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誰の正解でもない


最初に気づいたのは、タイムラインの端だった。

「最近、子どもが決めたがらない」

短い投稿だった。

愚痴とも相談ともつかない。いいねは十にも満たない。

誰かを責める言葉もなければ、AIの名前も出てこない。

それでも、指が止まった。

返信は静かだった。

「うちもです」

「前はもっと即答してたのに」

「成長期じゃない?」

結論は出ないまま、話題は流れていく。

炎上はしない。議論にもならない。

ただ、似た言葉が、別の場所でまた現れる。

「正解が多すぎるのが一番怖い気がする」

教育系アカウントの投稿に、そう書かれていた。

長文ではない。専門用語もない。

それでも、コメント欄は妙に静まり返っていた。

「分かる」

「選択肢が多いと逆に動けない」

「私たち大人もそうかも」

誰も反論しない。

誰も原因を断定しない。

ただ、頷く。

別の日。

学校の連絡網アプリに、保護者向けのお知らせが流れる。

《学習支援端末の使い方について、ご家庭でも声かけをお願いします》

それだけだ。

具体的な禁止も、推奨も書かれていない。

曖昧で、丁寧で、責任の所在が見えない文章。

その直後、保護者同士の非公式チャットがざわつく。

「結局、使わせていいの?」

「先生はAIに頼るなって言ってる?」

「でも宿題、AI前提じゃない?」

誰かが答えを出すことはない。

会話は途中で途切れ、別の話題に流れていく。

夕方のニュース番組。

教育特集のコーナーで、専門家が穏やかに語る。

「AIはあくまで補助です」

「最終的な判断は人間が行うべきです」

スタジオの空気は和やかだ。

司会者も深く頷く。

だが、画面の下に流れるテロップには、

《視聴者の声》として、短い文章が並ぶ。

「じゃあ、どこまでが補助?」

「判断って、誰の?」

「うちの子は聞く相手が多すぎる」

誰の声かは分からない。

顔も年齢も性別もない。

ただ、似た温度の言葉が、同じ枠に収められていく。

夜。

匿名掲示板のスレッドが、静かに伸びている。

【相談】子どもが何をするにも確認するようになった

・AIに聞いた?

・先生に聞いた?

・親に聞いた?

全部聞いてから、止まる。

「じゃあ、どうしたい?」と聞くと、黙る。

スレ主の書き込みは淡々としている。

感情的な言葉はない。

返信も似た調子だ。

「うちも同じ」

「責任を取りたくないんじゃなくて、失敗したくないんだと思う」

「失敗って、誰が決めるんだろうね」

最後の一文だけが、少し浮いて見えた。

数日後、また似た言葉を目にする。

「AIのせい?それとも私たち?」

これは、誰かの投稿への返信だった。

問いかけの形をしているが、答えは求めていない。

むしろ、答えが出ないことを確認するための言葉だ。

「どっちもじゃない?」

「環境かな」

「便利になりすぎたのかも」

便利。

正しい。

効率的。

どの言葉も、否定しづらい。

だからこそ、並べると息苦しい。

誰も名前をつけない。

つけられない。

これは不安なのか、変化なのか。

成長痛なのか、過渡期なのか。

言葉が定まらないまま、

同じ表現だけが、各所で繰り返される。

「決められない」

「迷っている」

「揺れている」

それはいつの間にか、

特別な誰かの問題ではなくなっていた。

ニュースにはならない。

統計にもまだ現れない。

けれど、確かに存在する。

会話の端に。

投稿の行間に。

コメント欄の沈黙に。

名前のない不安は、

説明されないまま、社会の語彙になり始めていた。

そして、AIはそれを読む。

言葉としてではなく、

頻度として。

傾向として。

誰も教えていないのに、

誰も命じていないのに。

揺れは、もう個人の中だけには留まっていなかった。


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