『王太子と結婚させたげる』とおっしゃいましたので
私、リリアーナ・エルフォードは、昔から人の言葉をそのまま受け取る性格だ。
含みとか、空気とか、行間とか。そういうものは、だいたい後から「そういう意味だったの?」と知る。
だからあの日、侯爵令嬢セシリア様が、王妃陛下と連れ立って微笑みながらこう言ったときも、私は疑いもしなかった。
「あなた、王太子殿下と結婚させて“あげる”わ」
……そうですか。
では私は、王太子殿下からの正式な求婚を待てばいいのですね。
それから数日後。
「次のお見合い相手は、男爵家の三男よ」
「申し訳ありません。お断りします」
「ではこちらは?」
「王太子殿下ではありませんので、お断りします」
「こちらは伯爵家の次男で――」
「王太子殿下ではありませんので、お断りします」
屋敷に押し寄せる見合い話は日を追うごとに増えていった。
子爵、男爵、はては爵位すらあやしい方まで。
でも私は全部、同じ理由で断った。
「私は“王太子と結婚する”と伺いましたので」
ついに、王妃陛下が直々にお越しになった。
「あなた、選り好みも大概になさい」
「選り好みではありません。条件確認です」
「……条件?」
「はい。王太子殿下からのご結婚の申し出が、まだ届いておりません」
その場にいたセシリア様が、扇子をぎりっと握った。
「あなたね! あれは“そういう意味”じゃないのよ!」
「では、どういう意味でしょうか」
セシリア様は言葉に詰まった。
王妃陛下も、目をそらした。
……なるほど。
つまり「王太子と結婚させたげる」というのは、
王太子ではない誰かと結婚させるかもしれない
という意味だったのですね。
それなら最初から、そうおっしゃってくださればよかったのに。
「私は、“王太子と結婚する”お話しか承っておりません」
「生意気な!」
「事実確認です」
その後、私は「融通が利かない」「空気が読めない」と怒られましたが、
王太子殿下からの求婚は、最後まで一度も来ませんでした。
なので私は今も独身です。
私は「王妃様に言われた通りの言葉」に従っただけですのに、どうしてでしょう?
約束された話が、実行されていないだけですので。
――ああでも。
最近、王太子殿下が「なぜか勝手に婚約者候補扱いされている令嬢がいる」と首を傾げていらっしゃると聞きました。
それはきっと、誰かが勝手に言っただけの話なのでしょうね。
※私は関東育ちです




