願い叶え屋
翌日、実技の授業では、クラスメイト達からいつもの罵声が飛んできた。
「頑張れよぉ?ピエピエお嬢様ァ!もう泣きの一回は使えねぇぞぉ?ていうか昨日の授業で魔力切れちゃって魔法出なくて泣いちゃうんじゃねぇの〜?」
「はいはい"肉体強化スロー"!」
一応、呪文の代わりに技名を叫んでおく。
私の細腕から放たれた小石は、ターゲットを射抜き、後ろの石壁を射抜き、大穴を開けてしまった。
「なっ……!?」
たった一日で大幅に威力の上がった私の魔法()に、クラスメイト達も先生も一様に目を丸くする。
抑えたつもりだったけれど、強すぎる腕力を使う事自体に慣れていないせいか、想定以上の威力が出てしまった。
その事について、呼び出されたりなどはせず、しっかりと採点はされたものの……。
「ほら、あの子よ……」
廊下を歩けばヒソヒソとあちこちから囁き声が上がる。
「新型のドーピング薬を持っている」「悪魔に魂を売った」などなど、残念ながら当然にもそんな噂が流れ始めてしまった。
「箱入りの世間知らずでもお貴族なら手ェ出さねえだろそういうの……」
「逆になんでもやる主義なんじゃね?はー貴族恐ろし」
憶測ばかりの囁きを背に、さっさと廊下を渡って人目につかない場所へ移動する。
そして、私の人差し指で鈍く光る彼へ、そっと耳打ちする。
「感謝しますわ、オリヒコ」
「魔法を使うまでもなかったな」
オリヒコが指輪から人の姿に戻る。
その様はウネウネとした真っ黒いウミウシが膨れていっているようでシュールだった。
「本当に助かりましたわ!ドーピングの噂もあってか、兄は一回満点取ったくらいで、と怖い顔しかしてくれませんでしたけれど、私が最低限戦える事は分かってくれたようでしたわ」
「しかし、目立ってしまったのは良くなかった。下手すれば僕は卒業まで君の指輪だぞ」
「ええ、まずい事になりましたわね。今回だって占術の授業をサボって来てくれましたのに……」
「今後はたまに僕の魔力を分けても良いが、君はやっぱり基礎の量を上げるトレーニングとかするべきじゃないか?一番良いのは固有魔法の連続使用らしいぞ」
「それじゃあアレかしら……出来るようになりたい事専門の願い叶え屋さんでも始めるべきなのかしら?」
「それなら僕と組まないか?」
私はにこりと微笑んだ。
「謹んでお断りしますわ。これ以上胡散臭さが出てしまっては寄りつくお客も寄りつきませんもの」
「うーん、手厳しい」
と、オリヒコがしょぼくれる。
「とはいえ、願い叶え屋さんなんてどうすればいいのか分かりませんわ。あなたは普段どうやってらっしゃるの?」
するとしょぼくれていたオリヒコが一瞬で水を得た魚のように活き活きと語り始めた。
「まず相手の名前と取ってる授業を知ってから声をかけて、名前を名乗り、魔法の内容を明かし、願いはあるか聞いて、そして手を取るように言っているな」
「"君の願いを叶えてやろう!僕の手を取れ!"ってやつですわね」
「コツとしては同じ授業の奴や同級生、先輩なら有名な人にするといいぞ、それ以外だとなんで名前知ってるんだってなるからな」
「なるほど……ありがとうございます、実践してみますわ」
そうして、私の願い叶え屋稼業は始まった。