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12.連携プレーがダメダメ

 読書喫茶。

 いつの間にか、紐野繋と二見愛のミーティングの場になっていたのだが、二人はそこで話し合いをしていた。

 その日は日曜で妖獣を退治した後だった。それほど強力な妖獣ではなかったが、それでも彼女達は少しだけ厄介な目に遭っていた。ただし、それは妖獣ではなく、魔法少女達が主な原因だったのだが。

 「……なんであいつ、急にやる気を出し始めたのかしらねぇ?」

 二見が愚痴るように言う。

 “あいつ”とは、魔法少女ファイヤビーの事だろうと紐野は判断した。ここ最近、魔法少女ファイヤビーが再び頻繁に妖獣退治に現れるようになっていたのだ。もちろん、それについては問題がない。むしろ喜ばしい事だ。ただ、彼女は何故か妙にやる気を出していて、それが空回りしてしまっているのだった。

 「青蓮は大丈夫そうなのか?」

 今回の被害者は魔法少女青蓮だ。ファイヤビーの所為で彼女は火傷を負ってしまったのである。

 「多分。わたしとナースコールで治癒魔法を使ったからね」

 ナースコールというのは魔法少女のうちの一人で、戦闘は苦手…… というか嫌いであまり参加しないが、治癒魔法が得意で、誰か怪我人が出るとやって来て治療をしてくれる。今回は青蓮が怪我をしたのを見て、直ぐに来てくれたらしい。

 「とにかく、魔法少女達のチームワークはガタガタだ。なんとかしないと、そのうち、魔法少女同士の連携ミスで死人が出るぞ?」

 「分かっているわよ」

 二見は憮然とした様子だった。

 

 ――実は本日の妖獣退治で、アクシデントがあったのだ。

 

 長い長い脚。

 身体部分よりも高く伸びたそれは、“く”の字に急角度で曲がり、堅そうで重そうな黒々とした身体を支えている。一見、頼りなさそうなその脚は実は非常に強靭で、乗用車を易々と串刺しにしてしまった。

 今回の妖獣は、高架橋の上の道路に現れた。例によって突如として出現し、それまで何処にいたのかは分からない。また目的も不明で、交通の妨害や車両の破壊、道路を傷つける以外の実害も出ていない。もっとも、それでも放っておいて良いはずがないのだが。

 「今回は蜘蛛の妖獣ね」

 と、その妖獣を見て魔法少女キリが言った。

 薄いピンクが混ざったセミロングの黒髪とピンクと白の混ざったスカートをなびかせている。ビルの上、可愛い帽子に似合わない精悍な顔つきで彼女は妖獣を見ていた。

 「多分、あれ、蜘蛛じゃなくて、ザトウムシだと思うぞ?」

 と紐野繋が言う。

 キリは少し黙る。

 「……そうなの?」

 「ほら、頭とか腹がくっついているだろう? 蜘蛛は分かれている」

 彼女は顔を赤くしつつ、「良いのよ。そーいう細かい事は」と返す。

 蜘蛛じゃないなら、糸や毒による攻撃は警戒しなくて良い。細かい事にも思えなかったのだが、面倒くさいので彼は何も言わなかった。

 ザトウムシの妖獣の大きさは、プレハブ小屋程だった。動きは遅い。その代わり、防御力も攻撃力も高そうだった。が、これだけならそこまでの脅威とは思えない。ただし見た目からは想像ができない攻撃方法も持っているかもしれないから油断はできない。

 「何して来るか分からないから、あんたは近づくんじゃないわよ?」

 彼女と紐野は同い歳なのだが、何故かこういう時、彼女は歳上のような口調で彼に話す。当初彼はそれに苛立っていたが、今はもう慣れてしまったのか何もストレスを感じなくなっている。

 或いは、それは、彼女が彼を心から心配していると分かっているからなのかもしれない。

 「分かっているよ。お前なら、遠距離から攻撃できるしな」

 爆弾をぶつけるのには、ある程度は近寄らなくてはならない。それに使う必要もなさそうだし使いたくもなかった。文字化けメールの主との約束があるからだ。メールの主の機嫌はもう損ないたくない。

 「じゃ、行って来る!」

 と言うと、彼女は妖獣に向かって飛び立った。彼は小さく「おう」と返したが、彼女に聞こえているかどうかは分からない。

 充分にまだザトウムシとの間に距離がある空中。彼女は魔力を溜めると「斬撃、二連続カマイタチ!」と叫んで風の刃を二つ放った。魔力を溜めた分、威力が上がっている。それらはザトウムシの脚二本に見事にヒットし、呆気なく切断してしまった。斬撃の衝撃と体重の中心が移動した為だろう。ザトウムシは大きくバランスを崩し、高架橋から落ちそうになった。

 “まずい”と、紐野はそれを見て思った。高架から落ちれば、下にいる誰かが潰されてしまうかもしれない。

 が、そこでキリがこう叫んだのだ。

 「お願い、青蓮!」

 どうやら彼女のいる位置からは、魔法少女青蓮がザトウムシの近くにいる姿が見えていたらしい。彼女は体術を得意とする魔法少女の一人だ。青のチャイナ服っぽい衣装の可憐な姿が素早く跳ね、「天翔二輪脚!」と技名を叫ぶ。鋭く力強い回し蹴りが二発入る。するとその衝撃で崩れかかっていたザトウムシの身体が反対方向に傾いた。

 ――ここまでは良かった。

 ところが、それとほぼ同じタイミングで、このような声が響いて来たのだ。

 「通せんぼ、ぬりかべバリア!」

 魔法少女バリー・アンがそこにはいた。

 防御魔法に長けた珍しいタイプの魔法少女で、バリアを張り、妖獣の攻撃や侵入を防ぐ事ができる。彼女はSFっぽいアイドル風の白と青が目立つ衣装を身に纏っていて、それは目鼻立ちのくっきりとしたおかっぱ頭の彼女の顔によくに似合っていた。

 バリー・アンはこの時、青蓮がいる事には気が付いていたようだったが、彼女が自分が張ったバリアの内側にいるとは思っていなかったらしい。青蓮はザトウムシに追撃を加えようと踏み込んでいたのである。

 そして、青蓮がバリアの内側にいるとは思っていなかった魔法少女がもう一人近くにいたのだった。

 魔法少女ファイヤビー。

 彼女は炎を纏ったような髪と赤い衣装を回転させながら飛び上がり、バリーに向かってこう指示を出したのだ。

 「バリー! そのまま妖獣をあなたのバリア内に閉じ込めて! あたしが燃やし尽くすから!」

 「牢獄のバリア!」

 バリー・アンがそう叫ぶと、ザトウムシの四方をバリアが囲む。青蓮はそれを聞いて“やばい!”と思ったようだが、何か声を出す前に彼女はバリア内に閉じ込められてしまったのだそうだ。

 そして、悲劇は起きた。そこに向けてファイヤビーが火炎魔法を放ったのだ。

 「メラメラ・スペシャル! トルネード! 牢獄内灼熱地獄バージョン!」

 「ちょっと待っ……」

 と、青蓮は叫んだがもう既に遅かった。その直後、竜巻状の業火が、バリア内をまるで焼却炉のように熱したのだ。逃げ場のない熱と炎の攻撃。

 「ぎゃー!」

 青蓮の悲鳴が響いた。

 そして、ザトウムシはあっという間に消し炭になり、青蓮は大きく跳ねて逃れ、なんとか命は助かったのだが、酷い火傷を負ってしまったのだ。彼女は咄嗟に耐火魔法を使っており、直ぐにキリが向かって治癒魔法を使ってくれ、更に後から魔法少女ナースコールが来て治癒に参加してくれたお陰で全治2週間ほどで済んだが、一歩間違えればもっと酷い事になっていたはずだった。

 「痕が残らないよーにしないとねー。女の子だもんねー」

 ナース服を基本とした魔法少女の衣装。魔法少女ナースコールが、そう言いながら丹念に青蓮を治療していた。それでも火傷痕は残ってしまうかもしれないが、契約用インターフェースキャラクター(K太郎以外にもいるらしい)に頼めば、完全に消してくれるそうだ。なんでもその手の傷は彼らが価値を見出している“純粋性”にとっても重要らしく、特別扱いでケアしてくれるのだとか。

 それを聞いて紐野はますますK太郎の言う“純粋性”の意味が分からなくなった。K太郎のバックにいる連中は、本当に一体何が目的で魔法少女達と契約しているのだろう?

 

 「……認識阻害の所為で、プライベートで連絡が取れないってのは前に聞いたけどな。せめて現場に出て来た魔法少女同士では連絡が取れるようにならないのか?」

 読書喫茶。

 先ほどの続き。

 紐野と二見の二人は、“魔法少女達の連携ガタガタ問題”について議論していた。紐野が腕組をしながら言った意見に二見が返す。

 「無理よ。そもそも連絡先の交換ができないんだから」

 「ふーん」と、紐野は溜息を漏らす。

 「じゃ、現場にどの魔法少女が来ているのかくらいは把握したいな」

 「だから、それだって連絡手段がなければ無理でしょう?」

 「そうなんだよなぁ」

 今回の失敗の原因は、やる気を出し過ぎたファイヤビー(と、バリー・アン)が慎重さを欠き、注意を怠った行動を執ったこと…… という側面もあるにはあるが、それを制御できなかった統制能力、連携能力のなさが一番の問題だろう。

 紐野は頭を抱える。二見がそんな彼を見ながら「魔法少女ファンの人達は、素早く把握していたみたいだけどね。現場に魔法少女の誰が現れているのか」と言った。魔法少女ファンのページを見せる。どうも彼らは早くからザトウムシ退治に集まった魔法少女達が誰なのか分かっていたらしい。眺めてみると“魔法少女ナースコールが青蓮を治療しているレアなシーンが観られて良かった”なんて呑気で不謹慎な書き込みもあって多少彼は苛立ちを覚えたが感心もしていた。

 “こーいう時の、連中の組織力ってぇか、結束力はすげーなー”

 などと彼は感想を持つ。

 こういった点については、魔法少女達も見習って欲しいとすら思った。

 そしてその時彼は妙案を思い付いたのだった。

 「ちょっと待て! その魔法少女ファンのサイトは使えないか?」

 「は?」とそれに二見。

 「一体、何に使おうってのよ?」

 首を傾げている。

 

 高校の休み時間。紐野繋は村上アキの教室を訪ねていた。もうお馴染みの姿で、周りの生徒達も特に気にしていない。

 「また相談事なんだが……」と言い難そうに彼は言う。

 「……ただ、今回は、もしかしたら、君らにとっても面白い話かもしれないんだ」

 村上はそれを聞くと片眉を上げる。“君ら”という表現を彼が使った事が気になっているようだ。

 「聞くよ。どうしたの?」

 「うん。魔法少女同士の連携がガタガタなのは君も知っていると思うのだけど……」

 それから彼が説明を終えると、村上はビックリした顔を見せる。

 「つまり、魔法少女ファン・コミュニティの何処かに、魔法少女同士の連携の為のサイトを立ち上げたいって言うの? そしてそこに妖獣退治にどの魔法少女が現れたかの把握、作戦立案、簡単な指示を出せる機能を持たせたい…… と」

 「ああ、」と紐野は頷いた。

 村上は腕組をした。

 「“現れた魔法少女の把握”くらいならいけると思うけどね。それ以外はかなり難しいと思うよ? 何せ、妖獣との戦闘時に迅速に行わなくちゃいけない」

 「分かっている」

 村上は難しそうな顔をしていたが、やがて何か思い付いたのか、

 「でも、確かに面白そうだね」

 と言って嬉しそうに笑った。

 「少なくとも、試してみる価値はありそうだ」

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