勇者への一歩 憎しみより正義を
7月7日改稿しました。
「死ね雑魚が」
マッギリールは伏した俺の顔をずかずかと踏んづけた。
「私は弱いですから許して下さいと言え、言え!」
しかし、俺が屈せず言わないでいると、今度は顔を蹴られた。
しかし、その時大きな隙が出来たマッギリールに対し、一瞬の内にマーガスは横からすさまじい勢いで走り込みすごい気迫で殴った。
不意打ちに吹き飛ばされるマッギリール。
「ぐああ!」
一方マーガスは怒り心頭だ。
「いい加減にしろよお前」
さらにフォルスターは倒れたマッギリールを刺し腕も切った。
「真面目にやってるやつバカにするなよ」
俺はぽかんとした。
フォルスターはマッギリールの目すれすれ数ミリまで剣を近づけ言った。
そして襟をつかんで剣ではなく素手で何発も殴った。
マッギリールの顔から闘志が消えた。
もう勘弁してくださいと言わんばかりだ。
しかしフォルスターの表情は変わらなかった。
「凄い憎しみだ……」
フォルスターはマッギリールを地面に投げ捨て剣を持った。
「止めを刺してやる。心臓を刺すだけでなく八つ裂きにして燃やす。貴様ら魔王軍は骨すら残さない!」
マッギリールは死が目の前である事を理解し震えていた。
俺はフォルスタ-のすわった切れた目が怖かった。
そして怒鳴るんじゃなく低く凄みのある声が。
しかし俺は咄嗟にマッギリールの前に出てかばった。
「何だ?」
フォルスタ-の声が低くて怖い。
後目も。
味方なのに敵意、いや殺意すら感じる。
しかし俺は勇気を振り絞った。
「も、もうその辺でいいでしょ? 動けないんだし」
フォルスタ-の目がもっと怖くなった。
変人に何か言われたような反応をしている。
「何を言ってる……? 甘い! ナターリアは僅か一七の人生を失い他の皆も苦しんでいる。少なくとも俺は魔王軍を許せない!」
「そこを何とか、無闇な残酷な殺生は良くないよ。それにあんたも憎しみに取り憑かれてしまう」
低いだけでなく声も大きくなる。
「お前に何が分かる!? 俺の憎しみと悲しみは筆舌に尽くしがたく他人に理解されるレベルじゃないんだ……俺はもう止められないんだ‼」
ついにフォルスターは切れて大声を出した。
俺はさらにもう一段階勇気を上げた。
「そ、そこを何とか!」
「……」
「憎しみじゃなく正義の心を……!」
フォルスタ-の回想に入る。
フォルスタ-は敵に捕まり身動きが取れない。
「ナターリア! 俺にかまわず攻撃しろ!」
「剣を捨てるわ」
敵は言った。
「情けない奴だ。お前が弱いせいであの女はいたぶられ死ぬ」
「うわああ!」
回想は終わる。
フォルスタ-は何か激しく迷っている。
凄まじい葛藤を内部でしているみたい。
マーガスも叫んだ。
「俺も魔王軍は憎いさ。でも今のお前は憎しみにとり付かれてる。もう憎むな。平和だった頃の事を思い出せ! 俺は親友としてお前を復讐鬼にしたくないんだ!」
「う、ううああ、はあはあ」
何と汗だくのフォルスタ-はぎりぎりで落ち着きを取り戻し剣を捨てた。
そして俺に言った。
「皆のおかげだ。俺は確かに魔王軍が憎い、憎かった。でもそれ以上に本当は自分のふがいなさが憎かったんだ。憎くて憎くて敵に当たっていたんだが、一方で魔王軍への憎しみもある。つまり二百パーセント。だからあんなに殺意や恨みを持ったんだとわかった。……お前中々熱い男だな。ナターリアの仲間なんだっけ」
と言ってフォルスターは落とした剣を納めた。
そして言った。
「ナターリア、何となく事情は分かった。快人もよろしくな」
「ナターリアが憑依したって話信じてくれるの?」
「ああ、にわかには信じがたい。しかしお前が一生懸命真摯に説明するのを見て信じた。それに必死で戦ってる奴は嘘はつかないだろう」
「ありがとう」
俺は礼を言った。
フォルスターは決意した。
「俺はもっと強くなる。マーガス、お前もだ。二度と仲間を目の前で失うのはごめんだ。ナターリアは恨んでるかもしれないが」
しかしナターリアは俺の口から彼女の声で言った。
「フォルスター、私は貴方やマーガスの力が足りなくて自分が死んだなんて一ミリたりとも思ってないわ!」
「え?」
「貴方達の仲間である事を誇りに思ってる。貴方達がいるから今の私がいるのよ! だから無理に責任を感じて追い詰めないで」
「ナ、ナターリア……」
言葉が出ないフォルスターを見てマーガスは言った。
「驚くのも無理はないか」
フォルスターは心がほぐれたように言った。
「また、君の声が聞けるとは思わなかった。君の気持ちはすごく伝わったよ。これからよろしくな。快人、マーガス、ナターリアもありがとう」
「え? ありがとうって?」
「ナターリアが死んでから俺は自分を責めしばらく自分しか信じなかった。しかし仲間の必要性を思い出した。でもナターリアは俺達が仲間である事を誇りに思ってくれていた」
マーガスは気づいた。
「そう言えばお前、さっきより肩の力抜けてるな」
「ああ、気づいた。快人のおかげだ。お前はかっこいいよ。自分の弱さを隠さず見せている。だから強さが伝わるんだ」
意外な事を指摘され褒められた。
「……」
フォルスタ-は気を取り直した。
「自分の弱さと向き合った事が一歩成長かもしれない。よし、これから一気に砦に行くぞ。あいつらは油断している。俺達はもう十分強くなった。一気に決着だ」
え、でも俺は全然強くなってない。
一気に決着ってどうすれば。
「でもまだ快人を強くしなきゃいけないな。お前には自爆がある、と言うのは冗談でこれから伝説の師匠に習いに行こう」
「師匠までの道は魔王軍の配置が強くなってる」
よし、その人に会いに行こう。
そしてこれからはナターリアだけでなくマーガスやフォルスターの信頼も得なければいけないんだ。
でもやるよ。必ず。
ナターリアは微笑みを向けた。
「でもまずい事になったわ。マッギリールが来たことで。元々快人君の事は弱い魔物と戦う事からじっくり育てる予定だったの。でもこれで軍に目を付けられてこれからは攻撃が激しくなる。名前を知られちゃったから」
「じゃあ、すぐ強くならないといけないってこと?」
「即戦力はさすがに難しい。であるならお前の白い炎の使い方を学び研究するんだ」
「剣術より魔法を?」
そうだな、俺の唯一の取り柄、白い炎にかけるしかない。
フォルスター達と大分差があるしね。
「少し休んで能力を引き出す練習をしましょう」
俺は聞いた。
「フォルスターは何故騎士学校に入ったの? 正義感とか? それとも誰かを目標にしてるとか?」
「まあ、国を守りたいとか強くなりたいとかは勿論あるよ。だけど一番の理由は王様が貴族の父さんに『凄い才能があるから鍛えて戦士にしてほしい』と依頼されたからなんだ。ナターリアや快人と同じに水晶に出たらしくて」
「へえ」
「だから、正義感とか強くなりたいとかの理由が小さく感じる程、父さんは俺に期待をかけた。何せ王様からの頼みだからな。守る者が何だとか子供の頃はまだわからなかった」
「嬉しかった?」
「まあ、それで親父は俺を鍛えると同時に愛情も注いでくれた。俺も期待に応えようと言う気持ちと自主的な気持ちが両方あって修練にいそしんだ。子供の頃から一ヶ月に一度城に行き強くなったか王様の前で見せてたんだ。二人の兄がコーチでな」
「兄貴どんな人」
「実は徹底的に二人にしごかれた。その為常に家には緊張と恐怖が支配し俺は他人とあまり話したくなくなった。そこで声をかけてくれたのがマーガスとナターリアなんだが」
「兄貴にしごかれてやだった?」
「『お前は勇者の資質あるんだろ? だったらもっとやれよ』『甘い』『お前だけ愛情受けて気に入らない』とか言われてきつかった。いつも」
マーガスは言った。
「何か、兄貴さん少し憎しみを込めたような言い方してないか?」
「ああ、俺も兄者を『俺を憎んでるんじゃないか』と思った事はあるけどおかげで強くなれた。感謝してるよ。愛情だと思ってるよ。特に『パーティはチームワークだけじゃない、個々の力を上げなきゃダメなんだ』と言う言葉に影響を受けて最近まで黙々修練してたってわけさ」
「だから一人でいる事が多かったんだよな」
「それと、期待やしごきから逃れられるのは一人の時だけだった」
「ブランコに揺られたりするの好き?」
「ブランコって何?」
「この時代ではないのか」
「でも『気に入らない』なんて家族に言っちゃダメな言葉よね。まるで本当に憎んでるみたい。う、ううっ」
「ナターリア! 泣いてるの?」
「家族にそんな事言われるの可哀そうで……私は家族仲良かったし」
マーガスは言った。
「実は俺もナターリアも兄者二人に会った事あるんだよ。確かに厳しくて冷たい感じでフォルスターへの憎しみすら感じる程だった」
「まあ、俺は愛情と解釈してるよ」
「強いんだなフォルスターは」
「いや、そう思わなきゃやっていけない部分もあったんだ」
マーガスは冗談ぽくなく言った。
「まさか、血が繋がってないとか言うオチじゃないだろうな」
「……」
「マーガス……」
「ま、その時はその時だ」
「フォルスタ-って意外ときつい冗談受け流せるんだね」
「俺もマーガスみたいに一杯食って寝れば悩みなくなるかもな」
「おいおい皮肉かよ」
「太るなよ」
「俺は食えない体質なんだって」
「俺はきちんと栄養のバランス考えてる」
「俺も考えてるよ」
マーガスとフォルスタ-は回想した。
学生時代フォルスタ-に嫌な同級生達が絡んできた。
「おうおう君か? 王様から直々に期待されてる生徒は」
「かっこいいねえ、ちょっと戦ってみようよ」
「強いとこみせてくれよ、え?」
フォルスタ-はまるでナンパを無視するごとく、不快感をあらわにして無視して去ろうとした。
「俺は疲れてるんだ。お前らみたいな暇人と違ってな」
そこへマーガスが来た。
「はーい! 貴族に見えない貴族マーガスちゃんでーす!」
「はっはっは、こいつ面白いな」
芸をやると同級生達は去った。
フォルスタ-は嫌な顔をした。
「何であんなやつらに媚びるんだ? 喧嘩しなくても良いが、プライドを持った方が良いんじゃないのか?」
「あっ、俺がプライドないとか言う?」
「無視すれば良いじゃないか」
「お前は分からないかも知れないが生きるためには媚びなきゃならない事だってあるさ」
「分かってるよ」
「それともう一つ、人間関係はお人好しが潤滑油になってるんだ。笑ってる人間が和を作るんだよ。我慢してる人間が下を支えてるんだよ」
「……お前の性格は先天的か後天的か?」
「先天的だよ。いつも笑顔でいるのが平和のキーなんだよ」
「いや、わかってるよ」
「わかってないっぽいから言った」
「俺とお前じゃ水と電気だな」
「水と油だろうが! 何で俺が突っ込む側になってるんだよ!」
マーガスは言った。
「いつも休み時間突っ伏して寝てるよな」
フォルスターは言った。
「人が嫌いなんじゃない。兄の特訓で疲れはてて一人になる時間がほしいんだ」
ナターリアが隣に来た。
「フォルスター、隣いい?」
「何だ?」
「私とマーガスは貴方が疲れていても最低一日一回は話しかけるようにしてるの」
「俺をクラスで孤立させないため?」
「それもあるけど、もっとフォルスターの笑った顔見たいからよ」
「……!」
回想を終わる。
そして俺達は人のいない野原に行き能力実験を始めた。
「はっ!」
俺が手から白い火を出す。
「もっとだ」
「はっ」
ごうごうと燃える炎が出た。
「次は火の弾を作るんだ」
「うおおお」
小さな火の弾を作る事に成功した。
「驚いた。凄い成長スピードだ」
ナターリアは俺の体内に潜っていた。
「凄い炎のパワーだわ!」




