23話 大脱出〜変態を添えて〜
「なんだ! 何が起きてるんだ!」
ダンジョンが異常な程に揺れ始めた。
天井は崩落を始め、床には亀裂が入り、壁は生き物のように歪んでいる。
ミリシア!。
俺は急いで手足に纏わり付いた植物を引きちぎり、呆然とする男を抱えてミリシアの元へ戻る。
その際に急激な負荷に耐えられなかった男が意識を失うが構っていられない。
「あぁもう! いったい何がどうなってるのよ!」
男は知らないだろうが俺とミリシアはこの現象を知っている。
ダンジョンの構造が変わる変革期の末期状態。
こうなれば何時ダンジョンの構造が変わり始めるか分からず、最悪は巻き込まれて命を落とす。
おそらくだが、いま泡を吹いて気を失っている男によって好き勝手に法則や構造を弄られた反動が来ているのだろう。
とにかくコイツを縛ってはやくダンジョンから逃げるぞ!。
「えぇ!分かったわ」
急いで転移陣へ戻り階層を昇る。
幸いなことに、鈍重だったモンスター達はダンジョンの構造の変化に巻き込まれ襲われる事は無かった。
しかし、普段経験する事のない事態にどうしても2手3手と対処は遅れてしまう。
「レオス! 壁に気を付けて!」
っ! 助かる!。
石で出来ていた壁が植物へと変わり、次の瞬間には水へと変わった。
圧倒的な質量が俺達を襲った。
起きろ『ナナシ』!。
布状で腕に巻き付いていた『ナナシ』を起こし、形状を変化させる。
俺の全身に巻き付き、全身に棘が生えた禍々しい鎧へと姿を変えた。
こいつを持っててくれ!。
雑に縛られた男は宙を舞ってミリシアの手で受け止められた。
......無意識なのか顔がニヤけたのは無視だ。今はそれどころじゃない!。
「分かった! ぶちかましなさい!」
あいよ!。
迫り来る水の壁を前に俺は拳を構える。
空気が歪む。
弓を引くかのように体を捻り力を溜め続けた。
無意識に放たれ続けた『ナナシ』とレオスの魔力が混ざり合い空間を軋ませる。
ただひたすらに力を込め続ける......放つ。
『冒険王』と『ナナシ』の小細工なしの全力。
「相変わらずデタラメよね......」
雷のような轟音の後に残ったのは空間を円形に切り取ったかのように不自然な光景だけだった。
壁も、輪郭が不安定な木々も迫っていた水も全てが切り取られていた。
よし! 完璧!。
物凄く手応えを感じたな。
『ナナシ』も嬉しそうにしてるし、こんな時だけど少し嬉しくなるよね。
「......さぁ先に行くわよ!」
亀裂の入った床を踏み抜かないように注意を払いながら全力でダンジョンを駆け抜ける。
だが、それでも不測の事態は発生する。
目の前に逃げ惑うマッシュボアが突然現れた。
それと同時に植物の壁が荊となって俺達へ襲いかかってくる。
クソ! 間が悪いなっ。
まずは目の前にマッシュボアを斬り伏せようと『ナナシ』を片手剣の形へ変化させ......片足が何かを踏み抜いた。
ヤバッ!
力加減を間違えた。
床を踏み抜き体勢が崩れてしまう。
スグ目の前にはマッシュボアの鋭い牙、今から『ナナシ』の変化は間に合わない。
「伏せて!」
ミリシアの裂帛した声が響いた瞬間に、脱力して床に這いつくばる。
『斬撃』
頭の上で高速の何かが通り過ぎた。
「もう大丈夫よ」
恐る恐る顔を上げる。
目の前にはマッシュボアも荊の壁も全てを切り拓いた空白の空間が現れた。
本当にスゲェな、こんなん反則だろ。
その光景を作り出した張本人はなんでも無いように隣へ来て手を差し伸べて来た。
「足は怪我してない?」
あぁ大丈夫だ、助かった。
俺の言葉にミリシアは安心したように微笑み、俺の手を取り立ち上がらせてくれる。
その際に後ろで投げ捨てられた男は見なかったフリをしておこう。
「協力してさっさと抜け出すわよ!」
おうよ!。
それからは特に問題は無かった。
俺が『ナナシ』を振い。
ミリシアが『斬撃』で斬り拓く。
不測の事態さえ起きなければ俺とミリシアの足を止める事は出来ない。
途中途中で男が起きて喚くがその度にどちらかが優しく意識を奪うから問題も起きない。
まぁ、最終的には顔の大きさが2倍ぐらいに膨れたけど構わないだろう。
構わないよね?。
「別に良いでしょ、どうせ衛兵に突き出すんだから」
一切の興味を示さずに吐き捨てるミリシア。
その言葉の中には自分を何故か知っていた嫌悪は混じってはいるけど、その殆どが無関心ではやくこの騒動を終わらせたいと顔と言葉に滲み出ている。
......今思えば、どうしてコイツはミリシアの事を知っていたのだろうか?。
どこかで小さいロリシアに目を付けてたとか?。
......ありえる。
あの変態なら普通にありえる。
「どうしたの? 顔が険しいけど」
いや、はやくコイツを牢屋にぶち込みたくなってきただけだよ。
そう吐き捨てて、俺はロープでグルグル巻きにされた変態を担ぎ上げるのだった。
「うわぁ明らかに嫌そうな顔したわよ、コイツ」
......はやく帰りたいなぁ。




