表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

ポンコツ教師としっかり生徒 02

ポンコツ、再び。

 季節の移り変わりは、1日の景色を大きく変える。

 

 たとえばそれは季節ごとの植物の鮮やかさであったり、雪や雷といった天気だったり、人々の服装や、温度によって生じる空気の揺らめきもそうだろう。



 そしてもう一つ。

 時間によって生まれる、色の差だ。


 

 それはどの季節にも変わらず存在するにも関わらず、時間という差によって姿を変える。

 世界が圧倒的な黒――夜に変わる瞬間。


 だから――午後六時というのは錯覚の時間だ、というのが少年の持論だった。


 

 その時間は、夏と冬ではその黒の存在が最も大きく異なっている。


 あるときはまだ赤みすらもたない太陽に、まだ六時か、と思い、

 そしてまたあるときは、暗闇に染まった世界に、もう六時か、と思うのだ。

 

 どちらもが本当であるのに、どちらもが偽者のように思う。

 

 だから、錯覚の時間。

 



 

 そして今日のその時間は――

 


「なんで、僕が先生を送ってるんですか」


「暗いの、怖いんだもん」

 

 

 二人の帰宅の時間だった。

  


 土曜だというのに、「仕事終わらない助けてへるぷみー」と呼び出され、今度は「まっくらこわい」と泣きつかれてこの有様である。

 


「12月ですから、確かにもう真っ暗ですが……まだ六時です。休日ですけど、部活をがんばってるの生徒だっていましたよ?」


「先生、帰宅部」


「あなたは生徒じゃありません。ついでに、先生は僕の部活の顧問です」


「……そだっけ?」

 

 

 どうもこの人は、自分がつぶれかけの文芸部の顧問であることは、どこかに行ってしまったらしい。

 

 

「そだっけ、じゃありません。幽霊部員ならぬ幽霊顧問ってなんですか」


 

 手続きや提出書類を少年が完璧に仕上げているため、女教師はもはやサインをするだけの人になっていた。

 それでも、顧問になってくれた――自分から立候補してきた気もするが――ことには、少年は感謝はしている。



「まあ、女性をエスコートするのは、嫌いじゃありませんけどね」


「あー、そういうのは女性軽視セクハラになるんだって、PTAの会長さんが言ってたよ」

 


 ふふん、と何故か自慢げにいう彼女。

 

 

「ふーん、そうですか」


「そうだそうだー!セクハラだー!」

 

 

 ポニーならぬワンコテールがぶんぶんと揺れているのは、調子に乗っている証拠であることを、少年は知っている。

 

 なので、用意しておいた「アレ」を取り出しながら、女教師に言った。

 

 

「じゃあ、セクハラになるので、うちの店のレディー割引券、いりませんよね?」


「でも、先生は今の男女平等論って、行き過ぎだと思うの」

 

 

 あっさり手のひらを返す彼女。

 

 

「いえ、そんな僕に遠慮する必要ないですよ?」


「わーん、許してー! キミのおうちのシフォンケーキ、おいしいのよう」


「ちなみに、来週から始める、冬の限定『深雪のミルクケーキ』は僕のオリジナル新作です。登校前の早朝にしか作れないので限定20個ですけどね」


 

 少年のその言葉に、教師はしばしシミュレーションを開始。


 もし朝買いに行くと、遅刻決定。

 休み時間、往復距離では時間的に無理。

 昼休みに行ったら売り切れ確定。

 

 

「今度、先生の分……別に作ってもってきてくれる?」


「僕はすでにセクハラ犯らしいので、これ以上校則違反できません」

 

 

 少年がそういうと、女教師はわふーんと慌てふためいて、

 

 

「じゃ、じゃあ、お返しに先生がキミにセクハラするから」


「しなくていいです」


「……」


「上目遣い、してもだめですよ?」

 

 

 

 

 ……スンスン拗ね始めた。

 

 

 

 

 その彼女の様子に、少年はにんまりと笑う。

 

 

 

 ああ、自分でも悪い癖だと思うが――自分はこの人の、ちょっと拗ねている表情が好きらしい。

 

 

 そして――



「学校には持って行きませんよ。……日曜日、先生の家で作ってあげますから」



 この、子犬のような笑顔も。


次回は多分、ちっこいのとでっかいの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ