↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/70

第48話 天才に絡まれても平凡女はめげずに趣味に走る

テラスとシンが(というより一方的にシンが)言い合ってから1週間が経った。

今日はそれぞれ担当した課題を発表し、足りない部分を指摘し合い、より一層個人の研究を進めるための打ち合わせだった。

ここで、テラスはシンにこてんぱんにされる。

テラス以外のメンバー2人も、シンにこ矛盾点や問題点を指摘されまくったが、テラスのときだけ異常に辛辣なシンだった。


しかし、テラスに異論はない。

言い方こそキツいが、指摘する内容は至極真っ当なのだから。正しい指摘があってこそ、もっと深く掘り下げることができる。

テラスの意欲は上がった。


一方、リリアとセイラスは、テラスに対するシンの当たりが強いことに不満を感じていた。

2人はもちろん打ち合わせ中にシンをたしなめたのだが「そんなことねー」の一言で一蹴されてしまった。

そもそも、テラス本人があまり気にしてない様子なので、それ以上の追求はできなかった。


打ち合わせが終わり、テラスはその足で図書館へ向かおうとした。

そこへリリアが声をかける。


「テラス、大丈夫?シンと何かあった?」


「ああ、この前食堂でちょっと言い合いになっちゃったんだ」


テラスは正直に答えた。


「言い合いって、なんで?」


「う~ん、なんでだろう?」


テラスから見たら、シンは勝手に怒っているだけなのだ。


「ふぅ、テラスに聞いた私がバカだったわ…」


ため息をつくリリア。


「気遣ってくれてありがとうね」


「ううん、いいの。何かあったら言ってね。チームなんだから」


「うん」


テラスは笑顔で頷いた。


「このままお昼行く?」


「え~と…、ごめん、今すぐ調べたいことが色々できちゃって、図書館行ってくる」


「やっぱりテラスは相変わらずね」


リリアは肩をすくめた。


「じゃぁ、またね」


そして手を振って別れた。


-----------------------


「カイさん、こんにちは」


「おお、テラスか」


テラスは挨拶だけして、そのまま通り過ぎようとした。


「おっとテラス、ちょっとカウンター代わってくれないか?」


「え?どうしてですか?」


「急に会議に呼ばれてな。不在にしてもいいんだが、いてくれると助かるんだが」


「え~と…、本探しながらでもいいですか?」


一刻も早く疑問を解消したいテラス。


「テラスも急ぎか?無理しなくてもいいぞ」


「急ぎじゃないんですけど、今頭に浮かんでいることを早く消化したくって」


「課題か?」


「はい」


「それなら、僕はまだ20分くらいはここにいられるから、先に本を探しに行ってきて大丈夫だぞ」


「そうですか、じゃぁ行ってきます」


くるりとカイに背を向け、テラスはいそいそと生物学のコーナーへ向かった。

カイは会議の準備をし、残りの時間は図書館の仕事を少しでも片付けることに費やす。


「こんにちは」


そこへアンセムが来た。


「おお~、アンセムか。そうだ、おまえに代わってもらうか」


カイは大歓迎モードだ。


「何がですか?」


「カウンター業務だ。僕はこれから会議に行かなきゃならないんだ。

さっきテラスが来て、彼女に頼んだんだが、忙しいところ引き受けてくれてな。

アンセムが引き受けてくれれば、テラスもその方がいいかと思ってなぁ」


「いいですよ」


二つ返事でアンセムは引き受けた。


「そうか、ありがとう。2時間かからないで戻れると思うから、それまでよろしくな」


「はい」


「ついでに、後ろの本の返却手続きもやってくれると、僕は嬉しいぞ」


「は…はい…」


「じゃ、頼む」


カイはカウンターから出て、入れ違いにアンセムが中に入った。


「あれ?」


テラスがカウンターへ戻ると、カイでも、不在の札でもなく、アンセムが座っているので驚いた。


「なんでアンセムがいるの?」


「やぁ、テラス」


「あ、こんにちは」


テラスは慌てて挨拶を返した。


「カイさんは?」


「もう会議に行ったよ」


「私が遅くなっちゃった?」


「いや、オレがカウンターを頼まれたんだ」


「え?」


目が点のテラス。


「私も頼まれたよ」


「ああ、でもその後オレがここに来たら、オレの方が適任ってね」


あえて、カイの発言を細かく言わないアンセムである。


「いいの?」


「特に急ぎの用はないし、ま、いつものことだよ。テラスこそ、例の研究で忙しいんじゃないか?」


「忙しいというか、今日打ち合わせしたら調べたいことがたくさんできちゃって」


「そうか」


ふふ、と笑顔になるアンセム。熱中するテラスも可愛い。


「それ、貸し出しだよね。手続きするよ」


「ありがとう。でも本当にいいのかな?」


本を渡しながら、テラスは聞いた。


「いいよ。引き受けたのはオレだし。どうしてもダメならきちんと断ってるから」


「うん。じゃぁ、今回は甘えることにするね」


「そうか、嬉しいな」


そして、アンセムは手続きを終わらせ、本をテラスに渡した。


「ありがとう」


本を受け取り、テラスはお気に入りの席に座った。

ここでじっくり読み、足りないものがあれば、また借りて行こうと考えたのだ。

アンセムはテラスを優しく眺めつつ、返却整理にとりかかった。


(なんであいつがいるんだ?)


テラスに遅れて図書館に来たシンは、カウンターに座るアンセムを見てなんとなく嫌な気分になった。

何も言わずに通り過ぎる。

書物のコーナーに行こうとしたとき、席で読書に集中しているテラスに気付く。


(早速動いているのか)


さっきの打ち合わせでは、我ながらテラスにはキツクあたったと思う。

喧嘩別れのような状態のままだったし、なぜかテラスを見るとイライラした。

研究の途中経過については、けちょんけちょんに不備を指摘しまくったのだが、めげないテラスに少し感心するシン。


結局テラスに声をかけず、自分がほしい本を探しに行った。

本はすぐに見つかったのでカウンターへ行き、無言で本を差し出す。

アンセムは「貸し出しですね?」と確認をとって、手続きをする。

そんなアンセムをしげしげと観察するシン。

確かに美しい男だと思う。

サラサラとした金髪、一見女性かと見間違えそうな繊細な顔立ち、それでいて体はしっかり引き締まっていて、いかにも女共が夢中になりそうだ。

テラスも例外ではないのだろう。


「どうぞ」


手続きが終わり、本を手渡されるとき、シンとアンセムの目がバチリと合った。

思わず睨んでしまうシン。

アンセムは挑戦的な眼差しに気付いたが、あえてそれに気付かない振りをして、目を逸らし、自分の作業を続けた。

シンも何も言わず、図書館を出ようかと思ったが、思い直し、テラスのいる席へ向かう。


「へ~、早速頑張ってるじゃねーか」


テラスが読んでいる本、そしてテーブルに置かれた残り2冊の本は、シンの指摘を解明するのに適した3冊だった。


「あ、シン」


声をかけられ、初めてシンの存在に気付くテラス。


「シンも本を探しに来たの?」


「あ~、これ」


と何気無く持っていた本を見せるシン。


「ふ~ん」


そしてテラスは再び読書に集中した。

シンはなんだかつまらない。


「なんだ?怒ってるのか?」


「え?なんで?」


「なんでって、無視してんじゃねーか」


「あ、ごめん。これ読みたくて」


(なんだ、俺がうるさく言ったこと本当に気きにしてねーのか?)


拍子抜けするシン。


「で、なに?」


「何って…」


聞かれてシンは口篭った。別に用があって話しかけたわけではないのだ。

そもそも「二度と話しかけない」と言ったのは自分である。


「さっき俺が言ったこと、ちゃんと理解してるのかと思ってさ。足引っ張られたらたまんねーからな」


慌てて話しかけた理由を作ってみた。


「う~ん、それはこれからかな」


「やれやれ…」


シンは大げさに肩をすくめ、テラスが読んでいる本に手を伸ばした。


「その本見せてみろよ。要点教えてやるから」


「あ!やめてよ。今読んでるんだから」


テラスはさっと避けた。


「なんだよ!後から違ってたりしたら、こっちが迷惑なんだよ」


ムキになるシン。


「自分で調べたいの」


「俺の方が成績が上なんだから、従ってりゃいいだろ!」


「はぁぁ!?!?」


そんな2人のやりとりが始まる少し前のこと。


「あれ?今日アンセムさんなんですか?」


今度はナミルが図書館に来た。


「こんにちは、ナミル」


「こんにちは」


「少しだけね、カイさんが会議に行っている間の代わりだよ」


「あの人、本当に人使い荒いですね。人使いというか、アンセムさん使い」


ナミルは未だにカイから仕事を頼まれたことがない。


「は…は、ちょっと笑えないかも」


「あれ?シンがいる」


そこでナミルはシンを見つけた。

同じ学年で一応生物学も専攻しているため、シンのことを知っていた。


「どうしてテラスさんといるのかしら」


素朴な疑問がそのまま言葉に出る。


「新薬のグループ研究でチームを組んでいるそうだよ」


「あ、そうなんですか。でも、仲悪そうですね」


「え?」


そこでアンセムは改めて2人を見た。何やら言い争っているように見える。


「なんでシンに従わなきゃいけないの?これは授業の一環でしょう?私はシンの部下でも家来でもないよ」


テラスは心底呆れた。


「可愛げねー女」


不機嫌を隠さないシン。

テラスは3冊の本を全て持ってカウンターへ向かおうと席を立った。これ以上邪魔されたくない。


「待てよ」


シンは言葉と同時に、無意識に手が出た。テラスの腕を掴む。


「あっ」


いきなり腕を掴まれて、持っていた本を落とすテラス。

同時に、以前リツにされたことを、まるでフラッシュバックのように思い出す。


「ヤダ!」


恐いと思った。


「どうした?」


そこへアンセムが駆けつけた。

ナミルはカウンターの前で様子を伺っている。


「なんでもねーよ!」


シンはテラスの腕から手を離し、無言で図書館から出て行った。


「テラス、大丈夫か?」


「うん。ビックリしただけ」


「何かされたのか?」


「ううん」


シンはテラスを引きとめようとして、腕を掴んだだけだ。頭では理解できても、なぜだかあの瞬間は恐かった。


「個室借りようかな」


テラスが本を拾おうとしたら、その前にアンセムがささっと拾い集めてくれた。


「ああ、今鍵を出すよ」


そして2人でカウンターに戻る。


「大丈夫ですか?」


ナミルはまだそこにいた。


「あいつ、プライド超高いですから、テラスさん気をつけたほうがいいですよ」


テラスのことは相変わらずムカつくナミルだが、シンのことはもっとキライだったりするのだ。

生物学に入った当初、シンから見下され、馬鹿にされた。


「ありがとう。気をつけるね」


忠告を素直に受け入れるテラス。


「テラス、102でいいかな?」


窓のある個室の番号だ。


「うん。ありがとう」


テラスは鍵を受け取り、本を持って個室へ向かった。それを見送ってからナミルは言った。


「大丈夫かなー。あの人、なんでもバカ正直に言うから、シンとトラブル起こしそう」


あの人とは、当然テラスのことである。


「厄介な奴なのか?」


「とにかく自分が一番じゃないとイヤみたいですよ。自分は特別な人間とでも思ってるんですかね。

確かに頭はいいけど、人としてどーなの?って感じですね。私は大っキライなんです」


「そうか…」


「まぁ、女に興味ないみたいなんで大丈夫だとは思いますけど、アンセムさん、注意して見てた方がいいですよ」


「ああ、ありがとう」


アンセムは深刻に頷いてから、表情を和らげた。


「ナミルがテラスを心配してくれるとはね」


「べ、別に!心配してませんよっ!じゃぁ、お仕事頑張ってください」


真っ赤な顔を隠すように、ナミルは本を探しに行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。