交通AI― 0.01の遅延の連鎖
明日から毎日21時〜22時頃に更新します。
物語は最後まで書き終えています。
静かな夜に、少しずつ届けばと思います。
もし何か残るものがあれば、言葉をいただけたら嬉しいです。
朝の高速道路は、いつもより静かだった。
とはいえ、渋滞表示は通常通りで、目に見える混乱はない。
だが配送センターの運転手たちは、微細な遅れの兆候にすでに気づいていた。
「どうなってるんだ……」
「まだ搬入の指示来ないのか?」電話の向こうの会社の担当者は、頭を抱えている。
「AIのルート最適化で処理中……ですが、いつになるか正確には……」声に焦りが滲む。
AIに頼りすぎた結果、判断の責任がどこにもないのだ。
配送センターのトラックは、高速入口で待機を続ける。
少し前なら数分の誤差で済むはずだったが、交通AIの微細な判断誤差が重なり、出口混雑や信号停止が数秒ずつ積み重なる。
運転手はハンドルを握りながら、ブツブツと呟く。「このままだと午前の搬入、全滅だ……」
「取引先にどう言い訳するんだよ」
助手席の同僚も小さく頷き、手元のナビ画面を何度も確認する。
AIが示す到着予測は、数分単位で上下する。信号優先や車線誘導の微妙な揺れが、道路上の車列に波紋を広げる。
道路の信号も、微細な揺れを吸収できずにいる。
赤が1秒長くなるだけで、交差点で止まった車両の列は渋滞の予兆を作り、バスも乗降に遅れる。
運転手は苛立たずとも胸の奥で焦る。
「このタイムロス、午前中には取り戻せるのか」わずかなブレーキ操作、加速、車間距離の微調整――すべてが社会全体の血流に影響している。
配送センターのオフィスでは、担当者が端末を操作する。AIはルートや交通状況を最適化するが、現実の道路の揺れまでは把握できない。
担当者は運転手に電話をかける。
「高速、渋滞してますか?」
「うん、搬入予定の交差点で数分止まった」
「ええと、どれくらい?」
「……10分くらいかな」数字はわずかだが、これが数百台の物流網に波及する。
会社側はAIの推奨通りに進めるしかなく、人間の裁量はほぼない。
都市の道路も、高速も、駅も、すべてAIに管理されている。
だが微細な誤差、0.01の揺れが、どこかで必ず現れる。駅の電車も数秒遅れ、信号のタイミングも微妙にずれる。
人々は気づかない。
だが、運転手の心臓は、会社の指示の遅れとAIの予測不安定に揺れる。
「取引先に怒られるかもしれない」
「午後のルートが間に合うか……」小さな焦りが、次の小さな判断を生む。
昼を過ぎ、配送センターの倉庫には待機中のトラックが増えていく。
AIが提案した新しいルートは、逆に搬入の順番を狂わせた。
「次の搬入はどこだ?」
「AIが出したルート、前の荷物と重なってるぞ」
「どう説明するんだ」
現場の声は重く、画面の数字だけでは伝わらない現実がある。物流網全体が微細に揺れ、時間のずれが社会の血流に静かに影響を及ぼす。
夕方、道路の渋滞情報は少しずつ変化する。
配送トラックは高速上で待機、駅は人の波が増え、バスの到着もわずかに遅れる。すべては0.01の揺れから始まった。
運転手が迷い、信号が0.01秒長くなり、AIが別の最適化を試みる。その結果、新たな問題が生まれる。
会社はAIに頼るしかない。現場は判断できず、怒りも焦りも、微細に積み重なり、社会全体の血流が揺れる。
夜になり、街は静かになる。
だが配送網はまだ完全ではない。
トラックは待機し続ける。
運転手は無言でハンドルを握り、会社の端末を確認する。AIは最適化を続けるが、微細な揺れが必ず生まれる。
現場の人間は、数字と推奨を信じつつも、胸の奥では焦りを抱えている。
小さな選択の連鎖が、社会の血流を0.01ずつ揺らし続けるのだ。
駅のホームでも道路でも、会社でも家庭でも、目に見えない揺れは存在する。
誰も意図していない場所で、判断の分散、微細な遅れ、焦りが積み重なる。
社会は止まらない。
だが、0.01の揺れは確実に、人々の行動や感情に波紋を広げ、次の揺れの源となる。




