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  作者: サキスケ
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佐々木優介の独白

 煙草の煙をふうっと吐き出す。

 仕事の後の一服は一日のうちで最もリラックス度が高い瞬間だと言っても大げさじゃない。弛緩する。勤務中は身体に入れることのないニコチンによって、仕事が終わったという実感を強く持つからだろう。

 一日一箱吸っていると合計の使用金額は馬鹿にならないし、何より健康に悪い。匂いやヤニ汚れだってふとした瞬間に気になる。いつか止めよう止めようと思い続けて、いつまでたってもその「いつか」が来ない。まあ、意思が弱いんだろうと思う。


 今日は忙しかったな。終始ばたついていて仕事にならなかった。こんな調子じゃ駄目だ。来月以降ボジョレーもクリスマスもあるのにどうするんだ。正直これ以上足手まといになるのは避けたい。まともな仕事っぷりを見せておかないと、この厳しい時代いつ切られてしまうかわからない。

 今は以前に比べればとても恵まれた環境にいる、と思う。おかしな話だが、倒れたいと思うことがない。まあ、倒れたいなんて言うとちょっと頭のおかしなやつだと思われてしまうかもしれないが、以前身をおいていた会社では格別珍しい考えでもなかった。

 以前はチェーン店のカフェで店長をしていた。社員は一人で、月商が一千万ちょっとの店だった。そこでは人が圧倒的に足りないという、ありきたりな状況に飲み込まれていた。人がいないのに、自分が休むわけにはいかない。店長とは言え、単なるサラリーマンなのだ。自分がいくらしんどい状況にあろうが店を閉めるわけにはいかない。

 そんな状況下だったから、常々倒れたいと思っていたのだった。自分から自主的に休むのでもさぼるのでもなく、過労で倒れる。もしくは雷が店に落ちないかとすら思っていた。あくまでも、自分が店を休むのは自分が休みたいからではなく、そうせざるを得ない状況というのがポイントだった。同期の一人が、問答無用で一日公休が取れる権利を一万円で買いたいと非常にリアルな内容の冗談を言っていた。

 今は休みが取れている。倒れたいだなんてことも思わない。毎月の給料も上がった。不満などないはずの毎日なのに。


 空っぽだ。

 平穏を得るのと引き換えに、信頼できる仲間も大切な人もいなくなってしまった。

 自分の居場所は自分で作る。また一から。それしかない。自分には何もない。何もない状態で頑張るってのがこんなにも苦しいことだなんて、思ってもみなかった。

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