4 男の子だもん
1話の長さが徐々に伸びていくような気がする。
あれからアーシュだけじゃなく、受付のエルフのお姉さんに冒険のイロハを簡単に教えてもらった。
正確に言えば、アーシュの説明では聞き忘れていた事、ランクやレベル、ステータスという個人情報の秘匿から採取方法、お手伝い的な仕事、突発的な子供でも簡単に対処が可能なモンスターの討伐まで、細かな所をサラッと教えてもらった。
なぜサラッとなのか。
「ぼく?いくつ?
ん~、これ以上は子供には難しいかな。
ぼくが出来ることはお姉さん全部教えたから、あとは保護者の人と一緒に頑張ってね?」
と、見た目や状態からこれ以上のことはダメだと、やんわりと断られた。
仕方ないと諦めて、帰る事に。
しかし、1番心に響いたのは最後に聞いてしまったアーシェへの質問だった。
「ねえアーシュのレベルっていくつ?」
「・・・(ニヤッ)18」
プライバシー保護のため聞かないのがマナーだと言われたけど、なんとなく答えてくれるだろうと思いアーシュに聞いたのが間違いだった。
悪気が無いからこそ、付け足しで言って来た言葉がさらに心をえぐった。
「レベルはある程度は自然に上がるから、お前くらいの子供でも5くらいはあるぞ?」
やってられるか!
その日はもう他の場所に行く気も起らず、サッサと孤児院に帰った。
あれから数日、この体での暮らしや孤児院での暮らしに慣れてきた。
この数日間、孤児院は町から少し離れている為に人がそこまで来ることが無い。
どうやって食料や生計を立てているのか疑問に思っていた。
それはシスター長が教会だけでなく病院に顔を出したり、出稼ぎで働いていたり。
クレアが隣の村や町、この町の別の教会に回復魔法の補助として助っ人を頼まれたりと・・・それなりに上手くできる様に回していたようだった。
この孤児院には子供が俺も含め14名、シスターはクレア、シスター長を含め5人、そして神父が1人いるらしいのだが、この神父が世界中に飛び回っていて、なかなか帰ってくることがないらしい。
1年に1,2回帰ってくれば珍しいほどで、孤児達の中には、タイミングもあって会ったことがない子もいるそうだ。
なんでも、全線で戦いながらヒーラーもできる、格闘系の神父らしい。
なかなかなゴリマッチョなイメージが湧きそうだ。
また近くの農家や地元の売店のおばちゃん。
他には、明らかにシスター達の中の誰かを目当てにやってくる紳士な方達の余った食材のおすそ分けのおかげで生活は大変安定していた。
またこのステイメッカの町それぞれの教会同士の関係も良好なおかげもあり助け合い支えあう大変すばらしい状態を保っていた。
しかし、どうやら別の地方に行けば必ずしもそうではないらしい。
一部の教会が、貴族が・・・または町民、村人達が・・・。
風習などを理由に問題があったりと、黒い噂を町へ散策に行く度に酒を飲んで饒舌になってきた人からチラホラと聞こえてくる。
もちろんそんな悪い噂は一部の地域だけだが、何かしら一定の以上の力を持つと人は変わっていくのだろう。
そんな人間ばかりが増えないことを祈りたい。
「クリスどこかいくの?」
「?、ミィナ。うん、ちょっと雑貨屋と魔法店の行こうかと思って」
「私もついて行って良い?」
「え?別にいいけど」
「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐ、出かける用意するから」
「僕も行く」
「わ!ちょっとローク、急に現れて話しかけたらびっくりするじゃない!」
「ご、ごめんミィナ。」
「じゃあ、クリス待ってて!用意してくる!」
走って孤児院に入っていくミィナ。
「ロークは持っていく物とかないの?」
「僕はこの本だけでいいよ」
そういって子供の手には大きすぎる辞典のような魔法書を抱えて言った。
魔法書、魔法の習得は色々あり、本を読む。
レベルアップで覚える。
魔法の使える人に教わる。
魔法の宝石や結晶を身に着ける。
紙片スクロールから入手すると様々だ。
本にしても目を通しただけで覚えられるものやスクロールを開くと自然と体に情報が入っていき覚えるもの、結晶を砕いて習得するものがある。
しかし、そういった物での習得系統は稀で、大抵は本を読むだけではなく、誰かに教えてもらったりして、理解を深めないといけないらしい。
現代の科学がどうのといったものではなく、どうやら1人ひとり魔法の相性による適正だったり、魔法の中の独特の情報体みたいなものがあるらしい。
従って、1人ひとり必要な情報や魔法に使うエネルギー(マナ)、回路といったプロセスに個性が生まれ微妙に違うらしい。
だから、普通は魔法の指導できる人物が1人ずつ魔法の使い方を見てそこからアドバイスするのが主流らしい。
本とかは、興味を持ち自分で何かを進んで身に着けたい人が習得するために使う場合が多いと、魔法店のレイシーさんからこの数日間の間に教わった。
「その本わかるの?」
ロークに興味本位で聞いてみた。
なぜなら、クリスには字は読めてもその本の意味がところどころ言葉の羅列が成立していないように見えるからだった。
どうやら素養のある人は苦も無く読めるらしいが、これも自力で覚えようとする人は解読していくのが普通らしい。
ふ、俺は諦めた。
「うん、言葉としては色々読めないところもあるけど、それが楽しいんだ!」
解読して理解していく快感が楽しいらしい。
目をキラキラさせてロークは言った。
ミィナが孤児院から出てきた時、特に何かを持ってきた感じには見えないが女の子には準備が必要なものなんだと地球にいたときに姉達に言われた。
「おまたせ!それじゃあ、しゅぱ~つ!」
クリス、ミィナ、ロークの3人で町に向かって歩いて行った。
ミィナは現在4才でもうすぐ5才になる、腰まである金髪に青い瞳の活発な女の子。
薄いピンクのワンピースがお気に入りで今回のお出かけでもそれを着ている所がとてもかわいらしい。
将来美人になる、そうわかるくらいの容姿がすでに幼い見た目からでも容易に想像できた。
ロークは5才で緑の髪が肩まで伸びているおとなしめの男の子。
普段から本を読むのが好きで大抵どこに行くにも持ち歩いている。
服は上下が茶色のものや地味なものを好んで着ている。
今回は上がシャツに茶色いオーバーオールを着ている。
将来は物腰の柔らかいイケメン少年になりそうだ。
ちなみに俺は、青の簡素な上着にグレーのひざ下までのズボン。
そして現在は・・・両足で普通に歩ている。
それはどうしてか、この数日の間にシスター長ミリアーゼが別の教会や病院に俺のことを話し、それを聞きつけた定期的に、痛めた腰のケアをしている技巧細工を仕事にしているドワーフの人がわざわざ来て俺専用の木で出来た義手義足を作ってくれたからだ。
この世界のファンタジー感はすごい!
命が失わないのであれば、たとえ部位がなくなっても回復魔法で治ったりすることが多いそうだ。
そのため義手といった補助系はないと思っていたが、何らかの理由で回復ができない人(俺みたいな)とか回復の効果が効きにくい人、生まれ持って何らかの障害を抱えている人のために細工師というのは発展、派生を続けてきたらしい。
そのおかげで、多少・・・ほんとにごく微量ながらマナを吸い取る代わりに俺の義手、義足は普通に滑らかに動かすことが出来る。
まあ・・・難点はほんとに微量にマナを吸うため、松葉杖の時より脱力感が増した気がする事だった。
後は温度や感触はない、まあ所詮は木だから仕方ないこと。
それ以外は特に不自由なことはなかったと思う。
「こんにちわ!パドさん」
「今日も元気だね~ミィナちゃん」
「「こんにちわ」」
「おう。いらっしゃい」
優しい笑顔で迎えてくれたのは雑貨屋のパドさん。
ここは、いくつかある雑貨屋の中で地元の人が好んで良く通うお店だ。
「今日はどうした?」
「武器に使えそうなものを見に来たんだ」
「はぁ~・・・。ああ、クリス君。
そういうのは武器屋かその手の冒険者が通う商人のところに行くのが普通なんだが・・・?」
「そうなんだけど。お金がないんだ。俺が持つのに合ったものは全部高いし」
「うちはタダというわけじゃないよ?」
「うん、わかってる。
そのうえで何か使えそうなものの参考にならないかと思って見に来たんだよ」
「確かに見るのはタダだけど、ここは子供の遊び場とは違うんだがなぁ」
「いいじゃない。
どうせここに来る人なんて決まった人がほとんどなんだから」
「ちょっ!ミィナちゃん。
それを言われるのおじさんの耳には痛いんだけど」
「でも本当のことでしょ?」
「・・・子供の言葉はえぐいね。
直球で素直だから・・・」
「・・・」
何も言うまい。
俺もまだ子供だしアーシュに言われた件もある。
その気持ちよくわかる。
パドさんは人間とエルフの間に出来たハーフエルフ。
その長い寿命でこのステイメッカの雑貨屋として父から引き継いだ2代目として経営している。
パドさんのお母さんはエルフで現在は旦那が亡くなり、息子のパドさんがお店を引き継いだため故郷のエルフの里でお店を構えているらしい。
ちなみにパドさんは独身、現在彼女募集中。
「それはそうと、ローク君どうしたんだい?普段ならここにクリス君たちが長くいるなら真っ先にレイシーさんの店に向かうのに」
「うん、今日は僕もちょっと見たいものがあって」
そう言ってロークは店の右端の小さい小物が並んでいる所へ行った。
「ねぇ、クリス。それでなんか面白いものあった?」
「面白いものって・・・。それかどうかはわからないけど、とりあえずちょっとした武器に使えそうなものは見つけたかな」
「どれ!」
そういって分厚く伸縮性の高いゴムと固めのゴムを見せる。
「なにそれ?」
「ほら、この前、冒険者が行く商店に案内してくれた時にあったやつだよ」
「・・?。
ああ!あったわねそんなやつ。
でもなんでそんなものを?」
「俺もモンスターと戦ってみたいし。
それに、手ごろに遠くから攻撃できるものがあるといいかなって」
「それだったら、弱いモンスターなんて石を投げて当てればいいじゃない」
「まぁそうなんだけど。
それでもあんまり遠くまで飛ばないし、モンスターに当たらないかもしれないから」
「ああ、まぁクリスは小さいしね。
弱いモンスターでもやられちゃうわね」
「そうはっきり言わなくても」
「ははは」
子供の会話を聞いていたパドさんが笑う。
「まあクリス君くらいの年で冒険に憧れたりするのは分かるけど・・・、そんなに急いで危ないことはしないほうがいいぞ?
クレアさんに怒られてしまうんじゃないか?」
スッと目を逸らすクリス。
「あ!クリス。
もしかしてここに来たのクレアお姉ちゃんに言ってないの?
この前も言われたじゃない危険なことはしちゃだめって」
「いや、そんなに危ないことにはならないようにと気を付けて・・・」
「そう言って怒られたんじゃない」
「・・・」
「んもう」
ミィナは年下の子供に注意するお姉さんの気持ちになって両手を腰に当て、クリスをたしなめる。
そんなやり取りの間もロークは真剣に小物売り場を見つめ考え込んでいた。
思うように進まないのであれば短く区切るのも一つの手と思う今日この頃
優しくアドバイスをいただけると自分のメンタル面的に生きていけます。