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チーム


 アルカと知り合ってから数週間後、昼休みの教室でアルカから次の学校行事の話がもたらされた。


「フィールドワーク?」

「ああ、学校近くにある『先史遺跡』へ赴き、遺跡内を探索するのじゃ」


 アルカによると、五人一組の班を作り、数日かけて遺跡内を調査。その結果を資料にまとめ、最後に校内で発表するそうだ。探索予定の遺跡は面積が広大で出入口がいくつもある。そのため各クラスは別々の出入口から入り、班ごとに分かれて探索をするとのことだ。


「でも遺跡内には『魔人獣』が潜んでいる可能性もある。危険じゃないか?」


 剣師団として何度も魔人獣と対峙してきたので、その恐ろしさも知っていた。


「今回の目的には魔人獣との実戦も含まれておる。そのための五人一組じゃよ。お主は『元素術』の授業への参加が禁止されておるから失念しているのかもしれんが、妾たちは皆元素術が使える。五人もおれば対応できるじゃろうて。まあ数年に一度死者は出るらしいがの」


 学校側から俺は元素術への授業の参加を禁じられていた。異世界人に手の内を晒すことを恐れてのことだろう。イリス師匠からある程度は学んでいるので今更とも思うが、元素術にしろ、世界地図にしろ、学校として徹底的に隠すのはそれだけ異世界人が恐れられているということだろう。


「今回のフィールドワークが元素術の実践も兼ねていることは理解できた。だけど、生徒をわざわざ危険に晒すことが理解できない」


 ましてや名家の生徒も多いと聞く。学校側の責任問題にも発展し兼ねないと思うが。


「この世界は常に魔人獣と異世界人の脅威に晒されている。だから今の内に身を守る術や魔人獣に対処する術を学んでおく必要がある。国や組織の将来を担う名家であれば尚更じゃ。それは皆理解した上で入学しておる。むしろ普段立ち入りが禁止されている先史遺跡に入ることができて、わくわくしている者がほとんどじゃよ」


 平和な世界と死が身近にある世界は、命の重さやリスクの取り方に違いが現れる。ここが地球文明であれば考えられないことだろう。


「まあ皆が納得しているのなら、俺に異論はないよ」


 現地人の考え方に、異世界人が口を挟むことではない。


「さて、そうなると妾たちの班にはあと三人、誰を入れるかの?」


 アルカと組むのは決定事項らしい。異世界人の俺は班決めで間違いなく孤立する。ありがたいことだった。

 アルカがわざとらしく回りを見渡していると、三人のクラスメイトが近づいてきた。


「あなたたち、いつもつるんでいるわね」


 やや呆れた様子で話し掛けてきたのはネムリア。


「妾と解世は仲良しじゃからの」


 艶っぽく肩に手を回してくるアルカ。彼女の距離の近さには戸惑うことも多いが、俺を一人の人間として扱ってくれている感じがして嬉しかった。


「そんな仲良しの二人には悪いけど、今度のフィールドワーク、私たちと班になってもらうわ」


 ネムリアの口調は提案ではなく、命令。恐らく学校側上層部の指示だろう。


「悪く思わないでくれよ。異世界人であるお前を監視するのもオレたちの仕事なんだ」


 ネムリアの隣でオズが苦笑しながら、肩を竦める。

 ネムリアとオズの後ろから割って入るように、三人目――ユスフウォラ・マハが現れた。


「あまり調子に乗るなよ、異世界人。僅かでも怪しい動きをすれば、僕がお前を斬る」


 イリス師匠の弟であり、姉譲りの端正な顔立ちと白銀の髪。同じティアナ白煌剣師団に所属するユスフは敵意剥き出しの態度で忠告をしてくる。彼も剣師団から俺の監視を指示されているのだろう。

 俺はユスフと同じクラスになってから、何度かコミュニケーションを図ろうとしたが、いつも無視され、取り付く島もなかった。だからこの学校に入ってから、ユスフと会話するのは今回が初めてだった。


「お主、態度が悪いのぉ。ユスフウォラと言ったか? ああ、マハ家のシスコン王子か。姉上を解世に取られてイラついておるのじゃな」


 アルカは不快げに眉を顰め、ユスフを嘲る。


「アルカマル・ズィード、お前こそ異世界人に媚びを売っているようだな。この世界の人間にモテないからって、異世界人で男漁りか? 『死臭姫ししゅうひめ』」


 死臭姫。アルカと友達付き合いをする中で、時折耳に入る彼女の呼び名。どのような理由でそのように呼ばれるのかは知らないが、侮蔑の意味が含まれていることは理解できる。


「発想が下劣じゃの。マハ家の品性を疑うわ。解世と関わることが男漁りなら、お主の姉上は男娼として解世を侍らせておるのか?」


 クク、と嫌味をふんだんに織り込んだ笑いを零すアルカ。


「卑しい家柄の分際で、姉さんを愚弄するな!」


 ユスフは端正な顔を歪ませ激昂する。今にもアルカに殴りかかろうとしたところをオズが止めに入る。


「おいおい、二人とも落ち着けって。これから班を組むっていうのに、いがみ合ってどうすんだよ」


 オズはユスフを後ろから羽交い絞めして、自制を促す。

 尚も暴れるユスフにネムリアは静かに詰め寄る。


「ユスフ、これ以上和を乱すようなら剣師団に報告させてもらうわ。そうなれば、あなたは任務を真っ当できず、イリスさんの顔に泥を塗ることになる」


 淡々と、しかし彼女の言葉と眼光の底には皇女の凄みがあった。


「先史遺跡には魔人獣がいる。いくら私たちの腕が立つと言っても、仲違いをしながら無事でいられるほど甘くはない。剣師団のあなたなら理解できるわよね?」


 現実を並べ、冷静にユスフを諭す。

 ユスフはネムリアに若干気圧されたように暴れるのをやめると、舌打ちをしてオズの拘束を振り解いた。


「どいつもこいつも甘いんだよ」


 罵倒を吐き捨てながら、ユスフは教室を出て行った。

 彼の背中を見送ったネムリアは憂鬱そうに長い溜息を吐く。


「まったく、先が思いやられるわ」


 オズは俺とアルカに向き直る。


「すまなかったな、解世にアルカ。あいつを悪く思わないでやってくれ。あいつは幼い頃に両親を異世界人に殺されたんだ。その異世界人を殺して、ユスフを救ったのが姉であるイリスフィア・マハ剣師長。だから異世界人を激しく憎んでいるし、姉を深く敬愛しているんだ。あいつも複雑な心境なんだろうさ」


 尊敬する姉が、彼が憎悪する異世界人を弟子にする。内心穏やかではないだろう。


「その複雑な心境を苛立ちとしてぶつけられてはかなわんわ。妾たちと班を組むのであれば、お主らがあやつを何とかせよ。背中から斬られるのは真っ平御免じゃよ」


 アルカは両手を挙げ、鼻で嗤う。


「善処するよ。ちなみにアルカ、一つ聞いていいか?」

「妾か?」


 オズの問いに、アルカは怪訝な表情を浮かべる。


「昔からお前が周囲から疎まれていたことは知っている。だけどお前自身も他人と関わろうとして来なかった。そんなお前がなぜ異世界人である解世と親交を深めているのか」

「お主は妾に喧嘩を売っておるのか? 弱小一族のことまでよくもまあ調べたものじゃな」


 アルカは口調こそ喧嘩腰だが、オズに感心した様子。

 確かに、アルカが他のクラスメイトと会話をしている場面はあまり見たことがなかった。


「身を守るためには情報が命さ。オレは純粋に気になるんだ。オレたちの異世界人に対する忌避の念は長い歴史から刷り込まれたもので簡単に払拭できない。しかし、お前は平然と解世と関わっている。一体何を企んでいるんだ?」

「妾が怖いのか?」


 アルカは冗談めかしながら挑発する。


「怖いよ。オレはとても幸せな環境で暮らせている。だけど人の一生や幸せな日々が理不尽に壊されることがあることも知っている。だからオレは不穏な要素が傍に存在すること自体が怖いんだ」


 オズは大真面目に答える。普段おちゃらけているからこそ、その真剣な表情には真に迫るものがあった。


「『魔女の災禍』のことを言っているのね」


 黙って聞いていたネムリアが告げた。


「その事件のことは、俺もイリス師匠から聞いたよ」


 異世界人によって大勢の死者が出た惨劇。


「オレもあの事件の場にいて、親族含め知り合いが大勢殺された。年端もいかない弟と妹も仲が良かった友達も無慈悲に殺された。だからまたあの惨劇が起こるんじゃないかと、お前を見ていると内心気が気じゃないんだ」


 俺に向けられたオズの瞳の奥は僅かながら恐れで揺れていた。それが彼の本心なのだろう。ネムリアはオズの話を補足するように続ける。


「この学校の中で『魔女の災禍』によって親族を失った生徒は少なくない。直接関係はなくても、あの事件は私たちの記憶に焼き付いている。だからこそ、平然と解世と関われるあなたが不気味なの、アルカ」


 話の矛先は再びアルカに戻る。


「お前の目的は何だ? 目的がわからない人間と組むことほど、恐ろしいものはない。だからそれだけは聞いておきたい」


 その場にいる三人の視線がアルカに集中する。数秒の間、彼女は沈黙していたが、ふっと笑みを漏らした。


「――変化じゃ」

「変化?」


 オズが聞き返すと、アルカは俺の肩に回したままの手でぽんぽんと肩を柔らかく叩く。


「解世には話したが、この世界は二千年前から停滞している。技術も政治も何もかも。妾にはそれが退屈で仕方がない。じゃから解世の存在が一石を投じるきっかけになるのではないかと期待しておるのじゃ。単純に価値観の違う人間と一緒におることは楽しいというのもあるがの」

「その一石で世界が混乱に陥るとしてもか?」


 真意を問うように、オズは尋ねる。


「さてな。そもそも解世を生かすことに決めたのは妾じゃのうて、剣師団のお歴々じゃ。妾はこの機会を活用しているだけに過ぎぬ。安心せい。今はお主らと対立するつもりもない。夢見がちな小娘の戯言と捨て置け」

「今は、ね」

「妾は友達の味方じゃからの。お主らが解世に対して理不尽に刃を向けるのならば、妾がお主らを背中から刺すかもしれぬ。それだけのことよ」


 アルカの言葉は嬉しい。しかし、俺に対する周囲の態度とアルカの態度では温度差があり過ぎる。ここまで親切にされると、何か裏を勘繰ってしまう。親切の対象である俺ですらそうなのだから、オズたちが感じる不安は相当なものだろう。


「アルカ、お前は不気味だ。正直お前とは一緒に班を組みたくはない。だが今はお前の言葉を信じるとする」


 苦虫を嚙み潰したように、自分を納得させるオズ。一方でアルカは気怠げに俺の肩に肘をついてもたれかかる。


「まったく、重ね重ね失礼な奴よ。本気で反逆を企てる奴はこんなあからさまな行動はせぬ。そんなに怖いなら妾たち二人だけで班を組ませれば良いものを」

「そうもいかない。いくら楽をしたいオレでも異世界人を放置するヤバさはわかる。解世、お前は良い奴だと思うが、悪く思わないでくれ」


 申し訳なさそうに告げるオズに対し、俺は首を振る。


「警戒されることには慣れているから気にしないでくれ。俺は俺で、まずは君たちの信用を勝ち取れるように頑張るよ」


 嫌悪の視線には慣れている。やはり最初から好意的に接してくれるイリス師匠やアルカが異端なのだろう。しかし、オズとネムリアからは嫌悪を克服しようという葛藤と努力が感じられる。お互いに歩み寄りの姿勢さえあれば、この一年を通じて良好な関係を築ける望みはあった。


「決まりね。この四人とユスフで当日のフィールドワークを乗り切りましょう」


 ネムリアの目配せに、その場にいる全員が頷く。

 こうして実践に臨む班は決定し、数回の事前打ち合わせを経て、フィールドワーク当日を迎える。

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