66 救出と思いがけない報酬
「ガアアアッ、アアッ、アアアアッ・・・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
苦しみ出し叫ぶと同時に腕を振り回し、溢れるマナで周囲に暴風を起こす縞模様の大型モンスター。
その振り払っているだけの力で近くにいる騎士は吹き飛ばされそうな体を必死にこらえている。
「ッ!・・・クッソッ、何なんだこのマナは!」
「お嬢様はいったい・・・」
「宝石の中にあるマナと封印されたモンスターが暴れてるの!
封印されたモンスターがあのモンスターの体を奪おうとしているの!」
「うううううう、お姉ちゃ~ん!」
「しっかり捕まっててキルシュ!
離しちゃダメよ!」
大型モンスターの暴走によって引き起こされている暴風は離れている騎士とその後ろにいる子供たちにまで強く届き、必死に吹き飛ばされない様に踏みとどまることしか出来なかった。
やがて、徐々に風が収まり、体の自由が戻ってきた頃。
そこには、先ほどの暴走していたモンスターの面影はなかった。
姿は変わってはいないが体に纏うマナが黄色く変貌し、マナの質と圧が先ほどとはまるで違っていた。
明らかに操られていた時とは違い、意思をしっかりと持った存在がそこにいた。
「・・・・・・ガアアア」
何かを言おうとしているのか伝えようとしているのかは分からない騎士たちだったが理解を越えた本能が今、危険であると訴えていた。
なぜならそのモンスターは、少女に固定して目を離さなかったからだった。
明らかに標的を見つけ、捉える事だけを考えている目だった。
「させるか!」
騎士がモンスターに斬りかかる・・・が。
バキリ!
「!」
わき腹を切り裂くつもりで振った剣があっさりと折れてしまった。
「バカな!」
そのモンスターはガードも何もせず少女を見て突っ立っているだけだった。
不意打ちのつもりだった攻撃が何の意味も成していなかった。
「ッ!リンジーーー!!
お嬢様たちを連れて逃げろーー!」
騎士の男は叫ぶと、折れた剣であろうとかまわず斬りかかった。
しかし、小さな切り傷すら付けられずにいた。
「くそっ!」
何とかしなければと焦る騎士。
しかし、何も出来ずモンスターはゆっくりと少女の方へ歩き出した。
「!、逃げるんだ早く――――!」
尚も斬り付ける騎士。
しかし、やはり全く効いていなかった。
「うおおおおおおおおっ!」
見向きもされない騎士は何とか行かせまいとタックルし掴んで必死に止めようとしていた。
「お嬢様今のうちに!」
「っでも!」
「時間がありません!
さあ!早く・・・・・・ッ!」
ッガシャ!ッド・・・ズザ――――――!
少女を連れていこうとした所を、必死に止めていた騎士がモンスターに吹き飛ばされ転がってきた。
「ッガ!・・・ッウエ・・・ヒュー・・・ヒュー」
血を吐き、倒れビクビクと動いている騎士。
もはや、立つ力が無く、痙攣だけが起こっていた。
「あ・・・あ、ああっ」
「キルシュ、見ちゃダメ!」
吹き飛ばされ転がってきた騎士の姿を見てしまい、今にも泣き叫びそうな弟を腕で体ごと引き寄せ覆い隠す姉。
「ごめんね・・・お姉ちゃんのせいで、こんな目に合わせて・・・ひっぐ・・・ごめ、ん・・・ねえ」
泣きながら弟に謝る姉。
「グウウウウウ・・・」
目の前の騎士など見ず、その後ろに隠れた姉弟を見る大型モンスター。
「・・・お嬢様たちには指一本も触れさせない。
・・・私は騎士。
ココで引くなんて選択はありません!」
騎士はゆっくりと前に出て、剣を構えた。
「・・・・・・・・・・・・っつああああああああああああ!」
自信が持つマナを使い全力で斬りかかる。
ガギンッ!
あまりの固さに剣が大きくはじかれ手元から滑り、後方へと飛んで行った。
「!・・・」
ヒュゴッ・・・
重い一撃、それにより騎士はダラリと全身の力を失った。
下から打ち出したフックをまともに喰らった騎士は意識を手放してしまった。
突き刺さったような状態で持ち上げられ、姉弟の方へ放り投げられた。
ガシャン!
側を騎士が落ちた音が響いた。
肩を震わせ、必死に弟を庇おうとする姉。
「(お願い誰か助けて・・・誰か・・・弟だけでも・・・お願い誰か・・・誰か)」
ズシ・・・ズシ・・・ズシ・・・。
「フウウウウウウウウウ・・・・」
すぐ傍から生暖かい呼吸と声が聞こえる。
「ううううああああ・・・あああああ・・・あああああああああああっ!」
我慢の限界を超えた弟が姉の胸の中で泣き叫ぶ。
「おねがい・・・だれか・・・たすけて・・・」
モンスターが姉弟に触れようと手を伸ばした。
瞬間。
ドゴッ!
「ガッ!!」
ズザーーーー!
・・・・・ッダ――――ン!
離れた所から響くような振動が体に伝わってきた。
「・・・・・・?」
少女が勇気を振り絞り目を開けたそこには。
端の壁近くまで遠くで仰向けになっている大型モンスターの姿だった。
「ちょっとまずいんじゃないか?これって。
もしかして俺たちのせいでこんなことになってるんじゃないのか?
・・・・・・いや、お前が危険な状態だって言うから遠くから支援したのに・・・。
あ~~、もうこれって完全に俺たちのせいでピンチになっていた所だろ」
声が聞こえた方向を見ると弟とほとんど変わらない姿の少年が誰かと話しながら、周囲を確認し姉弟の横を通り過ぎていった。
「ごめん。
俺たちのせいで余計危険な事になってしまって。
申し訳ないけど、倒れている人達の事お願い出来るかな?」
「・・・え?うっ、うん、わかった」
突然話しかけられた少女は戸惑いながらも返事を返した。
そして、姉にしがみついていた弟もいつの間にか泣き止み少年の方を見ていた。
「キルシュ、こっちへ・・・さ」
姉に手を引かれ、騎士たちの側に向かう弟。
マナを使って倒れた騎士の傷を少しづつでも回復させようと呪文を唱えている姉。
未だ、状況が呑み込めていないが少年に頼まれ避難する姉弟だった。
「(っさて・・・なんかさっき感じた、急に膨れ上がっていたマナはこいつで間違いないようなんだが・・・姿かな?
なんか雰囲気違くない?)」
〔・・・何かを取り込んだのは間違いないようですね。
その結果、急激にマナが膨れ上がったのは確かです。
・・・しかし、感知してマナは確かに2つあった様に感じましたが・・・どういう事でしょうか?
現在は1つになっているようですね。
ぶつかり合ったマナの1つが勝ち、あの肉体を支配しているのでしょうか?〕
「(う~ん・・・わからん。
とにかく、もう逃げるわけには行かなくなったな)」
〔はい。現在、先ほど助けた少女が倒れている者達の治療にあたっています。
たとえ治療が完了しても、あの様子では、すぐに起き上がることは出来そうにありませんね〕
「(じゃあ・・・やるしかないか)」
〔イエス〕
クリスが会話中もなかなか起き上がろうとしなかったモンスターがクリスの会話が終了したタイミングでやっと起き上がった。
「ッガッ!・・・アア」
振り向きざまにクリスがマナを纏った蹴りで吹き飛んだモンスターは鼻と口から血をダラダラと垂らしフラフラになりながら立ち上がった。
「ッグ・・・アア・・・アアア・・・アアッ!」
黄色い目が血走りそうなくらいむき出しになりながらクリスを睨みつける。
まるで、復讐の元凶を見つけたように。
「フー、フ―――。
フ―――――――、フ―――――――――――。
・・・・・・ガアアアアアアアアアアアアア!」
呼吸が荒くなり、ついには決壊し全力で殺しに向かってくる大型モンスター。
「!・・・え?
・・・なに?早い!」
大型モンスターの全力の動きに目がほとんどついていかない少女。
「・・・お姉ちゃん?
何が起きてるの?」
弟も同様、目がクリス達の動きについていけていなかった。
2人に目には動いていることは見えるが残像が多くそれが繋がった線のようにも所々見えていた。
「(・・・結構早いな。
レッサ―モンティと特訓していて良かった~。
戦えないわけじゃないけど、こんな戦い長時間続いたら流石にマナが尽きてしまっていたかも)」
〔ええ。
本当に実りの多いモンスターでした。
あらためて感謝ですね〕
クリスはほとんど攻撃に転じず避けているだけだったが、大型モンスターの方は必死に攻撃を当てようとしていた。
「ッガ!・・・グアァ!、ガアアア・・・グアアアアアアアア!」
一発も当たらないことに、苛立ちと焦りが徐々に募っていく大型モンスター。
咄嗟に視線を外し、治療している少女たちの方へ意識が向く。
「(おっと、それはだめだよ)」
意識がそれたことに気づいたクリスが懐にまで接近して腹部を殴り吹き飛ばす。
ドゴッ!
「ガアァァァッ!」
バンッ・・・ドッ・・・ドッ・・・ガガーーン!
あまりの強さにくの字になって吹き飛びバウンドをしながら壁に叩きつけられた。
「ゼハアアーーー・・・ハアアアアァァァァ・・・・・・」
あまりのダメージに四つん這いになり、二重の息遣いが聞こえるほどに大型モンスター消耗していた。
「(今のはあまりマナを使用しなかったけど・・・どうやら、そこまで今回も強敵のモンスターっていう訳じゃなかったようだな・・・助かった~)」
〔・・・あのモンスター。
クリスとの力量に気づき焦りが窺えます。
このままですと逃げてしまうかもしれません〕
「(それは困る。
一気に片をつけるか)」
格段に自身の能力の使い方を学んだクリスに手も足も出ない大型モンスターはこの場を逃げようと少しずつ洞窟の入り口の穴へと向かおうとしていた。
クリスはショートソードを腰から抜き、モンスターに向かって駆けだした。
「ガアアアア!
・・・アアアア、ギィィィァアアアアアアアアア!」
最早戦意を失い背を向け逃げようとするモンスター。
「・・・ふっ!」
クリスは飛び上がり逃げる背中を斜めに斬り付けモンスターの前へ通り過ぎで着地した。
「・・・ガッ・・・アァ・・・」
大型モンスターは寸断され、体が斜めにズレながら上昇するエネルギーの奔流と共に消えていった。
「・・・ま、こんなとこか」
〔はい。
この辺りのモンスターの気配はありません〕
クリスは振り返りモンスターがいた場所と少女たちの方を確認した。
「(うん。大丈夫なようだ)」
1人頷き、安心していた。
〔!、クリス!これは!〕
サポートの言葉に反応して何か聞こうとした時、倒れたモンスターの所に黄色い宝石が転がっているのを目にしたクリス。
「黄色い宝石!」
クリスが反応したのも束の間、宝石が輝きだし空中に浮かんだ。
それに伴い、クリスの首にかけてあるペンダントも輝き、服の下に入っていた所から外へと浮かんで出てきた。
そして、宝石が急に勢い良くクリスに飛んでくる。
「うおっ!」
びっくりして、声を出した瞬間。
ペンダントの中に宝石が勝手に入っていった。
「・・・?」
何もなかった事に不思議に想いペンダントを覗いてみると・・・。
そこには花びらの1つが黄色く変わっていたのだった。
「・・・思いがけず、宝石を入手・・・かな?」
〔・・・結果だけ見ればそうなります〕
突然の事に呆気にとられるクリス達だった。
「大丈夫だった?
・・・ケガとかは?」
「あの・・・えと、大丈夫です。
・・・あの!助けてもらってありがとう!
・・・えと」
「?、ああ!
俺はクリス。一応、冒険者やってるんだ」
「私はシェイミ―。
助けてくれてありがとうクリス君」
「いや、たまたまだから気にしないで」
クリスは回復を終えたのであろうシェイミ―と名乗る少女と話していた。
「ずいぶん森の奥に来たんだね。
このルートは一般的ではないって聞いたんだけど?」
「あ・・・ええ、ちょっと私たちはここに用があって・・・でも、厄介なモンスターと人に見つかって・・・それで、ココに逃げるしかなかったの」
「ふ~ん、そうなんだ}
「私も聞いていいかな?」
「?・・・はい」
「クリス君って冒険者なの?」
「一応・・・そうだけど。
ああ、もしかして冒険者カードの事?
それなら・・・ほら、手首に巻いてるでしょ?」
「・・・ホントだ~、スゴイ~」
「あ、こら、キルシュ!
ごめんね、弟が・・・」
「いや別にいいよ。
・・・それよりどうするの?
この人達って君たちの騎士か何かだよね?」
「えっ!・・・あー、うん、そうなんだけど・・・」
「・・・とりあえず、ここで一緒に待ってようか?
幸い、この辺りのモンスターはココには近寄ってこないようだし、目が覚めるまでここに俺の残ろうか?」
「えっ・・・いいの?
迷惑じゃない?
だって私たち、何も出来ないし・・・」
「倒れている人達が起きるまでだから、そこまで気にしなくても大丈夫だよ」
「ホントに?・・・じゃあ、お願い」
「うん、わかった」
そして、リュックの中に入れておいた水筒や乾燥した食べ物などをシェイミ―達に分けながら、騎士達が目覚めるまでの時間、洞窟で共に過ごすのだった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 3
HP 25 MP 18
STR 8
VIT 6
INT 7
RES 5
DEX 9
AGI 7
LUK 3
『マナ:レベル 3』『強化:レベル 3」




