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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
51/473

50 懐かしき家とちょっとした衝突

 あれから、数日が経った。


 受験日はとても緊張しながら試験に挑んだ。


 試験前日と後日、神社に行って神に合格祈願をしに行った。


 まことに自分勝手ではあるが、どうしてもやらないと不安で押しつぶされそうだった。


 合否までは数日はかかる。

 それまでにも中学校は日常の工程を繰り返す。


 しかし、俺にとっては気が気じゃない数日間だった。


 ある時、薄い封筒が届いたとき。

 あっ・・・やっぱり駄目だった。


 そんな落ち込んだ気持ちで・・・封筒の中身を覗きこむ。



 そこに``合格``という2文字が書かれているのを確認した時、とても解放された気持ちでいっぱいになった。



 封筒が薄いのは後日、別にパンフレットなどが送られてくるためだそうだ。

 しかし、そんなことを知らなかったために中身を見た時はわが目を疑った。



 平日だというのに純以上に早く帰ってきていた姉たち2人は純が封筒の中身から合格通知が届いたと話したときは、純以上に嬉しそうにしていた。



 そんなこともありながら平和な日常は続いていた。


 さらに数日が経過した。


 この間の変化としては学校に豪裡達が登校したことだ。


 しかし、警察に捕まった時に何があったのかすっかり大人しくなり以前の気に入らない者にかみついているような感じだった雰囲気がすっかりなりを潜めてしまった。


 ・・・いったい何があったのか。


 とにかく純はこの中学3年の2月を静かに生活を送れるようになっていた。


 相変わらず嫌われていて誰からも関わっては来ないが。


(まあ、もうすぐ卒業だし、いまさら仲良くしてくる奴なんていないよな~?

 むしろ、今を友達との最後の思い出の一つにしようくらいに考えてる人もいると思うし・・・)


 純にとっては長く苦しい学校生活、しかし、友達がいて趣味を共感しあえる仲がいるだけで世界はかなり見え方が違う。

 それは、昔の純にも、そしてクリスとして短い間だけど仲良くなった者たちがいるからこそ理解できる気持ちだった。


(・・・ああ、そうか。

 俺は・・・寂しいのか・・・)


 学校生活はすべてが嫌な思い出が一色だったわけじゃなかった。

 むしろ、楽しかった時があったからこそ共感できる誰かがいないこの状況が少し寂しく感じてしまった。


「(・・・今度の学校では友達ってできるかな?)」

〔どんなことにも絶対の方が少ないモノです。

 純が本当に望めばできますよ・・・きっと。

 もしかしたら、向こうから話しかけて自然と仲良くなるかもしれませんし〕

「(・・・そう・・・だったら・・良いな・・・)」


 少しノスタルジックになる純だった。



 純は休みの日に父親に付き添い、自分が一人暮らしする家に行った。


 純の本当の家だ。


 白星家に引き取られるまで住んでいた家である。


 白星家とは遠縁の親戚だが家との距離はほとんど離れてなかった。


 ゆっくり歩いても1分掛かるかというくらいのご近所だった。


 純自身が親戚の集会に出たことも記憶も無かった為にこんなに近いとは思っていなかった。


 小学校、中学校から帰って来た時や休みの日になると時折、外から自分の家を眺める時もあった。


 寂しくて・・・そこにはもう誰もいないただの空き家のようになっている場所。


 しかし、純にとってはとても大切で・・・だけど届かない場所だった。


 それが、約7年ぶりに、その家に入ることになる。


「・・・お前もそろそろ一人でやっていくにはいい歳だ。

 父さんたちも支えてやるが自分で何とかやって見なさい」

「・・・はい!ありがとうございます」


 ずっと支えてくれた遠縁の親戚。

 誰からも引き取る気が無く児童養護施設に行く所を引き取った唯一の家族。


 純にとってはとても大切な第二の家族だった。


 少し寡黙でどこか怖い印象を持つが何も言わなくても常に自分を機にかけ見守り続けた義父の優一を純は尊敬していた。


「・・・ただいま」


 小さな声で純は言った。


 それは、静寂なこの空間の中では大きく聞こえた。


 優一は純が玄関に入っていった背中をどこか寂しそうな顔で見つめていた。



「・・・中はたまに、父さんや母さんがここに掃除に来ていたから、それほど汚れてはいないはずだ。

 中にある物もできるだけ捨てずにそのままにしている」

「・・・・・・」


 純は家の間取りを物の置き位置や家具から何までを当時に思い出と振り返りながら見ていた。


「・・・後は、お前が必要か不要かを決めていきなさい。

 ・・・ほら純、カギだ。

 ・・・ここはもうお前の家だ好きにしなさい」

「・・・・・ありがとう、お父さん」

「・・・」


 純はつい、今までの想いも含めて言っていた。


「・・・久しぶりにお前が敬語を使わなかったな」

「え?」


 少し微笑みながら優一が純に話しかける。


「お前が家に来てからは、最初の頃はまだ慣れなくて敬語はあまり使わなかったが、いつからか私や母さんに遠慮して話すことが増えていた。

 まあ、母さんも私もお前がそれで良いというならそれで構わないと無理には強制しないことにした。

 それが、お前のためになるならと」

「・・・」


 こんなに、どこか懐かしくそして暖かい表情を浮かべ続ける優一を見るのは純にとっては初めてだった。


「・・・純、今でも親戚が・・・私たちが嫌いか?」

「そんなことない!」


 純の心からの即答に優一は驚いた表情をした。


「・・・確かに、お父さんとお母さんの親戚は・・・たぶん、俺は好きになるのは難しい・・・。

 でも、あの時から・・・ずっと助けてくれた白星家は・・・絶対に嫌いになんてなれない。

 俺にとっては・・・ここと同じくらい・・・大事な場所で・・・家族だから・・・」

「・・・・・・そうか」


 優一は家の窓から外を見て返事をした。

 しかし、その言葉には2人だけが通じる、とても幸せで何よりも大切な言葉だった。



 優一は鍵を純に私家を出て行った。


 純は家の中を見て回った。


 交通事故で両親を失うまで住んでいた家。


 部屋の中には掃除され清潔にされていた。


 テレビの下にラックには当時やっていたゲームが整頓され置いてあった。


「・・・そういや、あのゲームクリアしてなかったな。

 RPGだし、長いから夜更かししてやろうとしてたんだっけ」

〔・・・純はそんなにゲームが好きなんですか?〕

「今はどうだろ?

 ・・・いや、今も好きかもしれない。

 だってお前のように俺にはステータスがある。

 あの世界ならではの基準なのかもしれないが、やっぱり異世界に行ったときはかなりステータスという存在にワクワクしてたと思うから・・・最初こそ理解できなかったけど」


 サポートの質問に改めて自分の興味が昔から変わってなかったと気づいた。


 数年ぶりに懐かしさと今だからこその気づきと共に家の中も見て回った。



「それで純、引っ越しっていつにするの?」

「・・・それと、卒業式はいつ?」

「え?・・・何?いきなり」


 晩御飯の時に長女、美月と次女の紅百葉に話を振られた。


「卒業したら引っ越すんでしょ?

 だから引っ越しのお手伝いをしようと思って」

「うん・・・それに純の卒業式を見に行こうかと思って」

「え?純お兄ちゃん引っ越すの?どこに?」


 三女の夏奈まで話に参加してきた。


「卒業式は3月の第3週の金曜日にするんだ。

 引っ越しはその次の日から始めようかなって思ってて・・・」


 純は3人に今後の日程を話すことにした。


「第3週目ね?

 分かった・・・確か、私もその日は予定空けておくから純の卒業式、見に行くね?」

「うん、私も」

「あ!私も見に行ってみたい!」

「じゃあ、3人で行きましょうか?」

「・・・行く」

「行く!」


 3人の少女たちは楽しそうに予定を作っていく。


「あ、ああいや、別に来なくてもいいよ、恥ずかしいし」

「・・・どうして?

 純の卒業式だよ?」

「そうよ?

 卒業ってとても大切なイベントよ?

 楽しかったことも悲しかったことも、友達と共有できる最後の思い出なんだから」

「そうなの?」

「・・・うん、そう。

 夏奈はまだだけどいつかは今のお友達ともそれぞれ違う所に言ってしまってお別れししちゃうんだから」

「え~、そうなんだ~」


 少し落ち込む夏奈。

 まだ、理解は出来ても実感までには至ってないようだ。

 いずれ、夏奈も理解するだろう。


「まあ余程、今後を考えて進学校みたいな所に通わせたい親でなければ、大体は同級生がそのまま同じ中学に通うことになるんだけどね?」

「あ、なんだ、そうなんだ~。

 ・・・もう~、美月お姉ちゃんや紅百葉お姉ちゃんがまじめに言うから焦ったよ~」

「ふふふ、ごめんごめん」

「ふふ、ごめんね夏奈。

 ・・・でも、一応本当の話なんだよ?

 いつまでも一緒にいる方がホントはすごく珍しいモノなんだから・・・」

「へ~、そうなんだ~」

「夏奈もなりたいものとか夢が見つかったら、分かるようになるよ。

 自分のやりたいことのために選ぶってことをしたら」

「う~ん、夢か~・・・。

 友達は自分で仕事を作りたいとかわいいお嫁さんとか言ってたかな~?

 私は、あんまり考えたこと無かったや」

「(仕事を起ち上げたいって事かな?・・・まだ小学生なのに凄いこと考えるな?

 俺なんてそんなの考えたこと無いぞ。

 もしかしたら、今はそれが将来の夢で流行っているだけなのかもしれないが・・・。

 それに比べて俺は正直今だって、高校に行くには行くとしか考えてなかったし・・・将来なんて・・・)」


 純は夏奈の友達のもしかしたら本気で先の事を見据えた考えを持って今を生きようとする子供のたくましさに驚きでいっぱいだった。


 そして、意識が少し飛んでいたのに気づき、スッと現実に戻った。


「あっ、いや別に来ても特に面白い事なんてないから来なくてもいいよ」

「・・・せっかくの純の大切な行事なんだから行くに決まってるでしょ?」

「・・・これは、もう決まったことだからね?純」


 2人の姉はもはや見に行くことに決めて、予定を変更することは無いと断言した。


「いや・・・でも・・・」

「・・・どうしてもダメ?」

「私達がいるとやっぱり恥ずかしい?」

「そうなの?純お兄ちゃん」

「あ・・・その・・」


 悲しそうな目で見られると嫌とはとてもいい辛い。


「・・・ぷふっ。

 どうせ、友達がいなくて一人なのを見られるのが恥ずかしいんだろ?

 だから・・・美月姉さんたちにそれを見られてしまうのが嫌なんだろうさ。

 っというか、あんたがそんな友達がいるって思っていないから安心しなよ?」


 1人先にご飯を食べ終え、ソファーでスマホをいじっていた長男の昂輝がいきなり口を挟んだ。

 スマホから目を話すことなく。


「昂輝」

「・・・昂輝」


 2人の姉が弟を窘めた。


「事実なんだから良いじゃん別に。

 それに、そこの人だって否定してこないし」

「・・・ははは」


 つい、乾いた笑いをしながら頭を掻き、事実を受け入れながらも誤魔化す純。

 どこかで、家族に知られることに恥ずかしさがあったからこそ自身の気持ちを誤魔化した仕草だった。


 純の反応で薄々は気づいていた2人もこれ以上の話題には触れない様にと口をつぐんだ。


 姉たちの態度から何となくいたたまれなくなった夏奈は自室に戻った。


「あの、私部屋に行くね?」

「あ・・・じゃあ、俺も」


 純もご飯を食べ終えたので夏奈に続いてリビングを出ようとした。


 その時、後ろから。


「純、卒業式には行くからね」

「うん、絶対に行くから」


 ハッキリと純にその言葉だけを伝える2人の姉、残し部屋へと純は戻った。


「・・・昂輝、あんたはどうしてそんな態度なの!」

「・・・いつも純に嚙みついて」

「別に噛みついてなんかないよ。

 っていうかどうでもいいし・・・。

 むしろどうして姉さんたちがあんな奴をかまっているのかがホントに分からない。

 身内の親族にすら嫌われてるやつを大切にする意味が理解できない」

「・・・そう。

 ・・・あんたはやっぱりそうなのね」

「は?なにが?」

「・・・あの親族と同じなんだね」

「何言ってんだよ。

 姉さんたちだって俺と変わんないって。

 自分より劣ってるやつを気まぐれに助けてるだけだよ」

「・・・3人共、やめなさい」

「どうしたの?父さん」

「・・・この話はここまでだ」

「「「・・・」」」


 3人はそれ以降話すことは無かった。


「・・・はあ」


 美月はため息とともに部屋に向かい、それに続くように紅百葉も自室へと戻っていった。


「(何なんだよ、ったくよ~。

 あの豚がこの家の評判を落としてるのは事実じゃねえかよ。

 なんで、俺が怒られなきゃいけねえんだよ!)」



 昂輝は年末や年明けなどに親族一同が集まる集会に家族で参加していた。

 その時は純は絶対に断り、1人で家で過ごす。

 それが、純が引き取られた日からの毎年恒例の事だった。



 その集会で必ず言われることの1つが純についてだった。



 面倒なやつを引き取ったね~。

 親族の面汚しと言えるようなやつを引き取って大丈夫なのかい?

 いつも昂輝たちは大変だね~。

 あんな奴と一緒の家に住まわなきゃいけないなんて。

 大丈夫かい?このままじゃ昂輝たちの将来にも影響してしまうかもしれない。

 サッサと追い出したらいいんだ。

 なんだったら叔父さん達がお父さんに言ってあげようか?

 自分の子供の将来よりクズの子供の面倒を優先するつもりか?


 等々、まあ概ね似たり寄ったりな事を変わらず何か言われ、そして気遣われた。


 それが、昂輝にとっては屈辱でしかなかった。


 純のせいで自身の評価まで見下されているんじゃないかと思えてならなかった。


 実際なかには。


 あんな奴を育てている家族と一緒にいたくない。サッサと帰れ。


 そんな声が時折聞こえてきた。



(何故奴なんかのために、こっちが嫌な思いをしなければいならない。

 そんなのおかしいだろ!)


 言ってくるものは親の七光りを借りる子供であった。


 直接は言えるだけの度胸がないためかどうしても陰口を言いだし、共感する親戚の子供たちと話し合った後、大人の目から隠れるようにして去って行く。


 この集会でしか会わない親戚、だけど昂輝にとってはそんな言葉を浴びせられることに納得できるわけもなく、ふつふつを怒りが込み上げていく。


 そんな集会を毎回、聞かされ見せられては昂輝の中で純は迷惑しかかけない、ただの目障りなゴミでしかなかった。



 それなのに、両親も姉たちも気にした様子は特になかった。


 むしろ昂輝の目からすれば、ただの1外野の声、負け犬の遠吠えを聞いているかのように見えた。


 自分とは違って家族は一切この事に対して考えを改めることはなかった。


 大人たちもそんな両親の姿勢に強くは出れず黙ってしまった。


 姉たちもそんな両親と同じく、態度が変わらないため、近寄ってくる親戚は子供の中でもそんな地位を気にしない子供たちだった。



 もし、純が今の集会に行けば少しは変わった印象を抱いたかもしれない。


 当時の大人が子供を遠ざけて純に近寄らせないようにしたのと違い、今はもういい年齢になり自分の意志で誰と関わるかを選べるからだ。


 だからこそ、中には美月達のように仲良くできるいとこも居たことだろう。



 しかし、純にとって記憶にある中での集会では両親が亡くなった時の集まりが最初で最後だった。



 対して、昂輝の周りに集まる子供は自身のステータスについてを自慢する者たちで溢れかえっていた。


 幼いころはあまり理解していなかったことも、大きくなるにつれ周りの目を気にするようになり結果、今の昂輝が出来上がってしまった。



(ま、これでブタも出て行くんだ。

 やっと、少し気が晴れる)


 スマホを操作しながら昂輝はほくそ笑んだ。







【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)

 レベル 18

 HP 52 MP  48

 STR  33

 VIT  28

 INT  27

 RES  30

 DEX  42

 AGI  35

 LUK  23

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