003 ~交わるはずのない者達との交流で芽生えた気持ち~
アルトと赤髪の青年、そして、黒髪の女性……。
彼等は水と油の関係の様に決して交わる事はないはずだった。
だが、アルトはそんな二人に少しずつ魅かれていく。
そして、もう一人とも……。
アルト達が乗った飛行艇は水鏡で一番大きな島である稲叢島のとある湖に着水した。
そして、アルトは緑頭の少年達を飛行艇のハッジまで案内した。
「婆や、開けてくれ」
それからアルトがそう言うと飛行艇のハッジは静かに開く。
「浦島、頼んだよ」
そこでアルトはしゃがみ、ポケットに入れていた浦島を湖にそっと放した。
浦島とは、アルトの大事な友である霊獣の寿族の事だ。
そんな浦島は深みのある茶色の甲羅に明るい青色の肌を持った亀の姿をしており、
今はアルトの右ポケットに入るぐらいの大きさである。
そんな浦島は湖へ行くとアルトからマナを与えてもらい、
アルト達全員を乗せても余裕がある大きさまで大きくなった。
(君は、頼りになるね……。頼んだよ)
そして、その浦島を見たアルトは穏やかな顔になったが、
「はっ!? な、何だ、こいつは!?」
と、驚いた緑頭の少年から大事な友に対し嫌な言い方をされてしまった。
すると、カチンときたアルトの眉間にしわが出来てしまった。
「こいつとは!? 君は本当に失礼だね!
いいかい? 彼は僕の霊獣、浦島。
今から彼に乗って、我が龍宮家に行くんだ!!」
「こいつに乗るのか? 大丈夫なのかよ?」
アルトの睨みに緑頭の少年は眉を顰め明らかに嫌な顔をした。
「じゃあ、君は泳いで来たまえ」
そんな嫌な緑頭の少年から顔を背けたアルトは浦島に乗り込んだ。
それからビクビクしている緑頭の少年以外の者が乗り込むと、
「ケレス、早く乗れよ! スゲエ、乗り心地良いぜ!」
と、赤髪の青年が楽しそうに緑頭の少年に声を掛けたので、
(本当に、お人好しばっかだね……)
と、その赤髪の青年を見たアルトはそれを言葉にしない様に唇を噛みしめた。
そんなアルトが浦島に導かれ龍宮家が待ち構える陸に行くと、豪華な歓迎が待っていた。
だが、それとは裏腹にアルトの気分はどんどん暗くなっていく。
それでもアルトは真直ぐ前を見て、自身の両親を見つめた。
(父上、母上。やはり僕を見てくれないんですね……)
そんなアルトと、アルトの両親との視線が合う事はなく、
歓迎の音が悲しくアルトの耳を通り過ぎていった。
「あなた方はここまでです。後は任せた。アルト」
それから龍宮家の屋敷の前でも宝珠の国の皇女とクリオネだけを招き入れたアルトの父は
アルトを通り過ぎてその後ろを見ていた。
(ですよね……。僕は彼等の様に龍宮家の敷居を跨げませんよね……)
すると、アルトの心はさらに荒んでしまい、アルトは下を向いてしまった。
そんなアルトの前で緑頭の少年達が何かを言い合い始める。
どうやら、緑頭の少年以外の者は格式を重んずる龍宮家の事をわかっていたが、
緑頭の少年だけはわかっていない様だった。
なので、
「彼を責めるなよ。悪いのは父上達の方なんだから」
と、下を向いたままのアルトはつい緑頭の少年に話し掛けてしまった。
「父上? さっきの男の事か?」
「ああ、そうだよ。だが、あんなのを親と思いたくないけどね」
そして、顔を上げないままアルトは緑頭の少年の前で荒んだ心を出してしまった。
「お前……。それ、どういう意味だ?」
そんなアルトを険しい顔になった緑頭の少年は真直ぐ見つめる。
「そのままの意味さ!! あんなクズ野郎達と血が繋がっているなんて思いたくない!!
反吐が出るよ!!」
「君、そんな悲しい事言わないで。君の御両親は立場上、仕方がないのよ」
その緑頭の少年の言葉を聞いたアルトは一気に顔を上げた。
そして、苦しい心を曝け出す。
すると、黒髪の女性の今にも泣きそうな顔が目に入った。
(ああ、もう……。何なんだ……。何も知らないから、そんな事が言えるんだ!!)
その時、アルトの中で何かがプツリと切れる音が聞えた。
「ははっ。君には本当に呆れる。あんな下衆達を庇うとは!!
君の様に両親に恵まれ、呑気に平和ボケし、幸せに生きてきた人間に
僕の苦労はわからないだろう!!」
そんなアルトは黒髪の女性に行き場の無い怒りをぶつけてしまったが、
「アルト……。姉貴には、もう両親はいねえぞ。それに、俺にも、ケレスにもな」
と、赤髪の青年から低い声で驚愕の真実を教えられた。
(嘘だ……!? だって、それならどうして笑ってられるんだ? それじゃあ僕は……)
その真実を聞かされたアルトは、はっとし言葉を失う。
そして、
「アルト、俺達な、お前みたいに両親と何かあったとか、なかったとか言う前に両親を失っててな。
お前の気持をわかってはやれんが、そんな悲しい事は言うな」
と、眉を顰めた赤髪の青年は低い声のまま続け、
その周りにいる二人は悲しい目をアルトに向け赤髪の青年と同じ思いを伝えてきた。
(僕は、君達を傷付けたんだ……。なのに、どうして君達は僕を責めないんだ?
わからない……。僕は君達がわからないよ。でも、僕は間違ってたんだ……)
そんな赤髪の青年達の言葉をアルトは噛みしめ、深呼吸した。
「すまない……。少し、言い過ぎた」
すると、アルトは俯いたが心の底からこの言葉が、すっと出たのだ。
(まあ、許してもらえる訳がない。いつもそうだ……。僕はこうやって人を傷付ける……。
あのクズ両親と変わらないんだ!!)
だが、アルトは俯いたまま考え込んでしまった。
アルトは諸事情で人付き合いが非常に苦手だ。
そして、そこからさらに人というものが非常に嫌いになった。
だから龍宮家はおろか、アカデミーでも人に対し冷たく非礼な態度を取っていたのである。
そんなアルトは当然誰からも避けられ、奇異の目を向けられた。
今までのアルトなら、それはいつもの事だと思い、気にも留めなかった。
だが、今回は違った。
そう、どうしてかわからないが謝罪の意が言葉となって出たのである。
後悔の念と共に……。
「まあ、気にすんな! でも、アルト。お前、やっぱ良い奴だな!」
そんなアルトは赤髪の青年から笑いながら髪をグシャグシャにされてしまった。
「何するんだい!? ああ!! 髪が滅茶苦茶じゃないか!! 全く、君は乱暴なんだから!!」
「ああ、すまんな。アルト!」
すると、顔を上げて髪を整えているアルトはいつもより崩れた言い方になった。
それでも赤髪の青年はまだ笑っている。
(な、何なんだ!? 彼は一体何を考えてるんだ? ん? 今、彼は何て言った?)
その赤髪の青年に混乱したアルトだったが落ち着きを取り戻した。
「また、君は!? 僕を呼び捨てにするなって言ったろ? 大体さ……、君って、いくつな訳?」
「俺か? 俺はつい一か月前に二三歳になったぜ! アルトは何歳だ?」
「僕かい? 僕は二三歳だ。だが、君より前に二三になっている……。
だから、僕の方が年上なんだ。呼び捨てはやめたまえ!」
それから冷静さを取り戻す様にアルトは赤髪の青年と接し続ける。
その間、赤髪の青年はずっと陽気に笑っていた。
すると、髪を整え終わったアルトの眉間のしわはいつの間にか無くなっていた
さらに棘の無い言葉使いで返していたのだ。
「まあまあ! そんな細かい事は気にすんな、アルト!」
そうやって赤髪の青年がまだ続けていると、
「ふふ! ジャップ。アルトさんと仲が良くなったね」
と、黒髪の女性から気が抜ける様な事を言われてしまった。
「な、何を言っているんだい!? どこをどう見たらそうなるんだ?」
「さすが、姉貴! わかってんじゃん!!」
そこでまた調子を狂わされたアルトは何度も瞬きした。
だが、赤髪の青年はとても喜んでおり、黒髪の女性も喜んでいた。
(本当、彼等といると調子が狂う……。 でも、何だろう……。こんなに心が軽く感じるなんて……)
そんな赤髪の青年と黒髪の女性を見ていると、
何となくだがアルトはその二人と良い関係になりたいと思えた。
そして、その隣にいる二人と仲が良い緑頭の彼とも……。
すると、そんなアルトはある人物から声を掛けられる。
次回【運命を変える者達 ~一顧傾城の美女 イヴ~】




