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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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71 ダンジョン・・・行ってみる?

「あの?ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・いいでしょうか?」

「あら、いらっしゃい。

 確か・・・クリス君て言ったっけ?」

「はい、そうです。

 ちょっとお聞きしたいことがあるんですが・・・。

 こう、一色の染まった色の宝石って聞いたことありませんか?」


 クリスはギルドの受付の近くで掃除をしていた職員のお姉さんに聞いた。

 手で逆二等辺三角形の形を胸の前でなぞって理解してもらえるようにしながら質問した。


「う~ん、宝石ね~・・・。

 もしかしてクリス君。

 それで、好きな女の子にプレゼントでもするの?」

「え?」

「ふふふ、もう~。

 そういうのはもっと大きくなってからでもいいのに~」


 まったく別の方向に解釈されてしまっている様だった。


「あっ、いや、そういうのではなくて」

「はいはい、分かってるって・・・。

 えっと・・・宝石よね?

 う~~ん、あんまり聞かないかなあ~。

 それって、もしかして特殊なもので魔法とかに使うモノなのかな?」

「いや・・・そういうモノじゃないと、思うんですけど・・・」


 クリス自身宝石そのものの理由がいまいち掴めていない。

 封印に使われていたことは分かったが、本来の用途が分からなかったのだ。

 だから、質問されてもあまり答えられなかった。


「何だなんだ?

 坊主、お前、宝石が欲しいのか?」

「欲しいって言うか・・・ちょっと探してて」

「でも魔法とかにも使うアイテムってわけじゃないのよね?」

「・・・たぶん」

「なんだそりゃ?

 なんかの高額な宝石なのかよ?

 だったら、鉱山にでも行くんだな。

 といっても・・・坊主じゃ無理だろうけどな、あっはっはっは」

「どうなんだろう・・・高い物っていうのではなくて、どこかの儀式に使われていたような・・・宝石?」

「・・・ますますわからん。

 大体宝石なんて、ガキが金を稼ぐにしても大きく出すぎだろ?」

「いや、別にお金のためじゃ・・・」

「はっはっはっは、諦めろ。

 そういうのはもうちょっと大人になって強くなってからにするんだな」


 たまたま通りかかった冒険者のおじさんが、クリスの質問に答えてくれるのかと思いきや、ただの冷やかしであった。

 笑って去って行く冒険者を気にせず聞いていた、職員のお姉さんが提案してきた。


「あ、だったらチタのダンジョンに行ってみてはどうかな?」

「・・・チタのダンジョン?」

「そう。

 初心者が・・・つまり、新人冒険者が行くダンジョンよ?

 浅い階層だったら、仮登録の冒険者も行ける場所なの。

 そこに行けば何か発見できるんじゃないかな?

 もしかしたらクリス君の探している物も意外と見つかるかもよ?」

「(んな、馬鹿な・・・)

 へ~、そんな場所があるんですね。

 ・・・あ、ビスガルさんが言ってたダンジョンってそこなのかな?」

「え?クリス君、ビスガルさんを知ってるの?」

「はい。

 クレフーテに向かう途中で出会って、町まで案内してもらったんです」

「へ~、良いな~~。

 ビスガルさんと」

「?」


 職員のお姉さんは明後日の方向を見て、少し頬を赤らめていた。

 クリスは置いてけぼりをくらい戸惑う。

 すると、作業中の別の職員のお兄さんが話しかけてきた。


「ああ、大丈夫だよ。

 彼女、ビスガルさんに憧れているんだ。

 この町に昔から住んでいる住人にとって彼は英雄みたいなもんなんだよ」

「へ~、そうなんだ」

「町や住人の事を常に気に掛けてくれているからね。

 それで住人からも頼りにされている。

 彼がいるからここでの大きな騒動は抑えられているんだ。

 もちろん彼だけじゃない。

 ココの領主のフロスタン様方のおかげでここはこんなに大きく発展していったんだ。

 ダンジョンが新しくできれば人がその恩恵にあやかろうと集まり、大きくはなる。

 しかし、その分、治安が一気に悪くなってしまったりするんだけど、ココの領主様のご夫婦はそのことを見越していくつかの対策も成されていた。

 そのおかげで、ここは比較的、他のダンジョンで発展した町と比べても大きな問題になる騒動がないんだ。

 偏に領主様達の先見の素晴らしさだよ」

「は~~。

 (ここを納めてる人ってすごいんだな)」

〔まあ、十中八九、シェイミ―達のご両親の事だと思いますね〕

「(ああっ、そっか)」


 サポートの言葉で他人事のように聞いていたクリスはシェイミ―達の母親に会っていた事を思い出し納得した。


「(やっぱり、凄い人だったんだな)」

〔・・・しかし、ビスガルがこの町では英雄と思われているとは・・・〕

「(ちょっと意外だな。

 どっちかって言うと、シェイミ―達の護衛が第一で、町は出来る範囲くらいに自分の中で線引きしていたように思ったけど)」

〔昨日の言葉からすると、この故郷をとても誇りに思っている節がありましたから。

 案外、その辺りの所を住民も分かっているのかもしれませんね〕

「(なるほどね~)」


 少しだけビスガルのこの町に対する、誇りを感じ彼に対する違う一面を知ることになったクリスであった。


 職員のお兄さんは、未だに遠くを見ている同僚に声を掛け、現実に引き戻した。


「ほら、ボ~っとしてないで、仕事をする」

「ああ!そうでした。

 ・・・えっと・・・何だっけ?・・・あ!そうそう、ダンジョンについて。

 クリス君も仮登録者なら一度、チタのダンジョンに行ってみるのも良いんじゃないかな?」

「ダンジョンの中ってどんな感じなんですか?」

「中は異空間になっていてね、ちょっと広いのよ。

 それに、一定周期毎に``変遷``といって地形が少し変わるの。

 だから、正確には固定されないんだけど、初心者が行くのに向いていてモンスターが弱く、それに地形も草原ステージが割と多いそうなの。

 だから、外にいる時とそう違いが無い感じよ?」

「・・・浅いってことは、深い場所、階層があるってことですか?」

「ええそうよ?

 ただそういう異空間の階層は次の階層への生き方がバラバラだから難しいのよ。

 階段があって上がるものや下るもの、魔法による転送、強制転移なんてものもあるしね」

「決まってないのならどうやって帰るんですか?」

「そのダンジョンによるのかもしれないけど、決まったルールの様なモノがあるそうでね?

 それをダンジョンが意図的に崩すことは滅多にないそうよ?」

「何か理由が?」

「ダンジョンは突然現れるものや自然と長い年月を掛けて作られていくもの。

 誰かが意図的に創っていったものあるそうよ?

 だけど・・・昔からいくつかのダンジョンには意志を持っているモノがあるって確認されてね。

 そこから学者が見つけたのがダンジョン自身が勝手に挑戦者を始末するために自己のルールを変えることに重い罰則の様なモノが課せられているんじゃないかって説があるの」

「?」

「もちろんその可能性なんだけど。

 どうも昔、それを実行し特定の挑戦者を意図的に殺す為だけに作り上げたんじゃないかって階層があった、と一部、昔の記録にほんの少しだけ載っていたそうなの。

 だから、ダンジョンそのものが自己ルールを変えることは基本的に無いと思ってもらっていいそうなの」


 お姉さんの説明に考え込むクリス。

 なぜなら、そのご都合主義な所に心当たりがあったからだ。


「(・・・これは)」

〔ええ、この世界に積極的に干渉している誰か(・・・・・・・・)、あるいは干渉した何か(・・・・・・)の影響でしょう。

 この世界にシステムとしてとても強力なプログラムのように強制しているのでしょう〕

「(わざわざそこまでして、何がしたいのやら)」

〔あるいは、何らかの力が混ざり合って出来た自然発生なのかもしれないのですが〕

「(どっちにしてもこの世界に住む十人にとって、それは良いのか、悪いのか)」

〔人とは柔軟に生きるものです。

 対応力があったから、今でも存在し続けていられるのです。

 そして・・・それの恩恵を十分に糧にしているのですから・・・結果だけ言えば良い方向に向いているのではないでしょうか?」

「(・・・)」


 クリスはサポートの言葉に何とも言えない苦笑の顔であった。


「・・・あ、ごめんね。

 今の説明は難しかったかな?」

「えっ?あ、いえ、大丈夫です」

「そう?

 分からなかったら言ってね?

 もう少しわかりやすい様にできるだけ教えるから」

「ありがとうございます。

 それで、結局、次の階層に行くのか帰るのかってどういう風にすれば?」

「う~ん、私がダンジョンに直に入ったことが無いから、記録と言ったことがある冒険者の話になるんだけどね。

 進むかどうかが感覚的に伝わってくるそうなの。

 次に進みますか?引き返しますか?みたいなことが頭の中に浮かんだりするんだって。

 最初は戸惑うけど、異空間のあるダンジョンに潜ったことのある冒険者は皆、言うのよ」

「へ~。

 なんか親切ですね」

「まあ、パーティーの状態や実力を見極められるし、冷静になれるから助かるって思う冒険者もいるそうよ?

 階層に進むにつれ凶悪になっていたり無茶苦茶なトラップに嵌る恐れもあるからだって話よ」

「なるほど~」

「あとダンジョンそのものにも難易度があるから一応、冒険者たちが体験し集めてくれた情報からギルドでダンジョンによっての使用許可を決めることも出来るから、こっちとしても命の危険を無駄に無くさなくて済むから助かるのよ」

「(お互いにとっても悪い事ではないと)」

〔Win-Winの関係って事でしょうね〕

「と、まあダンジョンに関しては大体こんな所だけど、他に質問はある?」

「う~うん、大丈夫。

 色々教えてくれてありがとう。

 それじゃあ」


 クリスはダンジョンの説明を大方聞いたのでさっそく現地へ向かおうとした。


「(あとは、いったんどんな雰囲気なのか実際に目で見ないと分からないしな)

 ・・・あ、そうだ。

 そのチタってダンジョンはどこにあるんですか?」

「このギルドの近く、西口の門を出て、その門を沿って北に向かえば見えてくるはずよ。

 ダンジョンの側に兵士や騎士たちの詰め所が建ってあるから、それが目印よ?」

「ありがとう。

 それじゃあ行ってきます」


 クリスは今度こそギルドを出てチタのダンジョンへと向かった。


「ふふふ・・・仮登録は出来ても、まだ子供。

 ダンジョンを進めてもちょっとかな~?

 まあ、挑戦する勇気はあるんだし、たくさん苦労して、良い冒険者になってくれるといいな~」


 未来を夢見る子供の背中にまぶしさと微笑ましさで笑みが零れてしまう職員のお姉さん。

 同じく同僚のお兄さんもそんな子供の背中に応援してしまいそうな気持になりながら、自分たちの職務に戻ろうとしていた。


「おっと、説明は終わったんだ。

 仕事に戻るぞ」

「は~い」


 2人が仕事を再開してギルドの仕事に精を出している時。


 ガチャ・・・。


「すまないが人を訪ねたいんだが、良いか?」

「ビ、ビスガルさん!

 ど、どうされたんですか!」


 町の英雄とも呼ばれるシェイミ―達の護衛騎士、ビスガルが冒険者ギルドの入ってきた。

 たまたま近くを通っていた受付の1人が近づいて尋ねる。

 そして、その受付の驚いた声で近くの冒険者とギルド職員がビスガルに顔を向けた。

 ビスガルは注目をされているが、そんなことは気にしないと話を続ける。


「人を探していてな。

 ココに彼が行くと言っていたとお嬢様から聞いたものでな。

 彼も冒険者、しばらくは居ると聞いていたからココに来ると思って来たんだ」

「だ、誰をお探しで?

 ビスガルさんがわざわざ探すなんて」


 ビスガルほどの町での有名人であり、地位を持っている人が使いを出さず、自ら探す。

 そのことがより周囲に興味を引きたてた。


「・・・そんな畏まらないでくれ。

 彼に礼と依頼の報酬を渡そうと思っただけだ」


 あまりに周囲が聞き耳を立て、騒ぎが大きくなりそうだと判断したビスガルは周りに念のために注意を促す。


「これは失礼しました」


 直接、話していた職員が謝ったことで、周りにいた者達も通常に戻った。


「俺のせいで騒がしくしたな。

 すまない」

「い、いえ、とんでもございません。

 あの~、それで誰を?」

「クリスって冒険者だ。

 彼にこの依頼料を渡していなくてな」


 ジャリッ。


 そこには袋がかなり膨らんだお金が入っていた。


「こんなに大金を?」

「これでも、少ない方なんだ。

 こちらとしては彼に大きな借りを作ってしまっている。

 これも、正当な報酬の一部だ」

「・・・そのクリスって方に渡せばよろしいのでしょうか?」

「ああ。

 出来れば直接、渡したいのだが・・・ここには来ていないのか?

 それとも、もう一つの方か?

 しかし、お嬢様が紹介したギルドの方角はココだと聞いているが・・・」

「でしたら、私たちの方でも探してみますね?

 もしかしたら、出掛けているか、宿の方で寛いでいらっしゃるのかもしれませんので。

 使いを出して、探させますが・・・」

「う~ん・・・すまないが頼んでも良いか?」


 ビスガルは今後の備えのために動かなければならないが、あまりに急ぎ過ぎれば町に潜む、伏兵にこちらの状況を伝えてしまうと思い、出来るだけ普段通りの日々を過ごすよう努めた。

 領主夫妻の計画に従い、今は平穏に過ごすことを心掛ける。


「分かりました。

 それで・・・そのクリスって冒険者はどんな方ですか?」

「仮登録の冒険者で五才くらいの子供だ。

 昨日か今日、ココに来たと思うのだが?」

「「えっ!」」


 離れた所で業務をこなしていた職員の2人がほぼ同時に声を出す。

 再び周囲が少し静まり返った。


「知っているのか?」

「え・・・はい、少し前に来てまして」

「本当か!」

「ダンジョンの話になりまして説明したら・・・チタの方に向かうと」

「入れ違いになったか」


 ビスガルと話していた職員が気になり訪ねてしまう。


「あのビスガルさん、お尋ねしたいのですが・・・そのクリスという子供とはいったい何を?

 しかも、それほどのお金まで・・・依頼料とおっしゃっておりましたが」

「とある任務の事情でな。

 内容は話せないんだが、そこで彼にたまたま出くわして、助けてもらったのだ」

「助けてもらった?

 助けたのではなく?」

「ああ、そうだ。

 彼は命の恩人だ」

「・・・」


 ビスガルの言葉に話を聞いていた一同が沈黙してしまった。

 色々と気になり聞きたい者もいるがビスガルが``言えない``と言ったことはそれほど重要な事だと言うことを待ちの者達は分かっていた。


 それは、ここで長く住んでいる冒険者も理解していた。

 だからこそ、そんな彼に命の恩人として自ら礼を述べ報酬を渡したいと言われた子供の存在に気にならない者は、この町で英雄と呼ばれるビスガルを知っている者達には1人としていなかった。


「(クリス君っていったい何者なの!)」


 その中で1番驚いていたのは、クリスにダンジョンの話を持ち掛けた職員のお姉さんだった。






【クリス】5才 人間(変化)

 レベル 7

 HP 57 MP 49

 STR 25

 VIT 22

 INT 28

 RES 21

 DEX 24

 AGI 27

 LUK 12

『マナ:レベル 5』『強化:レベル 5』『総量増加:レベル 1』

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