91 集まった者達と行く末を願って
クリス達が塔から帰って来る少し前まで遡る。
「領主様が私を呼ぶというのは、どういった事でしょうか?
何か問題でも・・・?」
「すまないセルリア君。
級に呼び出したりして」
「ごめんね~、セルリアちゃん」
ここはクレフーテの町の領主を務める大貴族、フロスタン家。
冒険者ギルドのギルドマスター、セルリアは緊急の話でフロスタン家の応接間に呼び出されていた。
そこには、領主バーデン・H・フロスタン、妻のレナ―シェ・H・フロスタン、護衛騎士筆頭にのビスガル。
そして・・・高ランク冒険者が呼ばれていた。
かなりの人数が応接間に入っているが、それでもまだまだ余裕があるほどの部屋であり、全員が椅子に着席していた。
「・・・高ランク冒険者に国専属と言われる英雄まで・・・。
他にも・・・国にではない特殊なパーティまで・・・」
セルリアは空いている席に座り、周りを見回す。
「我々の事もご存じですか・・・」
「まあね・・・一応、あなた方も冒険者登録はされていますから」
「まあ・・・それもそうよね」
「助かってます~」
「砂丘のダムガがどうしてここへ?
あなた方は教会に所属している者達。
こんな大所帯にいるって事は・・・」
「察してくれて助かる。
我々は任務があってここに来ている。
どうやら、この問題は我々にとっても関係がある事なんでな・・・」
「問題・・・」
セルリアは教会が関係しているという事に心当たりはある。
しかし、わざわざ組織の中の特殊部隊が来るほどなのかに疑問を感じていた。
教会はギルドとも関係は良好。
しかし、必ずしも全てをどこかに頼りっきりにはしない。
そのため、自分達の専用部隊を持つ組織はそれほど珍しい事ではない。
だが、教会側が特殊部隊を動かすことには何があるのかを疑問に思っても、気にするなと言われて、はいそうですかと頷けるほど簡単な事ではなかった。
「私達の方でも独自に情報は得ていてね。
セルリア君、今日冒険者が壊滅状態で帰ってきたね。
まだ、この町ではそれほど大騒ぎにはなっていないが時間の問題だろう」
「耳が早いですね」
「一応、この町の領主を務めている以上、町の治安などの安全は確認したいしね」
「なるほど・・・。
そちらにいらっしゃる冒険者の方々については?」
「・・・。
まあ、君とも昔からの好だ。
話しておいてもかまわないだろう。
・・・おそらく、近い将来・・・この国は戦争になる」
軽い口調から幾分堅い口調へと変え、話を打ち明ける領主。
そこにはとても真剣で冗談でも、可能性でもない、確信を持った発言が込められていた。
「それを、わざわざギルドに?ご存知でしょう?
私たちギルドはどこの国にも属さないことを条件としています」
敢えて分かりきった話から始め、本題へと話を変えていくつもりで、領主もセルリアもお互い話し始めた。
「もちろん。
個人の関係性は問題ないが、ギルドが国に属してしまっては、冒険者達もそこにくらす住民にとっても特にはならない。
むしろ被害はもっと大きくなってしまう」
「でしたら・・・戦争には加担は出来ないという事も当然、分かっておいでと思いますが・・・。
わざわざ、どうしてそのような話を?」
「実はね~、この戦争を仕掛けようとしている国の関係者が先日、娘たちを襲ったそうなのよ~。
その時たまたま、あの子がいて助けてくれたから問題は無かったんだけど・・・」
「(あの子・・・クリス君の事かしら?)
関係者が襲った事と、戦争になる事は別なのでは?」
「どうも、別とは言い辛くてな・・・奴らは・・・といえばよいのか、襲撃者は宝石を欲しがっていてな」
「宝石?」
「私達フロスタン家の家宝と言われる宝石に事よ?」
「代々引き継いできた物ですよね?
どうしてそんなものを?」
「そこまでは分からない。
しかし、そこには何かがある。
そして・・・」
「我々が追っている者が、その宝石を求めていると教会側が情報を掴んだ」
「だから、私達がこの町に来たってわけ」
「ちょっとケイトちゃん。
話を省きすぎてるよ~」
「???」
ダムガのメンバーの話にまだ内容が掴めていないセルリア。
「代々、宝石はフロスタン家が昔から持っている大事なモノ。
これが何を意味するのかは私達も知らない。
とにかく、大事に守っていくことを重視していたのだろう。
理由が昔の書物にも日誌にも、どこにも残されていなかったが・・・。
敢えて残さなかったのかもしれない」
「守ってほしいのにですか?」
「如何せん、昔過ぎてどこかの代でその言い伝えを残さない様に判断した当時の当主がいたのかもしれないな」
「後世にまで、伝えるのを避けたのかは・・・分からないのよね~」
「分かりました、その話は置きましょう。
それよりもこのメンバー達と戦争、宝石がどのように関係を?」
セルリアは改めてフロスタン家に呼ばれた高ランク冒険者達を見回して質問した。
「今回、村で起きた人や動物たちの行方不明事件・・・いや、ゾンビになっているとの報告もあるから殺害事件か。
これにはどうも宝石が関係している可能性があってな」
「フロスタン家の家宝と?」
「そうだ。
私達も詳しくは分からないがその事について砂丘のダムガの方たちが睨んでいてな」
領主バーデンに話を振られたことで砂丘のダムガのリーダーが答える。
「知ってると思うが改めて。
砂丘のダムガ、リーダーのボールド・エステンという。
宝石に関しては我々も分からない、しかし、今回の追っている者が宝石を求めて国中を動き回っていると情報を得ました。
その過程で、宝石を追っていった先に、ある古びた古城の方角で見かけたと聞きつけまして」
「砦もあって昔はずいぶん反映していた場所だったそうなんだけどね?」
「その場所に・・・今回の事件が発生するよりも前にモンスターが住み着いているって噂を聞きつけまして~。
その場所に調査のために向かおうとしていた所でしてー・・・」
「っで、私達が動き出すよりも早く、そこへ調査に向かわせた人達がいるって聞きつけて、そこに同行しようとたまたまこの近くまで来ていたの」
「そこへ私の使いの者を向かわせここへ招待したんだ。
亡くなった冒険者達の実力から考えて、少しでも高ランクの戦力を必要としていた所だからね」
「砂丘のダムガの目的と領主様の今回の事件について、解決のために戦力を集めた事は分かりました。
しかし・・・戦争とはどういった関係が?」
セルリアは今回の惨事については早めの解決を考えていたので、今回の領主の判断は願ったりかなったりではあった。
しかし、戦争による国同士の衝突に関してはギルドの総意では参戦できない。
兵士を募集に対する依頼の紙を張ることは出来ても、そこまでだ。
戦争に参加をしたい者が冒険者になるというのはあまり考えられない。
それでだったら、兵士になるか傭兵になっているだろう。
だからこそ、疑問が浮かぶセルリア。
なぜ戦争の話になるか?
関係者がいたってそれだけであったりする。
それが戦争という国を左右しかねない大事にまで発展する意味がセルリアには理解できなかった。
「今回のビスガルを襲った襲撃者の1人だが・・・特徴を聞いて、戦争する国の関係者に思い当たる節の者がいた」
「モダンメストという名前の大臣の使いの1人なの」
「・・・つまり、大臣が戦争を仕掛けようとしていると?」
「使いが死んだからと、表立って何かをすぐに仕掛けることは考えにくい。
しかし、問題は・・・この大臣なんだ」
「彼は国の実権をほとんど握っていると言われるくらいの人でね。
それに過激派でかなりの野心家なのよ~。
戦争をもともと望まなかった国の王様に打って変わって始めようと画策していると噂されていたの」
「それが最近は顕著に出ている。
交流という理由、表向きで見学させてもらったのだがな。
騎士だけでなく兵士にまで徹底した訓練と武装した姿を目撃したよ。
ただ、それだけだと他国の貴族が来たため体裁のためという理由で終わってしまうだろうが。
明らかにピリピリした空気がそこにはあったよ。
それを感じてか、その国に暮らす住民に不安の色が見えていた。
・・・もちろんこれは私の主観でしかない。
たまたま、目撃し意識した所がその住人達だっただけの可能性もある・・・しかし」
「噂だと、今まで穏健派でいた人達が次々何らかの理由でその席を外れていくそうなの」
「国の中の事にまでは、我々もあまり干渉は出来ない。
しかし過激派の筆頭とも言われるモダンメストが実権を握るとなると、王でも止めることは出来なくなるだろう。
勢力を失えば一気に戦争に傾くのは容易に想像できる」
「そんな大臣が戦争の準備を始めつつ、宝石を狙う理由は何かしらね~?」
「宝石は大臣達にとって重要な何か?」
「である可能性は高いわね~」
「まあ、宝石が何を意味するかは分からないが・・・少なくとも必要としてるのは間違いなさそうだ」
「これだけの冒険者を集めたのは、その大臣に関係してると思って今回の事件の早期解決をしたかったから?」
「そういうこと」
「・・・」
まだ納得がいかないセルリアは表情に浮かべてしまった。
「たかが宝石。
そう思うだろう・・・。
逆に考えてくれ、そこまでしてこの宝石を必要とする目的か何かがあるから動いていると。
そして、そのために使いを出し、殺してでも奪おうとしていたと・・・」
「・・・厄介な事件になってしまいましたね。
しかし、これだけの戦力を、よく集めてこられましたね。」
「ああ、それに関しては戦争にも関連しそうでね」
「?」
「人同士の戦争だけでなく、裏で動かしている者がモンスターを操っている可能性があるのよ~。
もしかしたらモンスターを兵士と混在させて、あるいはモンスターだけの集団で攻めてくる可能性もあるのよ~」
「・・・は?どうやって?
もしかして、操ってですか?」
「ビスガル達を襲った人物はモンスターを操っていたそうだよ。
もっとも、最終的にはそのモンスターに殺されてしまったようだが・・・」
「それって・・・つまり・・・」
「一概には言えないんだけど~、この場合は人とモンスターによる戦争になってしまうって事もあるって話」
「代理戦争・・・ですか」
「そこまでとは言わないが・・・少なくともモンスターを使って来る可能性は十分に考えられる。
規模と強さは分からないが・・・。
ビスガル達を最後に襲ったモンスターの実力は冒険者ランクでC相当だそうだ」
「C・・・!」
その事実にセルリアはビスガルに確認も込めて見る。
ビスガルはそれに真っ向から頷き肯定した。
「(なるほど~・・・だからあたし達もここに呼ばれたってわけかー)」
「(早期解決してほしいのは国にとっても重要ってこと)」
「(でもさ~?こんな時、普通は王様たちの護衛にあたって、離れたりなんてしないんじゃないの?)」
「(今はまだ大丈夫ってこったろ)」
「(先に解決して、牽制と出鼻を挫こう考えているのかもしれませんね)」
「(・・・なあ?俺達って英雄的な扱いの冒険者だけど・・・この場合はどうなるんだ?)」
「(どう・・・って?)」
「(専属護衛してるけど・・・俺達も戦争に参加しないといけねえかって話だ)」
「(本来であればギルドに登録してる冒険者である以上は加担は出来ません。
しかし専属である以上は、契約を解除、もしくは破棄しない限りは私達も参加しなくてはいけません。
たとえ・・・相手が人であっても・・・)」
「(ええ~っ!あたし嫌なんですけど~)」
「(そんなこと言っても仕方がありませんよ。
私達はこの国と契約を交わしています。
確かに、途中で抜け出すことも出来ないわけじゃありませんが・・・。
何の理由もなく、そんなことをすればこの国に指名手配されかねませんよ?)」
「(はっ、そん時は返り討ちにすればいいじゃねえか。
無理やり戦争に参加させようとする国なんて)」
「(うん・・・ロイドの言う通り。
本来私達は国では対処が難しい厄災クラスのモンスターとかに対処するための立場。
国同士の戦争では、私達が干渉するべきではないと、私も思うよ)」
「(それこそ、さっきギルド長が言ってた代理戦争になるんじゃない?
こういっちゃなんだけど、高ランクの冒険者が数人もいれば大国だって簡単に落とせちゃうんだよ?
そんなことすれば世界なんてもう無茶苦茶になっちゃうよ)」
「(ええ。そんなことをすれば世界中が無法地帯になってしまいます。
だから、たとえ国が途中で変わっても戦争には参加しないのですが・・・)」
「(今回はその中にモンスターが混じっているというのが問題なんですよ。
それも、並の一般兵士や騎士では対処が難しいモンスターが操られて戦争に参加するって事が)」
「(はい、その通りです。
ですから、私達は他の冒険者達と違って戦争に参加しないといけない可能性がかなり高いという事です。
それも、最低でもC。
あるいはそれ以上のモンスターがどれだけいるのかは不明ですが、一定数、攻めてくると考えられる状況。
こうなった場合、契約を交わしている以上、私達に拒否する権利はほとんどありません)」
「(強制参加ってこと?)」
「(ええ、そう考えておいた方が良いですね)」
「(っち、めんどくせー)」
冒険者の中でも、今回の事件、戦争には思い思い何かがある様子で、話し合われていた。
「ひとまずは、先に古城の方を早期に片づけてしまいたい。
だから冒険者達を集めたんだ」
「分かりました。
それは私も望むところですから・・・。
それで、いつ決行なさいますか?」
「その場所にはここから冒険者隊の足で1日の所にある。
せっかく来てもらって、いきなり向かわせるのもなんだし、ここで準備を整えてもらって、2日後に出発してもらう話になった」
バーデンが冒険者達を見るとそれぞれが頷いていた。
「了解しました。
それで・・・こちらからは何人か派遣した方が宜しいでしょうか?」
「彼らがいれば問題ないと思うけど・・・念のために数人、セルリア君の判断で構わない、誰かを同行させて手伝わせてやってくれ」
「分かりました。
では、私の方で手配しておきます。
・・・集合場所はどこに・・・?」
「町の東口の門の前で集合してくれ。
そこに・・・朝の8時までに来てもらえるように伝えてくれ」
領主は立て掛けられた時計を見た後、セルリアに時間を伝えた。
その後、冒険者達にも振り向き、確認を取った。
冒険者達も納得し、応接間での会議は終了した。
そして、現在、紅茶のカップを洗ってもらうよう近くのギルド職員に渡した後、再び執務室へ戻る中、セルリアは考えていた。
「(・・・クリス君が持って置いた方が良いって言ったけど・・・宝石に関連する事件に、さらに戦争に関わることかもしれない事。
どうしたものかしら・・・)」
セルリアはギルド長としての勘でクリスのペンダントを取り上げることを遠慮した。
安全面を取るなら、今回来た高ランク冒険者の誰かに渡すことが最も安全だった。
何かあっても独自で対処が出来るだろうからだ。
しかし、取り上げなかった。
だからこそ、この結果、まだ小さな将来有望になるかもしれない子供に国の命運すら影響しかねないことに責任を押し付ける形に、情けなさを感じていた。
「(縁には偶然もあるが、必然もある・・・だっけ?)」
ふと前任のギルド長の言葉を思い出していた。
それはセルリアにとって当時は1つのアドバイスでしかないと思っていた。
しかし・・・今。
クリスにペンダントが渡った事には何かしらの意味があると確信していた。
「うん。
だったら、私は彼のサポートをできるだけしますかね~?」
少しだけ元気になったセルリアは固まった体を伸ばしながら執務室へと戻って行った。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 19
HP 224 MP 201
STR 89
VIT 80
INT 92
RES 81
DEX 84
AGI 88
LUK 56
『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』




