002 ~共に旅立ち~
アルトは絶対にこれからは関りを持ちたくない四人組を引き連れ自身の飛行艇迄案内していた。
そして、その」道中その四人組からアルトは調子を狂わされイライラする。
その理由をメイサが教えてくれるのだが……。
アルトはアルトを苛立たせる者達四人と精霊一体、霊獣のクリオネを無言で引き連れていた。
それは彼等をある処まで案内する為だった。
なのでアルトはその苛立ちを抑えていたのである。
「あれか……。俺、飛行機に乗るのって初めてだけど何か、変な形をしてるな」
だが、いきなりカチンッとなる事を緑頭の少年に言われてしまった。
「変わってて悪かったね! これを唯の飛行機と思わない事だね。
いいかい? これは僕の自家用機で水陸両用の飛行艇さ!」
そして、眉間にしわが寄ったままのアルトは思わず言葉を返してしまう。
その後緑頭の少年は何か叫んでいた。
(しまった!? あんな者達と話さないつもりだったのに!!
僕とした事が無駄な努力はしたくないのに、何か調子が狂う……)
それから自身を抑えながらアルトは飛行艇にその四人組を案内した。
「スゲエ!! これ、お前の飛行艇か?」
「君……、聞いてたのかい? 僕の飛行艇って、言ったのに?
まあいいさ。僕はこれで毎日アカデミーに水鏡の国から通ってるんだ」
だが、赤髪の青年から飛行艇の中で気軽に聞かれ、
答えてしまったアルトは早速出鼻を挫かれてしまった。
(あぁー!? どうして、答えたかな!!)
そんなアルトは表情は崩さなかったが心の中で両手で髪を滅茶苦茶にする程後悔した。
「これで通うのって大変じゃない? 凄いね」
「除籍になった君から心配されるとは思ってもみなかったよ」
すると、黒髪の女性から溜息交じりに言われたアルトは苛立ちをその女性にぶつける。
「アルト。姉貴は除籍になんかなってねえぞ?」
だが、赤髪の青年から思いも寄らない事を言われてしまったのだ。
(なっ!? 今、彼は何て言った? 見ず知らずの者が僕を呼び捨てにした!?)
アルトはその赤髪の青年の言葉で内心狼狽える。
「君も騙されてるだけじゃないのかい? それより、呼び捨てはやめたまえ!」
「何で姉貴が俺に嘘をついてるって思うんだ? アルト?」
それから気をしっかりと持ったアルトは赤髪の青年を睨みつけたが
赤髪の青年から笑いながらまた呼び捨てにされてしまった。
その赤髪の青年の言動でアルトはカチンとくる。
「僕が先に聞いたんだ!! それに、僕を呼び捨てにするな!!」
「なあ、アルト。姉貴はアルトが思ってるより凄い奴だぜ?」
すると、語気を強めたアルトの前で赤髪の青年は素直に他人を褒めたのだ。
(どうして……)
その赤髪の青年を見ているとアルトは言葉に出来ない複雑な思いになる。
「君さ……。何で他人を信じれるんだい?」
「姉貴は、家族だ! それに、俺達、四人共な!!」
「そんなの答えになってないよ……」
声をふるわせたアルトと対象的に赤髪の青年の声には何の迷いも無かった。
その青年の声を聞いて呟いたアルトは自室に逃げ込んでしまう。
(何なんだ、彼等は!? 家族だって? 冗談じゃない!!
偽りの家族だから、あんな事が言えるんだ!!)
逃げ込んだ自室でアルトは壁を怒りに任せ、ダンッ!と叩いた。
すると、
「アルトお坊ちゃまの機嫌の悪さはあの方達のせいでしたのね」
と、穏やかな顔をしたメイサから話し掛けられた。
「婆や……」
「まあ、茶でも点てましょう。お座りになってお待ちくださいな」
メイサを見たアルトの顔には何故か疲労が滲み出ていた。
そのアルトの顔を見たメイサは部屋を出て行く。
それから暫くして戻って来たメイサは両手に収まる大きさの茶碗を持っており、
しずしずと歩いてそれを運んで来た。
「どうぞ、お飲みくだされ」
そして、メイサはアルトにそっと自身が点てた茶を差し出した。
その茶は薄黄緑色のきめ細かい泡がこんもりと茶碗の中心に集まっており、
アルトがその泡ごと口に入れるとまろやかな茶の味が口に優しく広がった。
「相変わらず婆やの点てる茶は美味しいね」
「ほほっ。お褒めの言葉、感謝いたします」
メイサの点てた茶を飲み終わったアルトの顔は穏やかになった。
そのアルトが茶碗をメイサに返すとメイサは穏やかな顔で茶碗を受け取る。
「僕が点てても唯の緑汁にしかならないよ……」
だが、アルトは俯き溜息をついた。
「そうですね。ですが、とても美味しゅうございます」
そんなアルトをメイサは優しく見つめる。
「婆や……、お世辞はやめてくれ」
「茶は心です。アルトお坊ちゃまの心は私に伝わっておりますから。
泡があろうが、なかろうが、美味しいのです」
それでもメイサの気持ちをアルトは素直に受け取れなかった。
なのでアルトの眉は下がってしまう。
すると、メイサからはアルトに点てた茶同様、穏やかな気持ちが伝わってきた。
「婆や……。ありがとう! 君は本当に優しいんだね」
そして、それを受け取れたアルトは顔を上げて穏やかな顔になる。
「それは、アルトお坊ちゃまも同じですよ?」
「僕が優しいだって? そんな事はないよ。それに婆や、君は僕に同情してるんだろ?
そんな気遣いは無用だ!! 君だって本当は……」
穏やかな顔をしたメイサにまた眉間にしわが寄ったアルトは言い寄ったが、
バシッ!!とメイサが扇子をアルトの額に叩きつけたのだ。
そのあまりの痛さにあアルトは額を押さえた。
「い、痛っ!! 何をするんだい!?」
「何をめそめそしているのです!! しっかりなさい!!」
そんなアルトはメイサを睨みつけたが目尻が釣り上がっているメイサから叱られる。
「でも、僕は龍宮家の恥晒しだ!! 水鏡の国の者は皆そう思ってる!!
そんな僕なんかに気を遣う事はないんだ!!」
それでもアルトが言い寄ると、また扇子が額に叩きつけられた。
「痛いって!!」
「あなたは恥晒しなんかじゃありません!! 少なくとも私は思っておりません!!
それに、イヴ様もそうは思っていないからこそ、今回の役目をアルトお坊ちゃまに任せたのです!!
その期待をアルトお坊ちゃまは裏切るというのですか!!」
それから涙目のアルトはメイサから凄い剣幕で怒鳴り返されてしまった。
「婆や……」
「もう少し肩の力を抜いて、人を信じてみては如何でしょう?」
そして、眉が下がったアルトが何も言えなくなると
顔に厳しさが少し残ったメイサから諭される。
「婆や……」
それから少し落ち着きを取り戻したアルトがメイサを見ると、
「彼等と何があったか話していただけますか?」
と、メイサに促されたアルトはアカデミーで緑頭の少年達に会った事からの事を話した。
「……僕はね、ケレスとかいう緑髪の彼がアカデミーに合格するとは思えないんだ。
あんな失礼な彼がこの世界で上手くいく訳がない!
なのに、家族ごっこをしている彼女達がおだてるから、もう合格した気でいるんだ。
信じられないよ。そう世の中は簡単じゃないのに!
まあ、何の責も負ってない者の考えはわからないけどね!」
ここまで話し終わってもアルトはまだ愚痴を言い足りなかった。
だが、メイサは穏やかな顔で、ほほっと笑ったのである。
その笑いに驚いたアルトは何度も瞬きする。
「婆や!? 何だい、その笑いは?」
「いえ。随分アルトお坊ちゃまが他人に興味があるのかと思うと、つい……」
すると、メイサはまた、ほほっと笑った。
「な、何を言っているんだい!? 僕は彼等になんか興味ないよ!!」
「そうでしょうか?
人に興味等持たれないアルトお坊ちゃまが理由はどうあれ、話し掛け記憶に残ったのです」
「婆や……」
反論したアルトの目をメイサは真直ぐ見つめる。
そして、図星を突かれたアルトはメイサから視線を外せなかった。
「もっと、御自分に正直におなりなさいな。
彼等に興味があるのならば、素直に近づけば宜しいだけの事です」
「でも、僕は……」
「それと、これは私の勘なのですが、ジャップ様、ケレス様、それにラニーニャ様……。
彼等はアルトお坊ちゃまが考えている程、平凡に暮らしてきた訳ではなさそうですよ」
それからメイサに諭されても素直になりきれないアルトは言葉を詰まらせた。
すると、意味深な言葉を残したメイサは、すっと席を立った。
「婆や!? それはどういう意味だい?」
「もうすぐ水鏡の国に到着いたします。彼等に知らせてきてください」
そして、アルトも立ち上がったがメイサからは答えは返ってこなかった。
(どういう意味だ? 彼等が平凡な暮らしをしてないだって? そうかな?
まあ、宝珠の国の次期女王は兎も角、後の三人はどう見ても平和呆けしてる!
あの黒髪の女性なんか特にそうだ!!
何も苦労なんかしていないから、願えば何でも出来ると思ってるのさ。
本当、ああいう者は、嫌いだね!!)
そんな風に考えているアルトはイライラしながらも緑頭の少年達の所へ行き、
飛行艇が水鏡の国の稲草島の湖に到着する事を知らせた。
次回【運命を変える者達 ~交わるはずのない者達との交流で芽生えた気持ち~】




