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殺し屋と少女と日本刀  作者: uniki


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3話 黒衣の襲撃者

 その後、バーを出て早速目的地に向かうことになった零と町村だが、町村の車に解体業をやっていた頃の工具が積んであると言う事で、町村の車で行く事になった。 既に市街地を抜け、木々が多い茂る、森の中を車でゆっくりと走っていた。


 「衛星写真だとこの先曲がれるっぽいんだがなぁ…… あっ。 あれか。 あそこ曲がってくれ」


 零は煙草を咥えつつ、写真とにらめっこしながら町村をナビゲーションする。


 「座標位置も近づいて来たな。 もうすぐ近くに上れる場所があるはずだ」


 衛星写真では少し見づらいが、座標の位置が高所を指している為、階段か何かがあるのではないかと、そう推察していた。


 「なあ葉月」


 「なんだ」


 町村は目線を前に向けたまま話しかける。


 「お前は…… その…… 人を殺すような仕事をしているのか?」


 町村は言葉を選んでいたようだが、結局思いつかなかったのか直球に聞いてくる。


 「まあそうだな」


 バーでの1件もあるし別にもう隠すような事では無いと、そう感じていた。


 「そうか…… 葉月は…… もし俺を殺す依頼が来たら俺を殺すのか?」


 町村に表情の変化は見られない。 一体どういう意図で質問しているのか零には分からない。


 「勘違いしないでもらいたいんだが、だれかれ構わずホイホイ殺している訳じゃない。 精査はしている」


 ”自らの心を殺し、善人を愛するべし“ 今の零の道を示したある殺し屋が言った言葉だ。 この不法区域において善人と呼ばれる存在はあまりにも貧弱である。 そんな彼らを救う為に殺し屋という存在があるのだとその人は言った。 零も一応はその言葉に従って生きているつもりだ。


 「そっか…… ちょっと安心した。 お前を怒らしたら一瞬で殺されるんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだよ」


 「俺は気が長いほうなんだ。 ……まあ岬ならやりかねんが」


 町村は笑う。 仕事は下手に緊張してやるより少しリラックスして取り組んだ方がいい結果を残せるだろう。


 「あ。 多分あれだ」


 零は正面の階段を指差し、声を上げる。 話しているうちにどうやら目的地の下まで着いたようだ。


 「よし。 じゃあここで車を停めて行くか。 鍵は挿しっぱなしにしといてくれ。 一応な」


 零はシートベルトを外し、車から降りようとする。


 「なあ。 葉月。 さっきバーで岬さんが俺に聞いた『60万の為に命を賭けられるか』って質問お前ならどう答える?」


 真剣な眼差しで町村は零に問いかける。 零はため息を付きながら。


 「賭けられないって答えるな」


 「じゃあなんでお前はここにいるんだ」


 町村は少し苛立ったような口調で再び質問する。


 「俺には賭ける命など持ち合わせていないからだ」


 町村は黙って聞いたまま口を開かない。


 「納得できたか? 悪いができなくても先に仕事をしてくれ。 話は終わってからだ」


 「じゃあ……」


 町村は少し考えた後、言葉を紡ぎなおす。


 「終わったら飲みに行こう」


 零は少し言葉を失ってしまった。 零はこの街では顔が広い方だが、あくまでお互い利用しているだけだ。 こんな風に普通の友人のように飲みに誘われるなんていつぶりだろうか。 いやそもそもあったのだろうか。


 「まあ…… お前がよければ」


 「よしっ! じゃあさっさと終わらせようぜ!」


 そう言い町村は勢いよく車を降りて行った。


 「今夜はきっと美味い酒にしよう」


 零はそうポツリと口にしたが町村には聞こえなかったようだ。


 「ん? なんだって?」


 「何でもない。 早く終わらせよう」


 そうして二人は足早と森の中へ消えていった。



 ◇



 「あったな……」


 「まあ無かったら困るんだけどな」


 二人は車のトランクから取り出した小型のチェーンソーと解体用のハンマーを持って階段を上り、今回のターゲットである祠を発見した。 写真ではピンボケしていた為あまりよく分からなかったが、見るからに怪しい。 材質は見た感じ全て木材だ。 だが何故屋根が無いにも関わらず、木が腐るどころかカビ一つ生えていない。 綺麗過ぎるなんとも不気味な印象を受ける。 昨日建てられたと言われても違和感が無いぐらいだ。 


 「どうした葉月?」


 祠をずっと見つめていた零に対して町村は不思議そうに首を傾げ喋りかけてくる。


 「いや何でもない。 さっさと壊して帰ろう。 俺は辺りを見張っておくからやってくれ」


 とは言ったものの零は特にする事は無い。 辺りは開けてはいるが視界に収まる範囲内だ。 人の気配なども無いし、トラップが仕掛けられているような跡も無い。 少し離れた所でチェーンソーにエンジンを掛けようとする町村を零が見守る。


 「あれ、おかしいな。 掛かんないぞ」


 町村は何度もスターターハンドルを引くがプスンと虚しい音が森中に広がるだけだ。


 「クソッ。 ダメだ。 この前は動いたんだけどな」


 「どうする? 一回出直すか?」


 肝心の工具が動かないのであれば仕方が無いだろう。


 「いや。 この祠自体大きくない上に木造だからハンマーでいける」


 町村はそう言いながら地面に転がしていたハンマーを手にする。 ハンマーは全長80cmほどあり、確かに大の大人が本気で振りかぶればこの小さな祠など木っ端微塵になりそうだ。


 「なんかお前が持つと様になるな。 ホラー映画とかにでてきそう」


 「え? そ、そうか?」


 「褒めて無いぞ。 さっさとやってくれ」


 頭を掻きながらニヤケ面する町村に零は顎をしゃくりながら祠を破壊するように指示する。 町村は祠の前で頭上にハンマーを掲げそれを一気に斜めから振り下ろす。


 「ハァッ!」


 気合の入った掛け声と少し遅れた後に凄まじい衝撃音が鳴り響く。 が、


 「なんだ…… これ……」


 異変にいち早く声を上げたのはハンマーを振り下ろした町村だった。 


 「……そのハンマー、スポンジで出来てんのか?」


 あれほどの衝撃を受けたにも関わらず、祠は傷一つ負う事は無く、何事も無かったかのように不気味に佇んでいた。


 「そんな訳ねえだろ! オラァ!」


 町村は火がついたように何度もハンマーを振り下ろすが結果は同じだった。 これは何かがおかしい。 素人目からしても明白だ。


 「ちょっと一回車に戻って作戦練り直さないか? 森の中とはいえ流石にこう音を立てるのもな」


 躍起になっている町村を十歩ほど離れている距離から零が宥める。 元より報酬の高さからして胡散臭い案件だ。 時間をかけてゆっくりやればいいとそう思った。


 「一体これどうなってんだ……」


 そう呟きながら町村は祠に手を伸ばす。 そう言えば零も町村も一切祠に触れてなかった。 そして町村が祠に手を触れた瞬間。


 「ッッッ!!」


 零は反射的に懐より拳銃を引き抜くと同時に後ろに振り向き正面に銃を構える。 そこには二人が上ってきた階段しかない。


 「町村! 空気が変わった! 何かが来る! 俺の背後につけ!」


 何が来るは分からない。 周りに人はいない。 それでも何か、言葉では表せない何かが近くにいる事がほぼ毎日のように修羅場を潜り抜けてきた零には分かった。


 「町村! 洒落じゃないぞ! 何だか分からんがヤバいから俺の近くに来い!」


 見えざる危機に直面し、珍しく声を荒げる零だが、さっきから町村は祠の前から動こうとしない。


 「クソッ……!」


 零は周りをクリアリングしながらゆっくりと祠の方にへと歩みを進める。 町村に手が届く位置まで来たので腕を掴み、こっちに振り向かせる。 その際、町村の顔を見て零は言葉を失った。


 「……ぁ ……ぁ」


 町村の表情はつい数分前とは変わり果てていた。 目は虚ろで、とてもじゃないが生気のある人間の物とは思えない。 あえて言うのであれば死人の目だ。 そこには一切の希望も感じられないただの物体と成り果てた目。 それでいて何かを必死に喋ろうとしているか、それが叶わず零れ落ちるのは小さな呻き声のみ。 そんな町村を目の辺りにしていると、零はふいに全身の力が抜け、地面に倒れてしまう。


 「なん……だ…… ゲホッ!」


 声を出そうとして大きく咳き込んだところ口から何かが溢れ出る。 起き上がろうとしても手足に力が入らない。 地面に突っ伏しながらゲホゲホと口から何かを吐き出す。 地面に水溜りのように広がるそれをみてようやく零は理解した。 血だったのだ。


 それに気付いた瞬間、急激な胸の痛みが零を襲う。 そこで初めて零は何かに背後より襲われたのだと確信した。


 必死に眼球を動かし背後に目をやると、そこには頭からつま先まで黒いローブ、あるいは法衣のようなもので全身を隠した”何か"がそこに立っていた。


 それは手に持っている真っ赤な何かを零の頭上に掲げ、一切の迷いもなく、慈悲もなく、ただ冷酷に振り下ろした。



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