりとかみ締める。
それは、新年からイライラしたり八つ当たりなんて自分は何を、いう自己嫌悪が半分。
そして、いつまでたっても自分を意識しようとしてくれない、本音の想いが半分。
できる限り彼は抑えたつもりだが、それでも漏れてしまった言葉のとげとげしさに、彼女に嫌な思いをさせていまったと謝罪しようと彼女を見た。
そこにあった彼女の表情は、怒りでも悲しみでもなく、ただ意外そうな顔で、
「え……?だって、神様に願わなくたって、先生はキミが好きだし。それにキミが望んでくれる限り、先生はキミの側にいるもの」
キミは違うの?――そう言いながら、コクンと首をかしげる。
「……」
そういう仕草は…反則だ、と生徒は思った。
「ほら、行こ?今年も良い年にするんだから、ちゃんとキミが隣にいてくれないと」
生徒の腕に自分の腕を絡ませる女教師。
真っ赤になってうつむいている彼を見て、くすりと笑った。
遅れたのだって、ホントはキミに着物を着た私を見せたくて、何度も着付けてたせいなんだから。
でも、いつもからかわれてて悔しいから、教えてあげない。
次回はちっこいのとでっかいのがココに来ます。
前回のお話も同じ神社です。
サボり少年はこの二人が並んだときには休憩中でした。
皆さんが気に入られたカップルは、これまでの三組ではどれでしょうか。