72 一応、見た目で人を判断するのは・・・・・・どうかと・・・思います
クレフーテの西側外周、その少し離れた位置にこんもりと膨らんだ場所とその手前に2階建ての木で造られたログハウスがあった。
〔どうやらここがチタのダンジョンですね〕
「(・・・遠くから見ると休憩所だな、広場に見えるぞ。
・・・ここの下にダンジョンがあるんだな?)」
〔話によれば・・・。
それでクリス、今日はどうします。
一気に攻略してしまいますか?〕
「(う~ん・・・とりあえず、様子見。
本格的に挑むには物資が足りないかもしれないし。
何より、お金があまりない。
まずは、最初の階でモンスターやその場所で取れそうな素材を入手する必要がある)」
〔換金して備えるのですね?〕
「(うん。・・・それに、防具とかほしいかもしれない。
今まで、そんなお金が無かったからスルーしてきたけど。
今の俺って防具系ってなにも持っていないからな~)」
〔まあ、必要としてませんでしたからね~。
前の町でも宝石探しをするための最低限の旅支度だけ済ませてサッサとクレフーテに来てしまいましたから、そんな暇もありませんでした〕
クリス達は自分たちが普通の旅人が最低限用意するであろう物だけでここまで来ていた。
無茶苦茶具合に改めて準備不足だと気付かされた。
無計画にもほどがあると少し反省していた。
〔しかし、クリスの場合、大抵の防具はあって邪魔になってしまうかもしれませんよ?〕
「(でも、全くの無防備よりはマシだろ?)」
〔それは、そうですが・・・クリスの場合、マナや身体強化で十分、防具方面は大丈夫なのですよ。
であれば、下手に鎧など着たりして体の自由を阻害されることの方が危険では?〕
「(俺が思うのはマナも常に万能だと思わない方がいいって事。
マナが使えなくなったら?それを封じ込められたら?
たとえマナが使えても、火の魔法とかでヤケドとか地肌だけじゃマズいものが来た時の対策は取れるのかと考えると難しいんじゃないか?)」
〔・・・クリスは器を昇華させ進化、成長しています。
たとえ自然の力を使った攻撃の影響があったとしても、たいして効果があると思えませんが・・・。
一理はあります。
この世界、システンビオーネにはクリスより強い存在はたくさんいるのも事実。
その者達ならクリスであろうが何もせずに殺されてしまうでしょう・・・。
ですが、考えによってはその程度です。
それ以外の者と戦っても、たいして防具を持つほどの必要もなく、圧倒的な相手だと持っていてもそんなものはゴミに消えてしまう。
結局はどちらにしても意味はなく重要じゃないってことです。
今のクリスに必要と思えるほどの代物が手に入るかどうか〕
「(・・・たとえば魔法使いが使うローブ系はどうだ?
あれには確か人によってはマナを使ってローブに自身のマナをなじませ防具にも増幅の手助けにもしていると聞いたような気がするけど・・・どこだったかな~)」
クリスは自分がローブにマナをなじませ強化する方法をどこで聞いたか思い出せないでいた。
腕を組み上を向きながら、教えてもらったのか、冒険の最中に聞いたことなのか思い出そうとしたが、結局何も思い出せないと諦めた。
「(・・・は~、思い出せん。
まあ、そっちはいいや。
・・・それで、これなら俺も防具面がアップするんじゃないかって思うんだけど)」
〔それも程度ですね。
安物でもわずかには上がりますが・・・。
クリスが思うほどの防御力を考えるとかなり高級なものになってしまいますよ?
それこそ、高ランクの冒険者が着るような物になるんじゃないでしょうか?
たまたまダンジョンなどでドロップするにしても、それは難易度の高いダンジョンになります。
残念ながら仮登録の冒険者では入れさせてもらえませんよ〕
「(はぁ~~。
結局金もランクも姿も含めて全部ダメと)」
今のクリスが望む品は現状、届きそうにないとサポートの言葉に現実を受け入れざるを得なかった。
〔しかし、先ほどのローブで強化はクリスの戦闘に合っているかもしれません。
たとえ安くても、保険程度には役に立つかもしれませんね〕
「(保険程度か・・・まあ、無いよりは少しはマシになるなら)」
〔では、討伐を多めに、モンスターからのドロップで資金調達と行きましょう〕
「(そうしよう)」
クリスはダンジョンに入るまでの間に目的を決めておいてから、今後の方針を立てた。
幸い、それだけの時間があった。
今回着た場所はこの町の冒険者も良く使われるのか、何組かのチームが組んで攻略していた。
現在はそのチーム達がダンジョンに入るまでの間の待ち時間だった。
今回クリス達がこの話題を出したのは先を並ぶ冒険者たちの服装が冒険者としての心得であるように感じたからだった。
中には分かり易く駆け出しのために薄い革の鎧っぽいものを着ている者もちらほらいるが、クリスほどではなかった。
クリスの現在は普通の服、町で予備も含めて少し安く売っていたセット物を買っただけだった。
古着屋で買った物に当然、鎧の様な防御性能なんてあるわけもなく、魔法使いのようにローブも持っていない。
着の身着のままとはまさにこの事だった。
まあ、クリスくらいの子供で防具を持っている子供もいないことは無いが、普段着だけでいる者も割といたりする。
しかい、今回に限って、クリスの年齢に近そうな子供ですら最低限の物を用意していたことが今回の話の原因だった。
〔クリス、もうそろそろ私たちの番になります〕
「(あ、ああ、了解)」
目の前の冒険者の恰好や、周りの景色、近くの兵士や騎士の詰め所など色々と目移りしてキョロキョロしていて順番が近づいていることに気が付いていなかった。
「おい、無茶はするなよ~」
「はい、分かってますって~」
「・・・すみません。
後で言い聞かせておきますので」
「すみません」
ダンジョンの見張りをしている兵士の忠告に軽く返す冒険者のグループ。
普段からここに来ているのか軽口の様な気さくな感じで会話をしていた。
剣士らしき男性の後を同じパーティーのメンバーが兵士に謝りながらダンジョンへと続いて行った。
「全くあいつは~、いつもあの調子で大丈夫なのか?」
「ははは、まあこれまで特に大きなケガもなく帰って来たんだから心配ないだろ」
「・・・他の奴らはともかく、あいつはどこか後先考えず突っ走っていきそうですけどね」
「ふ・・・まあ、確かな」
常連の冒険者たちのことを気に掛ける見張りの兵士たち。
「っとそうだった。
はい、つ・・・ぎの・・・・・・子?」
「どうしたんだこんな所に?
坊主もダンジョンに潜るのか?」
「はい、一応仮登録でカードはありますよ?」
クリスは見張りの兵士に手首に巻いた冒険者カードを見せた。
「・・・確かに。
しかし、仮登録とはいえこんな子供が・・・1人か?」
「はい、このダンジョンは浅い所なら問題ないと冒険者ギルドで教えてもらったので」
「確かにそうだが・・・1人ってのはちょっと・・・」
困り果てる兵士。
ココを使うのは確かに子供でも問題ないそうだが、それは念のため数人、もしくは誰かもう少し年上の同伴が通例だからだった。
いくら初心者用とまで言われるダンジョンでも、通常の外と違い異空間。
簡単に外に出てこられるとは限らないからだった。
「?・・・!
おい見ろ、このカード・・・ギルドマークがないぞ!」
「は?何言ってんだよ。
そんなわけねえだろ。
現にこの子は仮登録って言ってたじゃねえか」
「あ、一応仮登録ではあるんですけど・・・以前、住んでいた町のギルド長に貰った立場なんです。
他の村や町に行くにはカードを持っておいた方がいいって。
あの・・・一応これでダンジョンに入って良いんですよね?」
「え?あ・・・いや、そうだが・・・」
困惑する2人の兵士。
〔クリス、行きましょう。
仕方ないとはいえ、その都度、何度も足止めされても面倒です。
実際、許可は下りているんですから、サッサと進んでしまいましょう〕
「(その方が助かるか・・・)
じゃあ、許可もあるので行きますね?」
「えっ!あ・・・ちょっと」
「おいおい早くしてくれよ。
子供が行くっつってもチタのダンジョンの1階層のそこらだろ?
放っておいたってもんだいねぇよ。
それより俺たちも中に入りたいんだ、サッサと済ましてくれ」
クリスを止めようとした兵士だったが、後がつかえている、早くしてくれと文句を言われていた。
兵士はクリスを気にしながらも順番を待っていた冒険者のチェックへと移るのだった。
「異空間ってこんな感じなのか~」
クリスは少しだけ盛り上がった小山の様な地形になっている広場の下。
まるで誰かが穴を掘った様に出来上がった空洞に入る。
クリスの前にチェックを受けていた冒険者が入っていったのを確認しているので間違いない。
そして中に入っていく。
中には、開かれた門とその中心に内へと渦巻く光る玉があった。
「(この中に入っていく出良いんだよな?)」
〔まあ、他にないのですから進んでみましょう〕
確かに、穴から門まで10メートルも無い所にあって、それ以外が周りに何もないのなら疑いようはないだろう。
「ちょっと緊張するけど・・・いざ!」
クリスは意を決し光に向かって手を伸ばした。
すると、感覚的には昇っていくような感覚。
しかし、目で認識するのは光の玉に吸い込まれるような感じだった。
そして、目の前には草原と朽ち果てた建物が乱雑する不思議な場所に立っていた。
そこで、先ほどのクリスの言葉であった。
「・・・ここは、入口と出口が一緒なのか?」
見回すクリスは、自分の立っていた後ろに光の玉が浮かんでいた事でそう思いついたのだった。
「おしっ!じゃあ、ちゃっちゃと下の階層目指していきますか~」
「そういえば今日はどうするの?」
「またお前の素材集めに付き合うのかよ」
「ええ!イヤよ、そんなの。
この前だって散々集めたのにすぐに使い果たしちゃったじゃない!」
「私も~。
今回は私たちの魔道具集めに付き合ってもらいますからね~」
「あっと、そうだった、すまんすまん。
お前たちの魔道具に必要な素材ってもっと下だよな?」
「そうよ~、だから覚悟しなさいよ~」
「ははは、マジかよ~」
クリスの後に入った冒険者たちが慣れたように次々と入口から異空間に広がる外へと冒険に行った。
数パーティが各々目的の方向へ散っていく中、クリスも動き出した。
「(俺たちも行くか。
とりあえずは、周辺を探索だな)」
〔はい、このダンジョンがどのようなモノか色々調べてみましょう〕
クリスもまた、先ほどの冒険者たちとは違う方向へと歩き出したのだった。
このダンジョンの最初の階層、しかも入口周辺は視界が広く、見渡せるところが多かった。
しかし、それも10分程歩いた所までだった。
そこには緑とかつての文化があった建物にたくさんの苔などが生え、ほとんど自然に還りかけている場所だった。
所々から誰かの声が聞こえてくる。
「(これは、子供の声?)」
〔どうやら、何組かに別れて周辺の薬草などの素材を採取しているのでしょう。
ほら、そこに子供と一緒に同伴している人がいます〕
「(あ、ホントだ)」
楽しそうに話したり、友達同士で遊んだりしながら和気あいあいと素材集めしている子供達がいた。
時折ふざけすぎて同伴している大人や中には面倒を見ている子供の年長らしき子も注意しながら、素材を集めている姿が見える。
「(遊んでいる子供もいるんだし、この辺りは本当にモンスターは出ないのかもな)」
〔ええ、だから保護者も子供たちをある程度自由にさせているのでしょう〕
「(じゃあ、俺たちはもっと先に行かないとな)」
〔はい。目的は私たちが集めている宝石に関係したもの〕
「(流石にここには無いと思うが・・・探索してみて損は無いし。
もう少し見て回ったら、次の階層を探してみるか?)」
〔そうですね。
この辺りに生息しているモンスターなら敵ではないので、サッサと次に行くのもいいでしょう〕
クリス達は少し騒がしくなって注意を受けている子供たちの声を後ろにどんどんと奥に進んでいくのだった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 7
HP 57 MP 49
STR 25
VIT 22
INT 28
RES 21
DEX 24
AGI 27
LUK 12
『マナ:レベル 5』『強化:レベル 5』『総量増加:レベル 1』




