風に吹かれて
♪
高校二年の秋の終わり。
俺は、ある女子生徒に告白された。
ただ好きとだけ、その子は言った。
付き合って下さいとは一切言わなかった。
その子は、真面目でおっとりしていて、でも成績はあまり良くなくて。
あまり人とは関わらない静かな場所が好きな子だった。
クラスメイトからの印象もかなり良い方で、もっと物事に積極的になればなと、みな口を揃えていう。
まぁ、それもこれも、その子がけっこう可愛かったからだろう。
俺自身も、少なからず可愛いとは思っていた。
そんな子が、友達の援助なしの一人きりで俺に告白してきた。
ただ、好きとだけいって。
他は、何も言わずに。
俺も何も言わなかった。
いや、何も言えなかったんだ。
告白することやされることなんて、考えたこともなかった。
少なからず恋愛に関する憧れは多少あったのかも知れない。
でも俺にはそんなことはないと決めつけていた。
俺は、成績がとことん悪かったから。
いつも成績は下の上か下の中で、自慢できるものなんてなにもない。
それに俺は男なのに体育が嫌いで、何でも適当に取り組んで……。
ふつうの人から見れば、俺は間違いなく不良だった。
分かってる。
俺は人から見れば不良で、世間では生きていくことなど到底出来ないであろう子供だ。
だから、恋なんて出来るはずも、されるはずもないって思っていたんだ。
「このごろ寒いから、早く帰りな」
だから、こんな言葉しか言えなかった。
そうやって俺は、一生に一度あるかないかの奇蹟を棒に振ったのだった。
後悔することも知らずに。
♪
どうして人は、「恋愛」が出来るのだろう?
単純なものだからこそ、奥が深い。