55 事故防止は入念に
ザッ・・ザリッ・・・ジャッ・・・ジャッ
「はあ・・・はあ・・・はあ。
あ~~~~・・・あちい~~~~」
体と服がびしょ濡れで気にしていなかったクリス。
しかし、今いる場所は緯度の関係であろうか真夏を指すうだるような暑さが襲い、クリスの歩く気持ちを徐々に億劫にさせていた。
最初はそこまで気づいてはいなかったが川の近くにいたために気温も心なしか低く夏だとしても問題ないと思っていた。
ちょっと前の落ち込む出来事を切り替えるために気持ちを新たにした。
さあ、いざ出発!・・・・・・・・・と、最初は元気でした。
川の付近を歩いていたが徐々に曲がりくねり通りづらい経路になってきたため、側を離れざるおえなかった。
幸い、少し離れた位置に人が使う砂利道があることからその通りをずっと下流に沿って下っていた。
「はあ・・・はあ・・・(かれこれ3時間は歩いたんじゃないか?
服もとっくに乾いているし、こんなに景色が変わらない場所で荷物はあっても地図が無いってのは精神的に来るな)」
荷物は持っているが・・・持っているのはあくまで戦闘用の物だけだった。
サポートの注意と助言により、地球の物はほぼ一切持っていなかった。
その``ほぼ``は向こうで使っていたスリングショットとビー玉だった。
水筒など技術的に高い水準の物は知られるとまずいのでは・・・と言われれば納得させる所もあったため、なくなく諦めた。
結果、一応近くに川はあるが・・・ぶっちゃけ絶賛遭難中であった。
〔・・・何もありませんね・・・モンスターも現れませんし。
・・・ヒマですね〕
「ぐうっ・・・」
人間、色々と余裕がなくなると短気になってしまったりもする。
それが・・・あまりにも自分勝手な事であったとしても・・・。
クリスは暢気なサポートの発言にイラッとした気持ちになりながらも足を止めず歩き続けた。
「はあ・・・はあ・・はあ・・・、そんなにヒマなら代わってほしいよ。
・・・めちゃくちゃ暑い・・・というか、何でこんなにジメッとしてるんだ?
川が近くにあるし、道もそれほど木が密集しすぎるほどじゃないだろう。
行商人が通ってるのか、舗装ではないけどしっかりとしてある場所だぞ」
〔・・・ここはクリスのいた地球の日本で言う所の沖縄に近いのでしょう。
おそらく、気候や天候も含んで変化が激しく湿気が高いのでは?〕
「・・・いや、沖縄なんて行ったことないよ。
っていうか、何でお前が沖縄なんて知ってるんだよ」
〔私も純の記憶にあるテレビ情報など色々と知りましたから〕
「・・・ああ・・・そうですか」
あまりに湿気の高さと肌に服がひっ付く感覚の気持ち悪さの中をひたすら歩く。
精神的にも参ってきたためにサポートの反応にもまともに返さなくなってくる。
「・・・これ、服乾いてるって言うのか?」
乾いたと思っていたが、すっかり服がぴったりと着くくらいに上着は汗を吸収して一部が濃い色に変わっていた。
〔とっくに乾いていても、汗で結局濡れてしまっているので・・・あまり意味はありませんね〕
「・・・だと思った」
それを言った後、クリスはすぐに休憩にした。
川の方へ向かって歩き、水分補給をしようと思ってである。
〔そういえばクリス。
クエスト表は見たのですか?
ココへ来るために工場に行った後には見ていなかったようですが?〕
「あ、そういえば」
サポートに言われて改めてステータスからクエストのタブを見てみる・・・が。
「ん~・・・ないな~。
どうも、ここに来る必要はあったのかもしれないけど・・・まだ明確に何かを求めてきたりとかはないみたい」
〔・・・とりあえずは、このまま町などを目指して進む・・・という事でしょうか?〕
「そうだね。
特に急ぎがあるわけじゃないし、まずは休憩してから・・・また下っていこう」
少し現在の状況にまた憂鬱な気持ちになりながらもクリスは川で休憩しに森の中に入っていった。
「んぐっ・・・ごくっ・・・うぐっ・・ぷは~っ!
ふう~、生き返る~」
〔余程のどが渇いていたようですね。
しかし、クリスいきなりそんなに大量に飲むのは本当は体には悪いのですよ?
本来は少しずつゆっくり飲むものです〕
「分かってるけど・・・こういう時ってそんな意識まで頭が回らなかったりするんだよね~」
砂利道から少し外れた森の中の川で休憩をとっているクリス。
「まだ、少しジメッとした感じはするけどココはかなり快適な気がする。
なんだろ?・・・日影が多くて川があるからかな?」
〔・・・それだけではないようです。
どうやら、この川の上流からマナの確かな流れがあるようです。
人体には影響はないようですがこの川の周辺は、この川の水に含まれているマナの質のおかげでこの森などが繁殖しているようです。
このマナの性質のおかげでここの気候でもたくさんの植物や動物が生息できているのでしょう。
もしこれがなければ、最悪の場合。
荒れは果てた場所でクリスは目を覚ますことになります。
それこそ、荒野や砂漠と呼ばれる場所に〕
「・・・という事は俺って運がよかったって事か?」
〔はい・・・これが、上位の存在以外の何かの力なのか。
それとも本当にクリス自身の運によるものなのかはわかりませんが・・・まだ運はいい方でしょう。
しかし、このままいれば結局は近いうちに・・・〕
サポートの言葉にクリスはここの川に来るまでの道中で餓死なのか何かに襲われたのか白骨したモノを何個も見ていた。
安易に``このままでは死ぬぞ``というサポートの言葉にクリスは薄ら寒いものが体に走った。
「うう~っ!
・・・早く人里に向かいたい」
〔・・・お?クリス良かったですね。
どうやら、少し離れた所で戦っている者がいるようです。
・・・いえ、どうやらこれは襲われていると言った方が正しいかもしれません〕
「えっ!どこ!」
〔ここから少し川を下った所にいます〕
クリスはその場所目指して走っていく。
器が昇華し存在が上がったことで身体能力が向上したクリスの速度はアスリートが綺麗に舗装されたレーンで走る速度を優に超え、木々や景色が流れる様に見えるものを切り替えていった。
「(確かに・・・これは以前の時より上がっているな)」
自信の能力が向上していることに実感をしながらもクリスは足を止める事無く走り続ける。
「・・・思ったよりずいぶん離れてないか?」
〔いえ、もうすぐです。
クリス、前方に人が3人。
周りにウルフと植物モンスターが合わせて14体います〕
「よくこんな遠くから判ったな」
〔私もクリスの向上により少しは性能が上がってことではないでしょうか〕
「なるほどね・・・とにかく先にモンスターだ!」
クリスはマナによる気配からモンスター独特の流れを検知。
そこに目掛けてスリングショットを取り出し、近くにあった石を拾い、挟んで照準を向けた。
止まって軽く息を止めマナを体から石まで全体と薄く包む。
「ッ・・・ッ!」
放った石は鋭い音を出しながらまっすぐに飛んで行く。
今のクリスの撃った石をただの一般の人間が喰らえば体が吹っ飛び死んでしまうレベルの物であった。
この世界でもクリスとまともに戦えてしまえる者はとっくに能力だけで言えばDランクは必要かもしれないくらいだった。
間髪を入れずに2射した後すぐに走ることを再開。
〔1射目は植物モンスター1体とウルフを2体撃破、その奥にいたウルフにも命中大きくダメージを与えました。
続いて2射目は別のウルフに命中し近くにいたモンスターを巻き込んで小さな衝撃を起こし4体をまとめて撃破しました。
現在、何とか戦闘に参加していた者が怯んだ隙を突き植物モンスターとケガを負ったウルフを撃破。
残りはパニック状態になったウルフが5匹です〕
サポートが言い終わる少し前にクリスは戦闘中の人とモンスターを視認。
目で確認しながらも走ることは変えず、リュック(の中のアイテムボックス)から取り出した専用ショートソードでウルフを切り結びながら、襲われている人の傍まで寄った。
人の傍で振り返りウルフに剣を向ける。
「大丈夫ですか!」
「きっ、キミは?」
弱弱しく剣を構えていた、10代くらいの男性が後ろにいる子供二人を守りながらクリスに問う。
「話はあとで。
とにかく、気を緩めないで!」
「わ、分かった」
人の傍まで行くときに2体のウルフを狩ったが、未だ3体のウルフモンスターは戦闘を継続する気でいた。
「ウウウウウウッ」
「グルウウウ」
「ガウッ!」
一匹の吠えに合わせて3匹が一斉に襲い掛かった。
「・・・ふっ!」
クリスは意識を目の前のウルフに絞り、集中した時、ただでさえ緩慢な動きに感じたウルフの動きがよりスローモーションに見えた。
そこを、ショートソードで横に一閃した。
ズン!
剣の衝撃波が走り、側の木を巻き込んで切り裂いてしまった。
数本ほど周囲の木を切り倒したところで衝撃波は消えた。
ドザサッ!ジャッ!ドサッ!
襲い掛かろうと飛び出したウルフは真っ二つにされ空中から地面に別れて落ちてきた。
振り抜いた体勢からクリスは構えを解いた。
「「「・・・」」」
後ろの3人はクリスの背中を驚いた顔で見つめる。
しかし、一番驚いていたのはクリス自身だった。
「(な・・・なんだよこの威力は!
あ、あっぶね~。
もし人がいたら巻き込んで・・・最悪、殺してしまってたかも)」
3人からは見えないがクリスは目の前の惨状に顔を青くしていた。
〔これは・・・・・・クリス、もう少し加減というものをあなたは身に着けるべきです。
今回は緊急だとはいえ、あまりに使い方が雑になっていますね〕
「(し、仕方ないだろ?
こんなに向上してるなんて知らなかったんだから。
っていうか、こんなに上がっているんならお前からもちょっとは話してくれよ)」
〔私はクリスのサポートではありますが、あなた自身がどれだけ力が使えるかまでは把握できているわけではありません。
少しはクリス自身も自分で能力を調べてくれないと私では分かりませんよ。
っというか、これはオーバーキルし過ぎです。
後ろの人たちも驚いているではありませんか〕
「え?」
初めてそこで戦闘が終わり、しっかりと後ろのいる3人を見るクリス。
「あ」
「「「・・・」」」
驚いた状態から固まっている男性と子供の二人。
「あ・・・あっははははは」
適当に頭を掻き、笑ってごまかそうとするクリス。
「・・・ふ~~~」
ドサッ!
口から魂が抜け落ちる様にして一気に気が抜けた男性が倒れた。
「お兄ちゃん!」
「グレット兄ちゃん!」
守られていた子供は倒れた男性を呼び、介抱するのだった。
「うっ、う~ん・・・はっ!」
「あ、グレット兄ちゃん起きた?」
「お兄ちゃん」
男の子は座った状態から顔だけを、女の子は起きた青年に抱き着く。
「うおっと・・・コーナ、大丈夫だったか?・・・ラージも」
「うん!あのね、クリスが助けてくれたの」
「クリス?」
首を横に振り、ラージを言われた少年の向かいで座るクリスに顔を向けた。
クリスは頭を下げ会釈した。
「どうも」
「ああっ、これはどうも」
クリスの声に反応して青年もすぐに挨拶を返した。
「・・・そうか、色々と迷惑を掛けちゃったねクリス君」
「いえ、こっちもたまたまここに居たもので」
「そうなんだ?
こんな所に・・・」
「え、ええ、まあ」
不思議そうにする青年についちょっと誤魔化し流そうとする。
「(ま、話せるわけないし仕方ないけど)」
「・・・ああ、そうだった。
僕はグレット。
この子、コーナとそこのラージの面倒を見ていてね・・・たまたま、この近くにある村から遊びに来ていたんだ」
「あ、クリスです。
ちょっと道に迷ってしまって・・・この近くまで旅をしていました」
「旅?君みたいな子供が?」
「はい、一応・・・ああ、今は無いか。
一応、これでも冒険者登録はしているので」
「マジかよ!
クリスって冒険者なのか?」
「うん、まあ・・・仮だけどね」
「なんだよ仮かよ」
「いや仮でもすごいよ。
あれだけのモンスターを倒して、平気なんだから」
「そうなの?お兄ちゃん」
「もちろんだよ。
植物モンスターもウルフも正式に冒険者になった人が狩るモンスターだからね」
「ふーん・・・でもクリスが倒せるってことは、本当はそんなに強くないんじゃないの?」
「確かにウルフは新人の冒険者が狩れるモンスターだけど流石に2,3匹以上となると1人で戦うのは難しいんじゃないかな。
そこまでいければ十分、初心者ではなくなっているからね」
「へ~」
「へ~」
ラージと言われる少年は関心を、コーナと言われる少女は楽しそうにグレットの話を聞いていた。
もちろんクリスも。
「(へ~。
俺の力はウルフくらいは倒せるぐらいには強くなってるのか。
いつもいつも、逃げか奇襲が基準だったからな~・・・知らなかった)」
〔そういえばそうですね。
クリスはいつもその二択が基準でしたね。
正面から戦う事の方がほとんどありませんでしたね・・・失念してました〕
クリスだけではなくサポートもクリスの力量をまともに測った試しがなかった。
そのため、こうして第三者からの言葉にとても新鮮な気持ちでいた。
「・・・あの、近くから来たってことなんですが・・・すいませんがその、村に立ち寄っても良いでしょうか?
・・・いま・・・。
今は武器とリュックしか無く、食料とかがまともになくて・・・」
話の途中に割って入って、助けてもらおうと話を持ち出した。
「・・・確かに。
分かった、案内するからそこで今日は泊まるといいよ。
なんなら、僕の家で泊まってくれて構わないから」
十分休憩できたグレットたちは立ち上がりクリスを村へと案内してくれるそうだ。
「ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこっちの方だからね。
・・・しかし、こんなにモンスターがいたっけ?」
「ううん、ここでモンスターなんて初めて見たよ?」
案内しながら考え込むグレットに手をつなぎながらコーナが答えた。
「ああ。
俺がコーナや他の連中と来た時も見たこと無かった」
ラージもコーナの言葉に続いて言った。
子供たちの言葉にますます考え込むグレット。
「う~ん、じゃあどうしてこんな所にいたんだろう?
・・・村長に話しておかないと」
クリスはグレットたちの案内で砂利道を通り、分かれ道を左へ少し細くなった通りをまっすぐに村へと向かった。
【クリス】5才 人間(変化)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1
『マナ:レベル 1』『強化:レベル 1」




