魁星
しかし、いざ活動を始めてみると、全てが全て思うようにはいかなかった。
「じゃあ私をすっごいお金持ちにして!」
「"年に一億稼げるようになりなさい"」
「モテモテにしてくれるの?」
「"相手の好みが分かるようになりなさい"」
「か、彼女になって下さい!」
「"運命の相手を見つけられるようになりなさい"」
「ウザイ奴がいてさ、そいつをシメて欲しいんだけど」
「"自分で報復出来るようになりなさい"」
突然やらされる綱渡りのような案件ばかりで、正解が分からないままさばいている状況だった。
そうこうしている内に、「性格診断の人の真似して固有魔法増やし屋が出た」という噂が立った。
固有魔法増やし屋……そう、私の固有魔法「何かを出来るようにさせる魔法」で実質的にやっている事である。
その事にみんなが気付いてからは、具体的な願いが殺到するようになった。
「必殺技が欲しい!」
「"必殺技が使えるようになりなさい"」
「古代魔法を使えるようにして!」
「"古代魔法が使えるようになりなさい"」
「透明人間になる魔法が使えるようになりたいんだけど……」
「"透明人間になる魔法が使えるようになりなさい"」
「火の魔法全部使えるようになりたい!」
「"火の魔法を全て使えるようになりなさい"」
「じゃあ俺水の魔法全部!」
「"水の魔法を全て使えるようになりなさい"」
「絶対に当たる占い師になりたい……!」
「"絶対に当たる占いが出来るようになりなさい"」
「ナザリオ以上の攻撃魔法を使えるようになりたい!」
「"ナザリオ以上の攻撃魔法が使えるようになりなさい"」
「やあ、僕以上の願望機になってるな、ベガ」
「"あなた以上の願望機になりなさ……"オリヒコ!?」
呆れ顔のオリヒコが、魔法の発動に備えてのけぞっていた。
「過労の先生みたいな顔してるぞ、少しは断ったらどうだ?魔力の基礎量は十分上がっただろ?」
「……まだ試していませんわ」
願望機……確かにそうだ。
少し、機械的に働き過ぎたかもしれない。
気がつけば、いつもはきちんとしたツインテールもよれよれになっていた。
「確かに少し休んだ方が良いかもしれませんわね、それに魔力量がどれだけ上がったか調べてみませんと」
中庭へ出て、空へ向けて杖を構える。
「"ナザリオ"!」
ドン!と爆音が響いた。
「!?」
太く、まばゆい光線が、私の杖から放たれていた。
「えええ!?」
動揺して杖から手を離して、やっと光線が途切れる。
「すごいじゃないか」
「で、でも今のは……」
「普通のナザリオの感覚で撃っちゃダメなやつだな」
「そうですわね……でも、オリヒコ、私……」
「ん?」
「この魔力量があれば……魁星になれるかもしれませんわ」
魁星……それは、宇宙が出来る前から存在したとされる星の名を冠した地位で、自分で新しく作り出した魔法を普及させる事が出来る身分だ。
しかしかつて「ダニの色を変える魔法」やら「髪の毛をパンチパーマにする魔法」など正直微妙な魔法で登録しようとする者が相次いだ為、難しい試験が設けられ、それを突破した優秀な魔法使いだけが魁星の地位を欲しいままにするようになったのである。
「ふん、実技実技だもんな、この世界!まあ君ならやれるさ、頑張れよ」
そう言って笑うオリヒコの表情には、どこか怒りの色が混じっている気がした。