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28.空飛ぶ毒娘とVS袋妖獣 その1

 “僕は何をやっているのだろう?”

 と、紐野繋は思っていた。

 目の前には、先日デビューしたばかりの魔法少女ラブリン・ポイズネスの姿があり、何故か彼は彼女が自由に空を飛べるようになるのを手伝っていたのだった。

 公園のジャングルジムの上に、魔法少女ラブリン・ポイズネスは足を振るわせて立っている。

 彼女はそこまで幼い外見ではないのだが、何故かそれは妙にしっくりくる光景だった。きっと彼女のキャラクター性の賜物だろう。彼はそれを見て言う。

 「その程度で怖がっていてどうするんだよ? そんなの僕でも怖くないぞ?」

 「うるさい…… 自分で空を飛んでみればどれだけ怖いかあなにも分かります」

 「そうか。でも、いい加減、飛ばなかったら日が暮れるぞ?」

 「分かっています。今、飛びますよ」

 そう宣言すると、彼女は「えい!」と気合を入れつつジャンプをした。一応、飛ぶ能力はあるようでヒョロヒョロと空中を浮遊する。が、とても頼りない。

 よく観てみると、彼女は目を瞑っていた。彼女担当の契約用インターフェースキャラクターのK吉は、飛ぶ能力は他の魔法少女よりもやや劣る程度だと言っていたらしいから、彼女の心理的な要因の所為でここまで拙い飛行になってしまっているのだろう。

 「おーい。もう少しくらいちゃんと飛べるようにならないと、実戦はでは役に立たないぞ~! せめて目を開け!」

 呆れた彼がそう指摘すると、彼女は目を瞑ったままで怒りを表した。

 「うるさい! もっと少しでも飛べた事を褒めてくださいよ。わたしは褒められて伸びるタイプなんです!」

 そんな彼女に彼は大きく溜息を漏らす。

 褒められると安心して何もしないタイプにしか思えない。

 “そもそも、なんで僕がこいつの飛ぶ練習に付き合わないといけないんだ?”

 彼は大いに納得がいっていなかった。

 

 放課後。

 早く爆弾を作らなくちゃならないと、たくさんの生徒達に混ざって急ぎ足で帰宅している最中、紐野繋は突然「あの……」と話しかけられた。見ると、いかにも陰キャな少女がいる。中学生くらいだろうか? 制服を着ている。

 急いでいた事もあって「ああ?」と彼は邪険に返しそうになったのだが、先日、自分が日野幸江に同じ反応をされて傷ついた事を思い出して口を止めた。

 「どうも。先日ぶりです」

 と、彼女は言う。名乗らなかったが直ぐに分かった。魔法少女ラブリン・ポイズネス。その正体の少女だろう。

 「どうした? どうしてここが分かった?」

 不思議に思って彼が尋ねると、ぎこちない笑いを浮かべて彼女は返す。

 「あなた、有名人ですからね。特に魔法少女ファン・コミュニティの間では。少し調べれば学校くらい分かります」

 それはそうなのかもしれない。危ない奴がやって来ないか、もう少し日常生活に気を付けた方が良いか、と彼は反省した。

 「で、何の用?」

 「実はあなたに協力して欲しい事があるのです」

 「は?」とそれを聞いて彼は言う。

 「どうして僕がそんな事をしなくちゃならないんだよ?」

 「だって、あなたは魔法少女達のサポート役でしょう? 爆弾で援護したり、アドバイスをしたり。なら、わたしにも協力する義務があるはずです」

 それを聞いて彼は察した。どうも、彼女は勘違いをしているらしい。

 「いや違うぞ。僕はキリのサポート役であって……」

 と言いかけて、どう説明をしようかと悩んでしまう。キリと特別な関係だと言えなくもないが、彼女との関係を上手く説明できる自信がない。別の勘違いをさせてしまうかもしれない。それに、最近では彼は魔法少女達全員のサポート役と言っても過言ではない状態になって来ている。

 「……分かったよ。話くらいは聞いてみてやる。どうしたんだよ?」

 やや逡巡したが、それで彼はそう返したのだった。面倒くさいな、と思いつつ。すると彼女は「ちょっと場所を変えましょう」と提案して来た。確かに通学路のど真ん中で話すのは落ち着かない。

 

 適当な近場の公園に入ると、ポイズネスは紐野に説明を始めた。どうも彼女はいつまで経っても飛ぶのが上手くならなくて悩んでいるらしい。

 「魔法少女になっている事は秘密ですので、友人を頼る訳にはいきません。魔法少女の先輩方は普段何処にいるのか分からないので相談できません。なので、致し方なく、とてもとても嫌でしたが、あなたに相談する事にしたのです」

 「ほー」と、それに彼。

 横柄な物言いだ。ちょっと癪に障った。

 「その言い方だと、まるでお前に友人がいるみたいに聞こえるな」

 「失礼な! ちゃんといますよ! そーいうあなたはどうなんです? いかにもいなさそうですが。あ、魔法少女の方々は抜いて、ですよ!?」

 「ちゃんいといるわ! 2人!」

 村上アキは友達と言って良いと思うし、二見はプライベートでも付き合いがあるから友達に数えても良いはずだ。だから2人。

 「はー そーですか! なら勝ちましたね。わたし、3人ですから!」

 「そんなの言ってるだけじゃねーか! 証拠を見せてみろよ!」

 「それを言ったらあなたも同じじゃないですか! 証拠を見せてくださいよ!」

 低レベルかつ浅ましい会話。

 ……こんな会話を続けていてもどうしようもないと判断して、それから紐野はこう言う。

 「まあ、いい。僕に空飛ぶアドバイスができるかなんて分からないが、一応見てやる。さんざん、魔法少女達が飛ぶのは見ているからな。やってみろよ」

 それを受けると、ポイズネスは「分かりました」と頷いて魔法少女の姿に変身をする。ゴスロリ系の衣装へ変わった。それ以外はあまり変化はないが。

 「えい」

 そう気合を入れると彼女はアメコミ系のヒーローが空を飛ぶようなポーズを取って宙に浮いた。が、彼の肩の辺りまで。それ以上は上にいかない。

 「おい? これ、本気でやっているのか?」

 呆れて彼はそう言う。

 「違いますよ。本気ではありません」と、それに彼女。

 「なら、本気出せ」

 「嫌です」

 「なんで?」

 「あなたにスカートの中を見られるからですよ! 虎視眈々と見てやろうと狙っているくせに!」

 「お前のスカートの中身なんかに興味ねーよ! そもそも、そう思うなら、僕に頼むな!」

 その後、紐野が問い詰めると、彼女は降りて来て渋々ながら、怖くてそれ以上の高さには飛べないと白状をした。本人が言うには決して高所恐怖症ではないらしい。新宿都庁に昇った事があり、見晴らしが綺麗で、何故か地理大好きおじさんに捕まって断り切れず、30分ほど東京の地理について聞かされた以外はとても楽しかったと言っていた。

 「ま、徐々に慣れていくしかないのじゃないか?」

 当たり障りのないアドバイスをすると彼はその場を去ろうとした。自分にできる事はなさそうだったし、面倒くさかったから。そんな彼を彼女は「ちょっと待ってくださいよ!」と呼び止める。

 「何処へ行くんです?」

 「何処へ?って、帰るんだよ。もうアドバイスはしただろう?」

 「まだわたしは飛べるようになっていないじゃですか!」

 「だから、徐々に慣れ行けよ。単に怖いだけみたいだから、慣れていくしかないだろう?」

 そう言うと、彼は公園を出て行こうとする。そんな彼を見てフルフルと震えると、彼女はこう言う。

 「どうしても、見捨てるというのなら、わたしにも考えがあります!」

 「あ?」

 彼女は、両手を上げる謎の構えを取った。そして、

 「毒毒スペシャル! マジカル死点毒・時限式!」

 突くような動作で、彼に向って指を刺す動作をする。額の辺りを何かが突き抜けていくような感覚を彼は味わった。

 何かは分からないが、ただ事じゃない何かをされたのは分かった。

 「何をした?」

 冷や汗を垂らしつつ尋ねる。

 「ウフフフ」と、彼女は笑う。

 「あなたの身体に毒を仕掛けました」

 それを聞いて「な!? 何してくれてるんだ、お前ぇ!」と彼はツッコミを入れた。

 「安心してください。まだ発動はしません。が、夕刻までにわたしが飛べるようにならなければ発動します。

 さぁ、協力してもらいますよ!」

 その言葉に彼は引きつる。

 「とんでもねぇ事をする女だな、お前。追い詰めると危険なタイプだ」

 何にせよ、それで彼は彼女に協力せざるを得なくなってしまったのだった。

 

 それから紐野はポイズネスに少しずつ飛ぶ高さを上げていくというトレーニング方法を提案した。だから、ジャングルジムの上から飛ぶように彼女を促したのだ。なんとか飛べるようだったが、へなちょこな点は否めない。

 「これ、本当に飛べるようになるのかぁ?」

 夕刻にまで彼女が飛べるようにならなかったら毒が発動してしまう。どんな毒なのかは分からないが勘弁してほしい。

 彼が落胆していると、

 『なんだか楽しそうだね、ポイズネス』

 と、声が聞こえた。聞き覚えのある音質。ただ、少しばかり違和感が。見ると、必死に飛んでいるポイズネスの近くに、K太郎によく似ているが、太く青い線が顔に描かれている点が違った獣が現れていた。彼女の契約用インターフェースキャラクターだろう。

 「K吉!」と、彼女は声を上げる。

 『楽しそうなところ悪いのだけど、妖獣が出たよ。街の上空を舞っている』

 そう言ってK吉は空の上の方を指差した。白い風呂敷のようなものが飛んでいるが見えた。それだけでは情報が足らな過ぎる。

 「どんな妖獣なんだ?」

 紐野が尋ねると、“なんでお前に説明しなくちゃならないんだ?”みたいな顔でK吉は彼を見たがちゃんと説明してくれた。ポイズネスに聞かせる為かもしれない。

 『口と胃しかないような奴だよ。浮遊能力に長けていて、何か食べられそうなものがあったら上空から降りて来て食べる』

 “また、食べるパターンか”と、それを聞いて彼は思う。それからK吉はポイズネスを見やると言った。

 『退治に向かうかどうかは君に任せるけど、君に合っている相手だとは思うよ』

 その分析に彼女は反論した。

 「何処が合っているんですか! わたし、飛ぶの苦手なのに!」

 彼女はきっとその分析の理由を期待したのだろう。だが何も返さず、K吉は消えてしまった。反論する相手がいなくなった彼女は代わりに紐野に向かって言葉を続けた。

 「とにかく、今回はパスします。なんとかして飛べるようにならないと」

 が、それに紐野はこう返すのだった。

 「いや、多分、行った方が良いな」

 彼女は首を傾げる。

 「どうしてですか?」

 「あの謎の獣達はいい加減な事は言わない。本当にお前と相性が良い相手なんだろうよ」

 「本当ですかぁ?」

 ポイズネスは疑わしそうにしている。

 “多分、あのK吉とかいう契約用インターフェースキャラクターは、こいつを売り出そうとしているんだろう。どこに魅力があるのか僕には分からないが、ニッチでマニアックな需要はあるのかもしれない。なら、それ用の妖獣を用意するはずだ”

 彼はそのように考えていた。それからスマートフォンで魔法少ファン・コミュニティにアクセスをし、妖獣退治に向かっている魔法少女が他にいないか確認してみる。キリ…… 二見は出て来ていない。ライやアイシクルも。確認できたのは青蓮だけだった。

 二見に連絡を取って、出て来るように促しても良かったが、彼はそれを思いとどまった。魔法少女の正体の方とも彼が関りがあるとポイズネスに知られたら面倒そうだし、偶には二見を休ませてやりたかったのだ。

 「コミュニティ情報だと、退治に出て来ているのは青蓮だけみたいだな。でも、あいつは空中戦はそれほど得意じゃない。地上での近接戦闘向きだから。お前がやるしかないかもしれないぞ?」

 その意見を、ポイズネスは嫌がるだろうと彼は思ったのだが、意外にも彼女は目を輝かせていた。

 「え? 青蓮さんが来てるんですか? なら、出ます! わたし、魔法少女の中で彼女が最推しなんです!」

 どうも話のピントはずれているようだったが。

 「青蓮が推しって…… お前、全然タイプが違うじゃないか」

 「自分にはないものを持っているからこそ憧れるんじゃないですか」

 「いや、それは分かるけど、ファッションも全然違うし」

 「これはこれで好きなファッションなんですよ」

 「ああ、そう……」

 何にせよ、これから彼はポイズネスと一緒に妖獣退治をする事になりそうだった。今日はあまり爆弾を持って来ていない。それを踏まえた上で、作戦を立てなければいけない。

本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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