51 小さな思い出と卒業・・・そして
〔純・・・純?〕
「(ん?どうしたの?)」
〔・・・あのまま、言われっぱなしでいいのですか?〕
「(あのまま?・・・ああ、昂輝の事か。
いいよ別に、今は友達がいないのは事実なんだから)」
〔だとしても何か言い返さなくては、あういう者はさらに助長してしまうかもしれません〕
「(ははは、いや流石にそれは無いよ。
昂輝はああ見えて、周りの事もしっかりと見ている。
もし自分の事が義父さん達に気づかれたら困るって自分で判断できるくらい冷静だよ。
・・・だから無茶やバカな事はしないんだ。
・・・それに、あいつがあんな考え方をしたのも俺にも原因があるからな)」
〔それは違います。
純は何も悪いことはしていません。
むしろ、それを良いことに言いたい放題言ってる向こう側に問題があります〕
サポートは純と昂輝のリビングでの出来事から過去の一部を見て、周りの扱い、純に対しての不当な扱いに憤慨していた。
純に落ち度があるとしたら、それはイヤな事を言われたら``イヤだ``と言える人になれない事だとサポートは本気で思っている。
感情が大きく揺れ動き、その時初めて、本心からの声が外に出てくるが、それ以外は自身で作った壁に入り、他人からの言葉で傷つかない様にずっと閉じこもっていた。
今は少しずつ外に自分の気持ちをはっきりと出すことが出来るようになってきているが、それでも長い年月の間に作った固い壁はそうそう崩れることはなかった。
〔それはそうと純、いつまで悩んでもお姉さんたちが卒業式に来ることを止めることは出来ませんよ?
諦めてください〕
「(うっ・・・やっぱり無理か?)」
〔絶対に来るでしょう。
たとえ純が嫌がったとしても・・・。
そもそも、小学生の時はどうしていたのですか?〕
「(小学校?)」
純は3年前を思い出していた。
あの当時から純は引き取られていたが、純が通う学校と白星家の姉弟が通う学校は違っていた。
そのため、当時から親子関係と書類上は書いてあっても純は保護者に参加してもらうのを拒否していた。
ある意味ハッキリとノーとも言っている。
しかし、純のノーはかなり消極的で本気で来てほしくはないとは言えずかなりモゴモゴしている状態だった。
それを見た義理の両親が純の気持ちの気遣って参加を辞退しただけである。
もともと、どの保護者参加でも純は拒否をしていたため、今回もそうだろうと両親が気遣っただけだった。
〔・・・はあ。
たとえどんな状況でも一生に一度の行事までとは・・・〕
サポートはある意味、純の徹底ぶりに呆れかえっていた。
「(いや・・・その・・・なんていうか・・・)」
〔申し訳ないし、恥ずかしかったと・・・〕
「(・・・はい)」
サポートのド直球な発言に認め、何も言えなくなった。
〔まあ、今回は素直に来てもらいましょう。
あの中学から同じ学園に通う生徒なんているとしてもたかが知れています〕
「(・・・ハッキリ言うな~。
はぁぁぁ・・・・仕方ない覚悟するか)」
〔そもそも、卒業式で騒ぐものがいるのでしょうか?
式が終わった後ならわかりますが〕
「(あ・・・それもそうか)」
純はすっかりそのことを失念していた。
そして、この話は切り上げ、今日の日をのんびりと過ごすのであった。
そして、3月の第3金曜日、純は通う中学の卒業式を迎えた。
造花の花を胸に着け、教室ではそれぞれが思い思いに昔の話に花を咲かせる。
また、式が始まる前から泣きそうな生徒も少しいた。
そして、式が始まり、教師の合図とともに体育館に入場する。
周りには2年生が全員が椅子に座り卒業生を拍手で迎える。
更に外側の椅子には卒業生の保護者や各関係者が集まり、同じく拍手で出迎えた。
「これより卒業式を始めます。
まずは、開式の言葉」
卒業の工程をどんどんと消化していく。
「卒業証書授与」
言葉が聞こえ、卒業生たちが次々に名前を呼ばれ、返事をし檀上に立ち、校長から証書を受け取る。
全員が受け取り、次の工程に移った。
「続いて、在校生代表による送辞、卒業生代表による答辞です。
在校生代表2年――――――」
呼ばれた生徒は体育館に響く大きな声で返事を返し壇上へ。
「卒業生の皆さん。
ご卒業おめでとうございます」
そこから、紙に書いてきた言葉を読み始めた。
そして、在校生による送辞が終わり、壇上降りる。
「続いて卒業生代表―――――」
名前を呼ばれた卒業生がはきはきと返事を返し壇上へ。
卒業生による、答辞が送られた。
名前はさっき知ったばかりの知らない女の子が上がり、体育館全体を壇上から見下ろし、思い出、教師、在校生に感謝の言葉を送った。
・・・
・・
・
「以上を持ちまして卒業式を終わります。
・・・卒業生退場!」
周りから盛大な拍手と共に卒業生達が列をなし退場していく。
入場するときには見えなかった、美月、紅百葉、夏奈の姿を純は見つけた。
手を振ってくる姉たちに純は恥ずかしげに手を振り返した。
そして、いよいよ卒業が実感してきた生徒の中からは今朝よりも泣いている子が増え友達が肩や背中を支えながら、教室に戻った。
本当に中学最後のホームルームをはじめに・・・。
担当教師が最後の言葉を伝え、そして、最後の挨拶をして終わりを告げた。
実際には体育館から帰ってきて20分ぐらいしか行われていない短い挨拶だった。
その後は教室に残る者、友達と話しながら教室を去る者と色々と中学最後のひと時を思い思いに楽しんでいた。
純は特にそれほど中学には思い入れがないため教室をすぐ後にした。
しかし、ふと止まるのは通路の奥、これまでの長い間ずっと苦しめられてきたあの場所が、嬉しくはないがほんの一瞬だけ目に留まった。
「(嫌な思い出でしかないけど・・・何でかもう来ないで済むと思うと嬉しいんだけど・・・)」
〔純が嫌だったのは人との思い出であって、場所ではないからでしょう。
純はこの学校自体が決して嫌いではなかったのかもしれません〕
「(・・・うん、そうかもしれない)」
その言葉を最後に純は学校の外へと歩き出した。
「あ、純お兄ちゃん!」
「純、こっち」
夏奈と美月に呼ばれ、外の門のすぐ近くまで走っていく。
「純、卒業おめでとう」
「おめでとう純」
「お兄ちゃんおめでとう!」
「うん、ありがとう」
姉や妹に祝福されながら返す純。
少し照れ臭いが、こんな日があるのも良いと純は思っていた。
「そう言えば、夏奈と紅百葉姉さんは学校、大丈夫だったの?」
「私の所も、夏奈の所も今日は純と同じで卒業式があって今日はお休み」
「ああ、そうなんだ」
そして、純たちが少しそこで雑談をしていると遠巻きに。
「・・・おい、誰だよあいつ?
っていうか、傍にいる子達、めちゃめちゃ美人なんだけど!」
「ああっ、可愛い子もいるしすげー羨ましいな。
っていうか、何であんな奴の傍にあんなめちゃめちゃ良い子がいるんだよ?」
「知らねえよ。
・・・なあ、声かけてみるか?」
「え?いや流石にそれは・・・」
「俺たちもう卒業してここには来ないし。
あんな美人な人とお近づきになるチャンスなんて滅多にないぞ?」
「いやそうだけど・・・いきなりは・・・」
「お前が行かねえなら俺だけ行くぞ?」
「あっ、ちょ待てって。
お前だけいい思いするなんてズリィぞ」
「すげぇ美人だ」
「っていうかアイツ誰?」
「おいっ!誰かアイツ知らねえか?」
「・・・綺麗」
と、学校の門に向かって出て行く生徒の中からちらほらと・・・まあ主に思春期男子たちが美月達を振り返りながら口々に彼女たちを見て声を漏らしていく。
たまに、夏奈の事を気にしている声も聞こえた・・・ちょっと大丈夫かな?不安になる。
中には女の子の声もした。
しかし、声を出して思い思いが言うが実際に話しかけてくる者は居なかった。
そんな声が多少なりとも聞こえているが姉の美月と紅百葉は特に気にせず無視を決める。
夏奈は姉たちとの話に意識を向けて周りの声が聞こえていない。
「じゃあ、卒業記念に写真撮りましょうか?」
「・・・賛成」
「私も撮りたい!」
「じゃあ・・・ほら純、こっちに来て。
純が主役なんだから真ん中にいないと」
美月に引っ張られ門に掲げている卒業式の看板の前に立ち、スマホとデジカメで記念写真を数枚撮った。
みんなが満足が行ったところで姉弟一緒に家へと帰宅する。
(・・・・・・さよなら・・・)
純は何気なく中学校に向かって心の中で言葉を出した。
純達は結局最後までトラブルにも巻き込まれることなく家に着いた。
「ただいま~」
「・・ただいま」
「ただいまー!」
「ただいま」
それぞれが、家に入りながら言った。
「あら、おかえり~。
もう卒業式終わったの?」
「うん、ついさっき終わったよ~」
リビングから出てきた母親に出迎えられ、純たちはそのままリビングに向かった。
「っあ~、疲れた~」
「疲れた」
「珍しいわね、あなた達が一緒にそんなこと言うなんて」
「うん、純の卒業式は良かったんだけど、その後にね」
「純を待ってる間にナンパしてくる男の子達とかがいて凄くしんどかった」
「なんか怖かった」
「え?そんなことがあったの?」
「うん、純が学校から出てくる前にね」
「まあ、よくわからないけど、すぐに青い顔をして去って行ったし」
「逃げて行ってたね~?」
「ふ~ん、そうなんだ。
・・・まあ、特に変な事にならなくて良かったわ~。
もしそんなことがあったらお母さん心配で心配で」
「大げさだって、それにナンパは今に始まった事じゃないし」
「うん。ちょくちょく誘われたりしてる。
・・・まあ、断るけど」
「へー、お姉ちゃんナンパされたりするんだー」
「ふふ、もしかしたら夏奈もすでにされてるんじゃないの?」
「えー?そんなのないよー。
誘われるって言っても友達とクラスの男子と一緒に4人でどっかに行くくらいだよ?」
「それって、ダブルデートなんじゃない?」
「デートじゃないよ~。
一緒にお出かけするだけ」
「・・・この中で一番夏奈が早く恋人を連れてきそう」
「(確かに・・・)」
と他愛のない雑談をしながらのんびりと過ごす。
義父の優一は仕事で、義弟の昂輝は学校で居なかった。
どうやら、姉たちの話では純がいない間に起きたちょっとした出来事だったようだ。
「(・・・まあ、姉さんたちは綺麗だから自然とそんなことも起こるか・・・。
いろいろとお母さんが心配になるのも分かるな~)」
〔純・・・おそらく、美月や紅百葉に話しかけたのは豪裡達ではないかと思われます〕
「(え?どっ、どうして?)」
〔あの場には学校関係者しか入れません。
もちろん無断で侵入する者もいるでしょうが、卒業式のタイミングでわざわざトラブルを起こす者は限られてきます。
つまり、消去法でいけば〕
「(豪裡達が出てくると・・・)」
〔その通りです〕
「(・・・でも、青い顔して去って行くってなんだ?)」
純は疑問に思い姉に聞いた。
美月と夏奈は母と話しているため、少し休憩に椅子に座りジュースを飲んでいた紅百葉に聞いてみることにした。
「ねえ、紅百葉姉さん。
・・・その、今日ナンパしてきた人ってどうしたの?
その・・・青い顔をして去って行ったって言うけど・・・」
「ん?・・・ああ、そのことね。
私も分からないけど、何故か学校の門の前に何人かスーツとか着たりしてる人もいてね・・・何でかその人の中の・・・私たちと同じくらいの少女や近くにいる別のスーツを着た男性を見つけたら、逃げて行ったの・・・それもすぐに」
「・・・警察の人かな?
ウチの中学・・・もう今は元かな?・・・っで問題があったから。
それの念のための見回りみたいな感じかな?」
「う~ん、どうだろう。
それっぽい人は2人だけって感じだったし・・・ほかに人は保護者で来た親子とか友達って感じがしたけど」
「ふーん、そうなんだー。
・・・ま、姉さんたちが何にもなかったんだから別にいいか」
「・・・ふふ、もし何かあった時、純が助けてくれるの?」
紅百葉は笑って言ったが、どこか挑発とも真剣とも取れそうな声で純に問う。
「いや、流石に俺だけでは難しいよ。
・・・それに怖いし・・・まあ、それでも俺に出来るならやれることはするよ」
純の言葉を聞いた紅百葉は微笑んで答える。
「・・・うん、期待してる」
「いや、そんな期待されても・・・」
「ふふふ」
姉に言い様に翻弄される純だった。
自分の部屋に戻り制服から私服に着替える。
「・・・この制服もこれで見納めか・・・」
〔改めて、卒業おめでとうございます、純〕
「(うん、ありがとう)」
純は制服をハンガーにかけ後で母に渡すつもりでいた。
クリーニングに出した後、畳んで仕舞うのかは母に任せるつもりだった。
「(それにしても豪裡達が逃げ出す相手って・・・)」
〔・・・案外、私たちが知ってる人かもしれませんよ?
紅百葉が言ってた、純たちと同じ年齢の子に警察関係者のスーツ姿の人、そんな集まりがたくさんいるとは考えにくいもんですし〕
「(う~ん、言いたいことは分かるんだけど。
別に、あいつ等があんな大事になるようなことに関わっているとは思えないけど・・・)」
〔・・・確かに、その可能性を考えると・・・怪しいくらいですね。
わざわざ、危険で勝ち目のない戦いに好き好んで向かうタイプではありませんしね〕
「(だろう?・・・だから、たまたまなだけかもしんないって思う方向で良いだろう)」
〔はい、そうかもしれませんね〕
純達は考えには至らなかった。
その関係が全くない所にある少女たちが間違えて行き``たまたま``騒動に発展し、警察のご厄介になってしまった偶然を。
純がほんの数分早く学校の外に出ていれば会うことになった、ある警察と探偵事務所のメンバーを。
ここに、ちょっとしたニアミスが起こってしまった軌跡を・・・。
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 18
HP 52 MP 48
STR 33
VIT 28
INT 27
RES 30
DEX 42
AGI 35
LUK 23




