85 マナも魔法も・・・偉大だね!
・・・俺が悪くないと信じたい・・・
勝利したことには喜んでいるマイク達。
しかし、その表情は何とも言えない、嬉しいはずなのに悲しいような複雑な表情をしていた。
そんな顔でマイク、トルカ、コールディはクリスに振り返った。
サッ・・・。
目を合わせてはならないと逸らしたクリス。
その中、キャシルだけがとても中層のボスを倒した快感の余韻に浸っていた。
「とりあえずは中層に入れたわけだ。
・・・若干モノを申したい気持ちはあるが、俺たちはさらに上へ行けるわけだ。
とにかくそれを喜ぼう」
「あ・・・ああ」
「・・・うん」
「うん!」
「・・・。(言葉は出さない。
こういう時は下手に声を出すと、厄介な事になるから・・・)」
〔流石!経験者は語りますね~〕
サポートがチャチャを入れるがクリスはそれすら無視して反応しない様に努めた。
改めてマイクが空気を入れ替える気持ちでこの先の話を切り出した。
「一応、中層には入れたって事だけど・・・これからどうする?
俺たちは勝手にあのモンスターを中層のボスっつったけど・・・。
もし今後も戦うなら、今日は軽くこの辺りを見るだけにしても良いんじゃねえか?」
「ええっ!あれで、終わり~!?
私、まだ1発しか撃ってないんだけど!」
「お前は十分だろうが!
あれだけ強い魔法撃って、まだ満足しないのかっ!」
「あれはマナを単純に練っただけのファイアボールよ。
拡散するファイアじゃなくて、1点に絞ったの」
「あれだけの威力は初めて見た」
「でしょ~!いやぁ~、あれだけ強い魔法でもそこまでマナは消費してないのよ?スゴイでしょ!
身体に無駄に浪費や不必要な消費を抑える様にコントロールするだけでこんなに違うとは思わなかったー!
トルカもそうでしょ?」
「・・・うん。
撃った矢が足に少しでもダメージが入ればいいなってくらいだった。
まさか、足を飛ばすとは思わなかった」
「・・・っと、はいはい、わかったわかった。
キャシルも落ち着くんだ。
俺たちは中層に来たわけだから、まずはどうするか考えるんだ」
「あっと、そうだった」
コールディの言葉で、この先の方針についての話に戻ってきたキャシルとトルカ。
「まあ、今回はクリス君のおかげで、俺たちにとっては目下の課題だったモンスターはあっさりと倒してしまったわけだが・・・。
お前たち体力やマナの方はどうだ?」
「俺は大丈夫」
「私も~」
「うん・・・」
「俺も特に問題はない。
だからここからは、探索を交えたクリス君の探している、鍵に合う扉を中心に探そうと思うんだが・・・構わないか?」
「了解だ」
「いいよ~」
「問題ない」
「・・・良いんですか?
俺は1人でも探そうと思っていたんですが・・・」
「せめてもの恩返しだ」
コールディの言葉にマイク、キャシル、トルカがクリスに頷いて返事をした。
「っというわけだ・・・。
身勝手な恩返しだが受け取ってくれ」
「・・・ははは」
苦笑しながらクリスは厚意を受け取った。
そして、クリス達は二手に分かれて行動していた。
マイク達とクリスが単独の2チームだった。
「おそらく・・・いや、間違いなく、キミの方が実力は上だろう。
ここで下手にキミに付いて行こうとすると却って足手まといになりかねん。
したがって・・・クリス君は単独で中層を、俺達はクリス君とは逆の方向を探し、キミの鍵に合いそうな扉があったら知らせる」
「知らせるってどうやって?」
「これを使うのよ?
クリス君、冒険者カードを出して?」
自分の冒険者カードを見せクリスに指示するキャシル。
クリスは従いカードをキャシルの手の傍まで自分の手を持っていく。
「・・・?」
微かにカードが輝き、縦に一本のライン線が現れた。
「これが・・・知らせ?」
「そう・・・。
これはパーティが使う者で、今回のように別れたりする時とか、貴族の護衛とかに着くときに使ったりするの」
「馬車による荷物搬送とか、数パーティで行動しないといけない時に一時加入で使われる」
「仲間とは別に、リーダー同士で繋げ合うんだ。
毎回毎回、誰かと組むたびにするのは面倒だから、どうしても自分のパーティだけでは対処しきれない案件なんかで使用される」
「んで、これの連絡で組んでいるパーティ同士で多少は連携を取るんだ」
「ここに伝えようって念じれば、この線がそれに合った色に変わるのよ?
``白``が知らせや合図、集合なんかに使うわ」
「``青``は探索とか護衛の時に異常なしの知らせ」
「``緑``が怪しい場所を発見した時とかに使う」
「``黄``が警戒。
緑と違って戦闘や問題がありそうなときに知らせる」
「そして・・・``赤``が危険、戦闘中や直ちに逃げろの合図に使われたりするの。
そこまで、細かくは使えないから、点滅の種類をもとにお互いに判断しあうのよ?」
「先行隊が先に向かい、問題がない来てくれって時は``白と青``が交互に点滅するんだ」
「そうやって、遠くにいる仲間たちと連絡し合う」
「へ~」
〔クリスの世界のような世界中に簡単にとる連絡手段はほとんどありませんからね~。
ギルドが独自に使っているアーティファクトなど以外は・・・。
まあ、冒険者カードもその派生形。
一部機能は使えるのでしょう〕
クリスはカードのライン線をまじまじ見ながらキャシルたちの説明を聞いていた。
「とりあえず、これで俺たちはクリス君と連絡が取れる状態になった。
これなら、何か怪しいものがあった時などに知れせることが出来る。
この塔は広い。
くまなく探すとなると時間が掛かる。
ある程度したら、知らせで私達かクリス君が合図を出す。
その時はこのボス部屋に集合だ」
「俺たちが勝手に見めているだけで、別に中層のボス部屋ってわけじゃないかもしれないけどな」
「まあ、判りやすいし良いんじゃない?」
「賛成」
「俺も大丈夫です」
「よしっ。
では、クリス君は右側を・・・俺たちは左側だ」
「っよ~し、出発だー!」
「もう~現金なんだから~」
「クリス君、それじゃあ、また」
「何かあったら知らせてくれ」
「分かりました」
マイク達が向かってのを見送り、クリスも探索を開始した。
中層は階段ももちろんあるけど、乗り物に乗って移動する事が多いエリアだった。
いくつかの行きたい場所にはパネルなどを使って足場を回転させたりして進む仕掛けになっていた。
いくつもの部屋を見てきたが、特にこれと言って何か宝箱が置いてあるわけでもないし、重要そうなアイテムが落ちているわけでも無かった。
〔う~ん・・・こちらは何もありませんね~。
ハズレでしょうか?
向こうの皆さんはどうなのでしょう・・・〕
「連絡を取ってみるか・・・?」
そう判断していた所に同じように向こうも考えていたのか冒険者カードの縦ラインに``白``が点滅していた。
〔どうやら、集合のようですね〕
「それじゃあ、帰るか・・・」
クリスはリュックの中の荷物を入れ直し終え、マイク達のいるであろう中層入り口のボス部屋まで向かった。
「・・・お?来た来た・・・お~い、クリスく~ん!」
マイクが手を振ってクリスを呼んでいたので小走りして向かう。
「すいません、遅くなりました」
「いや、そんなこと・・・ない・・・よ・・・」
「うん・・・だいじょう・・・ぶ」
「?・・・荷物パンパン?」
「クリス君?・・・それは?」
「え?ああ・・・探している最中に襲い掛かってきたモンスターのドロップアイテムです」
クリスのリュックは一部がアイテムボックス化している。
しかし、アイテムボックスはそこまで入らない。
すると当然、同じアイテムでも容量が超え、自然と特殊空間ではなく、単純な荷物として持たなければいけなくなる。
クリスのリュックには一部機械の部品の様なものがリュックの口の隙間から何個もはみ出していた。
「モンスターがたくさんいる部屋とかはあったんですけど、肝心の扉とかが見つからなくて・・・」
「・・・(クリス君の方に付いて行けば私ももっと魔法が撃てたのかしら・・・?)」
「(いやいや・・・俺たちの方も結構モンスターがいただろ)」
「(マイクとコールディがすぐ倒しちゃうから、私の出番が少ないのよ)」
「(そう・・・とり過ぎ)」
ひそひそと話すマイク達を置いてコールディがクリスと調査内容を話す。
「クリス君の方は何もなかったのか・・・私たちの方は、扉は無かったが・・・気になる個所を見つけてな・・・」
「塔の事に関してですか?」
「それは分からない。
だが何かを記したもののようだ」
「?」
「誰かのメモ」
「調査記録・・・って言えばいいのかな・・・アレ?」
「誰かが壁に書き残しているんだ。
それと・・・あれは地図だったのか?」
「とにかく来てくれ。
何かの情報になるかもしれない」
「はい」
クリスはマイク達の案内の下、ある1つの部屋に着いた。
そこには確かに誰かが書いたのであろう、記録と計算・・・それと地図の様なものを書き記されている。
〔字までは、なにぶん古く読むことは出来ません。
計算式もおそらく・・・この何かに関連したものでしょう。
そしてこの地図・・・これは・・・この塔に関してでしょうか?〕
「(は?なんで?)」
〔そこまでは・・・ただ、この塔の中でわざわざ壁に字を書くことが謎です。
誰かに知らせるためなのか、それとも自分の中の仮説でもとっていたのか・・・〕
「クリス君、何かわかるかい?」
「いえ・・・全然。
ただ・・・この地図?はこの塔を中心に差しているのかな~?・・・って」
「え?ミカルズの塔の?」
「・・・そうなのかな~?」
「わからない」
「いや待てよ・・・確かに、この場所・・・確か、俺たちが初めて下層から中層までに向かう時に辿ったルートに似てないか?」
「そうか~?」
「あ・・・確かにそうかも」
「ってことは・・・ここがマイクがへばって不貞腐れた場所?」
「あ・・・あれはお前たちが俺を置いておくから」
「置いて行けって言ったのはマイクじゃない」
「本当に置いていくかよ普通っ!」
どうやら地図の中に書かれた形にはマイク達は心当たりがあったようだ。
「でも・・・なぜ?」
そう。
結局はそこに行き着いてしまうのだった。
誰もが答えが見つからず、結局は元の場所に引き返すことにしたのだった。
「・・・結局、扉の手がかりも無い。
壁には意味不明のこの塔の地図と文字。
何も収穫らしいものはなかったね」
「まあ、こんな時もあるさ。
だったら次に向かうは決まっている」
「おう。
より上の階を目指すだけの事」
「少なくともコールディの聞いた噂だと上層にはある。
行けば何かが分かる」
「そういうこったな。
って言ってもどうするよ?
クリス君はもちろん、俺たちの荷物のかなり限界だぞ・・・?」
「一旦帰りませんか?
もうかなり暗い時間になってきていると思いますので・・・」
「ふふふ・・・クリス君は眠いのかな?」
クリスはキャシルの言葉に目をこすっていたことを指摘された。
肉体が幼いからか、それに影響して、睡眠時間はかなり早くなっている。
「え?・・・まあ、結構・・・かなり・・・」
「強くても子供・・・子供は寝る時間」
「っというわけだし帰るか・・・」
「ふ・・・そうしよう」
クリス達は一旦ここで引き揚げ、クレフーテの町に帰ることになった。
帰る道順はクリスの来たショートカットを使って一気に降りた。
クレフーテに着いた時には頭が揺れてかなり危ない状態だった。
それも、宿に付いて自分の部屋に着いた時には、ほとんど眠っているような状態だった。
ゆっくりと閉じた目が開く。
「う・・・ううん?」
〔おはようございますクリス〕
「?・・・ああ、おはよう・・・。
ふぁ~~~~っ・・・まだ眠い・・・」
〔朝の準備から深夜まで帰って来るまで、ずっと起きて動いていましたからね~。
流石に子供の肉体だと無理が過ぎたのでしょう〕
「・・・うん・・・そうみたい・・・」
〔部屋を出て、食事にしましょう。
今の時間だとお昼近くになってしまいますから昼食を取って、その後に冒険者ギルドに向かいましょう〕
「・・・?、冒険者ギルド?・・・なんで?」
〔昨日、塔で得た素材を換金していないからですよ〕
「ああ・・・そうか」
〔とにかく、動きましょう。
動いていれば目も覚めてきます〕
「・・・わかった」
クリスはボーっとした状態だったが、宿を下り、下の食堂の脇、文明と魔法を使った水場で顔を洗い、歯を磨き動き出した。
「(こういう所は、地球とほとんど使い方も歯ブラシの素材なんかも同じなんだな)」
〔流石に電動ではありませんが、使えるのですからいいのでは?〕
「(歯磨き粉がないのに結構綺麗になるのは?)」
〔誰かが発明したのか、それこそご家庭にも使えるご都合魔法が組み込まれているようですね。
ブラシに使われる素材の一部にごく小規模の魔法が組み込まれ、使用すると歯垢などを除去してくれるようですね〕
「(凄い便利!
地球に有ったら誰もが欲しがるな。
これがあれば綺麗で白い歯がいつまでも健康的に維持される。
確かにご都合魔法)」
〔誰か過去に歯に関して拘ったのでしょう。
その結果がこれですね。
あ、ちなみに言っておきますが、健康な歯でいるのと歯を維持するのでは意味が違いますから。
高齢の方にはもちろん入れ歯の方もいますよ?〕
「(えっ・・・そうなの?
っていうか何で知ってるの!)」
〔クリスが歩んできたここまでの間に、たくさん見てきましたので間違いはありません。
したがって、金持ちの中には銀歯とか金歯とかもいますよ?・・・きっと〕
「やはり・・・年には勝てないか・・・」
歯を磨き終わったクリスは水面台に手を付き項垂れた。
そこを宿の女将と娘がたまたま見ていた。
「何言ってんだい坊や・・・あんたはまだまだ生まれたばかりの子供じゃないか・・・な~に年寄り臭いこと言ってんだい・・・」
「クリス君・・・そういうのはお父さんぐらいの年齢になってから言うものよ?」
さらにそれを厨房から出てきた所、この宿の店主が聞いてしまった。
娘の悪気無い一言に、一瞬だけ娘に悲しそうな目を向け止まっていた。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 19
HP 224 MP 201
STR 89
VIT 80
INT 92
RES 81
DEX 84
AGI 88
LUK 56
『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』




