2.次なる命令
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枯草色の髪、日に焼けて出来たそばかすに、栗色の瞳。平凡な見た目しか持たない私、平民コニーと違って、公女エヴァマリー・カロッサ様はとんでもない美少女だった。
光に透けて煌めく金髪、穏やかな湖面のように澄んだ碧の瞳。愛らしく瑞々しい唇に、形の良い鼻。そして陶器のように滑らかな白い肌。
どこから見ても、芸術レベルで完璧に美しいお姫様。
長く食事も運動も出来てなかったことから、お体に入った直後は大変だったけど──あと周り皆偉い人ばっかりだったので緊張して挙動不審になり、公女様の中にいる時は堂々としとくようにって叱られたけど──。
毎日少しずつ栄養を摂り、ちょっとずつ身体を慣らして動かすうちに、あっという間に健康になった。
(これでいつでも復帰できますよ、公女様……!)
そう思っていたら、「ずっとダンスをしてらっしゃらないので、カンが鈍ってはいけません」と、執事さんが教師を連れて来た。
「えっ、あ、あの、それは私のお仕事には、含まれてないかと──」
食べるだけ、と聞いている。
公女様の姿で美味しいものを食べて、コニーの姿で好待遇。何だか申し訳なくて、運動はサービスのつもりでやっていた。
そのことを伝えると、執事さんが笑みを浮かべて言う。
「はい。ですが、コニー様は非常に優れておいでで、何でも一度で覚えられますでしょう? 健康のために始めた乗馬も、素晴らしい成績。せっかくなら、元のお身体では体験出来ないことを楽しんでもらいたい、と旦那様も仰せなのです」
ダンスのレッスンは、楽しいことなのだろうか。大変そうに思えるけど。
そもそも甘い言葉で飾られてるけど、エヴァマリーお嬢様の身体を慣らして、すぐ社会復帰出来るよう備えたい目論見もあるのだろう。
とはいえ確かに、平民には体験出来ないことばかり。
(ここは乗せられておくべきかな? その方が心証良さそう? 何か失敗してもすぐ処罰される、とか防げるかも!)
何といってもこちらは平民なのだ。
本来なら、エヴァマリー公女様の髪を一筋、爪先一本、引っかけてしまっただけで、どれほど罰せられることか。
そんなこんなで私は、気付くと礼儀作法はじめ歴史に論理学に数学。どんどん授業を増やされて、公女としての教養を叩き込まれていった。
一年半。
私も公女様も十七歳を過ぎたけど、公女様はまだ、お目覚めにならなかった。
その上。
「えっ、留学していた皇太子殿下が、隣国からお戻りになるのですか?」
「うむ。連絡が届いた。皇太子ユルゲン殿下は、エヴァマリーの婚約者だ。マリーは殿下のことを好いていた。婚約者の座を降ろされないためにも、殿下の帰国祝いのパーティーに出席せねばならん」
(帰国パーティーに出席? それって社交?)
ひえっ、と肝が冷えた。
「待ってください、公爵様。私は本物の公女様ではありません。皇家の方を謀ることになってしまいます」
「謀ることにはならぬ。その身体は正真正銘、カロッサ公爵家の血を引いている。嘘にはならぬゆえ、安心するが良い」
「でも、中身は私なんですよ? 一介の平民には荷が重すぎます!」
「貴族の務めである慈善事業にも励み、マリーの悪評をすっかり払拭してくれたそなたの手腕に感謝し、また期待しておる。コニーよ、そなたなら出来る」
「ですが……!」
慈善事業に顔を出した時は、それはもう針の筵のようだった。
エヴァマリー公女様がビュルクナー前侯爵夫人に無礼を働き、結果、長く引っ込むことになったこと。いくら公爵家が口留めしても、魔塔も動き、皇家も動いて、貴族たちにはふんわり知られてしまっていた。
けれど"心を入れ替えたら目が覚める"。
そんなわけで新生エヴァマリーは以前に比べてまろやかになったのだろうと、周りも受け入れ、評価も変じた。
入れ替えたのは魂で、肝心の公女様はいまだ目覚めてないことは、この屋敷内だけの秘密だけど。
(婚約者まで欺くのは、罪深すぎる……!)
必死に訴える私に、公爵様は威圧的な声で命じた。
「決定事項だ。我が娘エヴァマリー」
公爵様が私を"コニー"ではなく公女様の名で呼ぶ時は、公爵令嬢としての対応を求められる。
「……仰せのままに、お父様」
("父"と呼ぶ言葉が、こんなにも虚しいものだなんて)
いくら公女様の身体であっても、公爵様は私の親じゃない。絶対的な雇用主なのだ。
(私の身体は無防備にも、この公爵家で寝てる──)
それが"人質"というものだと知ったのは、いろいろ学んでからだったから。
私は震えを隠して、淑女の礼をとるしかなかった。
「こういうの好き」と思っていただけたら嬉しいな♪と思いながら書きました(ꈍᴗꈍ)
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