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14.VSゴム筋肉ヒトデ妖獣 その2

 「集まった情報を話すぞ。まずはあのゴム筋肉ヒトデ妖獣の特性についてだ」

 と、紐野繋は言った。

 「あいつらの目的は、他の妖獣達と同じでさっぱり分からない。ゴミを漁ったり、ペットの餌を横取りしたり、家の中を覗き見したり、ビルの上を飛び回ったり。傍迷惑だな。その場の思い付きで行動しているようにしか思えない」

 その説明にキリが言う。

 「……なんか、闘うモチベーションが下がるんだけど」

 「まだある。自家用車を大破させたりもしているようだ。運転手が意図的にやったかどうかは不明だが、車に激突されて反撃したようだな。

 つまり、普段は餌を漁るくらいしかしないが、攻撃されたと思うとそれに反応して激しく反撃をして来るんだ。これは傍迷惑じゃ済まないぞ」

 それにキリは深刻そうな顔を見せた。なるべく早く退治しなければ、犠牲者が増え続ける可能性が高いからだろう。

 「全部でどれくらいいるの?」

 と質問をする。

 「確認できているのは5体。勝手気ままにそれぞれが動いているように見えて、どうも半径100メートルくらいには最低仲間が一体はいるくらいの距離を保っているようだ。だから、攻撃をすると近くにいる仲間が直ぐに助けにやって来る。どうやって呼んでいるかは不明だ」

 軽くキリは頷く。

 「つまり、個別撃破は難しい…… と」

 「だな。魔法少女達で一斉に攻撃するって方法も考えたが、これだと他のヒトデ妖獣もやって来て恐らくは混戦になるだろう。それでも充分に勝算はあるが、魔法少女側にもほぼ確実に犠牲者が出る」

 キリはその説明に難しい顔を見せる。

 「紐野君、あなた、さっき“安心しろ”とか言っていたわよね? 今のところ、安心できるような材料が見当たらないのだけど?」

 「まだだよ。焦るな。“必要な情報は集まりつつある”って僕は言っただろう? 個別には面白い作戦が上がって来ているようだが、全体の作戦がまだ見えないんだよな。もう少し情報が必要だ。魔法少女達側の情報も欲しいし」

 それを聞いて彼女は疑問に思ったようだ。

 「今回来ているのって誰?」

 「今のところは、青蓮、アイシクル、スピーダー、ナースコール、ライ…… それとまだ闘っていないが、ファイヤビーも顔を見せてはいるようだな」

 「ああ、あいつ、今回も来たんだ。本当に最近はやる気があるわね」

 「どうも、バリー・アンを探しているみたいだ。確かにバリーのバリアで閉じ込めて、あいつの炎で焼けば簡単に勝てそうな相手ではあるが……」

 残念そうな顔で彼女は言う。

 「バリーが来るのを待っていたら、被害はどんどん増えていくわよ」

 「ああ、来ない前提で作戦を練るしかない。ただ、作戦については心配いらない」

 そう言うと、彼はスマートフォンの画面を彼女に見せながら続けた。

 「こーしている間にも良さげな作戦がどんどん上がって来ているしな」

 それは魔法少女ファン・コミュニティの画面だった。一見はチャット欄のように思えるが微妙に異なっている。

 「AIがファンの皆の作戦をまとめてくれているんだっけ? 大丈夫なの? AIって嘘も言うでしょう?」

 「だから、最終的な決定はこっちでやるんだよ」

 画面を見ながら彼女が口を開く。魔法少女ファン・コミュニティに新たな情報が入ったようだ。

 「あ、ナースコール達が、運良く青蓮にも合流できたみたいよ。アイシクルの治癒も終わっているみたい」

 「マジか? ちょうど良い。こっちに来るようにコミュニティに書き込んでくれ。多分、見ていると思うから」

 

 ――魔法少女達の連携能力を高めたい。

 紐野繋が村上アキに相談すると、彼は魔法少女ファンのエンジニアに連絡を取り、AIとのAPI連携により、多数のユーザーの意見を迅速にまとめ上げる機能を実現した。もちろん、情報提供者、或いは作戦立案者が信頼ならない場合もあるが、発言可能な人物を予め制限する事でその問題はクリアしてある。

 つまりは、『信頼できる魔法少女ファン・コミュニティ利用者からの雑多なコメントを整理し、有用な作戦に仕立て上げていくシステム』を創り上げた訳だ。

 個別の作戦を見る事もできれば、それらをまとめ上げた作戦を見る事も可能で、優良な作戦案がいくつか上から並んでいる。

 

 「魔法を使っていても、流石に三人は重かったよー」

 

 自治会の小屋に入って来たスピーダーが開口一番に言った。彼女はアイシクルとライと青蓮の三人を担いで走って来たのだ。

 ヒトデ妖獣は敵と見做すと攻撃を加えて来るが、それほどしつこく追って来る訳ではなく、ビルの影などに隠れれば比較的短時間で諦めて何処かへと行ってしまう。ただし、一度敵と見做すと、視界に入っただけで攻撃をしようとして来るらしい。だから確実に逃げ切るには、圧倒的なスピードを持つスピーダーに頼る必要があったようだ。

 そんなスピーダーにライが言う。

 「ごめんねー。あたしとアイシクルちゃんだけなら軽かったと思うけど」

 「何が言いたいのかしら?」とそれに青蓮。青筋を立てている。彼女は女性にしては身長が高いのだ。

 キリが疑問の声を上げる。

 「ライ。あんた、随分と久しぶりね。どうして出て来なかったのよ?」

 魔法少女ライ。

 彼女はかなりレアな魔法少女で、滅多に顔を出さない…… と言うよりも、二、三回顔を出した事があるだけで、それ以来一度も妖獣退治に現れてはいなかった。

 それを知って、紐野は部活に少しだけ出て直ぐに来なくなる部員みたいだな…… と、思ったりしていたのだが。

 「いやね」とキリの疑問の声にライは応える。

 「思ってたのと違ったのよね」

 「思ってたのと違った?」と、それに魔法少女達は異口同音に疑問の声を上げる。

 「ほら、あたしってば雷撃の魔法を貰ったじゃない? それでイメージしていたのはね、遠くから雷撃で一方的に妖獣をやっつけられるとかだったのよ。分かるでしょう?」

 「まぁ、分からなくはないけど」と、それにキリ。

 「でも、雷って自由に落とせないのよ。電気が通り易い方に向って行くだけだから。建物とか、下手すれば人間とかにも落ちちゃう。それをなんとかする為に、この子達がいるのだけどね」

 そう言うと、ライは兎のような鼬のような獣を見せた。どことなく神秘的な雰囲気がある。二匹いて、彼女の声に反応して肩の上に乗る。

 「今は電界獣プラスとマイナスって言うんだけど。マイナスからプラスに向けて電子は流れるの。だから、妖獣にプラスをくっつけてマイナスに雷撃を撃たせると、妖獣に向かっていくのね。

 あ、因みにこの子達にはもう一つ別の姿があって、電磁変換で磁界獣になれるの。その場合はNとSって名前になるのだけどね」

 彼女が腕を伸ばすと意図を察したのか手の平の指の先にプラスは昇っていく。軽く電流を放った。パチパチと。少し綺麗だ。キリはそれを物凄く羨ましそうに見つめていた。

 「でも、この子達、半径30メートルの範囲くらいしか操れないのよ。それだとけっこう妖獣に近寄らなくちゃ駄目じゃない。だから、攻撃を受ける事もあるのよ。攻撃を受けると痛いのよ。あたし、痛いのは嫌なのよ。だから行きたくなくなったのよ。分かるでしょう?」

 何か当然のように語っているが、物凄く自分勝手だ。ただ、そもそも彼女には何の義務もないのだから、責めるのは酷だろう。

 が、それから彼女は変な事を言い始めたのだった。

 「でね。あたし、思い出したのよ。そもそも、あたし、本当は魔法少女じゃなくて、ニンジャになりたかったのよ。ニンジャ」

 “子供かこいつは”と、それを聞いて紐野は思ったが口には出さなかった。

 「そー言ったら、Kちゃん(多分、K太郎の事だと思われる)が、なんか光学迷彩って言うの? 透明になれる魔法をプレゼントしてくれたのだけど、ニンジャってそーいう事じゃないんだわ。分かってないのよねー」

 “やれやれ”といった感じで彼女は肩を竦めていた。

 紐野は“ダメだ。こいつ、何言っているんだか全然分かんねー”と思っていたが、面倒くさそうだったのでやはり口には出さなかった。彼は初めてK太郎達に同情をしていた。こいつの相手はなかなかに大変そうだと。

 「……で、そんなあんたがどうして今回は出て来たのよ?」

 と、キリが尋ねる。

 「だって、Kちゃんがあたしのアイシクルちゃんがピンチになるかもしれないって言うんだもん。助けないとって思って」

 彼女はアイシクルを抱きしめ頬擦りしながらそう返した。アイシクルは無抵抗だが、無表情で喜んでいるようには見えない。

 「あたしの? あんたらってそんなに仲良かったっけ?」

 アイシクルを抱きしめたまま彼女は返す。

 「ううん。あたしが一方的にファンなだけ」

 「なら、出てくれば良いでしょーが!」

 「やーねー。出て来てるわよ。カメラ持ってグッズを持って完全装備で!」

 「つまり、魔法少女ファンとして現場に来てるって事?! 一緒に闘った方が仲良くなれて良いでしょーが!」

 「あたしはそういうポジションは別に狙ってないのよ。単にファンなだけで。それにあたしが出て行ったらアイシクルちゃんの活躍の機会が減っちゃうじゃない。

 ……でも、そーねー 今回、助けたのだから、キスくらいしても良いわよね!」

 そう言って彼女は唇をアイシクルの頬に寄せていく。そこで初めてアイシクルは抵抗を見せた。無表情のまま、物凄くがんばって顔面の接近を阻んでいる。

 紐野が訊いた。

 「とにかくだ。お前には透明になる魔法があるんだな?」

 アイシクルの頬にキスをしようとしながら彼女は返す。

 「あるわよー」

 「で、雷撃の魔法も使えて。その電界獣とやらを使わなくても、それは通常の雷のように高い所に向かって落ちもする?」

 「そうねー。電気が通り易ければ。あのヒトデの目玉は多分、通り易いわよ? 身体は通さない部分もあるっぽいけど」

 「分かった。十分な情報だ。使えそうだな。お陰で後少しでパーツが埋まる」

 そう言うと、彼はキリを見やり、同時に青蓮も横目で見ながら言った。

 「キリ、青蓮。ちょっとお前らに頼みがある。実験がしたい。頼まれてくれるか?」

 それにキリと青蓮は顔を見合わせた。キリが尋ねる。

 「別に良いけど、何をするの?」

 「お前ら二人で、ちょっとヒトデ妖獣と闘って来て欲しいんだ。ただし倒す必要はない。あいつらが二体以上助けを呼ぶかどうかが知りたいだけだ。それが分かったら直ぐに逃げてくれ。

 ……安全に撤退する為に、スピーダーも一緒に行った方が良いかな?」

 

 キリが風の刃を乱発している。彼女はビルの上を楽しそうに跳ねているヒトデ妖獣を見つけ、攻撃をしたのだ。ヒトデ妖獣は防戦一方で、弱点の目玉を防ぐだけで精一杯のようだった。もし一体だけなら、それだけで倒せるだろう。

 が、情報通りに近くにいたのだろう別の一体が直ぐにそのヒトデ妖獣を助けに来た。空を大きく跳ね、ビルの上から風の刃を放っているキリに襲いかかろうとする。しかし、その攻撃を近くで隠れて待機していた青蓮が両手で防いだ。そして、流れるような動きで高速回転すると、背中で体当たりをしてヒトデ妖獣を吹き飛ばし、フェンスに激突させた。その後で更に蹴りや拳の乱打で追撃をする。ゴムの筋肉で防いでいるので大きなダメージにはなっていないが、かなり押している。いけそうな流れだ。がそこでこんな声が聞こえて来た。

 「ダメだよー。二匹、こっちにやって来ている!」

 少し離れた場所にスピーダーがいる。彼女は周りを監視してくれていたのだ。

 「予定通り、逃げよっか」

 そう言うと、彼女は高速で駆けてキリと青蓮の二人を両手で抱え、「うんなら、GO!」と叫んでそのまま物凄いスピードで逃げた。集まって来たヒトデ妖獣は合計四体。かなり分が悪いので急いで逃げ出したのだ。

 

 「オッケー。予想通り、助けを呼ぶのは一体だけじゃないみたいだな」

 スマートフォンを見ながら紐野繋はそう呟く。魔法少女ファンサイトからの速報で確かめたのだ。

 「これで作戦が進められるぞ」

 ゆっくりと息を吐き出すと、彼はそう言った。

本編とまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)

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