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殺し屋と少女と日本刀  作者: uniki


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6話 新たな出会い

 零は横たわる美しくも不気味な少女を注視する。 胸が呼吸に合わせて微かに上下しているから生きていることに間違い無いだろう。 念の為、銃を少女に向けながら首筋の脈を取る。 脈はあった。


 零が首筋から手を離した瞬間少女は目をあける。


 その瞳の色は今、零が手にしている呪殺刀に負け劣らず、真っ赤なものだった。 数秒間少女と無言で見つめあうと少女は開口する。


 「おはよう」


 少女は銃を向けられているにも関わらず、一日の始まりの言葉を口にする。


 「……」


 「もしかして言葉が通じないの?」


 「おやすみしたいのか?」


 零は銃を少女の額に突き付けるも少女は怯える様子がない。 一体この少女は何なのか。


 「私を殺したところで得られる物なんて何一つないわ」


 「命乞いにしては軽い言葉だ。 それに命の価値なんてものは他人が決める事だ」


 少女の真紅の瞳は揺るがない。


 「取り敢えず質問に答えて貰おう。 お前の処遇はその後だ」


 少女が頷くのを確認すると零は言葉を続ける。


 「お前は何故生きている」


 「死んでないからよ」


 「お前何者だ?」


 「わからない」


 零はまともに会話をしない少女に苛立ちを覚え、引き金に指を掛ける。


 「ふざけている訳じゃないわ。 本当に何も分からないの。 目が覚めたらあなたに殺されそうになっている事しか」


 零はとある事を考え付く。 強大な呪術を使用すると精神に異常をきたし、記憶が飛ぶ現象があるらしい。 この少女は呪術であってはならないが呪術で蘇り、今まさにその状態なのではないだろうか。 症状だけ聞くとロストメモリーの被爆者とも考えられるが、ここ最近で呪術災害は起きていない。


 「今ここで私を殺しても、本当に得られる物なんて何もないわ。 弾の無駄遣いよ。 殺すなら記憶が戻ってからの方がいいんじゃないかしら」


 「今度は随分と後ろ向きな命乞いだな。 悪くはないが」


 少女の言葉に賛同し、零は向けていた銃を下す。 そうすると少女はゆっくりと起き上がる。


 「あなたが合理的な人で助かったわ」


 「そういう割には、嬉しそうに見えないが」


 少女の表情は一切の変化がない。 まるで喋る人形と会話している気分のようだ。


 「それで、これからどうするの?」


 零は少し悩み決断する。


 「下に車を停めてある。 ついてこい」


 「ドライブデートね。 行先はやっぱり海かしら?」


 「地獄かもな。 行ってみると意外と悪くなかったぞ。 素敵なマスコットキャラクターもいるしな」


 「それは楽しみね」


 零は掴みどころの無い少女と会話しながら車まで向かう。 車に到着すると少女を先に助手席へと乗せる。 零はトランクを開け、積んであった呪術が付与された手枷を取り出し運転席に座る。


 「ルームミラーを触るな」


 少女はルームミラーをいじり、食い入るように自分を見つめていた。


 「ごめんなさい。 自分の顔を見ておきたかったの。 でもあなたが私を殺さなかった理由がわかったわ」


 少女は零の言葉でルームミラーから手を放し、納得がいったかのように一人で頷く。


 「そうだな。 売れば金になる顔だ」


 零は笑みを浮かべながらルームミラーを適正な位置に修正し、少女に手枷をつける。


 「あなたのその笑顔は好きになれそうにないわ」


 手枷を見つめながら少女は呟く。


 「そうだろうな。 俺も好きじゃない」


 そう言って零はエンジンを始動させて車を発進させた。



 ◇



 「このお店は何?」


 「バーだ。 酒飲むところだ。 入るぞ」


 零は少女の質問に適当に答えながららびりんすの扉を開ける。 時刻はまだ夕方の事もあって客は一人もいない。 岬は鈴の音に気付き裏から出てきてカウンターに立つ。


 「……おかえり」


 何処か不機嫌そうな様子で無愛想にそう言う。


 「戻った。 流石に疲れた…… 酒をくれ」


 「はいはい。 ちょっと待ってね」


 カウンター裏のボトル棚をゴソゴソと漁っている内に入口の死角にいた少女に目配せし、零の隣に座らせる。


 「これ。 レイが好きな………… だれ?」


 ボトルを抱えてこちらを振り向き少女を見た岬は当然の疑問を口にする。


 「分からないわ」


 「話が面倒臭くなるから少し黙ってろ。 岬、こいつを見てどう思う?」


 「どうって……」


 岬は酒瓶を抱えながら少女をマジマジと見つめる。


 「すごく可愛いと思うわ。 その瞳と髪の色、天然物? じゃなくてもすごく似合ってるわ」


 「ありがとう。 多分生まれつきそうだと思うわ」


 少女は嬉しそうな表情は微塵も浮かべず、淡々と岬と会話する。


 「レイ。 いくら今回の報酬がいいからってこんな高そうな娘買うのは感心しないわ」


 岬はカウンターに酒瓶をドンッと強く置いて呆れながら、あるいは零を軽蔑しながらそう口にする。


 「買ったんじゃなくて拾ったんだ。 その様子だとこいつは無害そうだな」


 零はポケットに入れてあった手枷の鍵を取り出し少女の手錠を開錠してカウンターに手枷を置く。


 「アンタ…… どんな趣味してんのよ……」


 「勘違いするな。 また大暴れされたら困るから止む無くこうしてただけだ。 こいつがあの黒衣の中身だ」


 「は?」


 岬は茫然とする。 零がこの少女をここに連れてきた理由は岬と合わせる為だ。 岬は所謂特異体質のような物を持っている。 それは呪術の力と言ってもいいだろう。 周囲に対して悪意を振り撒く者。 それが雰囲気で分かるのだ。 今の岬の反応を見る限りこの少女は零達にとって無害と言えるだろう。


 「黒衣の奴って滅茶苦茶強かったんじゃないの? それが? この女の子?」


 「そうだ。 危うく殺されかけた。 だが蓋を開けてみるとこれだ。 不思議な事があるもんだなぁ」


 零は呑気にそう言いながらカウンターに置かれた未開封の酒瓶を開け、勝手にグラスに注ぎ飲み始める。 疲れた身体にじんわりとアルコールが広がる。


 「ちょっと訳が分からないんだけど…… てか氷いらないの?」


 「今日はいらない。 それにこいつどうも記憶が飛んでるらしい」


 「それってアンタと同じ症状じゃ……」


 「俺より酷いな。 名前も分からないらしい」


 その言葉を最後にらびりんすに数十秒間沈黙が流れる。 零はグラスの酒を飲み干し、2杯目を注ぐ。


 「本当美味いなこれ」


 零はお気に入りの美酒に舌鼓を打ちながら素直な感想を述べる。


 「いや飲んだくれてる場合じゃなくて。 どうするのよこれから」


 「一応考えが無いことが無い訳じゃない」


 零はそう言いながらグラスを置き、煙草に火をつける。


 「桃源郷だが、どうも人員が足りないらしい。 俺から店主に話をつけるからそこで働けばいい。 あそこにいる限りは身の安全もある程度は保証されるし衣食住だって困らない。 それどころかこの容姿だと人気が出るんじゃないか? 口さえ開かなければの話だけどな」


 「アンタ最低ね……。 記憶が無くて自分の名前さえ思い出せない娘に花を売らせようだなんて」


 「嫌なら別にいいさ。 元居た場所に送ってやる。 お前が決める事だがどうだ?」


 そう言って零は少女に選択肢を与える。 


 「花を売るってどういう事?」


 「売春だ。 何も持っていない、或いは何処かに落としてきたお前にはそれぐらいでしか生きる術は無い」


 厳しい言葉だとは思うが、普通の人間ですら生き辛い世の中だ。 まだ売れる物を持ってるだけでも幸せだろう。 少女は少し考え込み、口を開く。


 「あなたが私の為に一人でも生きていける道を用意してくれるのはとても嬉しいわ。 でも」


 少女は言葉を一度区切り再度紡ぎなおす。


 「私は知りたいの。 自分が何者かなのを。 何の為に生きているのかを」


 そう言い切った。 零はその言葉を聞き、グラスに入った酒に写る自分を見て思い出す。 以前、自分にもそういう考えがあった事を。 そしてそれを諦めた事を。


 「それは…… 簡単じゃない」


 零の口からは弱く消え入りそうな言葉しか出てこなかった。 それもそうだろうかつて自分が投げだした事なのだから。


 「ええ、そう思うわ。 私何も知らないもの。 だけどそうしなきゃいけないような気がするの」


 「何があったか分からない過去を見つけてそれが絶望だったらどうするんだ?」


 「全て受け入れるわ。 自分の事だもの」


 「……」


 一度心の折れた零はその言葉を聞いて何も言い返せる事が出来なかった。


 「ねえあなた」


 「へっ? 私?」


 少女が突然岬に話しかける。


 「さっきこの人に私の事買ったのかと、そう聞いてたけどそういう事はよくあるの?」


 「まあ珍しい事じゃ無いわね」


 「そう。 ありがとう」


 少女は岬に礼を言うと零に向き直る。


 「お願いがあるの」


 「嫌な予感しかしないんだが」


 「私を買ってくれないかしら」


 零は2杯目の酒を飲み干し、空のグラスを机に置く。


 「理解不能だ。 俺に買われる事で記憶が戻る訳じゃないだろ?」


 「あなたと一緒にいれば何かが見つかりそうな気がするの。 うまく言葉にできないけれど自分の感性を信じるわ」


 「お前を買うメリットが俺にはない」


 「なんだってするわ。 あなたが私に身体を売って金を稼いで来いというならそうするし、あなたに従順する事を誓います。 その代わりに記憶を探すのを手伝ってほしいの」


 零は少女の眼を見つめる。 そこには一切の揺るぎが無い。 


 この少女は零よりもずっと強いのだ。 過去を知ることを投げ出した零に対して、この目の前の揺ぎ無い瞳を持つ少女は全てを投げ打ち、絶望かもしれない過去を、それでも知ろうとしている。


 「ダメ……?」


 返事のない零に少女は問いかける。 零は考える。 持っている能力はありえない(・・・・・)自己再生能力。この少女は零と同じ力を使うのだ。 何かしらの関連性があっても不思議ではない。


 ロストメモリーの影響で失った自分の過去。 それが今一度この少女と言う引き金で知れるとなると少し、ほんの少しだけ興味をそそられたのだ。


 「……分かった。 お前の話に乗った」


 酒のせいかもしれない。 それでも零はこの少女を知ることで何かが変わるのではないかとその可能性に賭けてみる事にした。


 「ありがとう。 あなたと出会えてよかったわ」


 「そういう言葉は笑顔を浮かべながら言った方がポイント高いぞ」


 この少女と出会ってから表情の変化を一切確認していない零はため息をつく。


 「私今笑っているけど?」


 「やっぱりただの変な奴なんじゃ…… 返品も視野に入れるか……」


 こうして零は初めてこの街で女を買った。


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