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第51話 天才は平凡女が美男子になびかない理由を知りたい

寮長にテラスの話を聞いて以来、シンは更にテラスが気になるようになってしまった。

相手の男、アンセムについても気になった。

そこで、立食会で遠目からアンセムを見つめている、自分と面識のない女に話しかけてみた。


「アンセムさんって、マジいい男だよな。俺、生物学専攻してるけど、同じ男から見ても憧れるよ」


後は勝手に女がペラペラと喋ってくれる。

アンセムに注目する女は多く、場所を変えては同じ様な会話を繰り返すうちに、アンセムの人物像が掴めてきた。

まず、外見は見ての通りで、女の気をひくには充分すぎるほどだ。

しかも、女に相当優しいらしい。穏やかで、人当たりも最高にいいようだ。

以前は女の誘いなら断らず、紳士的に応じていたという。

ミユウという特別な相手がいたようだが、どうやら破局したらしい。

そんなことがわかった。


だから、今度はミユウという女性を探すことにした。

すぐに見つかった。同学年の女好きにたずねたら「おまえ、まさかアプローチするつもりじゃねーだろうな」と冗談も大概にしろと言わんばかりに笑われながらも教えてくれたのだ。

笑われたときはムッとしたが、ミユウを見て納得した。

女に興味がないシンでも、ハッと目を奪われそうなほどの美貌だからだ。

寮長の話が本当ならば、アンセムはテラスを好きになり、ミユウと別れを決意したことになる。

信じられなかった。


本当にアンセムはテラスに片思いなのだろうか。

寮長からの情報だから真実なのは確かなだが、現実味がない。

というのも、2人が一緒にいる場面というのを殆ど目撃しないからである。

図書館で抱き合っている2人を見たのが最後だ。


そんな中、グループ研究3度目の打ち合わせが行われた。

3回目ともなると、それぞれの担当分野も随分と掘り下げたものとなる。

矛盾点や改善点を指摘し合い、次回は実験することになった。


「おい、ちょっといいか」


解散後にリリアと一緒に部屋から出るテラスに、シンは声をかけた。


「なに?」


テラスは立ち止まって振り向いた。

シンのテラスへの当たりが強いことを心配して、リリアも立ち止まる。


「この前、寮長に呼び出された」


「あ、そうなんだ…。それはお疲れ様」


話の内容を予測し、心底同情するテラス。

シンはその先を話そうとして、リナに「他言無用」と言われたことを思い出す。


「あ、リリアには関係ねー話だから、行っていいぞ」


「えっらそーに。心配でシンと2人きりになんてできないわよ。テラスいじめんの、いい加減やめなさいよね」


「いじめてねーよ」


ムっとするシン。自覚がないのだ。


「私、図書館に寄ろうと思ってたんだけど、そこでもいい?」


テラスはシンに聞いた。

図書館にはあの男もいるかもしれないと思ったシンは了承する。


「俺は構わねーよ」


「じゃぁ、歩きながら行こう」


「テラス、私も一緒に行こうか?」


「大丈夫大丈夫、シンのいじめにも慣れたから」


明るくリリアに返すテラス。


「いじめてねーよ!」


シンは憮然とした。

打ち合わせスペースのある建物から出て、テラスとシンはリリアと別れる。


「で、話って?」


テラスは早速シンに聞いた。


「寮長が言ってたんだけどよ、アンセムって男がテラスに片思いって本当か?」


率直に質問するシン。


「はぁ!?」


思ってもみない質問に、素っ頓狂な声をあげるテラス。


「なにそれ」


「寮長が言うんだから、本当なんだろ?」


(リナさん、何でシンに言っちゃうの…)


テラスは脱力した。


「だったら何?」


「その返し、認めたってことだよな?」


「だから、何?」


「去年は恋愛に興味ゼロだったってのも本当か?寮長から問題児扱いされてたってのも?」


「それもリナさんが言ったの?」


テラスは質問攻めにちょっとうんざりした。


「そうだ」


「でも、なんで今更確認?前にシンが寮長の話したとき、同調したら勝手に怒ったのシンだよ?」


「それは…」


言い淀むシン。


「あんなラブシーン見せられたら、普通できてるって思うだろーが」


しかし、すぐに強気に言い返した。


「人の話聞こうともしないで、勝手だね」


テラスは呆れた。


「なんで、あいつじゃダメなんだよ」


「何が?」


「あれだけの色男が、美女振ってまでテラスに本気なんだぜ。どうして応えてやらねーんだ?」


それは、テラスにとって酷な質問だった。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「不思議だからだよ、純粋に。色男に口説かれたら女はイチコロだろ?」


「相変わらず単語の選択がちょっと古いね」


「話逸らそうとするなよ」


まるで尋問のように感じ、テラスもカチンときた。


「シンの質問に答えるかどうかは私が決めるよ。その質問には答えたくない」


きっぱりと言うテラス。

突き放されて、シンの表情は強張った。

テラスは構わずスタスタと歩き続ける。

シンはその横をついて歩く。

しばらく無言で歩き続ける2人。

沈黙に耐えかねて、先に口を開いたのはシンだった。


「去年のテラスに会いたかった」


ポツリと本音を漏らす。

いつもと違う声のトーンに、テラスは立ち止まってシンの顔を見た。

それに気付き、シンはすぐに表情を引き締めたが、一瞬見せた気弱な顔をテラスは見逃さなかった。


「どうして?」


少し態度を柔和にしてシンに聞く。


「別に!なんでもねー!」


「そう、ならいいんだけど」


即引き下がるテラス。また歩き出す。

それに物足りなさを感じて、シンは白状した。


「去年のテラスなら、俺の気持ちわかってくれるんじゃねーかと思ったからだよ」


「シンの気持ちって?」


聞き返されて、回答にシンは躊躇した。

自分の弱さをさらけ出すような気がしたからだ。


「言いたくないなら、無理に聞かないよ」


またもやあっさりとテラスは引き下がる。

引き戻したくて、シンは言葉を発した。


「周りが激変する違和感ってなかったか?」


「違和感?」


「ここにきたら、どいつもこいつも恋愛恋愛だ。俺はそれについていけねー。っつーか、ついて行きたくねー」


シンはぶっきら棒に言い放つ。


「そういうの、わかるよ。前にも私話したよね?好きって気持ち、良くわからないって」


そうだ。テラスは確かに言っていた。あの言葉は、全て頷けるものだった。


「そ、そうだけどよ、俺はあの男とデキてるって思ってたから、何言ってやがんだって思ったんだよ!」


自分の非を認めたくなくて、つい口調が強くなるシン。


「だから、デキてないってば…」


「ああ、そのことには納得した」


「で、話ってそれだけ?」


話している内に、図書館の入り口についた。


「ああ…」


そう聞かれると、他にも色々と聞きたいことがあるような気がしてくるシンである。

今まで、こんな話をできる相手などいなかったのだ。


「それじゃ、私図書館寄るから」


「あ、俺も」


反射的に言うシン。本当は図書館に用はない。


「ここまで来たから、資料探しだ」


適当に理由を付け足すシン。

テラスはふ~んと頷いて、図書館の扉を開く。


「カイさん、こんにちは」


そして、カウンターにいたカイに挨拶をした。

シンはどうしようかと一瞬悩んだ。まだテラスと話をしたい気もする。

考えながらカイの前を通り過ぎようとした。


「おい」


そこへカイが呼び止める。


「は?」


立ち止まり振り向くシン。


「おまえがシンだな」


「はぁ…」


カイはシンの顔をじっと見た。


「テラスをいじめるんじゃないぞ」


「はぁ!?」


初めて声をかけられ、そしてとんでもないことを言われて驚くシン。


「カイさん…誰に聞いたんですか…?」


「なんであんたにそんなこと言われなきゃならねーんだ」


不機嫌になるシン。


「目上の者への礼儀がなってない奴だな。少し気をつけろ」


「ウゼっ!」


そしてシンは背を向けて行ってしまった。


「カイさん、あれじゃぁ火に油ですよ」


困った顔のテラス。


「そうか?テラスこそ警戒心が薄いんじゃないのか?」


「誰から何を聞いたんですか?」


「色々と。僕の情報網は割と広いからな」


「大丈夫ですよ」


「本当か?」


テラスの顔をまじまじと見るカイ。


「シンの気持ち、少しわかるし」


「どういうことだ?」


「う~ん、うまく言えませんけど」


「なんだ、そりゃ」


あまり細かいことを話すと、シンのプライドを傷つけてしまうだろう。

テラスはそう判断して言葉を濁した。


「ま、テラスがそう言うならな。困ったことがあったら僕に言えばいい」


意外だが、テラスはシンを男として警戒していないようだ。

心配していたカイだが、とりあえず見守ることにした。



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