転移
2月27日改稿しました。
最後に追記しました。
俺の部屋には今、女の勇者がいる。
しかも肉体がなく半透明の霊体状態で。
俺は相沢快人、高校二年生。
ここは東京都内の俺の実家。
現在、日本時間で二十時。
つまりここは中世ヨーロッパの世界ではなく、れっきとした現世人間界だ。
にも拘らず、その「女勇者」は、いわゆるファンタジーの世界の格好をしている。
軽装な鎧、腰に差した剣、ブロンドの長い髪。
そして文句なく美しい顔立ち。
でも我々とそんなに変わらない、普通の少女っぽいあどけない雰囲気も見てとれる。
可愛さに少し勇者の気高さがあるような不思議な感じ。
ところが
「すみません、家を間違えました」
といきなり入ってきたにも関わらず、彼女は逆に恥ずかしそうに顔を赤らめ、申し訳なさそうに窓からすーっと出て行った。
「え?」
事情が良く分からず、俺は驚いて窓を開けて外を見た。
すると空中で彼女は止まり何やら躊躇している。
どうしようかこちらをちらちら見ている。
俺はそれを見て恐る恐る彼女に声をかけた。
「あの……」
彼女は驚いた。
「は、はい!」
俺は相手に不安を与えないように努めて穏やかに言った。
「入ってきませんか何だか知らないけど」
「でも!」
遠慮する彼女に再度安心させる為優しく言った。
「ちょっとだけならいいですよ」
霊体の勇者は申し訳なさそうに入って来た。
俺は座布団を渡した。
彼女は俺と向き合い座った。
座布団の距離が初対面同士っぽい。
少女は当たり前だが相当緊張している。
後すごく恥ずかしそうだ。
まあ俺もだけど。
彼女は目をそらし、声につまっている。
「あ、あの」
俺は彼女の緊張を何とか解こうとした。
「はは、な、何か用があったんでしょ?」
彼女は絞り出した。
「実は『家間違い』って言いましたけど、貴方を探してたんです」
「え?」
「私と一緒に異世界に来て戦ってもらえませんか」
「え!」
「私の名前はナターリア。異世界エンバック国の女勇者なんです。征服されそうになっている祖国を救う為、魔王ザンブラ-討伐の旅に出ました。でも配下達に負けて死にました。そして魂はここ現世人間界をさ迷っていたんです。そんな時貴方に強いパワー反応を感じ気になって来たんです」
「強いパワー反応?」
「ええ。並大抵ではありません。知恵、力、勇気全てが。貴方は凄い才能の持ち主、そして勇気の持ち主。魔王や悪魔に勝てるかも」
「人違いじゃないですか? 俺にそんな能力は」
「いいえ、間違いないわ。この水晶が反応してるの」
「うーん……、俺は一応剣道やってるんだけど今一つで。今日もね……」
快人の回想に入る。
俺は午後剣道部で素振りをしていた。
「よお、へっぴり腰」
それは俺をいつも馬鹿にする生徒米田だった。
取り巻きの一人新見もいる。
俺はこらえて無視した。
「お前才能ないんだからやめれば? 変わんないじゃん毎日ずっと。練習ってのは才能ある奴がさらに伸ばすためにやるんだよ」
「……」
俺はこらえた。
「これ以上やっても無駄だと思うけど。俺がコーチしてやってもいい。一回二千円な。金かきあつめてこいよ貧乏人」
「米田君二千円もらったら俺にもおごって」
と新見が言った。
回想を終わる。
「ふーん」
とだけ言ってナターリアはそれ以上言わなかった。
俺は自己嫌悪をこめて言った。
「情けないだろ? 言い返せないだけじゃなく、それ以上に悔しさ自体もこみ上げないって言うか」
しかし、ナターリアの返事は意外だった。
「そんな事ないわ」
「え?」
「貴方は挑発に耐えたり怒りを抑えられる力がある。そういう人って強いのよ」
「そうかな」
自分では気づかない意外な指摘をされて驚いた。
励みにもなった。
「ね、明日一緒に学校に行かない? 憑依するわ」
何とナターリアはスーッと俺に乗り移った。
「わ、わ」
身体の中に異質物が入るような奇妙な感覚を覚える。
「私の声は外に聞こえない。脳内会話出来るわ」
そして翌日の学校。
ばれないかどきどきしていた。
いや、ばれるより挙動が怪しいとか言われそうで。
「ここが現世の学校……」
「う、うん」
「独り言いってるわ」
女生徒に噂された。
そして部活の時が来た。
案の定米田が来た。
「よお」
ナターリアはささやいた。
「私に任せて」
俺の口を完全にナターリアが乗っ取った。
そして彼女が俺の口を動かし米田に言った。
「僕と勝負しようよ」
「何?」
俺の口が勝手に動いている。
ナターリアは挑発を続ける。
「それとも怖いのかな?」
米田は挑発に乗って来た。
「やってやるよ」
周囲がざわめく中二人で武道場の中心に移動する。
そして俺と米田は向き合った。
そして、はじめの合図とともに米田は攻めたが俺には当たらなかった。
そして今度は俺が攻めた。
ナターリアが全部体を動かして。
俺の動きに皆どよめいた。
「速い!」
そして瞬く間に勝負は付いた。
面が決まった。
「一本! 勝負あり!」
皆驚いていた。
部活が終わりナターリアは言った。
「どう? 自信付いたでしょ?」
「でもあれは君が操作しただけで」
「いいえ、あれは元々貴方がそれだけの動きが出来るからこそなのよ」
「借りが出来ちゃったね」
「見ず知らずの私を家に入れてくれて話まで聞いてくれたんだから当然よ」
「さすが勇者、人助けしてるね」
ナターリアはふいにうつむいた。
寂しげに何かを気にするように。
「…私のしてる事なんて偽善かもしれないけどね」
「え……?」
彼女は何か言いたそうで止めていた。
いや言いたくなかった事なのかもしれない。
何かは分からないけど。
俺達は家についた。
「じゃあ、協力するよ」
「本当⁉️」
「うん、約束する」
「ありがとう! 貴方は恩人よ。お礼に私に出来る事があったら言って」
「うん、じゃあ俺と友達になってよ」
「え、うん、いいよ! 勿論!」
「ありがとう。はいコーヒー」
「暖かい」
「霊体で飲めないのに?」
「うん、とても暖かくておいしいよ」
「あ、ありがと、ところでどうやったら異世界行けるの」
「あ、分からない」
「え!」
「私は死んで来たから」
「じゃあ死ぬしかないって事? よし」
「え?」
思い立った俺は家を飛び出した。
「どうしたの?」
俺は路地まで走った。
そして俺はナターリアのコントロールでなく自分でトラックの前に飛び出した。
「ええ!」
眼前にトラックが迫る
俺は覚悟を決めた。
「危ない!」
寸前でナターリアが俺の体を操作し、激突は免れた。
非常にすれすれぎりぎりで。
結構怖かった。
ナターリアは叫んだ。
「何でこんな無茶するの!」
「死ぬしか方法なさそうだから」
彼女は申し訳なさで泣きそうだった。
「もしかして私が責任負わせたから? ごめん! 快人君ごめん! あなたを追いつめた。やっぱり私一人で」
俺は明るく慰めた。
「いや、君は異世界の国の人達の為に戦ったんだろ? 俺がやらないと皆が不幸になると思った。だから命を捨てようと思ったんだ。ちょっと怖かったけど」
「ええ? 顔も知らない他国の人達の為に?」
「うん」
突如俺の体が白い光を発し始めた。
「これはもしかして勇者の証明? この人になら命を、背中を預けられるかも知れない」
ナターリアは話題を変えた。
「自殺だけは駄目!」
その時俺の頭に謎の声が聞こえた。
「自分の命を犠牲にするほどの勇気ある者よ。教会に行け。そこで祈ればそなたの転移スキルの記憶が戻る」
「えっ、何?」
「謎の声が聞こえて『勇気ある物よ教会に行け。君にはスキルの記憶がある』って」
「何か怖い。神様かしら? 貴方に転移スキルの記憶があるって?」
「何の事だろう」
「そうだ! 着いた場所は教会だったわ。もしかして私の所持する転移スキルの自動発動?」
「転移スキル?」
「勇者が使える、命の危機に発動するはるか遠くに転移出来るスキル、教会の聖なるエネルギーで発動された?」
「教会がキーなんだね。良し行こう」
道中会話した。
「もう少し異世界や君の事聞かせて。君は何故勇者になろうと思ったの?」
「説明不足でごめんなさい。騎士学校にいた時、この前貴方に見せた水晶で勇者の才能があるってわかって、国を守る戦士になってくれって王様に呼ばれて直々言われたの。私は首席で二席と三席の男性が後にパーティになって二人とも生きてる」
「選ばれて嬉しかった?」
「うん。嬉しかった。ただやっぱりプレッシャーもあったねすごく」
「そりゃ、大変だよね。期待に応えようと頑張っちゃったって事か……魔王ってどれくらい強いの?」
「人間の千倍位……例えば攻撃一発で町を滅ぼせる。配下もものすごい数で、野に放たれた魔物のせいで人間に安全がなくなったわ。幹部たちもとても手強いわ。魔界から来たんだけど神の世界にまで侵攻した事もあるらしいの。で神達から力を奪ったらしいの」
「うわー」
「外見は福の神が悪魔の兜つけてる太った身長五メートルのやつ。で占領した城を改造して居座ってるんだけど、わりと直ぐに城や町に攻撃を仕掛けられる位置にあるから始末が悪いのよ。計画もあるけどきまぐれに町や人間を襲撃して来たりね」
「スケールがすごい……とんでもなさそうだね。これからそんなのと戦うんだうおー。今の千倍強くなんなきゃいけないんだ」
「方法なんだけど、私が貴方に憑依した状態で弱い魔物から大勢倒して貴方のレベルを上げる計画。あなたは素養があるから伸びも早い。私はレベル四十近いから大量の魔物を倒して荒稼ぎして貴方に還元できるわ」
「そうか、その方法ならかなりの速さで強くなれるんだね。君が憑依してるならではの画期的育成計画だね。人間の千倍って気が遠いけど」
「あなたは最初はレベル一だけど私が憑依すればかなり強くなれるからいきなり強い魔物とも戦って経験をかなり稼げるわ」
「俺が強くならないと……魔王達を誰かが倒さなきゃ平和は来ないんだよね。強い人は他にいないの? 君の仲間とか皆戦ってるの?」
「私は最後の希望だったの。男の勇者は皆殺されてしまい女の私だけが最後の砦だったの。でも国の皆は『女で悪人に勝てるの?』『怖くなったら先に逃げるんじゃ』『男は他にいないのか』『期待できない』『無理だね』と噂してたわ」
「嫌だね」
「でも私は国の人を守る為頑張った」
「そんな事を言われても戦ったんだ」
「負けたけどね」
「いや、君の方が馬鹿にした人よりずっと強い人だよ」
「ありがとう。快人君って人を褒めるの上手いね。私は偽善者的だから」
「さっきちょっと言ってたけど偽善ってどう言う事?」
「昔から、私は貴族だった時、町で飢えてる人にお金をあげた事があるんだけど『上から目線だ』『めぐんでもらいたくない』『偽善者』とか言われたの」
「……」
「で、偽善じゃない、本当の親切や優しさを持てるように努力した。でも、それが何なのかは突き詰めようとしても分かりにくかった。人の事を優先に考えてるようで本当は自分の命や認められる事が一番だと思ってたんだと思う、たぶん」
「……」
「だから本当の親切や優しさってなんだろう、自分の生き方が偽善じゃないか、自分で自分を褒めたい、または他人に褒められたいだけなんじゃないかっていつも疑問に感じてた」
「……」
「快人君は何故剣道始めたの? 強くなりたいとか誰かの影響とか」
「何となくなんだ」
「え……?」
「本当に。何か勉強かスポーツ皆やってるから俺も何かしようと思って。でも一番になりたいとか誰かにあこがれてるとかじゃないんだ。皆がやってるから健康の為程度で」
「快人君は立派な目標とかあるんだと思ってた」
「とんでもない。大学もまだどこ行くか決めてないレベル。だからこんな俺に君の代わりが務まるかと不安だった。仕事とか何かしようと思ってこの前初めてボランティアやってみた」
「ボランティア?」
「うん。ボランティアは勿論食っていく事は出来ない。でもね、利害関係なしの奉仕を感じられるんだ」
「利害関係なしの奉仕! それよね! 私それに気づきたかったんだ。ボランティアやりたくなった」
「後郵便の仕事をしたくてアルバイトした。手紙で人の想いを伝えてるみたいで」
「手紙を配りたいって言うのもいい夢ね。強くなるとかとまた違って」
「それと、人間はみなどこか自分がいい人だと思いたくて親切をしてるところがある。偽善がない事は探す方が難しい。それに君が与えるだけでなく、君自身が本当の優しさを求めてるんじゃないかと思う」
「さっきから黙ってたのはずっとそれを言いたかったの?」
「俺は人がしゃべってる時遮るの嫌いなんだ」
「えらい」
「で、もし、だよ? 悪者を倒しても君は霊体のまま?」
「そう、ね」
「そんな!」
「いいわ別に」
「よ、良くないよ! 報われなさすぎじゃないか! 君は頑張ったんだから自分の幸せ考えてもいいと思う。他人の事ばかりじゃなくて」
「そこはかとなく他人を思いやれるのが良いところね」
「いや……俺、魔王を倒すのもあれだけど、もしナターリアが生き返れる方法があるなら生き返らせたい。これは『必ず』って言えないけど。俺は約束破りや安請け合い大嫌いだから。でも出来れば必ず生き返らせたい」
「ありがと」
牧師さんは迎えてくれた。
そして二人で祈った。
「気が付いたらこの教会に魂だけがいたの」
「もしかしたら神様が君の魂を現世に送った?」
「そうかも知れない。勇者には命が危機に陥った際に自動発動する『別次元転移』と言う最上級スキルがあるの。つまり今は霊体である私のエネルギーをぎりぎりまで死、いえ消滅に近づけて発動させるのよ」
「危険すぎるよ!」
「でも、それしか方法はないわ。貴方にもそれを使う素養があるはず」
「俺に転移能力?」
「うん。ただしすごいエネルギーを使い寿命を縮めるわ。でも貴方なら出来る、と思う。教会は聖なるエネルギーを増幅させるわ」
「思う…」
「私も最大限カバーする! 二人で力を合わせましょう!」
俺はナタ-リアと手を繋いだ。
ナターリアはみるみるエネルギーが減る。
「君は大丈夫なのか!」
「信じて」
「わかった!」
「私は頼んだ立場上、絶対に貴方を死なせる訳にはいかない。貴方の事は私が責任を持って全てフォローするわ。もし貴方が命を失ったりしたら私を幾らでも憎み恨んで!」
「全部自分のせいと思っちゃだめだ。自己責任を持ちつつ他人にゆだねるんだ」
「うん、わかってるんだけどね」
そして俺の体は半透明になり中から爆発するような感覚になり遂に俺の肉体は消えた。
「うわ!」
「きゃあっ!」
ナタ-リアの魂も見えなくなった。
そして気が付くと異世界にいた。
「転移成功だわ!」
「ナターリアの魂も無事」
ナターリアの無念を晴らし希望を叶えたい。
俺はサポート役でもいいから。
魔王軍を倒し、ナターリアを生き返らせる。
約束は絶対守る。
俺の脳に過去のある出来事と青年の姿がかすめた。
「快人ごめん! 僕は年上の従兄弟でありながら君にお金を約束通り返せなかった!」




