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4話 『祝福/呪縛』

 レオスの朝は優雅に始まる。

 

 今日はロディはミリシアと一緒に少し離れた町で出ていた依頼を解決しに行っている。

 

 他の面々も急遽入った依頼の処理に追われているが、レオスは慌てない。

 

 嫌な予感がする時ほどゆっくり構えた方が良いからだ。

 

 コーヒーを飲みながら優雅に朝食を食べる。

 

 その際に王都の世情を知る為の情報紙を読む事を忘れない。

 

 そんな朝だったらどんなに良かった事か。

 

「ブラァァ!」

 

 鬱蒼とした森の中、俺はオークキングと対峙していた。

 

 元は重鈍なオークとは思えない程に発達した筋肉とそれを包む脂肪の鎧。

 

 生半可な打撃では僅かなダメージを与える事は出来ずにカウンターで命を刈り取られるだろう。

 

「いやぁごめんごめん! レオちゃんゴメンなぁ」

 

 俺の背後で傷を負った腹を庇いながら笑う狐顔の女性。

 

 その周りでは護衛の冒険者達がオークキングの攻撃で気を失っている。

 

 とりあえず直ぐに片付けるから静かにしててくださいね。

 

「はーい! 頑張れーレオちゃん!」

 

 緊張感が無くなるなぁ。

 

「ブヒ!」


 オークキングが先に動いた。

 

 手に持った巨大な棍棒を振り上げ振り下ろす。

 

 その一撃は単純であるが故に受け止めるのは困難、特殊なギフトがない限りは受けるのは愚策だ。

 

 避けるのも背後にいる怪我人達が居るために選べない。

 

 ならば、俺が取れる選択肢は1つ。

 

 オークキングの振り下ろした攻撃は俺の上を避けるように曲がる。

 

 パリィ、相手の攻撃を弾く単純な技能だ。

 

 だからこそオークキングには効く。

 

 どんなに強力でどんなに速かろうが、それが純粋な力なら技が入り込める余地が存在する。

 

 自分の攻撃が当たらない事で一瞬生まれた思考の隙間。

 

 すぐさま剣を振り上げてオークキングの喉を突き刺して頭部を破壊する。

 

 血飛沫が上がり体を汚すが気にせずに深く差し込む。

 

 しばらくすると痙攣し魔石だけを残して姿を消した。

 

 一先ず無事に切り抜けた事に安堵しつつ振り向いて満面の笑みの女性を見る。

 

「いやぁ流石はレオちゃん! 頼りになるなぁ」

 

 はいはい、フォクシーさんは死にかけたのに元気ですね。

 

 彼女は商業ギルドの中で最大手の『珠玉の家』のリーダー『フォクシー』。

 

 どうして彼女が高位のダンジョンで救難のサインを出していたのかは気になるが。

 

 防御結界が壊れる間際に間に合って良かった。

 

 もう少し待っててくださいね。

 

 まったく......嫌な予感ほど良く当たるんだよなぁ。

 

 頭の中で鐘が鳴り響く。

 

 忌まわしき祝福《呪い》の音が聞こえた。

 

 さぁ来いよ世界、ざまぁされるまで殺されてやらねぇぞ。

 

 /////////

 いやぁ参ったよね。

 

 新しく発見された階層で見つかった新種の木材が欲しくて、獅子宮殿の攻略が始まる前に動いたのが間違いだった。

 

 最初の不意打ちの衝撃で帰還の魔工具は破損しちゃうし、護衛は怪我しちゃうし。

 

 念の為に教会製の結界を用意していて良かったよ!。

 

 一応、銀級の冒険者を護衛に雇ったんだけど想定が甘すぎたのは自覚してる。

 

 階層の発見者だっていうから護衛を任せたんだけど......まぁ過ぎた事を悔いても時間が勿体無いね。


 今は自分の迂闊さを反省するよりも今は目の前の吟遊詩人垂涎の英雄譚のひとつを観れる己の幸運に感謝しようかな。

 

 冒険者ギルドで......いや世界中の世情を知る大人なら知らぬ者はいない生きる伝説を目の前で見れるんだから。

 

 その状況にわたしは自身の興奮を抑えられないでいた。

 

 突如、発生したデスパレード。

 

 ダンジョンで稀に起きるモンスターが異常な頻度で産まれ続ける死の行群。

 

 それを迎い討つのは『冒険王』のレオちゃん。

 

「よいっしょ!」

 

 此処に来れるような高位の冒険者でも苦戦するオークキングを相手に余裕を持って対処する。

 

「うじゃうじゃと数だけ多いなぁ」

 

 それも普通なら全滅を覚悟する、オークキングの群れを相手にしているんだから驚きを通り越して笑えてくるよね。

 

 棍棒を弾いて斬り伏せる。

 

 攻撃へ移る前に懐に入り頭部を縊り殺す。

 

 群れで襲いかかるオークキングを余裕を感じさせる動作で確実に屠っていく。

 

 凄いなぁ。

 

 あぁ本当に凄いなぁ。

 

 欲しくなるよね。

 

 神から『祝福』のギフトを与えられた『冒険王』。

 

 いくら払えばわたしのモノになるんだろう?。

 

 あぁでもレオちゃんはお金に興味ないよね、そんな物に靡くはずがない。

 

「今ので終わりか?......さぁ帰ろう」

 

 背にある夥しい程の魔石を気にすることなくレオちゃんはわたしへ手を伸ばす。

 

 ありがとうレオちゃん!。

 

 ダメだ......ダメだね。

 

 今のわたしじゃ彼に釣り合わない。

 

 せめて商業ギルドの総てを手中に収めてからじゃ無いと彼の隣に立てない。


「ん? なんだ背筋が寒くなったぞ」

 

 大変だ! 丁度ここに風邪薬があるから格安で譲ってあげよう!。

 

 待ってて、直ぐに追いつくからね。

 

 とりあえず今は生きて帰る事を優先しないと、死んだらお金にもならないからね!。

 

「じゃあ魔工具を起動するぞぉ」

 

 怖い思いをしたから腕に近まるぐらいの役得はありだよね!。

 

 /////////

 祝福?。

 

「えぇ、レオスのギフトは祝福」

 

 ワーウルフの討伐を終わらせたミリシアちゃんと一緒に宿屋で休んでる時にお話の中でギフトの話になった。

 

 ボクのギフトの話やミリシアちゃんの話。

 

 そのままの流れでレオスさんの話になったんだけど。

 

 祝福って事は何か能力が上がったりとか?。

 

「違うわ、能力強化系じゃないわ」

 

 うーん、魔石のドロップ率が上がるとか!。

 

「それも無いわね」

 

 ミリシアちゃんとクイズみたいな感じで話してるんだけど全然分からないや。

 

「レオス曰く、一定条件下でモンスターが湧くらしいわ。もちろん街には湧かないし村を襲うことも無い」


 ただレオスを殺す為だけにモンスターが産まれるらしいわ。

 

 そういうミリシアちゃんの目には少し怒りのような物が見えた。

 

 でもそれがなんで祝福なんだろうね?。

 

「さぁ教会の人達は神の試練だとか言ってるけど、あんなのは呪いよ!」

 

 握りしめていた拳に血が滲む程に力を入れているミリシアちゃん。

 

「昔ね、獅子宮殿が出来る前にレオスとコンビを組んだ事があるのよ」

 

 凄いね! 昔のミリシアちゃんとレオスさんかぁ。

 

 きっと凄かったんだろうなぁ。

 

「確かに昔からレオスは強かったけど今ほどじゃなかったのよ......あの時初めてみたわ」

 

 何を?。

 

「モンスターに蹂躙されるレオスよ。最悪だったわ、私じゃ太刀打ちも出来ないような高位のモンスターが集団でレオスを襲うのよ」

 

 その時の後悔を思い出してるのかミリシアちゃんは掌から流れる血を見て言葉を震わせてる。

 

「だから私は強くならないといけないのよ! レオスと一緒に世界の呪いと戦うために!」


 ......凄いなぁ。

 

 ボクなんかとは大違いだ。

 

「だから! アンタも早く力を付けるのよ! 1人より2人! 2人より3人よ!」

 

 私達で世界を跳ね除けてやるのよ!。

 

 顔を赤くして拳をあげるミリシアちゃん。

 

 ......あっ、お酒くさい!。

 

「あのバカレオスに言ってやるにょよ! 1人で何でも抱え込むにゃってにぇ」  

 

 あぁ良い事言ってるのに呂律が回ってない。

 

 でもそうだよね!。

 

 もし、レオスさんがピンチな時はボクのギフトが使えるかもしれないし!。

 

 うぇへへへ、その時はボクの事を褒めてくれるかなぁ。

 

 なんかボクのコップからも、お酒の匂いがするけど気のせいだよね?。

 

「レオス! 首を洗ってぇ待っれろ!」

 

 待ってろぉ!

読んでいただきありがとうございました!


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