006 ~逃げた蝶とそれに集まる光達~
アルトの目の前で姉のイブは自身の血の海に沈んだ。
この時、アルトはイヴの死を悟り、目の前が真っ暗になった。
すると、そんなアルトの耳にその闇を照らす一筋の光となる声が届く……。
「アルトさん。君のお姉さんは死んでない。強い人だもの……」
アルトの目の前の闇に降り注がれた一筋の光となる優しい声。
そう、そんな光の声がアルトの闇の海を照らした。
(何を言ってるんだ? どう見ても姉上は……)
だが、その光から目を背ける為アルトは俯く。
「無駄だよ……。姉上はもう……」
それからアルトは拳を握り締め涙を流したがイヴは目を開けたのだ。
そして、勢いよく起き上がったイブは黒髪の女性を突き飛ばして駆け出す。
すると、その反動で黒髪の女性は体を擦りながら吹き飛ばされたが、
「な、何で? あ、あんた、生きてんのよ?」
と、言った根の一族の女の背にイヴの刀は刺さり、根の一族の女はその場に倒れたのである。
(どうなってるんだ!? だって、あの怪我じゃ姉上は……。
でも、今、立っているのは紛れもなく姉上だ!!
まさか、あの非力な彼女が姉上を救ったとでもいうのか!? 信じられない……)
その一連の光景を見届けたアルトは頭を整理していた。
「良かった。姉ちゃん……、うぇっ!? ね、姉ちゃん!!」
だが、緑頭の少年が変な声を出したのでアルトが黒髪の女性を見ると、
へたり込んでいる黒髪の女性はイヴを見つめ涙を流していたのだ。
(どうして彼女が泣いてるんだ!?
それに、さっき突き飛ばされたせいで、怪我をしているじゃないか!!)
その涙を見たアルトが黒髪の女性に近づこうとした時だった。
「へ? 何、これ……」
我に返った黒髪の女性は頬を伝わった涙を自身の血が付いた指で触り、
ふふっと笑い、逃げる様に自身の精霊と共にこの場を去ってしまった。
「待つんだ!!」
そして、その黒髪の女性をアルトが止め様とすると、
「ギャオーーーーーーーーーーースッ!!!!」
と、先程轟いた奇妙な鳴き声がまた轟いたのだ。
その声にアルトが振り返ると、その泣き声の主が姿を現していた。
それは頭は鷲だが胴体には白い四つ足が生え、その背には翼が生えた化け物だった。
その化け物は全長三メートルはあり、翼は白と茶の美しいコントラストが際立っており、
その翼と同じ色の長い尾が生えていた。
そして胴体部分は、やや紫がかった褐色で白い斑点があり、
その儂の顔の嘴は灰色で、威嚇しているせいか黒褐色の頭頂部の逆立った白い羽は王冠の様に見えた。
さらにアルト達を睨みつけている眼光の鋭さを増す黄色のアイラインの下に美しい黒い瞳があった。
「(あれは、まさかアルタイル族!? 絶滅したはずなのに、どうして生きてるんだ……)
その声の主を見たアルトは驚きのあまり言葉を失った。
そう、その化け物は疾うの昔に絶滅したはずの霊獣、アルタイル族だったのだ。
だが、そんなアルトを気にも留めず根の一族の女を背に乗せたアルタイル族は突風を巻き起こし、
舞いあげた砂埃と共に何処かへ飛び去って行った。
「根の一族……。それに、アルタイル族。一体、どうなっているんだ?」
それからアルトは今あった事を整理していた。
「あ、あれ? ラニーニャ様がいない!? ついでに、あの緑頭の彼もいないじゃないか!!
全く、アルタイル族がまだ近くにいるんだぞ!!
あの緑頭の彼はどうでもいいけど、ラニーニャ様は守らなきゃ!!」
そして、眉間にしわを作ったアルトは急いでラニーニャを探しに行った。
「しかし、ラニーニャ様は何処にいらっしゃるんだ?」
そんなアルトがラニーニャを探していると小さくなっていた浦島がポケットから顔を覗かす。
そして、何かを知らせる様に浦島は口から、青色に輝く泡を出した。
「浦島。もしかして、ラニーニャ様はそっちにいるのかい?」
それから浦島は返事をする様に両前足を上下に動かした。
「わかった。ありがとう、浦島!」
なのでアルトは浦島が指し示す水鏡の泉の畔まで足を進めた。
すると、そこでは緑頭の少年とラニーニャが何かを話していたのである。
(むっ!? あの緑頭は……。僕より早くラニーニャ様を見つけてたのか!?)
その二人を見て嫉妬したアルトの眉間にはしわが寄る。
だが、そんなアルトを放置した浦島はポケットから抜け出し、
のそのそとラニーニャの傍に歩いて行ったのだ。
その浦島の歩幅に合わせアルトが歩いて行くと
巨大化した浦島はラニーニャを慰める様に擦り寄る。
「うわぁ。う、浦島さん!? どうしたの?」
そう、くすぐったそうにラニーニャは笑い、アルトは浦島に抜け駆けをされてしまったのである。
「凄いのは、君のほうだ。ラニーニャ様!!」
そんな浦島に遅れを取ったアルトだったが浦島に負けじとラニーニャの傷に治癒術を施し、
ラニーニャの傷を全て癒した。
「あ、ありがとう。アルトさん。
さっきも助けてくれたのに、浦島さんも、私、何もお礼してなくて……。でも、様って何?」
すると、きょとんとした顔になったラニーニャは首を傾げる。
「アルトって、呼んでください。ラニーニャ様!!」
「無理だよ!! アルトさん、君を呼び捨てにするなんて!!
それに、私なんかに、様、なんてつけないで!!」
そんなラニーニャにアルトは真顔で頼んだが前にした両手と首を凄い速さで横に振られた。
「じゃあ、お師匠様では? それに僕の事は、アルトって呼んでください!!」
だが、目を輝かせたアルトは一歩も引かなかった。
「どうしよう……。ケレス君!?」
すると、ラニーニャは緑頭の少年を必死な形相で見つめたのである。
(ここは一歩も引かないぞ!! こんな素晴らしい方に僕は認めてもらうんだ!!)
そんな二人を前にアルトはそう企んでいた。
「じゃあ、先輩っていうのはどう? 姉ちゃんは、アカデミーの先輩にあたるんだし。
姉ちゃん、この人は誰かさんみたいに一度決めたら譲らないみたいだから、
あきらめてアルトって呼んであげたら?
それに、姉ちゃん。兄貴は呼び捨てに出来るんだから大丈夫でしょ?」
そこで緑頭の少年は提案する。
「そうだけど……。
うぅーん!!
アカデミーは、彼と私じゃ、比べ物にならないし、それに、ジャップと彼とは、違うよぅ!!」
そして、まだ首を横に振ってラニーニャは渋っていた。
(先輩!? それもいい!! あの緑頭の彼でも、偶には良い事を言うんだ!)
だが、その素晴らしいフレーズでときめいたアルトは口角を上げて一つ頷く。
「先輩!」
「ほら、姉ちゃん!」
そんなアルトは嬉しさのあまりそのフレーズを口にした。
すると、緑頭の少年も促したが、まだ駄目だった。
(どうすれば先輩が僕を、ジャップみたいに呼んでくれるんだ?)
そこで願いを叶えたいアルトは知恵を巡らせる。
そして、
「ケレス! 君も、僕を呼び捨てで呼んでくれても良い!!」
と、思い付き、ケレスを見てそう言った。
「どういう風の吹き回しだ?」
すると、ケレスから不思議そうな顔を向けられた。
「君がそう言えば、先輩も言いやすいだろ!」
そして、気持ちを汲んでほしいアルトは眉間にしわを寄せる。
「そういう事! では、生越ながら……。ア、ル、ト!」
「何かムカつく……」
そんなアルトは目を細めたケレスから揶揄われケレスを睨みつけた。
「ほら、姉ちゃん! アルトって、呼んでみて!」
だが、その睨みを無視したケレスがラニーニャを見て促すと、
「うぅ、ケレス君……。裏切者!!」
と、あきらめたラニーニャは深く息を吸った。
「あ、アルト」
それから顔を真っ赤にしたラニーニャはやっとアルトの願いを叶えてくれたのだ。
すると、願いが叶ったアルトは心の底から喜ぶ事が出来、
浦島までも喜んでいた。
(何だろう……。こんな気持ちは生まれて初めてだ!)
そうやってアルトが幸せを感じていた時だった。
水鏡の泉の上で舞っていた光が渦を巻く様に一点に集まり、
あるものの姿へと具現化したのだ。
次回【運命を変える者達 ~アマテラス降臨 そして、浮かんだ謎~】




