78 いやあ~幼馴染って強い・・・・・・やっぱ、持つべきなのは権力を持った・・・うう゛ん!
「彼女がこのクレフーテの2つの冒険者ギルドのギルド長を務める。
セルリア・パーク・ラティアンだ」
「よろしく~、しょうね~ん」
かなりフランクな印象を抱く人物だった。
「あ、はい・・・どうも」
「おやおやおや?
少年はお姉さんが怖いのかな?
それとも私みたいな、美人なお姉さんにあえてドキドキで困っているのかな~?」
「おい、くだらない事を言ってないで、早く要件を言え」
「なんのことかな~?
ビスガルは真面目過ぎる所もあるからな~。
こうやって気持ちを楽~にさせようという私の気配りに気付いていないのかな~?」
「お前の場合は、いつもそんな感じだろ。
お前みたいにいつまでも暢気にはしていないんだよ」
確かにセルリアは美人と言われる部類に入るだろうが、クリスに場合はここまで急に、気持ちがオープンになって接してくる人に慣れていないだけだった。
もともと、つい最近までいじめられっ子としての時間が思春期の中学生の時に起こって以来、干渉してくる人に過敏になっていた時が長く、自分から進んで関わろうとすることを避けている傾向があった。
結果、ここまで接近されたらどうしていいかわからなくなってしまっていたのだ。
そして、困っているクリスの助け舟としてビスガルが進んで会話を切り替えようと、無理やり割り込んできたのであった。
しかし、会話中の雰囲気を見るかぎり、ビスガルがとても親しげに話している。
心なしか、普段の口調より硬さが少なく気が楽になっているようにクリスには感じた。
それが顔の出ていたのか、気づいたギルド長が説明した。
「いやあ~~、このビスガルちゃんとは昔からの付き合いでね~。
所謂、幼馴染ってやつ?」
「こいつとは小さい頃から、よく家が近くて一緒に遊んでいたんだ。
まあ、遊んでいた時の・・・当時の性格のまま、今に至るわけなんだが・・・」
「常に忘れない子供心。
これって大切だよね」
「お前の場合は、忘れないどころかそのまま止まってるだろ」
「ええ~、そんなことないよ~。
ただ、あの頃から大切にしてる事の延長線で今もあるだけだよ~」
「ハッ、どうだか・・・」
「ひっど~い」
「・・・うう゛ん」
「おっと、と」
「あ・・・」
たまたま通りかかった職員さんが咳きこんで、現実に2人を引き戻した。
「すまないね~少年」
「申し訳ないクリス君」
2人は気を取り直して、クリスの正面に立つ。
「セルリアが・・・ギルド長が君の、ミカルズの塔へ入る許可証をくれる」
「ちょっと~、まだ決まってないんですけど~」
「聞いていたんだろ?
それなら、入っても問題ないはずだ。
彼の実力は私が保障する」
「へ~、あなたがそんなこと言うなんて、意外ね~。
分かったわ、私からも許可しましょう。
と言っても、それを証明する証書を作るから、少し待ってもらえるかしら?
明日の朝には渡せるから、その時にまた来てちょうだい?」
「分かりました。
それじゃあ、宿に帰りますね。
・・・あ、換金の方は?」
クリスは外にいた応接室へ案内したお姉さんが居たので聞いてみた。
「換金は済ませてありますよ?
受け取られますか?」
〔クリス、一部だけ受け取って、残りは貯金に回しておきましょう。
どうせ持っていても、使う機会はあまりありませんから〕
「(そうだな・・・)
一部を・・・これだけあればいいので、後は貯金の方でお願いします」
「はい、畏まりました」
「それじゃあ、失礼します」
「ああ、しっかりと休むんだよ」
「はい・・・では」
クリスは、ビスガル、ギルド長、職員さんに会釈してギルドを去って行った。
クリスが去った後、応接室にはビスガルとセルリアだけが残った。
そして、この機会にとビスガルはセルリアに問いかけようとする。
セルリアもまたビスガルの珍しい行動に興味が湧き質問したくなった。
「話は聞いていたけど、本当にいいの?
あの子・・・まだまだ、幼い子よ?」
「少し聞きたい・・・。
お前から見て、クリス君はどう見えた?」
「・・・。
少し、他人に対してオドオドした所がある子。
よく言えば、素直そうな子。
悪く言えば頼りなく、危なっかしい子に見えた」
「・・・そうか」
「まあ、あれくらいの年齢でここまで来たんだから、ある程度の生き方は身に付いてはいるでしょうけど・・・本当にいいの?
あなたがいいって言うから一応、許可証を作っておくけど・・・」
「セティ・・・お前は彼から何も感じなかったか?」
2人だけというのもあるが、昔と違い今となってはお互いに大人になった身。
そのため、昔は呼び合っていた愛称なんて、今となっては言わなくなって久しい。
そんな中、珍しくビスガルから愛称で呼び、質問してきたことで、これまで以上にクリスの事についてを考えるようになった。
「彼は・・・剣士系か何かかしら・・・おそらく、接近タイプ向きなんじゃないかしら。
マナをほとんど感じなかった。
使い方が分かってないのか、それとも知らないのか・・・。
まあ、少なくともアレぐらいの子供が持つマナ量として考えると・・・少し少ないとも、平均的とも判断してしまう所ね。
もし、接近タイプなら身体系の強化に重きを置かれると考えられるから・・・総合すると・・・普通?」
「・・・そうか」
ビスガルはセルリアの言葉を信頼している。
分析力や判断力、そして何よりそれに合った実力や実績などを積んでいたからこそだった。
そして、それ以上に昔からの付き合いでセルリアの事を知っているビスガルは何よりも彼女の言葉に一番も信頼を置いていたからだった。
しかし・・・事、彼についてはビスガルも疑問がないわけではなかったが、それは同時に自身がもし勘違いだったら、おそらくすでにこの世にいなかったという事も理解できてしまうために、どうしてもセルリアに確認を取りたかった。
そして、セルリアも少し似た様な気持ちがあり、再度ビスガルに聞いてしまう。
「ねえ?どうして、そこまで彼を?」
「・・・お前には、話していたよな?
シェイミ―様たちとの遠征理由」
「?、ええ。
確かシェイミ―様が持っていらっしゃるフロスタン家の家宝が妙な輝きを見せて、とある方角を指し示したとか」
「ああ。
実際、そこで見た事のないモンスターと出会ってな・・・そこのモンスターに俺はやられたんだ。
同行したリンジーも同じく・・・。
残るシェイミ―様とキルシュ様では、そのモンスターを倒せるわけがなかったはずだ。
そもそも、レベルが違い過ぎた」
「・・・」
セルリアはビスガルの話に口を挟まず聞く。
「全く歯が立たず、あっさり俺たちは負けた。
いや・・・殺されていてもおかしくはなかった。
しかし、どうやら、そのモンスターはお嬢様を狙っていた。
おそらく、持っていた緑の宝石に反応したんだろう。
それのおかげなのか・・・俺とリンジーには見向きもしなかったそうだ。
そうなると、後は蹂躙されるのみ。
そうなるはずだった所に、彼が来たんだ」
(まさか!・・・)
ビスガルの話にセルリアが気付き驚愕に目を開く。
しかし、まだ話の続きがあるのだろうビスガルの雰囲気から感じ、黙って聞く姿勢を保っていた。
「ふふ・・・お嬢様やキルシュ様がおっしゃるには圧倒的だったと。
まるで、相手にならなかったそうだ。
俺たちが何も出来なかった相手が、逆に彼の前では何も出来ずに倒されてしまったそうだ」
どこか、何とも自分のふがいなさに嘆いているように話すビスガル。
「気が付いたときには、戦闘は終わっていて、お嬢様が俺たちを治療してくださっていた」
「じゃあ、あなたが今朝からクリス君を探していたのも報酬を渡そうとしていたのも・・・」
「耳が早いな。
そうだ、あれは俺達を・・・そして、フロスタン家を守ってくれた恩人に対する正当な謝礼だ。
周りは護衛だけであれだけの大金を?と勘違いしている。
大方、自分から話を持ち掛けたとか、自分を売り込んだとか勘違いしている者もいそうだが、そもそも護衛を頼んだのは俺たちの方だ。
彼は、たまたま行き先が同じだったという事で、そこを護衛を勝手ながらお願いしたのだ」
セルリアはビスガルの表情から彼がここまで、クリスという少年を不思議に思いながらも信頼を置き買っていることに驚いていた。
たった数日わずがな時間で、ここまで信頼してしまうという事がビスガルを知っているセルリアからすれば考えられなかった。
ビスガルは、少々大雑把な性格をしている。
意外だと勘違いする者もクレフーテの町の中にはいたりする。
しかし、フロスタン家に護衛する立場になった頃からか、信頼と信用がとても重く、そして時にはなんと軽い言葉に成り下がるのかと理解してしまった。
ここまで、大きな町、現在でこそ小さなイザコザは日常茶飯事かもしれないが・・・大きな問題。
それこそ、貴族が絡む、暗躍暗殺がある世界に入ってから、常にどこかで冷静に相手を見極めないといけない状態が出来てしまった。
それも、その相手が自分たちに害をなすかどうかを基準に。
昔はもっとひどいものだったと風の噂で、セルリアの耳にも届いていた。
それは、ビスガル、セルリアが大人になる少し前の話だった。
そして、現在。
昔ほどではないにしても、身を守るために染みついた習性はなかなか取れないもの。
そんな中での急激なクリスへの信頼関係。
これは、セルリアにとっては少なからず衝撃を与えていた。
「あんな幼い子供にそれだけの力が・・・。
彼は勇者なのかしら?」
「どうだろうな・・・?
俺に聞いてくる印象からすると違う様に感じた」
「・・・ますます謎だわ・・・。
一応、あなたが話したことを考えると・・・確かに、それだけの実力があるなら彼に許可を下ろしても問題は無さそうね・・・。
?、どうしたの?」
「先ほど、そんな彼が出血していた。
戦った場所はチタのダンジョンだ」
「え?」
「そのダンジョンの最下層の5層。
そこで倒したと同時に、イレギュラーが発生して似たような部屋の全く異なる雰囲気の場所に飛ばされたらしい。
そこには、白い肌をしたゴブリン型がいて、苦戦しながらもなんとか倒したそうだ」
「ちょっ!
そんなの初耳なんですけど!」
「ああ、彼も俺が聞くまで黙っていたようだ。
おそらく、面倒事を避けるために」
「ダンジョンで起きた以上は理解できたが、イレギュラー発生し不幸な事故が起きる可能性については全く知らなかったそうだ。
まあ、結果的に彼が倒したおかげで、おそらくチタのダンジョンに今後、同じようなイレギュラーが起きることは無いだろう」
「・・・っほ、そうよね~。
良かった~」
「暢気なところ申し訳ないが少し考えてみてくれ」
安堵し、気を抜いていたセルリアに若干、注意をしつつもどこか茶化しているような矛盾した気持ちのままビスガルは続きを話す。
「俺たちが勝てなかった敵を、圧倒したクリス君が、チタのダンジョンに現れたイレギュラーのモンスターに苦戦して血を流した・・・これがどういう意味か分かるだろ?」
「・・・・・・・・・もし、彼が居なければチタのダンジョンにいた冒険者や子供たちや常駐して見張りをしている兵士や騎士達。
う~うん、最悪、この町にまで来ていたら被害なんて・・・・・・。
ビスガル、彼は何者なの?」
「・・・わからない」
ようやく、本当の意味でクリスが異質な存在だと気付いたセルリアはどうしたってビスガルにクリスの事を聞いてしまいたくなるのだった。
「それだけ、凄い子なら将来は英雄にでもなるのかしら?」
「どうだろうな・・・冒険する事は好きそうだったが、目立つことを忌避している節があった」
「どうして?
彼ぐらい、今の時点で凄いなら世界にいる天才と呼ばれる子や、才能のある子と肩を並べる逸材よ?
目立ってしまうし、持て囃されることを嫌う子供方が少ないと思うのだけど・・・」
どこか遠くを見る様な顔になりながらビスガルは答える。
「そこまでは分からない。
だが・・・彼は何か理由があって避けているような感じだ。
目的があるのに目立っては困る、しかし実力があるから誰かの目には止まってしまう・・・。
何とも厄介な事だ。
見た目もあの幼さも相まって、変な注目を集めかねん。
・・・ああ、だからお金を貯金していたのか。
遠くに行くため、目的に必要な資金を集めるため・・・なるほど」
1人納得するビスガルに置いて行かれたセルリアは声に出して、今後にクリスの扱いについてをビスガルに話した。
「わかったわ。
とにかく、彼なりの理由があって動いているけど目立ちたくはないって事よね?」
「ああ。
お前のやれる範囲で構わない、少しだけ助けてやってくれないか?」
「・・・・・・そういえば、最近できたレストランが評判が良くて、美味しいそうよ?」
「・・・分かった、では今度一緒にどうだ?」
「忘れないでよね~♪」
ウキウキしながら応接室を出るセルリアと、しっかりした足取りで出て行くビスガルだった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 19
HP 224 MP 201
STR 89
VIT 80
INT 92
RES 81
DEX 84
AGI 88
LUK 56
『マナ性質:レベル 1』『強靭:レベル 1』『総量増加:レベル 5』




