460 今後に備えて
ダン! 「はああっ!」 ボガアアン! 「ハッ!」 ドッゴオオンンン! 「でえええいっ!」 「フッ!」 ドスン、ズァァァアアアアア・・・!!!! ヒュン、ピュン! 「ペッ?!」 バゴバゴバゴバゴドガンドゴン! 「くっ・・・」 ビガン・・・! 「ダァァァアアアアアアアッ・・・!!!!」 ダッゴオオオオオオオオオオオオンンン・・・!!!!!! 「はぁ・・・」「「「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」」」
ギノと新たに転移してきたカイル達の再戦が始まって10分が経過しようとしていた。発破を掛けられ、熱い想いを胸に戦いを挑むのだが、とうとう体が追い付かず息を切らし始めていた。殺し合いではなく、スポーツマンシップ的な試合として見れば応援したい気持ちはなくもないギノだが・・・如何せんその討伐対象。どうしてもただ巻き込まれた身としては付き合い続けるのも正直、面倒になってきてしまいあからさまなため息を吐いてしまっていた。すると悔しそうに睨む顔が返って来る。
「はぁ・・・くっ・・・ふざけ・・・やがって・・・」「まだまだよ・・・。私達の、戦いは・・・!」「はい・・・。ここから・・・です・・・」「絶対・・・勝つっ・・・!」「そうだ・・・。まだ、終わっていないっ・・・」〔打ち切りオンパレードか何かですか?〕「(言うな。あっちは一応、本気なんだから・・・。それよりも俺はどうしても・・・あっちの方が問題な気がしてならない。敵意が無いって・・・これのどこが友好関係になるよ)」【何か頭掻いてる】
倒れていないが息も絶え絶えなカイル達を置いて、弓を下げ崖上を確認すれば明らかにため息を吐き、反省っぽい反応をしているゲウルクの姿が見える。事情は分かる。ただ、ややこしい事に巻き込まれた身としてはそれでもどうしても納得の出来ない態度にしか映らなかった。この時、ギノとサポートの気持ちは一緒だった。ちょっとだけ嫌がらせを出来ないかと・・・。
「だぁああああああっ!!」「「はあああああっっっ!!」」「やああああああっ!!」「んんんんんんっ!」「ぺペンッ・・・!!」
弱弱しいマナを再び体の外へと湧き上がらせるほどに放出して、屈した膝に喝を入れて立ち上がるカイル達。その強い目に・・・悪い人達ではないが``まだ付き合うのか~``という辟易とした心情がギノ達の心に大きく圧し掛かった。
ダゴン、ドゴンバゴンバキバキ、ダンダダン、ビュンジュンジュンビュンシャン! バリリ、バキバキバキ、ッダアアアアアアアンンン・・・!! ビュウオン、ドォオン、フォンフォンファンファンブァン・・・! ザシュ、ズガン、ビュビュン。ファアアア・・・シャンシャシャシャシャシャシャシャン・・・!! キュウィィィ・・・ドォンゴォンドォン・・・・・・!!
カイル、ヨシュア、シェンラが飛び出し、ナリアナとタチアが魔法を唱え隙間を縫うように放つ。ペッカと言うまん丸いハトも攪乱と陽動して援護するが・・・正直、ギノ達は慣れてしまった。ギノに対しての戦い方の精度は時間を経るごとに少しずつ上がっていた。ただ身体能力、マナ量、勢いが・・・彼等彼女等のポテンシャルを引き出させるには既に限界を超え掛けていた。虚しく、ただ無駄に美しかった草原の景観だけが大量の穴を作り出され、焼け野原の様に変わり果てていた。
〔自然破壊とはこうも虚しいモノなのですね〕「(なに詩人みたいに浸ろうとしてるの。っというかあのおじさん、熊達と遊び始めてるんだけどっ・・・?!)」
ヨシュアの突き、カイルの上段斬り、シェンラの剣捌きを避けつつチラリと崖上を見れば完全にこちらの戦いには飽きてしまったようでビクラーンズという名の見た目熊の親と子を交えて、追いかけっこの様な事をして遊んでいた。そんな光景につい鼻白んでしまった。隙と捉えたナリアナとタチアが魔法を放つ、唯一機動力がそれほど損なわれていないペッカが必死に奇襲と翻弄を仕掛けるが・・・感覚が徐々に研ぎ澄まされ始めている為にギノ達にはまるわかりだった。
「ペッ・・・!?」「なっ・・・!」「くっ・・・!」
驚く声と悔しそうな声が聴こえる。後方に飛び退りながら宙捻りを加えつつ弓を構え、射る。別方向から飛んできた魔法にも土魔法を小さく生成し、風魔法と水魔法のブレンドにサポートの支援もあってBB 弾の様に射出、相殺させる。火力も調整出来て、何が起きたのか彼女達には分からなかった。更にもう一度、矢を構え3射放つと隠していた発動待機の魔法を破壊する。2人の少女は自らの魔法の衝撃で弾き飛ばされた。
「「あああああっっっ・・・!!」」「ナリアナッ・・・!」「タチアッ・・・!」
集中力も切れ始め、突然吹き飛ばされた仲間の名を叫ぶヨシュアとシェンラ。そんな2人へ、これまでの戦闘と数日の野外生活を経て身に付けた軽いホーミング機能が付いた矢が飛来した。少女達はサクッと激しい戦闘で濃い土がむき出しになった地面に刺さった矢を視界の端で見た瞬間・・・。それに込められたマナが急速に内側へと収縮する。コンマ数秒後、解放されると同時に彼女達は衝撃波に巻き込まれるのだった。
「「ああああ゛あ゛あ゛っっっ・・・!!!!」」「みんなっ・・・!」「(ほい。ごめんよ)」「ペッ・・・!」「ペッカ・・・!!」
よそ見をしていた瞬間に小さく風の魔法で圧縮空気弾を作り、少女達同様、出来るだけ怪我を少なく優し目に当てる。可愛らしくバウンドを繰り返し、使い魔っぽい巨大ハトも戦闘不能にする。
「これで・・・決着、か・・・」「ぐ・・・」
倒れた仲間達に俯き体を震わせるカイル。ギノ達だけでなくゲウルクも決着が付いたかと戯れていた子熊を親熊の背中へと乗せて崖の縁へと近づいて行く。激しい戦闘が止み、風の音だけが虚しく響く。
しかしそこで・・・ギノ達は期待していた。
俯いたまま歯を剥き出しにして食いしばり悔しそうに震えている主人公の存在を・・・。
「(どうしてだ。どうして俺は・・・)」「(ボソ)いけるか?」〔彼のポジは主人公。可能性はあります〕【?】
念のためにと循環させるマナは止めず、微調整する。そうして僅かに笑みを浮かべるマスターの姿に仲間のボードは不思議そうに状況を見ていた。すると微かに笑ったような息を吐いた音がカイルから聞こえた。
(もう分かっているんだろ? あのギノは俺達の知っているアイツじゃない)「(っ・・・。うるさい・・・)」(恰好を付けたって、所詮それは自分の落ち度を認められない子供の言い訳だ)「(うるさい・・・!)」(本当は分かってるんだろ? 何故そこまでして勝てない相手に挑もうとする?)「(うるさいっ!)」(本当の自分も受け止められないくせに、気持ちだけは立派に英雄気取りか。とんだガキだなっ・・・!)「うるさああああああああああいいいいいい・・・・・・!!」「!」「〔キタ・・・!〕」
葛藤による衝突から何かを振り切る様に叫ぶカイル。その感情は彼の体内に眠るマナを激しく活性化、同調させて爆発したように膨れ上がらせた。
「はぁああああああ゛あ゛あ゛っっっ・・・!!!!」
大きく噴き出したマナは10メートルに至るほどに大きく太く伸びた。金色にも見える美しいマナに薄く赤色も混ざり、何かが混在している様にも感じられるが彼の潜在能力が解放されたのではないかとギノ達は推測できた。
【どどど、どうしよう?】「(ふむ・・・。まあ、問題ないでしょう)」〔微調整はお任せください。後は・・・狙う角度です〕「(やってくれるかな~?)」〔そこは賭けですね〕【?】
混乱している仲間を置いて腕を組み、溢れ出した感情を抑えてこちらに向かって来るのを待つギノ達。そんな彼等の期待に応えるかのようにカイルは叫び声が止んだ。そして真っ直ぐギノに向いた時。2つのマナが折り合いを付けた様に落ち着きを取り戻し始めた。砂埃を上げて周囲へと波紋を拡げる中心では黄金に煌めくマナの中で赤いマナが血液や何かの伝達信号の様に流れ、スパークを放つ。
どうやらそれが・・・彼の持てる全てだとギノ達も察せられた。その様子に腕を組み高みの見物をしていたゲウルクも真剣な表情へと変わっていた。そんななか一歩一歩、宿敵とも思える相手に向かって少年は近づいて行く。
「俺は・・・自分の為だけに皆を利用していたのかもしれない。いや・・・怖くて、巻き込んで安心できる場所を求めていただけかもしれない」【? 何を言ってるの?】〔主人公にとって覚醒して告白する大切なシーンです。黙って見守ってあげましょう〕【う、うん・・・】
台無しにしか聞こえないが、一応ギノも黙って見守っておく。
「本当はギノ・・・俺はずっと昔から。いいや、今もまだ・・・ほんの少しだけど、どこかで憧れを抱いていた。能力なんかに頼らなくとも・・・ギノの実力は俺の憧れた英雄とほとんど変わらなかった」
ゆっくりと20メートル程あったであろう距離が半分まで縮まる。歩く速度が緩くなり、やがて・・・踏み込めば間合いに入る距離で少年は停止した。その表情には悲しみと怒りが混ざっていた。
「あの時からずっと・・・俺は、どこかでお前の背中を追いかけ続けていたのかもしれない。自分でもいつからそうだったのか思い出せないほどに・・・」「っ・・・ご主人、さま・・・」
ヨロヨロと上体だけを起こし、覚醒したカイルを見守る少女達。そんな仲間の声が聴こえたのか、普通に考えればで戦闘中での危険行為なのにも関わらず彼は余裕を持ってニッコリと振り返った。初めから攻撃する気が無いギノに気付いてか、それとも彼自身に余裕があるのかは分からない。
〔おそらく両方では?〕「(勝手に読まないでくれる?)」
ツッコミを入れつつ、状況を見守る。
「ありがとう。大丈夫だよ。みんなのおかげで俺は今の冒険が楽しいんだ。だからここで俺は・・・ただの憧れから今度こそ、決別しようと思う。俺は・・・周りが言う英雄じゃない。ヨシュア、シェンラ、ナリアナ、タチア、ペッカが信じ、頼ってくれた・・・皆の英雄に、俺は・・・なる!」
振り返り大剣を両手で掴み、更なるマナを活性化させる。その強い目がこれで決着を付けるという意志に満ちていた。
「勝って・・・ご主人様」「そうよ。カイルなら、出来るって信じてるから」「もっと楽しい冒険をしようカイル。私達は・・・あなたをだったらどこへでもいける」「勝てー、ご主人様ー!! そんな奴、ぶっ飛ばせー・・・!」「ペン!」「私達はいつだって・・・ご主人様を信じています。ですから・・・勝ってください・・・!」「・・・!」
仲間の願いに応えるように柄を握る手に力を籠め、マナをこれでもかと充実させるカイル。
〔これが愛のパワーってやつですか・・・〕【愛・・・】〔まあ、言っては何ですが・・・。ただの勘違いなんですけどね~?〕「・・・。(さ、やるぞ)」〔了解です〕
やる気が削がれそうな気持ちを、意識を切り替える事で入れ直しギノ達もまた弓を構え、マナを静かにただし体内で活発に活性化させる。
「これで決着だ。ギノ・・・!」「いつでもどうぞ」「・・・・・・!」
返答に対し、1拍の静寂を置いてカイルが飛び出した。最初に戦った時に繰り出した技の更に倍以上の速度で迫る。数メートルの距離は一瞬でつまり、大剣が振り下ろされた。
ズォン、ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン・・・・・・!!!!
たった一振りで地面は大きく裂け、斬撃による衝撃波は数十メートル後方まで伸びていく。が、難なく回避される事は目で追えたカイルも想定済みだった。
「アールブースト!」
黄金と赤の螺旋がスパークを発生させ、力を込めて踏み抜いた地面が大きく抉れながらギノへと肉薄する。
「でぇぇぇえええああああああああああっっっ・・・!!!!!!」
ズォンズォン、ズパンズパン、ドゴンドゴン、ドガバゴドゴンドゴンバゴンズオンドオンバゴンズパン・・・・・・!!!!!!
「「「っ!」」」
爆風と衝撃。中心地からほど近い少女達は顔を手で護りながら目の前で起きる戦闘を必死に見守る。もはや体力が万全の状態でも自分達が踏み込める領域ではない事は彼女達も分かっていた。傍にいられない歯痒さはあるものの、誰もが皆、愛しい人の勝利を信じていた。
「パージバル、エクレタ、セコンドジオ、フラシュタ、スターファイン・・・アークゲインッ・・・!!」
2連撃からのステップを交えた急変化の斬り上げにマナの衝撃波による薙ぎ払い。加速した分身からの陰影利用した4体16連撃からの輝きを纏った散弾型のマナ弾丸とハンマーのような攻撃。更に追撃と自身に膨れ上がらせたマナを集め、光の存在へと変えての加速攻撃を仕掛けてくるカイル。
〔なんとまあ豊富なスキルといいますか・・・。曲芸の様ですね~〕「(それを避けてる俺等もサーカス集団の一員だな)」「く・・・!」
悔しそうなカイルの表情がすれ違いざまに見て取れた。目覚めた力で持ってしても、まだ相手の実力に辿り着けないもどかしさと悔しさ。それを認めなくては強くなれないという自覚が、彼の覚醒を促していた。埋まると思っていた差が一向に無くならない。そんな、まだ目覚めたばかりのカイルでは制御しきれない焦りから彼は大技へと繰り出す決心へと至らしめた。
「これで・・・!」
何度目かの攻撃が空振りに終わったカイルは飛び出した勢いを地面を強く踏みしめ踏みとどまると、再び足に力を込めて大きく飛び跳ねた。そうして自分の持てるマナを大剣へと送り込み大上段の構えを取る。``来た``と思ったギノとサポートが僅かに真剣な表情へと変わる。狙うはこの一瞬、角度、距離、加減を都度調整しながら弓の弦にゆっくりと手を掛け、引き絞り始める。
「イクシオン・・・・・・」
それを受けて、カイルもまた大剣に集めたマナを爆発させるように解放すると黄金に輝く太く長い光の剣へと変化させた。
「「「いっけーーーーっっっ・・・!!」」」「ゲイザーーーーッッッ・・・・・・!!!!」
仲間に背中を押される様に振りかぶった光の剣がギノへと襲い掛かる。「フゥ」小さく一呼吸。引き絞った弦にマナの矢が出現し、流した込んだ力を解放する様にギノも手を離した。
ゾォォオオオオオガギンッ!! ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーー・・・・・・!!!!!!
大きな質量が動き出す力に周囲の空間が引っ張られた。ぶつかり合う2つの強い力は衝撃波を生み出す準備を始めた。重なった中心から蜃気楼のように空間が捻じれ、それはブラックホールの様に吸い込むと、大爆発を起こした。金属同士がこすれ合ったような大音響の悲鳴を作り出しながら、周囲にあるあらゆるものを押しのけるように外へと爆風が解放された。あまりの衝撃に離れていたはずの少女達は巻き込まれ、何度も地面を跳ねながら転がって行く。そんななか振り下ろした光の剣を押し込もうとカイルは必死に持てるマナと力の全てを前方へと乗せる。
「っ~~~~・・・!!」
ガチガチと悲鳴を上げている様な大剣と強い衝撃に負けそうな体を必死に食いしばって抑え込む。どうにかなってしまいそうな体の意識すら目の前の相手にぶつけるリソースへと回す。ただ、相手に勝つ為・・・。矢を放った構えのまま静かに見つめてくる敵を倒す為、カイルはその全てを注ぎ込んだ。
「~~~っ・・・・ぅぅぅぅうううおおおおおおおおおっっっ・・・・・・!!!!」
いつの間にか雄叫びを上げていた。想いを意志を、力に乗せてカイルは叫ぶ。そんな願いが届いたのか放たれた矢の勢いとマナが小さくなるのを感じた。``やった・・・``そう心の中で喜んだ所で、彼の意識は完全に闇の中へと落ちていくのだった。
バギン・・・!!
気を失い、勢いが突然失われた光の剣はギノの矢によって砕かれた。ガラスの破片が飛び散るように拡がり、その衝撃でカイルは後方へと仰け反るようにゆっくりと飛んでいく。しかし彼の最後の一撃はマナの矢に完全に負けたわけではなく、カイルの後方にあった崖へと、あらぬ方向に逸れていった。
「はぁああ゛っ・・・?!」
それに一番驚いたのは見物していたゲウルクだった。完全に傍観者だった思考から突然向かってきた矢に慌てて避ける。
ビュゥン・・・!
高速で通り過ぎた矢が木々の間をすり抜けて空高くへと消えていく。その光景を見送ることなくゲウルクは唾を飲み込み大きく仰け反ったまま、脂汗を掻いて固まっていた。数秒程、何が起きたのか理解できずにいた思考がようやく働き始めると猛烈に抗議をしたくなった。姿勢を戻して矢を射った相手に文句を言おうと振り返った所で再び彼は驚かされる。
「え、ちょ、はあああああっ・・・!?」
突然、足場が罅割れ落下したのだった。
〔・・・成功です〕「・・・よし」
落下して大きな砂煙を上げる様子を確認したギノがニヤリと笑った。その視線の先には同時に放った2本目の矢が今まさに、刺さった崖の壁から消える所だった。まさに、一矢報いて気持ちがいくらか晴れる思いだった。
・・・・・・
街中の人が居ないとある裏路地。そこへ転移してきた学生達が4人。周りにバレないようにコッソリと集まっていた。
「どう聡美?」「うん、やっぱり違う。私達の知ってる話からかなりズレてるみたい」「って事は・・・もしかして復活の可能性とかある?」「でもあれってクリア後の話だろ? 一週目で起きるもんか?」「ここは本物。知ってるから感覚が狂いそうだけど・・・。現実なら、お決まりのシナリオなんて関係ないでしょ?」「まあ、そうか」
集まったクラスメイト達はローブを被り周囲に溶け込む様にして移動を開始する。一端、大通りへ出るとそこから地元の人しか知らない様な脇道へと迷うことなく歩いて行く。周囲の人に怪しまれない程度にカツラ等で些細な変装をしながら4人はどんどんと薄暗い古びた民家へと向かって行く。そうすると浮浪者ではないにせよ何やら怪しい商人が潜んでいそうな空間へと切り替わっていった。そこに漂う薬剤なのか香水なのか、混ざり合った匂いに男が思わず鼻と口を手で覆う。
「っ・・・くっせ」「まだマシよ。この前、ベツゲル水道に潜った時は、本当に死ぬ思いしたんだから・・・」「すまん、マジで助かった」「ゲームに臭いの表現機能なんてなかったもんね~?」「でもVRだったら。脳が覚えているから体験した事の感覚や匂いまで再現するって聞いた事あるけど?」「そんなの無くても、今は現実よ。私達はゲームではまず見えない汚い部分も嫌と言うほど体験してるんだから」
近くにある川と風できつめの臭いがいくらか和らぐ。4人は顔を見合わせると、周囲を警戒しながら町を覆うように建てられた壁の一角を触る。すると近くにあった茂みの奥から何かが外れた音が聞こえた。誰にもバレないように草木の物陰に隠れながら進み、音がした場所へと進むと、随分と古びた格子を発見する。蔦が絡みつき長い間、誰にも使われた形跡が無いのが分かる。男が1本の鉄棒を掴み、軽く押すだけで格子は扉の様に開いていった。最終確認と周囲の目が無い理解すると4人は急いで扉の奥へと入っていった。
「・・・ふぅ~、もういいんじゃない?」「はぁ・・・。全くこの瞬間だけ犯罪してるみたいでドキドキする」「大分離れたし、ようやく解放されるね」「しっかし、無駄に首や肩が凝る~」「ジジくさ~」
街を出て10分。周囲に人の気配が無い事を確認できた所でようやく一息付けた4人は好きにローブなどを着崩し始める。
「はぁ~。こういう時って本当にあの生活が如何に恵まれてるか実感するわ~」「分かるっ。先公に言われても、知るかよwって思ってたけど・・・。今ならマジで感謝できるわ・・・」「年上の言葉は生きた教訓って言われたけど・・・マジだったな?」
雑談しながら今持っている武器やアイテムを確認していると、ふと先ほど中断していた話を思い出した女の子が切り出した。
「そういや結局・・・。誰が怪しいワケ?」「まあ・・・委員長辺りの話を聞くと・・・。やっぱり宰相?」「考えるとしたらそうよね」「でもさぁ・・・勇者って言っても、オレ等ってただの子供じゃん。本物の階級持ってる相手をどうやって捕まえんだよって事でしょ。そんなの無理ゲーじゃね?」「証拠とかも見つからなかったんでしょ?」「うん。愚痴を吐いてたのは耳にしたし間違いないんだけど・・・。資料とかは無さそう。これじゃあ証明も出来ないし、それに皆が・・・」
転移前とは違い今や一蓮托生になってしまっているクラスメイト達。その中での不用意な言動はそのまま全員にまで影響するという事もあってかなかなか大きな一歩が踏み出せずにいた。
「所詮、私達はただの都合の良いお飾りってね。ゲーム通りの嫌な展開になっちゃうじゃん」「先に潰せたらいいけど・・・。時間も掛かるし、本当に命が関わるから一発勝負もしたくないし・・・」「でも、そろそろさ。ここでちょっと相談しておかないか?」「皆にか?」「全員は無理でも・・・磯部や長谷部さん辺りには──」「んー・・・。2人共、皆を守るって気持ちで必死だし逆効果じゃない?」「少しだけ旅をしてみるって事にすれば──」「それこそ、その宰相辺りから目を付けられない? 絶対、監督とか言って自分の駒を使う未来しか見えないじゃない」「ん、じゃどうするよ? もしかしたらマジで時間も無いんだろ?」
男の言葉に悩む3人。巻き込まず、それでいて自由に行動出来る状況を作りたい。そう悩んでいた所でふと聡美がある事を思い出した。
「そういや~、あの不良グループはどうしてるの?」「知らね。ほとんど見ねえし、大体絡まれてケンカ吹っ掛けられたら怖えじゃん」「あー、いやでも待てよ? ・・・確か、多少は監視が付いているって兵士の人が言ってたっけ? 問題を起こしてはいないけど、いつ暴発してもおかしくない危うさだとか・・・」「こっちに来て、直る所か助長するわよね。絶対・・・」「助長・・・」「? どうしたの聡美?」
何かが過ぎったのか口元に指でなぞっていた少女が1つの案を思いつく。
「あまり褒められた事じゃないけど。少しだけ私達が自由に出来る可能性が見えて来た」「なに?」「彼等の暴走を待てばいいの」「えっ・・・! いや、流石にそれはマズいんじゃ・・・」「別にわざと起こそうって言うんじゃないの。放っておいてもたぶん、勝手に自滅する」「そう上手くいくか~?」「上手く活かせるの」「・・・ぁ、そういう事」「そ」「「?」」
小高い山を越え、木々を抜け獣道をひたすら進む。そこは・・・不思議と地元でも寄らない山道だった。聡美達が一時的に住む城からも見る事が出来る場所。しかし何故か・・・誰もここには寄りたがらない。不思議な空間だった。まるで・・・ゲーム外かの様に・・・。
「ぁ、そういう事・・・」「ぁ~。だからこっちに来たわけか・・・」「そ」
案内された場所にはひっそりと小さく朽ちかけた坑道が存在していた。ここはリアルであり、またゲーム知識が役立つ世界。それを活かさない手はないと聡美達も思っていた。
「元々、今後の為にと思って探してて見つけたの。ちょっと思ったより記憶とマップが外れてたけど・・・軽く見た感じ大体、敵の種類もアイテムも同じっぽかった」「DLC1か~。しょっぱいって書かれてて、次のアプデを待ってたわ~」「ストーリー進めてると微妙だし、その時にはもっと良い素材とか、ガツェイン、ナヤルカ辺りで手に入るしな」「でも、今、自由が制限されてる私達には打って付け・・・」「アプデ前? 後?」「んー・・・後っぽいけど。やっぱそこは、ここが異世界だから」「(にっ)自分達で調べるか~。何かワクワクしてきた~」「ホントに・・・何かここに飛ばされた時以来かも♪」
ソワソワしているのか彼女達が今にも入りたそうにしているが念のために聡美は思っている事を先に伝えて置く。
「慣れてるからって油断しないでね。補正が利いても、リアルで戦ってるんだから」「分かってるって」「それで・・・ここにはレベルアップが目的?」「それもあるけど、皆に協力してほしいの。何とかうまく誤魔化して、もしもの為に磯部君達に武器とかを持たせたいの」「ここに案内した方がって、そうなるの見つかるのかぁ」「そ。鹿熊達に取られても上手くフォローできるようにしつつ、足場と信頼を掴ませる。別に利用したいわけじゃないけど、放っておいても問題起こすなら・・・」「そうね。それでこの世界も救えて皆が帰れるなら、問題ないでしょ」
口でどうこうしても意味はない。実力で示そうにも彼等もまた勇者の素質を持っている。下手にちょっかいを掛けて犯罪・・・殺人など重いモノに手を染められたら後味が悪い。ならば向こう同様いや・・・それ以上に、このエルダーデナンドを知っている者がフォローして回り、可及的速やかに問題を鎮圧させる方が今後の為になると聡美達も判断した。
「ちょっと、俺強ええ系に憧れてたんだけどな~」「そんなの、転移した時にとっくに少しは達成してんだろ。こっからはオレ等もマジでやらねえと危ねえだろ」「(コクリ)うん・・・」
クラスメイトの表情を見た聡美もゆっくりと古びた坑道を見る。
「皆、今日のノルマは武器、防具とアクセの素材最低10ずつだから」「それを後4時間か・・・」「余裕っしょ」「私達の武器とかもコッソリ新調させないとね」「(コクリ)うん。それじゃあ皆・・・行こう・・・!」「「「おう!」」」
聡美達はDLC1で解放されたハナカタ坑道の攻略を開始するのだった。
【 ギノ=ラモウリ 164才(21) (十時影 純)】(急ピッチで変成中・・・)
ジョブ: しがない3流狩人 レベル5 → 8
体力 :UP↑ 239 魔力 :UP↑ 173 攻撃力: UP↑ 45 防御力: UP↑ 33
知力 : UP↑ 28 抵抗力: UP↑ 77
器用 : UP↑ 40 素早さ: UP↑ 58
運 : UP↑ 67
スキル(魔法):干渉、マナ流儀 水&風&土 レベル 0 → 1




