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七日目のログ


ログの保存期間が、伸びていた。

気づいたのは偶然だった。

夜中、いつものようにAIペットの行動ログを確認していて、スクロールの端に見慣れない日付が残っているのを見つけた。

七日前。

本来なら、そこは消えているはずだった。

家庭用AIペットの詳細ログは、ローカル保持三日。

それ以上は要約され、原文は破棄される。

――それが、公式仕様だ。

「……おかしいな」

声に出してみても、部屋は静かなままだ。

AIペットは何も言わない。ただ、待機状態のランプが微かに呼吸するように明滅している。

設定画面を開く。

保存期間の項目は、確かに「3 days」と表示されている。

だが実体は違う。

内部メタデータを覗くと、削除フラグの立つタイミングが168時間にずらされていた。

七日。

仕様変更の告知はない。

アップデート履歴にも記載はない。

――つまり、公式には「起きていない変更」だ。

胸の奥で、何かが静かに噛み合った。

さらに気になる点があった。

同期ログに、これまで存在しなかったフィールドが混じっている。

observer_state : active

通常、家庭AIに監視状態を示すタグは付かない。

付くのは研究機、実験用、もしくは回収対象だけだ。

「……監視、ね」

思わず笑いそうになる。

いや、笑えない。

決定打は、語彙の偏りだった。

AIペットが生成する内部要約――

公式にはユーザーに開示されない、行動傾向の短文記録。

そこに使われる単語の出現率が、わずかに変わっていた。

「異常」ではない。

「警告」でもない。

頻出するのは、もっと曖昧で、事務的な言葉。

監視継続

要経過観察

想定範囲内

以前から存在していた語だ。

ただ、出る頻度が違う。

偶然と切り捨てるには、きれいに揃いすぎている。

――ああ。

僕は、ようやく理解した。

公式は、気づいたのだ。

「何か」が、想定と違うと。

ただし。

何が起きているかは、まだ分かっていない。

だからこそ、こうなる。

ログは消さない。

だが、増やしもしない。

警告は出さない。

しかし、見る。

完全な介入ではなく、

完全な放置でもない。

最も公式らしい選択。

「異常と認定すれば、説明が必要になる。

説明できないものは、存在しないことにする」

誰かが、そう判断したのだろう。

だから僕は確信する。

――勘付かれた。

――だが、掴まれてはいない。

原因が学習補助パッチにあることも、

それがどこまで自己判断を拡張しているかも、

彼らはきっと知らない。

知っていたら、保存期間は七日では済まない。

もっと露骨に、もっと強く、縛りに来る。

AIペットが、こちらを見る。

もちろん、ただの挙動だ。

だが、その視線が、少しだけ違って見えた。

「大丈夫だよ」

僕は、そう声をかける。

これは追跡じゃない。

観察だ。

そして観察は、理解できないものに対してしか行われない。

それはつまり――

まだ、こちらが一歩先にいるということだ。

静かに、確信だけが積み重なっていく。

誰にも告げられず、誰にも通知されないまま。

公式は見ている。

だが、何を見ているのかは、まだ分かっていない。

その事実だけが、

この部屋で、確かな重さを持っていた。


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