32.あいつらそろそろいい加減にくっつけちゃおうぜ会議とVSピエロ怪人 その2
回転空中ブランコの目の前で、魔法少女ポイズネスは気合を入れていた。
「さあ、わたしはこれに乗って苦手を更に克服したいと思います! 青蓮さん。付き合ってください!」
一応空を飛べるようになったとはいえ、まだ彼女は苦手意識があるらしい。ただ、今はそれを言い訳にしているだけで、単に青蓮と遊びたいだけかもしれない。
子供達に混ざって、二人はブランコの椅子に座る。魔法少女がいる事に、子供も大人も喜んでいるようだ。実は良いファンサービスになっているのかもしれない。やがてブランコが回転をし始める。小さな悲鳴が聞こえる。もっともそれは歓喜の声とあまり区別がつかなかった。
やがてブランコの速度が速くなっていく。
「平気そうじゃない? ポイズネスちゃん」
と、青蓮がポイズネスの様子を見て言う。彼女はむしろ楽しそうにしていたのだ。自分で飛ぶのじゃなければ、やはりあまり怖くはないらしい。
「青蓮さんのお陰です! 楽しいです!」
と、彼女はそれに返す。彼女は青蓮の方ばかりを見ている。もう少し景色も楽しめと言いたい。不意に話しかけられた。
「あんまりはしゃぐと危ないですよぉ」
妙な音質の声。
恐る恐る声の方に向くと、やたらとふっくらとしたボディのピエロがいて、大きな身体を無理矢理にブランコの椅子に押し込めて窮屈そうにしていた。ポイズネスを見るとニタァと笑う。
彼女は首を傾げた。
「テーマパークのアルバイトさんですかね? ダメなんじゃないですか? アルバイトさんがアトラクションに乗っちゃ」
ピエロは頷きながら返す。
「うんうん。そうかもしれませんねぇ。ただ、お嬢ちゃんがあまりに魅力的なもので、堪え切れませんでしたよ……
食べてしまいたい!」
それを聞くなり青蓮が言う。
「ポイズネスちゃんが魅力的? きっとそいつよ、私達が探している変態ピエロは!」
「え? それはどういう意味ですか?」と、それにポイズネス。
その次の瞬間、ピエロは異様に思えるほどに大きく口を開いた。口はどんどんどんどん大きく大きくなっていき、やがてはポイズネスを一呑みできる程までに達して、彼女に迫っていく。
「これ、ダメなやつじゃない?!」
青蓮はそう叫ぶと素早くブランコの拘束を解き、ピエロに向かって飛び蹴りを放つ。蹴りは見事に大きくなったピエロの顔面にヒットしたが、まるでクッションのように柔らい。凹んだだけに思える。ただ、それでもピエロは「ムヒィ」と声を上げ、後方に吹き飛んでいった。ピエロは回転空中ブランコのロープを器用にすり抜け、回転軸になっている太い柱に着地する。視線をポイズネスに向けている。明らかにまだ襲う気でいるようだ。
「ポイズネスちゃん、今のうちに逃げて!」
そう青蓮は言ったが、ポイズネスは「無理ですよ~。こんなに速く動く乗り物から降りるのは~」とそれに返す。
歯を食いしばると、“なら、やるしかない!”と言わんばかりに青蓮は跳ね、回転軸の太い柱でポイズネスを狙っているピエロに向っていった。
「熱烈に飛び込んで来てもらって悪いのですが、あなたは私のストライクゾーンからは外れています」
ピエロはおどけた仕草でそう言う。
「私も、デートはご遠慮願いたいわね!。留置所で警察官に相手をしてもらって!」
拳をピエロの顔面に向かって放つ。ピエロはガードをしたが、動きは素人のそれだった。
“これならいけそう!”
そう判断したのか、青蓮が流れるような動きでボディに拳を入れ、ガードが下がったところに肘を顔面にヒットさせる。そして、最後に顎を蹴り上げる。足場がなくて力が入らないとはいえ、普通の人間なら、死んでいてもおかしくはない攻撃だ。
しかし、ピエロは身体全体を垂直に大きく回転させただけで、まったく平気な様子でニヤリと笑う。
「残念ですが、私はこの世界の人間ではないので、警察は管轄外です」
「そのようね!」
空中戦では倒し切れないと判断したのか、青蓮は素早くピエロの上に回り込もうとした。地面に叩き落そうと考えたのだろう。だが、ピエロは肉弾戦では分が悪いと判断したようで、中心軸になっている太い柱に重力を無視して垂直に着地すると、駆けて反対側に逃げていってしまった。
「こら! 待て!」
青蓮は追いかける。
が、直ぐに追いかけたにもかかわらず、ピエロの姿は見えなくなっていた。
「消えた?」
戸惑った様子で周囲を見渡す。すると突然、柱の中から手が出て来て、彼女を後ろからスリーパーホールドのようにして捕まえる。鼻息を荒くして言う。
「良い匂いですねぇ」
が、接近戦が得意な彼女には効かない。完全に首が絞められる前に腕を滑り込ませると、もう片方の腕をその空間に入れ、弾いてしまう。そして、
「このおぉ!」
という声と共に腕を掴んでピエロを投げた。回転空中ブランコの外に投げ飛ばす気だ。が、ピエロはブランコのロープを掴んでそれに耐える。見た目は相当に重そうに見えるのに、まるで風船がロープに絡まったかのようにほとんどロープは動かなかった。ピエロは掴んだロープで身体を回転させると、その勢いを利用して飛んでいった。ポイズネスがいる方向だ。
「させるか!」
と、青蓮は叫ぶと、柱を蹴って加速して直ぐにピエロに追いついた。そして上方向から回転して蹴りを浴びせる。
「うにょーん!」
という妙な悲鳴を上げながらピエロは地面に向かって高速で落ちていった。が、叩きつけられはせず、まずで水に潜るように地面に潜っていってしまう。
「なっ!」
青蓮は追いかけると、地面の下から襲われないように、慎重に低空飛行をしてピエロの気配を探した。が、見つからない。
何処かへ逃げてしまったのだろうか?
首を傾げる。
しかし、青蓮の背後では、まるでサメ映画の背びれのような髪のようなものが地面の中から出ていた。青蓮はそれに気が付かない。背びれは彼女の視界を避け、巧妙に泳ぎ回っている。
やがて、回転空中ブランコのアトラクションが終わり、ポイズネスの乗っているブランコが降りて来た。
「青蓮さん。大丈夫でしたかぁ?」
ピエロと闘っていた青蓮を、ポイズネスは心配しているようだった。そのタイミングだった。いきなり地面の中から巨大なピエロの顔が浮かび上がってきたのだ。まるでサメ映画の巨大なサメのようにポイズネスに襲いかかった。
「なあ!?」と青蓮。
ピエロの顔は「いただきま~す!」という声と共にポイズネスを一呑みにしてしまう。ピエロは元のふっくらとしたボディの人間の姿に戻ると小躍りをする。
「よーっし、よしよし、よーし、よしっ!
魔法少女を一体ゲットしましたよぉぉ! 私の胃でたんまり愛撫して味わってあげますからねぇ!」
そして、ピエロは青蓮の方を見るとあっかんべぇをしながら言う。
「残念でしたぁ。あの娘は私の腹で捕えちゃいましたぁ。これから逃げまーす」
しかし、青蓮は慌てない。
「なんだ。そーいう方法であの娘を捕らえるつもりだったなら、そもそも何の心配もいらなかったわね」
感想を漏らすようにそう言う。言葉の意味が分からなかったらしく、ピエロは首を軽く傾げながら「何を……」と言いかける。そこで突然に顔を青くした。
「な、なんですか? これは? 身体の中が熱い。頭が痛い。眩暈がする。吐き気が……」
もがき苦しみ始める。
「まさか、毒か?!」
そして、そう言うと、腹を膨らましてから顔を大きくし、呑み込んだポイズネスを吐き出した。何らかの粘液に包まれた彼女は不快そうに立ち上がりながら、恨めしげな顔でにやりと笑う。
「毒毒スペシャル フィスティバル! 様々な種類の毒を身体の中で撒きまくってやりましたよ。あなたは終わりです」
が、それを聞くなりピエロは急速に震え始める。そして妊婦のような体型になると、真っ白い固まりかけたペンキのようなものをボトリとお腹から落とした。地面に強い粘性のある白い何かが広がる。ピエロの姿は随分とスリムになっていた。
「フーッ 危ない。後少しで死ぬところでしたよ。死んでしまったら、再ログインするのが面倒です。ボディを買って作り直さくちゃならないですから」
それからピエロはいかにも惜しそうににポイズネスを見やる。
「うーん…… あなた、私のストライクゾーンなんですけどねぇ。我慢するしかないですかねぇ。身体を3分の1も失ってしまいましたし」
それからニッコリと笑うと、ピエロは
「まー。安全な方法で捕まえても面白くないですし、致し方ありません。他にも合格な娘はいましたから、そっちからいただくとしましょうか」
そう言い捨てると、何もない虚空を掴んで拡げ、そこに見えた黒い空間の中に逃げて行ってしまった。
青蓮とポイズネスは目を丸くする。
「消えた?」
異口同音にそう言った。
「楽しかったね~。アイシクルちゃん」
メリーゴーランドを楽しんだ後、ライとアイシクルはアイスクリームを買って食べながらベンチで休んでいた。
食べ終えるとライは尋ねる。
「次はどのアトラクションにしようか?」
近くには観覧車が見えている。どうやらライはアイシクルと一緒に観覧車に乗りたがっているようだ。普段から空を飛んでいる彼女は空の光景など見慣れているはずだが、アイシクルと密室で二人きりという点に魅力を感じているのかもしれない。
アイシクルはライの袖をつまむと、無言で指をさした。トイレのマーク。
「トイレ?」
そのライの疑問の声にこくりと頷く。
「分かった。じゃ、待ってるわね。行ってらっーしゃい」
トイレに去っていく彼女を見ながら、ライは楽しそうに微笑む。
「は~。楽しいわ~。キリちゃん達の為に企画したけど、やって良かった~」
そう独り言を呟く。
そこで隣にあるアイスクリーム屋からこんな声が聞こえて来た。
「アイスクリームのバニラをください。バケツサイズで。十個くらい。え? 在庫が全てなくなるからダメ? なら、各種アイスを全てバケツサイズでください」
とんでもない注文をしている客がいる。驚いて声の方を見て、ライは更に驚いた。ピエロがいたからだ。そのピエロはニコニコ顔でバケツサイズのアイスクリームをいくつも受けると軽やかな足取りでライの隣のベンチに腰を下ろした。どうすのかと思って見ていると、ピエロはそのアイスクリームを流し込むようにして食べ始めた。“アイスは飲み物”とでも言わんばかりだ。
「すっごい量、食べるのですね」
思わずそう話しかけてしまう。それを聞くとピエロはゆっくりとライを見やり、それから、
「ええ。さっき、身体を随分と失ってしまったので補充しなくちゃならなんのですよ」
などと説明して来た。ライには何の事やら分からない。このテーマパークのピエロの設定か何かだろうか。
「それにしても、あなたと一緒にいた娘は可愛かったですねぇ」
どんどんアイスクリームを口に放り込みながらピエロは言った。
「分かりますぅ? 可愛いでしょう? アイシクルちゃん!」
「アイシクル? 氷の魔法少女?」
「そうですよ」
「それは良かった。さっき出会ったのは毒の娘でしてね。いやはや酷い目に遭った」
豪快にピエロはアイスクリームを流し込む。そこに至ってライはピエロの異様さに気が付き始めたようだった。人間が食べられる量のアイスクリームではない。全てアイスクリームを食べ終えるとピエロは言った。
「さっきは拳法みたいなのを使う魔法少女に邪魔をされてしまいましてね。厄介だった。だから、今度は先手を打たせてもらいました」
その言葉が終わるなり、ライの足元が急速にぬかるんでいく。まるでバニラ味のアイスクリームのように真っ白だ。一部が手の形になっていて、彼女の足首を掴んでいる。
ピエロは顔を大きくし、ニッコリ笑いながら言う。
「その手からは、ちょっとやそっとの力じゃ抜け出せませんよ。ちょっと今からあなたの大好きなアイシクルちゃんを愛でて来るのでそこで待っていてください」
そして、ひょーいとベンチから跳ね上がりトイレに向かおうとした。トイレの中にいるアイシクルを襲う気だろう。しかし、ピエロが背を向けた瞬間だった。
「磁界獣N、S」
そう彼女は呟いたのだった。黒色の二匹の鼬のような獣がいる。その内の一匹が、トイレの向こうにある鉄製の設備の一つに取り付いた。その次の瞬間、破壊音と共に彼女は高速で飛び出していった。ピエロの眼前に立っている。
「――つまり、ちょっとやそっとの力じゃなければ抜け出せるって話よね?」
そう言って睨みつける。
磁界獣NとSは互いに引き合う性質を持っている。その力を利用して彼女は拘束を破壊し脱出したのだ。
「あたしのアイシクルちゃんに手を出そうなんて…… どうやら、きっついお仕置きをしなくちゃいけないみたいね。このクソピエロ!」
ピエロは汗を垂らしながら言う。
「これはこれは…… またまた厄介そうな相手ですねぇ」
アイシクルがトイレから出て来ると、電撃の音が聞こえた。ライのプラスとマイナスによる攻撃音だ。
見ると、ピエロがいて、そのピエロは身体に取り付いた電界獣プラスをむんずと掴むと乱暴に投げ捨てた。
「これがどうかしましたか? ちょっとしびれる程度です」
ニヤリと嫌らしく顔を歪めている。それからアイシクルが出て来た事に気が付くと破顔した。
「これはこれは、愛しの魔法少女。私はあなた目当てで来たのですよ。この不躾な女に邪魔をされて困っているのですが」
そう言った後で、ピエロは地面の下に潜ってしまった。アイシクルは悪い予感がしたので軽く飛んでみると、地面の下から手が出て来て空を切った。「チィッ」と舌打ちをして、ピエロが地面の上に浮かび上がって来る。身体半分を地面の上に出して、空中にいるアイシクルを見上げる。
「もー。捕まえたかったのにぃ」
それで彼女は何が起こっているのかを察したようだった。子供を襲うという都市伝説上のピエロ。こいつがそれだ。
「アイシクルちゃん! 逃げて。こいつ、多少の電撃じゃ全然効かない」
しかし彼女は逃げなかった。代わりに「アイシクル・スタンプ」と魔法を使う。小さな氷の塊がピエロの頭上から降って来たが、ピエロの柔らかい身体はそれを簡単に弾いてしまった。ライが言う。
「こいつには、もっと強力な魔法じゃなきゃ無理みたいよ」
それにアイシクルは頷く。
「じゃ、ライ。あたしが魔力を溜めているから、時間稼ぎをお願い。協力プレイ」
「分かったぁ!」
その言葉が嬉しかったのか、一気にライは元気になった。それから「磁界獣N、S」と言い、電界獣を磁界獣に変えると、地面に半分埋まったピエロにNを取り付かせ、Sには「観覧車に行きなさい」と命じる。すると、ピエロは磁力に引っ張られて観覧車に向かって飛んでいった。
「ぬほほーん!」
ライもそれを追いかける。空中戦で時間を稼ぐ算段だ。途中でピエロはNを振り払ってしまったが、そこにライは飛び蹴りを喰らわせた。ダメージは与えられていないが、距離は稼げた。
バリー・アンは絶叫マシン“スピードコースター”に乗っていた。今はゆっくりと昇り続けていて穏やかだが、これは嵐の前の静けさで、昇り切った後に急展開の高速乱高下が待っている。その瞬間を期待して、彼女はワクワクしていた。
そこで不意に遠くに何かが飛んでいるのが目に入った。観覧車の近くを飛んでいる。よく見てみると、どうやらライらしい。磁界獣N、Sを利用して高速で移動している。ここは金属製の建築物が多いから、磁界獣は適しているのだろう。
彼女は首を傾げる。恐らく、ライがどうして飛んでいるのか分からないのだろう。そこでもう一体何かがいるのに彼女は気が付いた。白くて太っている何か。
「何かしら?」
と、思わず呟く。
そう思っている間で、ライが近付いて来た。そして、磁界獣の内の一匹がスピードコースターのレールの橋に取り付いた。その次の瞬間、ライが高速でそこにやって来る。“ガンッ”と音がする。
「バリー。あんた、まだスピードコースターに乗っていたの?」
「うん。5回目」
「乗り過ぎ。それよりも敵よ。ピエロを見つけたわ。現在、交戦中」
「え? 本当にいたの?」
「そうよ。しかも、アイシクルちゃんを狙っている」
ライは池の辺りを指差す。アイシクルがいて、どうやら魔力を溜めているらしい。先ほどまでライと空中戦をしていたピエロがそこに向かっている。
「しょうがないわねぇ」
と言いながら、バリーはコースターの安全バーから無理矢理に抜け出した。ライは素早く彼女の腕を掴む。
「え?」
戸惑っている彼女に構わず、ライは「いくわよ」と近くのポールに磁界獣を飛ばす。そして、磁界獣に引っ張らせて高速で飛んでいった。
アイシクルが魔力を溜めている。
ライが空中戦でピエロと闘って、時間稼ぎをしている間で、彼女は池の近くに移動していた。船の上にナースコールがいるのが見える。
そろそろ魔力が充分に溜まる頃だ。見ると、ピエロが空から迫って来ている。溜まった魔力と池の水を利用すれば、強力な魔法が放てる。恐らく、それが彼女の狙いだ。だが、あのピエロが大人しく池に近付いてくれるとは思えない。池の上で待機したなら、恐らくそもそも近づいて来ないだろう。
案の定、ピエロは池からは離れた位置に降り立とうとしている。あのピエロは地面に潜る事ができる。地面の下から近づかれてしまったら厄介だ。しかし、その前に突然ピエロはバリア内に閉じ込められていた。
見ると、磁界獣を利用して高速で移動して来たのだろうライがバリー・アンを連れて来ていた。彼女のバリアで閉じ込めたのだ。
「これは、なんですかぁ?」
ピエロは目を白黒させている。
「いくらあんたでも、バリーのバリアの中からは簡単には逃れられないでしょう?」
それを見てアイシクルが池を指差しながら言う。
「ライ。池に」
彼女の意図をライはそれだけで充分に理解できたようだった。「おっけ」と返すと、「磁界獣N」と言って磁界獣に池の鉄柵を掴ませた。引っ張らせて高速で移動する。そして、そのまま、自分とバリーごと、ピエロを池の真ん中に放り込む。
「バリアを解いて!」
と、アイシクルが叫ぶ。それに従いバリーはピエロのバリアを解く。池の上にはまだライとバリーが残っていたが、構わずに彼女は氷の魔法を使った。
「アイス・ビッグハンド!」
するとその瞬間、巨大な氷の手が現れて、ピエロを掴んだ。握り潰す。氷の掌は、中にピエロを完全に閉じ込めていた。
ただし、問題点が一つ。
バリーは辛うじて逃げられていたが、ライが巻き込まれて、氷の指と指の間に挟まってしまっていたのだ。
「アイシクルちゃん! 冷た苦しー!」
彼女はそう悲鳴を上げていた。
氷の指の間から助け出されたライは船の上にいた。ナースコールが彼女を抱きしめて、治癒しつつ温めている。傍にはアイシクルもやって来ていて、
「ナースコールが近くにいるのが見えたから、やっても平気かな?って」
凍えた様子ながら、ライは嬉しそうに笑う。
「凄い。アイシクルちゃん。考えてるぅ!」
バリーがそれを見て感心をしていた。
「これでも愛を失わないのはさすがだわ、ライ」
――その時に声が聞こえた。
「……凍えた魔法少女を、お姉さんタイプの魔法少女が温める。これはこれで素晴らしいー。私の趣味とは違いますが、尊いですな。新しい扉が開きそうです」
見ると、同じ船の上にさっきのピエロがいて、そう感心していた。
一同はギョッとして身構える。
いつの間にかに、氷の手の中から抜け出している。
ピエロはニマァと笑う。
「いやぁ、ビックリしました。少々、魔法少女の皆さんを侮っていましたよ。油断をすると、殺されてしまいそうですな。ボディも安くはないし再ログインも色々と面倒です。もっと慎重にいきます。別行動を執っている魔法少女を狙いますか」
そう言うと、ピエロは素早く虚空を開き、黒い空間の中に逃げていってしまった。




